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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第10話 フェニックス討伐

フェニックス討伐までの数日、それは討伐の準備に勤しむ内に過ぎていくこととなった。

僕はフェニックス討伐のための魔道具を作成しなければならなかったのだが、それに想像以上の時間を取られることになったのだ。

それでも僕達は、フェニックス討伐1日前までで無事準備を終わらせ、時間に余裕を持った状態で宿を後にした。


「思ったよりも早めに来たんだな」


「………え?」


だが、僕達が待ち合わせ場所である迷宮の入り口にたどり着いた時、すでにジークさん達は準備を整え、僕達を待っていた。

それどころか、フェニックス討伐の受諾も済ませてくれていて、その手際には僕もナルセーナも驚きを隠すことができなかった。


ジークさん達も僕達と同じように、かなりの準備が必要だったはずだ。

それにもかかわらず、ジークさん達が僕達と違い、余裕を持っているのは、年季の差としか言いようが無いだろう。

そんなことを考えながらも、僕はジークさん達へと口を開く。


「すいません。遅れてしまって……」


「気にしないで。私たちが早く来すぎただけだから」


その僕の謝罪にたいし、ライラさんは笑顔を浮かべた。

必要以上に気負う必要はないと、伝えようとするように。

……けれども次の瞬間、僕が背中に背負ったあるものに気づいたライラさんの顔には困惑が浮かぶこととなった。


「……一つ聞きたいのだけど、それを使って戦うの?」


恐る恐るといった様子のライラさんの言葉に、僕は思わず苦笑を浮かべる。

僕の背中にあるもの、それは巨大な大剣だった。

ジークさんの魔剣程ではないが、その剣はかなりの重量と大きさを備えており、いつも僕が短剣を使っているのを知る人からすれば、本当にこんな武器を僕が使えるのか疑問に思うのも当然のことだ。


「心配ありません。短剣を使うのと同等ではないですが、それなりには使えますよ」


けれども、ライラさんの心配は杞憂だった。

これくらいの大剣であれば、僕も扱うことはできる。

………ロナウドさんに師事するというのはそういうことなのだ。


「でも……」


しかし、ロナウドさんに師事をしたことのないライラさんの顔からは、その僕の返答を受けてもなお、不安そうな色が消えることはなかった。


「……ライラ、ラウストの言葉を信用して大丈夫だと思う」


「……お兄さんが大剣を使っているのは見たことないですが、私も使えるので心配ないと思いますよ」


「そ、そう……ロナウドさんの訓練て………」


そんなライラさんに、僕の兄弟弟子であるジークさんとナルセーナが、僕と同じような苦笑を顔に浮かべそう告げてくれる。

そのお陰か、ライラさんは納得してくれたようだ。

……何故か頬がひきつっていたが。


「じゃ、行こうか」


そんな会話を交わす中流れていた和やかな雰囲気は、ジークさんの言葉が発せられた瞬間、その緩んだ空気は引き締まることとなった。

次の瞬間僕たちは今までの雰囲気が嘘のような手際で準備を整え、歩き出す。

先程までの会話のお陰か、僕たちの間に過度な緊張は無かった。


……けれども、そんな状態でありながら僕たちは、今から行うフェニックス討伐がどれだけ重要なことか、理解していた。


討伐を失敗しても逃げることはできる。

しかしその場合、フェニックスが変異する可能性があるのだ。


だが、万が一にもそんなことは起こさせない。

そのために僕達は今まで、作戦を念密に練っていたのだから。

僕はその決意を胸に、迷宮へと足を踏み入れた……



◇◆◇



「Ra──A!」


迷宮下層に現れたフェニックス、それはギルドからの情報通りの階層、それも転移陣の近くに存在していた。


「っ!」


その身体を灼熱の炎が、正に鎧のように覆っていて、その姿に初めてフェニックスの姿を見る僕とナルセーナは、思わず息を飲む。

これが二度目の対面であるジークさん達もフェニックスのその姿に、微かに動揺を漏らしているのが分かる。


だが、フェニックスはそんな僕達と対照的な行動を取った。


「RuA────────A!」


「なっ!」


フェニックスは、ジークさんの存在を認識したその瞬間、雄叫びと共に巨大な火球を放ったのだ。


本来フェニックスは、戦闘前は攻撃せずに相手の脅威度を、保有している魔力や気を察知してそれを基準に探ろうとする。

その性質を知っていたからこそ、僕達は動揺を隠すことが出来なかった。


「おう。熱烈な歓迎だな」


ジークさんを除いて。


ジークさんは、自分へと上半身さえ飲み込めるような火球が飛んできているにもかかわらず、冷静そのもので、火球へと魔剣を振り下ろした。

まるで、フェニックスが真っ先に自分に攻撃することを知っていたような、自然な動きで。


「RA──────Aa!」


次の瞬間、魔剣によって火球は霧散し、フェニックスが忌々しげに咆哮を上げる。


「ハッ」


その咆哮に対し、ジークさんはフェニックスへと挑発的な笑みを浮かべる。


「前のことを根に持っているんだろうが、こっちとしては有難い。さあ、どんどん俺を狙え」


そして次の瞬間、ジークさんが挑発的に告げた言葉に、僕は我に戻った。


フェニックスのジークさんに対する異常な程の敵意、その異常事態に僕はいつのまにかジークさんを援護するように動こうとしていた。

だが、僕の役目はそんなことではない。

たしかに今は、想定外の状況に陥っている。


けれども、今の状況は決して作戦が失敗しそうになっているわけではない。

それどころか、フェニックスの注意がジークさんに向かっているこの状況は、作戦をするに当たって、最高の状況だと言っても過言ではない。


だとしたら、ここで僕が取る行動は決まっている。


「ナルセーナ!」


「はい!」


次の瞬間、僕とナルセーナは作戦通りにフェニックスへと向けて飛び出した。

ナルセーナの手には耐熱の効果を有する籠手、僕の手には何時もの短剣ではなく大剣が握られている。


「RA──A!」


ジークさんに集中していたせいか、飛び出してきた僕達に対するフェニックスの反応は一泊遅れる。

その遅れは決して長いものではない。

だが、これなら自分とナルセーナ、どちらかはフェニックスに攻撃を当てられると僕は判断する。


同様のことに気づいたのか、一瞬フェニックスの動きに迷いが生まれた。

その一瞬の間に、さらに僕達はフェニックスとの距離を詰める。


「RA─A!」


詰められた距離を見て、どちらかの攻撃が当たることは避けられないと覚悟したのか、フェニックスは攻撃態勢に入った。

どうやら一人に攻撃されることを受け入れて、二人に攻撃されるのだけは、何としても避けることにしたらしい。


「RA───────A!」


「っ!お兄さん、頼みます!」


そして、最終的にフェニックスが火球を放ち、距離を埋められるのを避けようとした相手は、ナルセーナだった。

ナルセーナは、大きく後退することで火球を避け、そう叫ぶ。

これでナルセーナが、フェニックスに攻撃を当てようとすれば、再度距離を詰めなければならない。


「は、ははっ」


しかし、仲間が一人攻撃のチャンスを逃したというのに、僕は笑声をあげた。

その理由、それは簡単なことだ。

今現在、ナルセーナがフェニックスに攻撃を当てられようが当てれまいが、そんなことは重要ではない。それだけだ。


─── 何せナルセーナは、僕が確実に攻撃を当てるための囮でしかないのだから。


僕がフェニックスへと攻撃を仕掛けている理由、それはフェニックスにダメージを与えるためではない。

本格的に僕達が攻撃に移るのは炎の鎧を剥いだ後、つまり今フェニックスにダメージを与える必要など一切ないのだ。


だったら何故、僕がフェニックスに攻撃しようとしているのか、それはフェニックスの注意を自分に引きつけるためだ。


現在僕は、まるでフェニックスに警戒されていない。

フェニックスが僕ではなく、ナルセーナの攻撃を中断させたのがその証拠だ。


それは、人間の魔力や気の保有量を察知することのできるフェニックスからすれば当然の判断だろう。

実際僕の保有する魔力や気は、この場にいる人間の中で一番低いのだから。

初級の魔法や強化しか使えないとはいえ、僕の保有する魔力や気は、決して少なくはない。

だが、この場にいる人間たちの保有量は規格外で、それと比べれば僕の保有量は酷く少ない。

だからこそフェニックスは、僕が取るに足らない雑魚だと思い込んでいる。


「RA──A」


……そのことを、走る自分に向けるフェニックスの目から、僕は理解させられる。


僕に攻撃される寸前にもかかわらず、嘲りと安堵を浮かべる、そのフェニックスの視線から。



─── そして、そのフェニックスの大きな勘違いを正すのが、今の僕の狙いだった。



今回僕は、フェニックスの注意を自分に向け、アーミアが魔法を放つまでの時間を稼がなくてはならない。

だが今の舐められた状態では、フェニックスがまるで僕を相手にしないことは明らか。


だから、僕はこの一撃でフェニックスに教えなければならない。

僕が、フェニックスに対して脅威なり得る存在であることを。

フェニックスが僕を無視できなくするために。


そしてナルセーナの役目は、僕が攻撃する隙を作るために、フェニックスの気を引くことだった。

しかしそんなことを知るよしもないフェニックスは、僕の攻撃に対しまるで警戒していなかった。

ナルセーナの攻撃を本命だと思い込み、僕の攻撃は大したことはないと思い込んでいるのか、回避する素振りさえ見せない。


「RA───A!?」


そして、その考えが勘違いであるのにフェニックスが気づいたのは、僕が目前まで迫り、大剣を振り上げたその瞬間だった。

身体強化を施した瞬間フェニックスが見せた動揺、それに僕はフェニックスの中で自分の認識が変わったことを知る。


フェニックスは、何とか僕の攻撃を避けようと動きだすが、その行動はあまりにも遅すぎた。


「らぁぁぁぁあ!」


「RAAAAAAAA!?」


次の瞬間、勢いをつけて振り下ろされた大剣は、炎の鎧をあっさりと通過してフェニックスの身体を、大きく切り裂いた。

鼓膜が破れてしまいそうな程の悲鳴が上がり、それが僕に、大剣の一撃がフェニックスに大きな傷を与えたことを教えてくれる。


「っ!」


…… だが僕は、その成果に対して一瞬たりとも達成感を覚えることは出来なかった。


「RuA──AA」


フェニックスの咆哮と共に発せられた殺気。

それがなによりも雄弁に、フェニックスの激怒を僕に知らせてくる。


「第一段階、成功」


その殺気の中、僕は強引に頬を捻じ曲げた。

肌がぴりぴりとする敵意を前に、これは理想の状態だと自分に言い聞かせ口を開く。


「さあ、僕はここにいるよ」


「RA───────AAA!」


そして命がけの時間稼ぎが始まった。

突然休んでしまい申し訳ありませんでした。

本日から定期的に更新させて頂きます!

改めてよろしくお願いいたします!

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