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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第33話 交渉

更新遅れてしまい本当に申し訳ありません!

支部長の威圧に呑まれ、僕は知らず知らずのうちに後ずさる。

だが、そんな僕と対照的に師匠は冷静そのものだった。

冷ややかな眼差しで支部長を睨みつけ、口を開く。


「今更師匠面をするつもりか?」


「っ!」


師匠のことを弟子だと告げた支部長の言葉が本当であることを理解して、その言葉に僕は動揺を漏らした。

師であることを否定しなかった師匠の態度こそが、その何よりの証拠だった。

が、支部長が師匠の師であったことを理解したからこそ、僕の胸にある疑問が浮かんだ。


だとしたら、一体なにがあれば師匠はここまで支部長を敵視するようになったのか?


「弟子にそう言われるのも中々悲しいことだな」


未だ発動寸前の魔術を構え、感情を見せない笑みを抱く支部長を睨みつける師匠の姿を見ながら、僕はそう思いを抱く。

仮にも師弟ならば、出会ってすぐに魔術を発動しようとするなど、普通ではなかった。

特に師匠にとって魔術の発動は、相手を敵と認識したからこそ行動なことを考えれば、支部長への師匠の恨みは深いと考えていいだろう。

魔術を発動した今、師匠が戦闘を決断しているのは疑うべきではないことで……。


「……え?」


僕が、ある不審な点に気づいたのはそこまで考えた時だった。

今まで師匠は、魔術を発動したときには戦う覚悟を決めていた。

だから僕は今回も、魔術を発動した時点で師匠は交渉を諦め、強引に話を聞き出す方向に切り替えたのだと思っていた。


なのに、その予想と反して師匠はまだ発動寸前まで構築した魔術を発動していなかった。


魔術を発動するまでに師匠はきちんと交渉するし、慎重に動く。

その反動と言いたげに、魔術を発動してからの師匠の攻撃は迷いがない。

が、なぜか今回に限って師匠は未だ支部長に攻撃を仕掛けていなかった。

それは普段見たことのない行動で、師匠の意図が分からず、僕は思わず師匠を呆然と見つめる。


師匠が僕に何かを告げようと、小さく口を開いたのはそのときだった。


「……あの男が言っていることは全て事実だと思っておけ」


師匠は、緊張した面持ちで支部長達を睨みつけながら、支部長には届かぬ声量で言葉を重ねる。


「神の寵愛を受けなかった種族などという、何も知らない人間の偏見にまみれた言葉を鵜呑みにするなよ、ラウスト。スキルがなくても、問題ないくらいには、エルフは人間よりも遥かに魔力の扱いに長けている」


淡々と師匠の口から語られるエルフについての知識、それはかなりの書物を読んだ僕でさえ知らないことだった。

そして、その師匠の言葉に僕は、この状況下で本で読んだ知識などまるで役に立たないことを理解する。


少なくとも、僕が本で得た想定よりも何十倍も目の前のエルフは強いのだから。


自然と警戒心を強める僕に対し、師匠は念押しするように告げた。


「警戒心は持つべきだが、敵意を顕にしすぎるな。相手は異常な魔力を持つエルフの中でも、600年は生きている存在だ。私の魔術もいざという時逃げるためのものだと考えておけ」


「……っ!」


何故、魔術を発動寸前にまでして師匠が攻撃しないのか、その理由を僕が理解したのはその時だった。

師匠は支部長と戦うことを決意したからこそ、魔術を発動したのではなかった。


魔術を発動寸前にした今の状況でなければ、まともにやりあうことさえできないと判断したからの行動なのだ。


それを理解した僕の頭に、師匠の告げた勝率3割という言葉がよぎる。

今だって僕には、目の前の支部長が本当に師匠に敵わない存在なのかなんて判断できない。

ただ、師匠の言葉から考えれば、支部長は3割の勝率だと言われてもおかしくない化け物だった。

……いや、言葉だけをうのみにすれば3割の勝率でさえ多く感じる。

そのことに考えついた僕は、反射的に敵意を抑える。

その僕の反応を確認した後、師匠は支部長達に向かって口を開いた。


「支部長ミスト、お前にもう一度言ってやるが、私は無駄話をしにここに来たのではない」


上からの師匠の言葉に、バンザムが不機嫌そうに支障を睨むが、それを遮り支部長改めエルフ、ミストが口を開いた。


「では何をしに来た。二人で来て、私を殺すつもりだったとでもいう気なのか?」


「最初はそのつもりだったさ。迷宮を暴走させたかもしれない危険人物を野放しには出来ないだろう?そのためにロナウドにも同行してもらっている」


師匠の言葉は一見、交渉を捨てたようにかえ感じるほどに高圧的に感じる。

が、その拳が固く握りしめられているのを目にした僕は、師匠が考えもなくそんな言葉を重ねているのではないと気づく。

一見交渉を捨てたような、態度を装いながらも、師匠は必死に何かを探ろうとしているのだ。


「……やはりロナウドも来ていたか」


師匠の言葉に、ミストが僅かに目を細めた。

そのミストの反応に手応えを得たように、拳にさらに強い力が込められ、しかし師匠は表面上いつも通りを装いながら口を開く。


「戦力はそれだけではないぞ?他にも未熟だが魔剣士。優秀なスキルを持つ武闘家。それに横にいる私の弟子は、本拠地にいるエルフであれ、対応出来るだけの技術を持っている」


今まで淡々と言葉を重ねてきた師匠は、そこで声に敵意を乗せて口を開いた。


「勝てるとは言わない。──だが本拠地を知った今、これだけの戦力ならばお前達を道連れにすることはできると思わないか?」


師匠の敵意にハンザムの顔が強張り、支部長の顔から笑みが消え、部屋の中の空気が張り詰める。


「とはいえ、今争いあってもお互い損にしかならないだろう」


それを確認した瞬間、すぐに師匠は敵意を霧散させた。

だが、依然として部屋の中の空気は張り詰めたままで。


僕が師匠の狙いが今の状況であることに気づいたのは、その空気を感じたときだった。


師匠は今まで、戦闘もも躊躇しないという高圧的な態度で話してきた。

それは一歩間違えれば最悪の事態、支部長ミストとの戦闘に陥りかねない態度ではあったが、それらは全て相手に自分達が強硬手段も取ると思わせるための布石だったのだ。


自分達は最悪道連れ覚悟だと相手に思わせた上で、師匠は支部長達に笑いかける。


「この状況だ。私は協力し合う、具体的にはそちらが持っている迷宮都市からの脱出手段さえ提供してくれるのならば争いあうことも無いだろうと思うのだが、どう思う?」


暗に、脱出手段を提供しければ強硬手段に出ると匂わせながら。


師匠の鮮やかな手腕に、内心僕は賛美の声を上げる。

これから、全て何事もなくうまくいくんじゃ無いかと、そう思って。


──そんな僕を非常な現実に引き戻したのは、支部長ミストの困惑したような声だった。


「どうやら君達は二つほど勘違いしてみるようだ」


ミストは、まるで孫の駄々に困る祖父のような、この緊迫した状況下ではどこか異常ささえ感じる態度で、言葉を重ねる。


「そもそもの前提条件として、私達は迷宮暴走を引き起こしてなどいない。今回の迷宮暴走はただ、起こるべくして起きただけだ」


それからミストは、少し言いにくそうに口を閉じた後、申し訳なさそうに笑った。


「──そしてもう一つ、私達にはこの状況をどうにかする手段も、迷宮都市から逃げ出す手段も存在しないのだが」



「…………え?」


その言葉に、部屋の中の空気が凍りつくことになった。

ここまで更新が遅れてしまい、本当に申し訳ありません!

色々と悩んでいると、いつのまにかこんなに時間が経っておりました……

次回はこんなに遅れないようにさせて頂きます。本当に申し訳ありませんでした……

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