第26話 ライラの憂鬱
「……今回は少なめですわね」
「まあ、仕方ないわ」
あのヒュドラ討伐を失敗してから数日が経ったある日、私とアーミアは草原の中話し合っていた。
話をする私たちの周りにあるのは、大量のゴブリンの魔石や素材に、草原で売ることができる植物。
それは今回草原で私とアーミアが狩をして、集めた戦利品だった。
……だが、その大量の戦利品を見て見て、私は思わず溜息を漏らしそうになった。
「……これだけ頑張っても、下層の報酬には及ばないのね」
その理由は、これだけ大量にゴブリンを討伐しても報酬が良くないことだった。
私とアーミアは草原のかなり奥に来て、ゴブリンの群れを見つけ次第、アーミアの魔法で焼き払って稼いでいる。
そしてその方法で、私達は大量のゴブリンの素材を得ているのだが、これだけのゴブリンの素材を売ってもそこまでの金額にはならない。
正直その値段では、ゴブリンの素材などを解体する手間を考慮すると、全く割に合わない。
「で、まだあいつらは引きこもったままなの?」
「す、すいません……」
……しかしそれでも私たちがこんなに割の悪い場所を狩場にしているのは、前衛となる二人がいないからだった。
そう、マルグルスとサーベリアの二人は今、稲妻の剣、共同の一軒家で引きこもって、クエストで全く活躍していないのだ。
マルグルスとサーベリアが引きこもることになった理由、それはヒュドラから退散した二日後に起きた出来事が理由だった。
その日、未だアーミアが全調子出ないにもかかわらず、自分達がいれば大丈夫だとマルグルスとサーベリアは私とアーミアを連れ迷宮下層に狩りのため潜ったのだ。
そして私達を指差し無能呼ばわりして、お前達のせいでヒュドラを倒せなかった、手本を見せてやるとほざきながら下層の魔獣へと飛びかかって行って。
……その数分後、マルグルスとサーベリアは下層の魔獣にまるで相手にならず、泣き叫びながら私達に助けを求めていた。
最終的に、アーミアの魔法で魔獣を倒せたので事なきを得たのだが、正直その姿を見た時ほど私が、稲妻の剣に入ったことを後悔したことはなかった……
さらに折角助けたアーミアに対し、助けるのが遅いと文句を言い。
思わず抜けようかな、と漏らしてしまった私に対しては、受付嬢と共に規約違反だ、さては怖くなったな臆病者め、訴えるぞ、とさも被害者面して怒鳴る始末。
……さらにそれだけ私に言いながら、翌日にはありもしない傷が痛むと嘘をつき、迷宮探索を拒否して引きこもるっているのだ。
そこまで行けば、もはや私も呆れを通り越して感嘆してしまった。
冒険者としては二流程度の実力しかないが、被害者面をするときや、ありもしない傷を痛がる時などまさに迫真の演技だった。
もうマルグルス達は詐欺師になればいいと思う。
………本当に受付嬢とマルグルス達の言葉を無視して、何度稲妻の剣を抜けようと思ったことか。
「はあ……」
そう私は思い、思わずため息を漏らす。
だが、私は今もまだ稲妻の剣を抜けることが出来ていなかった。
まず、代わりに入ることのできるパーティーを見つけることができなかったのだ。
出来る限りの伝手を使って私は稲妻の剣の代わりに入ることのできるパーティーを探していたのだが、入れるパーティーが無かった。
……迷宮都市にいる殆どの冒険者パーティーは柄が悪すぎたのだ。
どのパーティーも、私が入ることを歓迎してくれたが、その顔には私に対する下劣な欲望が透けて見えていた。
そしてそんな所に入れば、そのあと何が起こるなんて考えるまでもなく理解できる。
それでも良いから入ろうとは、私には思えなかったのだ。
それにもう一つ、ある人間の存在が稲妻の剣を抜けるかを悩む理由になっていた。
「ごめんなさいライラさん……」
「気にしないで。貴女のせいじゃないわ」
私のため息に、申し訳なさそうに謝ってくるアーミアのその姿を見て、私はやはり未だ稲妻のパーティーに抜けられないという思いを強くする。
実のところ、現在のゴブリン狩りの生活で一番苦労しているのは私ではなかった。
何せゴブリン狩りは確かに下層の稼ぎよりは低いが一日に複数の群れを壊滅しているので、一般的な二流冒険者が中層で活躍する程度には稼げていた。
そしてその半分の報酬を私は受け取っているので、正直私の生活はそれなりに豊かなのだ。
……だが一方アーミアは違う。
アーミアは自分の稼いだ分をマルグルスとサーベリアと三等分している。
いや、マルグルスとサーベリアは自分は何もしていないのに、無駄遣いだけはやめようとしないので、アーミアの取り分は三分の一よりも確実に低いだろう。
だが、そのアーミアの生活を心配して私が報酬や、マルグルス達の態度について相談しようとしても、アーミアは今のままで良いと言う態度を変えようとしなかった。
……これは稲妻の剣、前治癒師であるラウストを追い出した罰だから、と言いたげに。
実は治癒師ラウスト、その天才的な治癒師について私はアーミアから全てのことを聞いていた。
どんな活躍をしていたか、そしてどうして追放されることになったか。
それを聞いた私は、少しの間言葉を失うことになった。
それ程、稲妻の剣でのラウストの扱いは酷いものだったのだ。
そして、その扱いをしていたアーミアも決して許すことはできないのだろう。
だがもう悔い改めることができないと、言い切るにはまだアーミアは若すぎた。
それに、私はラウストとと言う人間とアーミアが一緒にいる時を見たことがないが、それでもアーミアは変わってきていると思っていた。
受付嬢と、マルグルス達が私を稲妻の剣に残すために根拠もなしに、規約違反と叫ぶ中、唯一私の味方をしてくれたのがアーミアだった。
それだけではない。
私が稲妻の剣を抜けようと考えている時、アーミアは知り合いのパーティーを紹介し、私が稲妻の剣を抜けやすいようにサポートしてくれた。
自分が損になるかもしれないのにもかかわらずに。
そしてそうしてアーミアと過ごしてきたからこそ、私はアーミアを稲妻の剣から引き離したいと思うようになっていた。
「絶対に明日こそは、中層で狩りが出来るように説得してきますから!」
ギルドに戻る途中、そう私に言って何度も頭を下げるアーミアの姿に私はその思いを強くする。
アーミアは中層に行くようマルグルス達を説得すると言っていたが、私はマルグルス達が中層に入ることはないだろうと確信していた。
マルグルスとサーベリアは下層に行ける程強くはないが、それでも決して弱いわけではない。
恐らく中層に通用する程度の実力は有している。
だが、マルグルス達は一流であったと言う過去に執着して中層に入ることはないだろうと私は確信していた。
中層を活動の中心にしたら、自分達が一流冒険者では無くなるような気がしているのだろう。
……自分から一流になった理由を手放したくせに、惨めに一流という立場に縋り付こうとしているのだ。
だが、そんな状態でもアーミアは決して稲妻の剣から離れようとしない。
マルグルス達の未練で一番被害を受けるのは一番実力があるアーミアであるにもかかわらずに。
「何かきっかけさえあれば……」
そしてその現状に私はそんな言葉を漏らす。
今のままではアーミアは稲妻の剣から離れない。
だからこそ、私はその現状が変わるような何かを求めていたのだ。
「遅かったじゃないか!」
「ほんと、早く帰って来なさいよ」
「えっ、リーダー?」
……そして、その何かは思ったりよりも早く来ることになった。
ギルドに戻った時、私達を待つようにマルグルスとサーベリアが立っていたのだ。
その二人の態度にアーミアは驚き、その一方私は怒りを覚える
「あんたら何様のつも………」
何せマルグルスとサーベリアは今までサボっていたくせに、いきなり現れ高圧的な態度を取って来たのだ。
それに苛立ちを覚えないわけがない。
「えっ?」
だが、マルグルス達の隣に一人の男が立っているのに気づいた瞬間、私は言葉を失っていた。
そして思わず黙り込んだ私に対し、マルグルスは自慢げな笑みを浮かべ口を開く。
「新しく有能な戦士を雇った。今から下層に行くぞ!」
その瞬間から、大きく状況は動き出すことになった……
更新遅れて申し訳ございません!
一度書いたのですが、満足がいかなくて書き直していたら遅くなってしまいました……




