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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第31話 支部長という男

mao様より、レビューを頂きました!

本当にありがとうございます!

元々戦闘準備は整っていたこともあり、僕と師匠は十分も経たずに準備を終え、冒険者ギルドを後にした。

が、それから数分が経っても、師匠は何かを探すように歩き回るだけで、一向に冒険者ギルドから離れることはなかった。


その師匠の姿に、僕は思わず首を捻る。

支部長達が迷宮暴走を引き起こしたのだとすれば、迷宮都市から逃げているのないだろうか。

こんな場所をいくら綿密に探したって、なんの意味もあるとは思えない。

そう伝えるべきか、僕は悩む。

師匠が声をあげたのは、その時だった。


「よし。見つけた」


「………え?」


なにが起きたか分からない僕を他所に、師匠は手を地面に押し付けた。

次の瞬間、魔術が発動し、師匠が手を押し上げていた土が隆起した。


突然の師匠の行動に、僕は思わず口を開く。


「師匠?一体なに………っ!」


だが、その言葉を言い切ることはなかった。

口を動かす途中、目に入ってきたあるものに、僕は目を見開いた。


それは、隆起した土の下にあった空洞だった。

僅かな灯りに照らされた空間は、明らかに自然にできたものではなかった。


土の下にあったそれは、人の手が加えられて作られた通路だった。


「なんだこれ……」


通路を目の前にして、僕は動揺を隠すことが出来なかった。

土の下に通路があったことだけではなく、その通路自体があまりにも異様だった。


通路は四方を何か、白い石のようなもので補強されていた。

最低限の灯りしか灯っていない通路の中、それが何かははっきりとはわからない。

が、僅かに光沢を発する白い石を目にし、僕は理解する。


これは今の文明では、例え魔法系スキルを使ったとしても実現不可能。

明らかに、今と比較にならない技術を使って作られたものだと。


通路を見て動揺を隠せない僕に対し、師匠には一切動揺はなかった。

手についた土を払いながら立ち上がり、師匠は口を開く。


「この通路の先に、支部長達がいる。魔力感知を妨害されていたせいで見つけるのに手間取ったがな。やはり逃げ道を確保していたか」


「なっ!……これは支部長達が作ったものなんですか?」


「ああ、恐らくな。これは遺失技術を元に作られた通路だ」


「これが、遺失技術……」


師匠の言葉と、通路という遺失技術の片鱗を目にし、ようやく僕は理解する。

それが本当に今回の件を起こせる程のものなのかはわからない。

が、遺失技術は確かに今の人間達には理解することもできない、相当高度な技術なのだと。


その考えに至った時、僕は前から抱いていた疑問を口に出していた。


「師匠は、支部長達にどうさせるつもりなんですか?もしかして遺失技術は、迷宮暴走をどうにか出来るようなもの何ですか?」


通路という遺失技術の産物を目にしてもなお、僕は遺失技術が迷宮暴走に介入出来る程のものとは思えなかった。


リッチに率いられた魔獣群れ、師匠達がいなければあれは確実に迷宮都市を蹂躙していただろう。

あれを見た後では、いくら凄い技術であったとしても、人間程度が迷宮に何か出来るなど信じられなかったのだ。


しかし、僕よりも遺失技術を知る師匠は、遺失技術で迷宮暴走をどうにか出来るという確信に足る理由があるかもしれない。


そこまで考えついて、好奇心を胸の奥にしまい込むことは、僕には出来なかった。

それが、迷宮暴走をどうにかする大きな希望だと理解していたからこそ。


その期待を、師匠はあっさりと裏切った。


「いや。絶対に出来ないだろうな。迷宮の仕組みは、人がどうこう出来るものじゃない。迷宮の核を破壊する以外に、迷宮暴走を治める方法はないぞ。ついでに言えば、この規模の迷宮では私達でも、迷宮の核を潰すなんて無理だ」


「………え?」


そう言い切った師匠に、思考が一瞬止まった。

師匠が、遺失技術を持つ支部長を探すと言った理由。僕はそれが、迷宮暴走を遺失技術でどうにかするためなのだと思っていた。

故に、それが不可能だと断言した師匠に、衝撃を覚えずにはいられなかった。


だったら、何故支部長を探すのか?

今の状況を、どうにかする手段はあるのか?


頭の中をそんな考えが支配し、どういうことか師匠に問いただす余裕さえ、消え失せる。

そんな僕を気にせず、師匠はさらに言葉を続ける。


「そもそも、遺失技術で迷宮暴走を起こすことさえ、私は不可能だと思っているぞ。そんな簡単に迷宮暴走が起こせてたまるか」


「えぇ……」


……先程自分が言っていた言葉さえ翻した師匠に、最早僕は驚きを超え、困惑することしか出来なかった。


この人の思考形態が自分と違うことは知っている。

知識も経験も圧倒的なこの人は、人が1を考えている間に10を考えている。

だから、1を考えている僕のような人間には、10を考えている師匠の言葉の真意など分からない。


とはいえ、今の状況くらいは、もう少し順序だてて教えて欲しかった。


相変わらずの師匠に思わず頬が引き攣る。

もしかしたら、師匠はかなり余裕があるんじゃないか、なんて考えが浮かぶ。

が、それはほんの一瞬。師匠の雰囲気が突然変わるまでのことだった。


師匠は、その端正な顔に不安にも似た緊張を浮かべ、三つ編みにした赤髪のお下げを弄りながら、口を開く。


「……が、今回ばかりは例外というべきだろう。どれだけ遺失技術に精通している人間だろうが、迷宮暴走を引き起こせるとは思わない。が、この迷宮都市の支部長。あの男に関しては話が別だ」


一息ついた後、師匠は真剣な顔つきで言葉を続けた。



「──あの男なら、私は迷宮暴走を引き起こしたとしても、納得できる」



「……っ!」


師匠の言葉に、息を呑む。

迷宮都市支部長。その人間に対しては、イメージは、ギルド職員を使って何かしている人間というイメージしか僕は抱いていない。

その能力どころか、姿さえ僕は知らず、正直ハンザムの方が印象に残っている。

が、その僕のイメージは大きく変わることとなった。


支部長が油断ならない人間であること、それは師匠の言葉に込められた緊張が、何より雄弁に物語っていた。

その雰囲気のまま、師匠はさらに口を動かす。


「この迷宮暴走が人為的に起こしたものでないとしても、確実にあの男ならこの迷宮暴走を察知していただろう。あの男が何か動いていたことも、恐らく迷宮暴走に関係することだろう」


支部長の能力が僕の中、どんどんと上方修正されていく。

もしかしたら、僕が支部長を大した存在と思わなかったことさえ、その男の掌の上だったのかもしれない。

徐々に、僕の中緊張が膨れ上がっていく。


師匠が口元に笑みを浮かべたのは、その時だった。


「……え?」


それは、絶望的な状況を語るに似合わない獰猛な笑みだった。

予想だにもしないその表情に小さく声を漏らした僕に、師匠は好戦的な表情のまま口を動かす。



「だったら、脱出経路を用意していないわけが無いだろう?」



「───っ!」


師匠が支部長達を探す理由、それに僕が思い至ったのはその瞬間だった。

師匠は最初から、迷宮都市に留まって迷宮暴走をどうにかしようという気などさらさら無かったのだ。

師匠の狙いはただ一つ。

支部長達と交渉する、戦闘によって支部長達が用意している脱出経路を使い、迷宮都市を脱することなのだと。


ようやく見えてきたこの絶望的な状況の中の光に、僕は笑みを浮かべる。


遺失技術を持つ支部長が用意していた脱出経路と考えれば、今から街の人たちを護衛しながら迷宮都市から避難するよりも、遥かに安全なのは間違いない。


懸念もある。

交渉が成り立つ可能性は低く、十中八九戦闘になるだろう。

そうなれば、切れ者で戦闘力未知数である支部長と、強者だと分かっているハンザムを相手にしなければならない。


それでもこっちには、超一流の冒険者がいる。

決して分の悪い勝負では無い。


だが!その僕の考えは次に師匠が告げた言葉に改められることになった。


「今回、戦闘は出来る限り避けるぞ」


それは、何時もの師匠らしくない弱気な発言だった。

何かの冗談にしか思えず、僕は笑みを浮かべたまま、軽い口調で師匠に言葉を返そうとする。


師匠が獰猛な笑みを浮かべながら──同時に、見たことのない極度の緊張を抱いていることに僕が気づいたのは、その時だった。


「……師匠?」


「一つだけ頭に入れておけ」


僕の呼びかけに、険しい声で師匠は告げる。


「側近の職員は知らない。だが、お前と私が共に支部長と戦ったとして、勝率は三割以下と思え」


「………は?」


師匠の態度に、僕はようやく気づく。

支部長に対して今まで自分が抱いていた危機感、それはあまりにも甘いものだったことを。


「行くぞ」



そう告げて通路に降り立った師匠の背中を、僕はぼうぜんと見つめることしか出来なかった。

更新遅れてしまい、申し訳ありません。

風邪と花粉症のコンボにより、瀕死状態となっておりました。

突然休む時は、活動報告でご報告する予定なのでユーザー名から、マイページに飛んで頂けると幸いです。

ヒノキもやばいのですが、何とか次回の更新は時間通りになるよう頑張ります!


追伸)活動報告でペンギン先生著の「魔王様観察日記」という小説についておすすめさせて頂いております。

本当に名作なので、是非!

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