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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第25話 街の冒険者vs.ホブゴブリン

マーネル目線は、今回で最後です!

眼前に迫るホブゴブリンの扱う大剣。


「くっ!」


それを回避するため俺は、大きな隙を晒すことを覚悟しながらも、大きく横に飛んで地面を転がる。

一拍の後、少し遠くから響いた大剣が地面とぶつかった音、それを耳にした俺は、どうにか自分が命を永らえたことを理解する。

あの大剣持ちのホブゴブリンが俺のそばにやってくるには、俺が態勢を立て直すのに十分な時間があるだろうと。


「コロサレニキタカ?」


「嘘だろ……このタイミングでもう一体!」


……だが、その時俺が抱いた安堵は顔を上げた瞬間、目に入ってきた光景に消え去ることとなった。


態勢が大きく崩れた俺の前に立っていたのは、斧を持ったホブゴブリンだった。

そう、俺は転がるのに大剣を持つホブゴブリンから逃げることに夢中になるあまり、別のホブゴブリンの直ぐそばにまで転がってしまっていたのだ。


「くそっ!」


それを理解した俺は、瞬時に立ち上がろうとするが、間に合わないことは歴然だった。

ホブゴブリンは、そんな俺の悪あがきを嘲るように笑って、斧を振り上げる。


「ギッ!」


「大丈夫か、マーネル!」


怒声と共に、ホブゴブリンの間にいつのまにか戦場に戻ってきていたゴッズが出てきたのは、その時だった。

ゴッズの突然の乱入に、ホブゴブリンの行動に一瞬の戸惑いが浮かぶ。

そして、その隙をゴッズが見逃すことはなかった。


「おらぁっ!」


次の瞬間、ゴッズが振るった大剣は斧を持ったホブゴブリンの首を叩き潰し、頭をはねとばす。

その光景に、俺はようやく自分が完全に命の危機を脱したことを悟る。

しかし、そこで一息つく余裕がないことを、俺は気づいていた。


無理な動きに悲鳴をあげる身体を無視し、背後へと振り返りながら立ち上がった俺は、大剣を構える。

するとそこには、想像通り俺を追ってきた大剣持ちのホブゴブリンの姿があった。


それも、大剣を振り切った姿勢で隙だらけのゴッズに、大剣を向けた姿勢の。


「お前の相手は、俺だろうが!」


そんなホブゴブリンへと、俺は大剣を振るう。

俺の振るった大剣がその胴体に届く直前、ホブゴブリンは俺の攻撃に気づくがもう遅い。


「ギギっ!?」


小回りの効かない大剣では、俺の攻撃を防ぐために持ち帰ることは出来ず、ホブゴブリンの胴体の半ばまで大剣がのめり込んだ。


「ギ、ニンゲン、コロサナケレバ」


そんな状態になっていてもなお、未だホブゴブリンは生きていた。

最後の足掻きとばかりに、俺の顔へと手を伸ばそうとして──その手が届く前にホブゴブリンの頭はゴッズの大剣に貫かれた。


「助かった!」


「お互い様だ」


戦場の中でも聞こえるように、大きく発せられたゴッズの礼に、俺は短くそう告げる。

正直、今回の状況は俺が助けられたもので、俺から礼を告げるのが筋なのだろうが、今ではそんな時間さえ惜しかった。


「それよりも街の人たちは!」


ゴッズを含めた数人の冒険者に俺は、街の人たちを避難させるように言って戦線を離脱させていた。

つまり、ゴッズが戦場に戻って来たというのは、どんな状態にしろ、一応の決着がついたということだ。

その報告を、俺はゴッズに求める。


「……避難は、断念した。今は怪我人と一緒に後ろにいる」


ゴッズから語られたのは、よくない知らせだった。

ゴッズの言葉に、俺は無言で唇を噛みしめる。

避難できない可能性、それは決して想像出来ない状況ではなかった。

何せ、周囲の騒がしさを考える限り、何か起きているのはここだけではない。

それに、この街にいるのは荒々しい冒険者たちだ。

何が起きているかわからない現状、彼らに街の人たちを任せるよりは、ここに残っていてくれた方が良いとゴッズ達が判断するのも無理はない。

そう判断した俺は、ゴッズを引き止めるのをやめた。


「分かった。行ってくれ」


「ああ、任せろ。お前はあくまで先程のホブゴブリンと戦う程度にしておけよ」


「分かっている。こんななりでがちんこ勝負はしねえよ」


その俺の言葉を聞いたゴッズは、それ以上何もいうことなく前線へと走っていく。

その背を見て、ゴッズが戦線にいるなら、とにかく今すぐに街の人たちに被害が出ることはない、そう俺は判断して小さな安堵を顔に浮かべる。

けれど、その安堵は直ぐに不安にかき消されることとなった。


……その安全が、決して信用できるものではないのを、俺は知っていたのだ。


未だホブゴブリンと激しい戦闘を繰り広げる仲間たちの姿を目にし、俺は改めてそのことを認識する。

今、目の前で戦っているホブゴブリン達は、異常な程の強さを誇っていた。


明らかな知能がある上、おそらく中層のオークよりも強く、その上数も多い。

そんなホブゴブリン達との戦闘、俺達が負けるのは時間の問題だった。


街の人たちを避難させようとしていたゴッズが戻って来たことで、多少は戦況はましにはなるだろう。

現在、俺が周りを見る余裕があるのが、その証拠だ。

それでも、このままではジリ貧になるのは確実だった。


「……初めに、あれだけ人数を減らされなければ」


最初、ホブゴブリンの実力が分からず戦闘を挑んだせいで、仲間達の多くが大きな傷を負って戦闘不能になった。

それさえ無ければ、戦闘中でありながらその考えを振り払うことができず、俺は強く唇を噛みしめる。

もし、俺たち全員がこの場にいれば、もっと戦況はましになっていただろう、そう確信しているからこそ。

俺の後悔は、それだけではなかった。


「……いや、せめて俺の鎧さえ揃っていれば」


衣服がむき出しとなった、自分の手を見つめながら俺はそう言葉を漏らす。

そう、現在も俺は完全に鎧を身につけられていなかった。

それは、最初仲間達に指示を出していたこともあり、鎧を身につける余裕が無かったのが理由。

そのせいで、俺はタンクとして前線に出ることが出来ていなかった。

あくまで、仲間の戦士達を潜り抜けて来た、先程のホブゴブリンを足止めする程度しか役に立っていない。

せめて鎧さえ身につけていれば、この膠着状態をどうにか出来たはずなのに、と俺は忌々しげにホブゴブリンを睨む。


「……待てよ」


……俺が、ある違和感に気づいたのはその時だった。


硬直しているように見える戦場。

それを見て、俺は呆然と口を開く。


「……何で、先程までとまるで状況が変わっていない?」


そう、現在俺の目に入る戦場はまるで状況が変わっていなかった。

ゴッズを含めたかなりの冒険者達が、戻って来たにもかかわらず。


そう、まるで丁度戦場が膠着状態になるよう、だれかが支配しているかのように。


「おい!何かがおかし……」


それに気づいた俺は、仲間にそのことを伝えるべく口を開く。


──しかし、その時すでに手遅れだった。


「オクヲネラエ。ソコニオオクノニンゲンガイル」


「なっ!」


奥にいたホブゴブリンの発した言葉。

それに俺は、思わず声を上げ、それと同時にようやくホブゴブリンの狙いを理解した。


俺たちの奥にある建物の中には、けが人と街の人たちが潜んでいる。

それをホブゴブリン達は、戦場を膠着状態にして時間を稼ぎ、探していたのだ。

全ては、より多くの人間を殺すために。


「絶対に奥にいかせるな!」


それに気づいた瞬間、俺は大声を出しながらホブゴブリンのところへと走り出した。

最早防具がないから危険だ、何て言っている場合では無かった。

何としてでも、ホブゴブリン達の行動を阻まなくてはならない。

仲間の冒険者達も、街の人やけが人が狙われていることに気づいたのか、ホブゴブリンに向かって攻撃を仕掛ける。


……けれど、その仲間達の思いが身を結ぶことはなかった。


ホブゴブリン達は、今までが比にならない程の勢いで、奥の建物に向かって進み始めたのだ。

俺を含めた冒険者達の攻撃は、何体かのホブゴブリンの命を奪ったが、それだけ。


「クソがっ!」


到底その勢いを止めることなどできず、そのままホブゴブリン達は俺たちを無視して奥の建物へと進んでいく。

その光景に、虐殺される街の人々を思い描き、俺は顔を歪めた。


あの建物にいる冒険者は、怪我人や治癒師と言った殆ど戦えない人間だけ。

つまり、あの建物にホブゴブリンが足を踏み入れた瞬間、絶対な犠牲が出ることは確定する。

例え、最終的に俺達がホブゴブリンを全滅させることができても、あの建物を戦場とすれば、それまでに多くの怪我人や街の人が死ぬことになるからだ。


……それを理解していても、もう俺には何もすることはできなかった。


伸ばした手は届かず、ホブゴブリン達は建物へと近づいていく。


頭を過るのは、今朝自分が剣を抑えていた少年の姿。

その少年は自分にとって、初めての弟子と言える存在だった。


……だが、その少年さえ自分は救えない。


「──っ!」


そのことを理解した俺の顔を絶望が覆い──爆音と共にそれが現れたのはその時だった。


「…………え?」


建物へと進軍する、ホブゴブリン達の先頭を押し潰しながら地面に降り立った何か。

それが人であると、一瞬俺は理解できなかった。


「……ぎりぎり、か」


ようやく認識できたのは、それがそう告げたその瞬間。


聞き覚えのあるその声、それに目の前に現れた人間の正体を理解して、呆然と立ち尽くす。


そんな俺へとその人は──ラウストさんは何時もの様子とは別人のような真剣な顔で口を開いた。


「皆ありがとう。後は僕が受け持つ」


その瞬間、俺は自分達が助かったことを理解した。

活動報告とあらすじで既にご報告させて頂いておりましたが、この度パーティー追放された治癒師の書籍化が決定いたしまた!

これも全て、拙作を支えて頂いた読者様のおかげです!

本当にありがとうございます!

また、活動報告では書影を公開させて頂く予定なので、是非見に行って頂けると幸いです!

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