第26話 災厄は終わらない
新年明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたします!
そして、挨拶、更新遅れてしまい申し訳ありません!
「皆ありがとう。後は僕が受け持つ」
そう告げた僕が抱いていたのは、街の人が安全であったことに対する安堵と、冒険者達に対する感謝の心だった。
正直、僕はこの状況になってマーネル達冒険者が、この場所に留まっているとは考えていなかった。
街の人と馴染むマーネル達の姿、それを確かに僕は見ている。
それでも、いざという時になれば彼らは街の人々を残して逃げるだろうという考えが、僕の心の奥底には存在していた。
だが、その考えが僕の勝手な思い込みでしかなかった。
傷だらけで、ボロボロになってなお、ホブゴブリンに向かっていったマーネル達の姿が、何よりも雄弁にそのことを証明していた。
「後でマーネル達に謝らないと」
小さくそう呟いて、笑う。
どうやら、僕はもっとマーネル達と話すべきらしい、そう思いながら。
そして、その為にはまず目の前の敵を排除しなければならない。
「だから、手早く終わらせてもらうよ」
突然現れた僕に対し、ホブゴブリン達は未だ混乱から完全に抜けていない。
そんなホブゴブリン達が、僕を脅威だと理解するその前に、足を踏み出した。
「ギッ!」
圧倒的な身体強化により生み出された力で振るわれた短剣。
それは、1匹のホブゴブリンの首を切り飛ばす。
「キヲツケ……」
その時になって、ようやく僕を脅威だと認めた1匹のホブゴブリンが警告を上げようとするが、その警告は途中で途絶える。
言い切る前に、僕が短剣でそのホブゴブリンの首を切り裂いたのだ。
瞬く間に殺された2匹のホブゴブリン。
「カコンデオシツブセ!」
その時点になって、ようやくホブゴブリン達は、僕が油断ならない強敵だと認識し、自分たちの物量を活かして僕を囲もうと動き始める。
それは古典的でありながらも、有効的な作戦。
しかしその作戦では、僕とホブゴブリンとの間にある圧倒的な実力差を覆せる程のものではなかった。
僕の短剣の一振りは、複数体のホブゴブリンを戦闘不能にする。
「それじゃ、殺されに来ているようなものだ」
「ギギッ!?」
一瞬にして複数体の仲間が殺された光景を目にし、ホブゴブリンの動きが鈍る。
ようやく、僕を超えて街の人々の所に辿り着くのは、不可能だと理解して。
「ホカノニンゲンヲネラエ!」
次の瞬間、あれだけ街の人々に執着していたのが嘘のように、ホブゴブリン達は反転して走り出した。
その先にあるのは傷ついた冒険者達の姿。
そう、街の人々を殺せないと理解したホブゴブリン達は、冒険者達へと矛先を変えて襲いかかったのだ。
確かに冒険者達は、街の人々のように無力ではないが、このままホブゴブリン達に一斉に襲われることになれば少なくない被害を出すことになるだろう。
今まで必死にホブゴブリン達から街の人々を守ろうとしていた冒険者達は、酷く消耗しているのだから。
けれど、その光景を前にしても僕に動揺はなかった。
「……残念だけど、その手口は知っている」
こちらに向けられたホブゴブリンの背中に向けて僕は、冷静に短剣を構える。
自分ならホブゴブリン達を、冒険者にたどり着く前に殺せると確信する。
「あれは……」
こちらに全力で向かってくる青い髪を持つ何者かに僕が気づいたのは、その瞬間のことだった。
その正体に気づいた僕は、笑って構えを解いた。
最早、ここで自分が出張る必要は無くなったと確信して。
その僕の予想が、外れることはなかった。
「はぁっ!」
「ギガッ!?」
唖然とする冒険者に一切気を払うことなく、マーネル達とホブゴブリン達の間に駆け込んできたその人物は、その勢いのままにホブゴブリン数体を蹴り飛ばした。
「なっ!」
突然のことに、ホブゴブリンどころか助けられた冒険者でさえ、何が起きたのか理解出来ていなかった。
そんな中、青い髪の彼女──ナルセーナは僕へと振り返り申し訳なさそうに頭を下げた。
「すいません、お兄さん。遅れてしまいました……」
僕は首を振って、気にしていないことをナルセーナに伝える。
「気にしないで。ギルドの方で面倒が起きたことは理解できるから」
ナルセーナは僕の言葉に、微かに笑ってホブゴブリン達の方へと向き直った。
ナルセーナと僕に囲まれる形となったホブゴブリン達の間に動揺が走る。
「これを片付けたら、私が分かっていることを全て教えますね!」
それから数十秒の間に、ホブゴブリン達の殲滅は終わることとなった。
◇◆◇
「冒険者ギルドなのですが、どうやら支部長と幹部クラスのギルド職員が姿をくらませたらしく、今は酷い騒ぎになってます」
ホブゴブリンの殲滅を終えた後、冒険者の治療を行いながら僕はナルセーナから、ギルドで何かあったかに耳を傾けていた。
正直、このギルドの支部長に対して僕はあまり良い感情は抱いていないし、そこまで期待なんてしてはいなかった。
だが、この状況で行方をくらますというのは、あまりにも酷すぎる。
「……幹部クラスのギルド職員ということは、ハンザムも姿を消したのか」
僕の頭に浮かんだのは、かつて災禍の狼という冒険者パーティーに絡まれた時、騙したギルド職員だった。
ハンザムというあのギルド職員まで逃げているとは。
別に、信頼していたとかそういう訳ではないが、ハンザムが中々の実力を持っていることを僕は理解出来ていた。
だから、ハンザムまで怖気付いて逃げ出すとは思っていなかったのだ。
「今は、逃げ出した人間を思い出しても何の意味もないか……。他のギルド職員達は?」
「全員、残っていました。ギルドとかなり深い関係にあった一流冒険者も、全て取り残されていたそうです。……そいつらだけでも、連れて行けば良かったのに」
最後にぼそり、と告げ加えたナルセーナの顔には、隠す気もない疲労感が浮かんでおり、僕は冒険者ギルドで何があったのか、大体のことを理解する。
冒険者とは、実力が上がるほど我が強いものが多く、酷い者は状況も考えずに問題を起こす。
そんな冒険者に、力付くでいうことを聞かせられる数少ない人間であるナルセーナは、大分働かされたに違いない。
「……お疲れ様。この状況でも好き勝手に暴れるのか」
「冒険者の中には、この騒ぎに乗じて火事場泥棒を企んでいた人もいるくらいですから。ライラさんが居なければ、冒険者同士の殺し合いが起きていた気がします……」
「……………はあ」
この先、好き勝手するだろう冒険者達をどうにかしなければならないことを理解し、頭が痛くなる。
何が起きているのか分からない今、貴重な戦力である冒険者達を無下にすることは出来ない。
「特にこの状況は……」
目の前で呻く街の冒険者達を見て、そう呟く。
街に素材を持ち込むようになってから、マーネル達街の冒険者達は、異常な速度で成長していた。
初級冒険者の戦士なら10人、中級の戦士なら五人いなければ倒せない異常な強さのホブゴブリン。
その群れを、これだけの人数で留めていたことがその何よりの証拠だ。
……だからこそ、街の冒険者をあてにできないのは、かなりの戦力の喪失だった。
僕が冒険者の治療した甲斐もあり、冒険者の中から死人は出ていない。
しかし、僕一人ではやれることは限られており、戦える人数は半分以下。
その上、治癒師は疲労困憊で、回復薬などは殆ど使い果たしている。
こんな状態では、通常の半分程度の戦力も期待できないだろう。
「……せめて、これを普通の治癒師にも使えるようにしておけば」
自分が作った治癒魔法を強化する魔道具、それを見て僕は思わずそう呟いた。
この魔道具を使うことで、ただの《ヒール》で重傷を治癒させることができ、投げて遠距離の人間を治癒することもできる。
ただ発動には、魔力と気の両方を込める必要があり、僕以外扱うことが出来ない。
魔道具が他の治癒師にも使えたならば、街の冒険者を治癒するよう、他の冒険者にも頼めただろうが、何が起きているのか分からない現状、これだけの人数を治癒してはくれないだろう。
こんな状況にもかかわらず、いやこんな状況だからこそ、自分達が生き残るために動くのがこの街にいる冒険者達なのだから。
「……せめて、今だけ団結してくれれば」
それを分かりながらも、そう言葉を漏らしてしまう。
脅威はまだ、終わっていないと確信出来ているからこそ。
僕は、ホブゴブリンの襲撃がこれだけだとは思っていない。
ナルセーナの話を聞いた限り、もうホブゴブリンは迷宮都市の中にはおらず、マーネル達や街の人達は完全に戦闘が終わったと思い込んでいる。
なのに、未だ僕の中から悪寒が消えないのだ。
まだ、何も終わっていないと知らせるように。
……けれど、その僕の警戒さえ、現実の前には生ぬるい考えでしかなかった。
「お兄さん、魔獣が来ます!」
「………え?」
突然、ナルセーナが警告の言葉を口にする。
その真剣な眼差しに気圧され、僕はナルセーナの視線の先へと目をやるが、そこにあるのは迷宮都市を囲む壁だけで、ホブゴブリンの姿などない。
ナルセーナに警告の意味を問おうとして──焦った様子のジークさんが駆け込んできたのはその時だった。
「新手が、オーク達が押し寄せてきた!」
「───なっ!」
迷宮都市を混乱に落とし入れた、異常な強さのホブゴブリンの襲撃。
……それが、ただの始まりでしかないことに僕が気づくまで、あと少し。
……年末年始が忙しく、疲労して更新遅れてしまいました。本当に申し訳ありません!
何とか次回こそは、早めに更新したいなあ……(願望
こんな作者ではありますが、本年度もよろしくお願いいたします!




