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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第29話 師匠の予想

この度、「パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき」の重版が決定いたしました!ありがとうございます!

「ふざけるな!何で戦えもしない女の指示を聞かなきゃなら無いんだよ!」


師匠達と共にギルドへと辿り着いた時、目に入ってきたのは、ライラさんとアーミアに怒鳴る冒険者と、その三人を囲む冒険者達の人だかりだった。

怒鳴る冒険者が因縁のパーティー、戦神の大剣のリーダーであることに気づいた僕は、大体の事情を理解した。


追い抜かされた嫉妬から僕を襲って返り討ちに合い、それを逆恨みして僕をこの街から追い出そうとしたことから分かるように、あの男はかなり自尊心が高い。

自分ではなく、ライラさんが冒険者達を統率しようとしていることが気に食わず、文句をつけているのだろう。

アーミアはライラさんを守るように男の前に立っているが、小柄なこともありライラさんに守られているようにしか見えない。


ライラさんは、戦神の大剣のリーダーにも気圧されることなく、毅然と言い返している。


「私はジークの代理。それに何の文句があるの?それとも貴方程度が、直属冒険者であるジークに勝てるとでも言いたいの?」


「はあ?ここを出てから戻ってこないやつの威を借りて何を言ってやがる?そもそもこんな状況であれば、新参者なんかじゃなく、一流冒険者である俺がしきるのが普通だろうが!」


だが、それで男が引き下がることはなかった。大剣の柄に手をかけ、怒声をあげる。


ライラさんとアーミアが女性であること、戦神の大剣が古くから一流冒険者として迷宮都市にいることもあり、ほかの冒険者は戦神の大剣よりだ。


その光景を見て、ナルセーナは動揺したように口を開いた。


「そんな……!私がいた時は、ここまで反発していなかったのに」


「ナルセーナは気にする必要はない。あいつは自分より強い人間がいなくなってから、行動を起こしたんだろう」


「お兄さん……」


こんな状況でありながら、自分のことしか考えていない男に呆れを覚える。


正直、戦神の大剣のリーダーであるあの男には、この状況で冒険者を率いるだけの能力はない。

たしかに戦神の大剣には、今までこの迷宮都市を一流冒険者として生きてきただけあり、ある程度の実力は兼ね備えているが、それだけだ。大人数を指揮する方法など知りはしないだろう。


にもかかわらず、自己顕示欲を満たすことだけを考え、ライラさんに突っかかる男は、ただただ不快だった。


その思いは、師匠も同じだったらしい。


「馬鹿弟子、あの冒険者をしばらく黙らせろ。……ジークが殺す前にな」


うんざりした顔でそう告げた師匠の言葉に反応し、振り返った僕は、魔剣に手をかけたジークさんの姿を目にする。

このままではたしかに、ジークさんの魔剣があの男を殺してしまいかねない。

あんな人間でも貴重な戦力であるうちは、僕が黙らせた方が良いだろう。


そう判断した僕は、身体強化して走り出した。

そしてすぐに、怒鳴る男までの距離を詰める。


「ほら、周りを見てみろよ。他の奴らも、お前みたいな女より、俺の方が良いというに決まっている!」


ライラさん含めた周囲の冒険者達は、直ぐに僕の存在に気づくが、夢中になって叫ぶ戦神の大剣のリーダーは、背後に迫る僕の存在にまるで気づいていなかった。


僕はまるで遠慮することなく、背後から男の股間を蹴り上げた。


「分かったらすぐに俺と………ほきょっ!?」


………次の瞬間、言葉が中断して男の動きが止まった。


「──────っ!」


一拍おいて、男は青い顔で声にならない悲鳴をあげ、その光景に周囲の冒険者達、特に男性陣がその顔を悲痛なものに変える。


が、それでも僕は止まらなかった。


流石にこの先戦えないほどの傷与えてないので、男はまだ意識を失っていない。

しかし師匠に命じられたのは、男をしばらく黙らせること。気絶していない今、目的を達成したとは言えない。

その判断のもと、僕は未だ悲鳴をあげる男の後頭部を掴んだ。


瞬間、この先何が起きるかを予見したか、男の顔が歪む。

まるで慈悲を乞うかのよう、悲痛に。


それを無視して、僕は男の顔を地面に叩きつけた。


「ぶっ!」


鼻の骨が折れる音がして、完全に男の身体から力が抜けた。

それを確認して、僕は男の後頭部から手を離して立ち上がった。


僕は、過去冒険者達に虐げられていたことに関しては、根に持っていない。

ナルセーナがいる、それだけで幸せな現状、態々過去を気にする気は無いからだ。


しかし、戦神の大剣、特にリーダーであるこの男に関しては、話が別だった。

勝手な逆恨みから、迷宮都市を追い出される直前まで追い込んできたこの男を、そう簡単に許せるわけが無い。

故に今回、僕は一切容赦をしなかった。


突然現れ、戦神の大剣のリーダーを殴り飛ばした僕と、白目を向いて股間を押さえる惨めな体勢で気絶した男。


「ひっ!」


それを見比べていた冒険者から、押し殺した悲鳴が漏れる。

ふと冒険者の方へと目をやると、その奥に戦神の大剣の他のメンバーもいたが、その顔には怯えが浮かんでおり、反意が無いのは明らかだ。

その冒険者の様子に、自分達がいる限りこの冒険者達が戦神の大剣につくことはないだろうと、ぼんやりと考える。

師匠の声が響いたのは、その時だった。


「自分の力量不足も分からない馬鹿が」


その声は決して大きいとは言えなかったが、無視できない威圧感が込められており、この場にいた全ての人間が師匠の方を向く。

その時初めて師匠とロナウドさん、二人の超一流冒険者の姿に気づいた冒険者達の顔に、驚愕と疑問の色が浮かぶ。

が、その疑問を口に出すものは誰もいなかった。

師匠が放つ威圧感を前に、口を開けるものは一人もいなかったのだ。


そんな中、師匠は嘲りを顔に浮かべ口を開いた。


「一つ言っておく。この馬鹿に指揮を任せていれば、お前達の死は確実だった」


それだげ告げると、師匠は冒険者達を尻目に、ギルドの方へと歩き出す。


「ロナウド、冒険者どもへの説明は頼むぞ。ラウスト達はついてこい。話の続きを聞かせてやる」


「人使いが荒いなあ」


「師匠、俺もここに残ります。ラウスト、後で俺にも説明してくれ」


苦笑したロナウドさんが、それでも文句を言わず冒険者達に向き直り、ジークさんがそれに続く。

その光景を最後に、僕は師匠の背中を追って歩き出した。




◇◆◇



僕達を後ろに連れ、師匠が向かったのはギルドの奥だった。

途中、超一流冒険者の存在に驚きを露わにするギルド職員達に、入ってくるなだけ告げ、師匠は勝手に客室を占拠し、椅子に膝を組んで座った。

それに続き、僕とナルセーナは師匠の対面の椅子に、並んで腰掛ける。

師匠が口を開いたのは、次の瞬間のことだった。


「お前達から聞いたことを整理すると、ことの発端は異常な程強いホブゴブリンが迷宮都市内部に入ってきたこと。その後に、あの魔獣達の集団が現れた。そうだな?」


その師匠の言葉に、僕とナルセーナは頷く。

ギルドに来るまでに、僕達は師匠とロナウドさんに、今まで何が起きたのかの説明を終えていた。

残念ながら、師匠達から話を聞くまでの時間はなかったが、何が起きたかに関しては、大体のことを説明できただろう。


改めて僕達に確認した師匠は、悩ましげな表情で口を開いた。


「私がこの場所に来れたのは不幸中の幸いだったというか訳か……」


師匠のその態度は、明らかにおかしかった。


焦燥と苦渋。今まで目にしたことのない表情を浮かべ、師匠は口を開く。


「一つだけ先に言っておくが、今回は最悪の状況だ。肝に命じておけ」


その言葉に、自然と気が引き締まる。

ナルセーナの顔にも緊張が浮かんでいる。

あの師匠がこれだけ警告する事態だ。絶対にただ事ではない。


……しかし、その覚悟は無意味でしかなかった。


「私の経験からすれば、これは迷宮暴走。──遠くない未来に、この迷宮都市は滅びるぞ」


「───っ!」


「………え?」


師匠が告げた言葉に、僕とナルセーナは動揺を露わにすることになった。

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