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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
一章 欠陥治癒師

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第22話 因縁のパーティー

よく見ると、私の肩を掴んだ男以外にも何人かの男がこちらを見ていることに気づく。

男は同じパーティーらしき、複数人の男達を後ろに引き連れていたのだ。


「私には無いので」


そしてその男たちの姿に、これは関わらない方が無難だと判断した私は、男達に背を向け歩き出した。


「おい、待て!」


その私の後ろ姿に向けて、一人の男が声を上げた。

その制止の声が聞こえなかったように、私は足を進める。


「話を少し聞いてくれるだけでいいからさ」


……しかし、無視されても関係なく男たちは私に付きまとってきた。

そのことに私は、思わず顔をしかめそうになる。

何せただでさえ、男たちからは下劣な視線を感じて不快なのに、付きまとわれるは精神的にきついものが多く、思わず顔を歪めそうになる。

反射的に近くに寄ってきた男を私が突き飛ばしそうになったのも仕方がないことだろう。


「ほら、俺たちは君をパーティーに入らないか勧誘に来たんだよ」


だが私は必死に冷静に振る舞って歩き続ける。


あともう少し、路地裏の場所まで行けば私はこの男達から逃げ切る自信があった。

私を追いかけてくる男達は様々な職業の人間の集団だったが、その編成は戦士二人、魔導師、そして治癒師と、動きを早めるスキルを有しているようには見えない。

その一方、私は動きを早めるスキルの中でもかなり使えるものを有しており、路地裏など入り組んでいる路地の場所に辿り着けば、この男達をすぐに巻ける自信があった。

そしてこの路地を抜けた後走り出せば、簡単に男たちを巻けると私は判断して……


「いいから話を聞けよ!俺たちは親切心で言ってやってるんだぞ!あの欠陥治癒師のパーティーから抜ければ、俺たちのパーティー、災禍の狼に入れてやるって言ってるんだぞ!」


「ーーーっ!」


……けれども、その言葉が聞こえた時、思わず私は足を止めていた。


災禍の狼、そのパーティー名に私の頭の中、数年前お兄さんから聞いた話が蘇る。

それはかつてお兄さんを欠陥治癒師と虐げ暴力を振るい、新人パーティーを騙してお兄さんを殺そうとした男、モーゼラルが所属していたパーティー。

そして私は今更ながら、その時お兄さんが話していたモーゼラルの特徴が、災禍の狼のリーダーらしき戦士と一致しているのに気づく。

この男達は間違いなく、お兄さんを虐げていた人間なのだ。


そのことに気づいた瞬間、私は目の前が真っ赤になるような怒りに襲われることになった。


「今更気づいたか?そうだよ、俺たちが今最も下層に近いパーティーと呼ばれる災禍の狼……」


その私の様子をどう勘違いしたのか、モーゼラルはその顔に満足げな笑みを浮かべ、口を開く。


「下層にさえ行けてない人間が何かよう?貴方達が欠陥持ちだって、馬鹿にしているお兄さんも下層に行っているんだけど?」


「………は?」


だが私はそのモーゼラルの言葉を最後まで聞くことなく、そう言い放った。

その私の言葉に男達は固まるが私は全く気にせず、怒りに身を任せ口を動かす。


「それとも何?貴方達は欠陥持ちのお兄さんができることを出来ない無能です、て自己紹介してくれたの?」


「なっ!」


その私の言葉に、男達は顔を真っ赤にして怒りを露わにする。

けれども、モーゼラルはその怒りを私に向けることはなかった。


「……あいつはただ運が良かっただけさ。一流パーティーの目に偶然止まり、そこから追放された後もあんたみたいな有能な人間のおかげで下層でたんまり稼いでる」


怒りで声を震わしながらも、それでも必死に感情を抑えながらモーゼラルは言葉を重ねる。

その内モーゼラルは興奮し、その言葉はどんどん熱を帯びてくる。


「だからあいつの側にいるのはあんたには不幸でしかない。あいつが足枷になってあんたは活躍できないからだ。だが気にすることはない。今日からあんたと実力の並ぶ俺たちのパーティーに……」


「貴方達の思い込む力が一流なのは分かったけど、それだけ?」


しかし私がそのモーゼラルの言葉に感化されることなんてなかった。

逆に私はモーゼラルの言葉を嘲笑ってみせた。


「思い込むだけ一流でも、下層には行けないわよ。あら失礼、元からそんな素質なかったかもしれないわね。だって貴方達、今まで自分が馬鹿にした人間が一流になったことを受け入れられず、嫉妬で一杯一杯になっている器の小さい人間だものね」


「っ!」


その私の言葉に、モーゼラルは押し黙る。

それは一見、先程の対応と比べれば穏やかなものに見えたが、こちらを睨む目は先程の比にならない怒りが込められていた。

どうやら、図星を指されたことが想像以上に頭にきたらしい。


「……なめてんじゃねえぞっ!」


そして次の瞬間、怒りの許容値を超えたらしいモーゼラルは、拳を握りしめこちらへと飛びかかってきた……





◇◆◇





「……はあ、市街での冒険者の私闘はダメなんだけど」


こちらへと殴りかかってくるモーゼラル、その姿を見て私は思わずそう漏らす。

それは形だけだが、一応正式なギルドの条例だった。

だがおそらくモーゼラルに私の言葉は聞こえていないだろう。

それ程までにモーゼラルは激怒していた。

私のことを憎々しげに睨みつける目には殺気さえ浮かんでいる。


だけど、そのモーゼラルを見ても私は一切気圧されることはなかった。


「貴方達がお兄さんにしたことの方が、これよりもっと酷いじゃないっ!」


何故なら、私の方がモーゼラルよりも怒っているのだから。

そして私はその怒りを、こちらへと突っ込んできたモーゼラルへとぶつけた。


モーゼラルの拳を掻い潜り、その腹部へと拳を突き出したのだ。


「うぐっ!」


その瞬間、私の有する一つのスキルが発動する。

私の拳からの衝撃は、モーゼラルの鎧と、その下の筋肉を通過して、直接内臓へと叩き込まれる。

それは武道家の代名詞と呼ばれるスキル。

武道家は本来、身体強化のスキルを有していない人間がおらず、魔道具などで身体能力を補助する必要がある。

しかしそれにかかるコストをを考慮してもなお、武道家は有用とされる。

その理由が、人間より遥かに丈夫な魔獣でさえ時には一撃で沈めるこのスキルだ。

その上、私のスキルは特別で、拳の威力を上げる効果もある。


「あがっ!」


そしてその攻撃を受けたモーゼラルは地面の上でのたうち回っていた。

流石に殺すとあとあと面倒なので、私はモーゼラルに対して全力で攻撃はしていない。

だが地面にのたうち回るその様子に、しばらくの間動けないだろうと私は判断する。


「……この程度か」


想像以上に弱かったモーゼラルに私は思わずそんな言葉を漏らしていた。

確かにモーゼラルは下層に一番近いと言われるだけあり、それなりの身体強化のスキルは有し、その動きはかなり早かった。

だが、そのスキルに溺れてしまい、肝心の素の動きがボロボロだ。

これくらいの相手ならば、四、五人一斉に掛かってこられても対処できる。


そして吹っかけた喧嘩でリーダーが一方的にやられれば、災禍の狼も直ぐに何処かに行くだろうと、そう判断して私は顔を上げて。


「なっ!」


……けれども、次の瞬間顔を私は災禍の狼のとっていた行動に言葉を失うこととなった。


「木の精霊よ!」


何故なら災禍の狼は、魔導師は詠唱し、戦士は剣をこちらに向ける、明らかに臨戦態勢に入っていたのだから。


その災禍の狼の行動に私は動揺を隠すことはできなかった。

冒険者ギルドは、確かに冒険者の喧嘩ぐらいではもう手を出さない。

だが、殺し合いは別だ。

冒険者ギルドは殺し合いだけはきつく縛るようになっていて、災禍の狼の行動は明らかにやり過ぎだった。

何より、その行動に至るまでの迷いが一切なく、そのことがさらに私の動揺を酷いものとする。


何せ、災禍の狼はモーゼラルを倒し私が一呼吸付いた隙を突くように攻撃しようとしていたのだから。

それは前々から決めていないと出来ない行動だ。


その災禍の狼の行動に、私の頭にある推測が浮かぶ。

もしかして、災禍の狼は最初からこんな風に私に攻撃を仕掛けるつもりだったのではないか、という推測が。

けれども、それについてゆっくりと考えている時間なんて無かった。

短略した魔法なのか、もう魔導師の詠唱が完成しかけている。

しかも、ここが狭い路地裏であることがさらに不幸を呼ぶ。

発動した魔法は狭い場所であると威力と範囲を伸ばすのだ。

最早私には今から悠長に後ろに振り返って逃げる時間はない。

それでは魔法の射程から逃れられる自信がない。


「はああっ!」


だから私は自分なら間に合うと判断して、前へと突っ込んだ。

魔法の射程から逃れるよりも、私と魔導師までの距離の方が近いと判断して。

私のもう一つのスキルは身体能力強化の中でも、速度特化に特化している。

そのスキルによって強化された私の身体は見る間に魔術師との距離を詰めていく。


「なっ!」


そして迫る私に動揺したのか、魔術師が一瞬動揺を漏らし、僅かな隙ができる。


その瞬間、私は勝利を確信して笑みを浮かべた。


壁を蹴り、かなりの速さで魔導師との距離を詰めるに対し、その僅かな隙でさえ致命的だったのだ。

私は魔導師を守るように立っていた、災禍の狼もう一人の戦士の頭をこえ、魔導師に攻撃しようとする。


……だが、その時私に想定外の不幸が襲った。


「うわっ!」


「ぐっ!」


私が頭上を通り抜けようとしたその時、反射的に戦士が頭上に大剣を持ち上げ、その柄が私の腹部へと減り込んだのだ。

私の身体の速度がそのまま私の腹部に伝わり、私の身体は明らかに減速する。


「くっ!」


それでも私は何とか手を伸ばそうとして。


その手が間に合うことはなく、魔法は完成した。


「敵を縛りたまえ!」


次の瞬間、魔導師が足元に置いていたなにかの植物のツタのようなものが私の身体に巻きつき、私はバランスを崩し地面へと倒れこむことになった……





◇◆◇






「このっ、解けろ!」


身体を拘束されてから私は、地面に横たわった状態でなんとか必死にそのツタから抜け出そうととしていた。

しかし、私の筋力でツタはビクともしない。

私はそれでも諦めず身体を動かしていたが、それは無駄な足掻きでしかなかった。


「良い様だな」


そんな私に対する嘲笑が背後から響いた。

その声に反応し、私が後ろを振り向くとそこには腹部を抑え、顔が引きつった状態で、それでも私を嘲笑うモーゼラルの姿があった。


「その状態で睨まれても何も怖くないな」


私はせめてもの抵抗にモーゼラルを睨むが、それへさらにモーゼラルを調子付かせただけに終わる。


「まさか本当にあの欠陥治癒師に惚れていたとはな、馬鹿だろお前!」


「顔だけは良いもんなあいつ!」


「あの欠陥野郎を馬鹿されて受付嬢に切れた、て与太話が本当だった場合のために、こいつを捉える為の準備を作っていたんだが、正解だったな!」


さらにモーゼラル達はそう私を嘲笑う。


「お前さえいなくなれば、あの欠陥野郎も自分の立場がようやくわかるだろうしな」


「ああ、楽しみだ!……それに、こいつをあの欠陥治癒師から離せるんだったら、何しても良いんだよな」


「まてよ!俺をのけ者にすんなよ!」


「大丈夫だ、最終的に不法奴隷として売り払うが別にいつに売り払うなど決まってはいない。時間はある」


「よし!それにしても寄生している冒険者が突然いなくなればあの治癒師、どんな反応するだろうな!」


そして始まったのは、聞くに耐えない話だった。

それに私は思わず顔を悔しさと屈辱に顔を歪め、それでも必死に周囲を見回す。

なんとかこの状況を打開するために。



しかし次の瞬間、上を見上げた私は微かに笑って抵抗をやめた。


「おい、お前」


「きゃっ!」


災禍の狼は私の表情には気づかなかったが、抵抗をやめたことは敏感に察し、戦士の男が腕の使えない私を強引に立たせた。


「……何を企んでいる」


そして次にモーゼラルが、私をにらみ低い声でそう告げた。

それは殺気さえこもった脅しで、けれどもその脅しに対し私は笑ってみせた。

モーゼラルを馬鹿にするような、心底楽しそうな笑みで。


「貴方達じゃお兄さんに勝てないよ」


「っ!」


その瞬間、モーゼラルの顔が明らかにひきつる。

圧倒的優位な状況にいるのにもかかわらず、このように馬鹿にされたことに苛立ちを覚えたらしい。

次の瞬間モーゼラルは、私を殴ろうと拳を振り上げ口を開く。


「あいつはただのクズだろう……」





「いや、屑はお前だろうが」



だが、モーゼラルはその言葉を最後まで告げることが出来なかった。


「あがっ!?」


何故なら次の瞬間モーゼラルは、上から降ってきた何者かに殴り飛ばされたのだから。

リーダーが突然現れた人間に攻撃された、そのことに災禍の狼はその人間に対して睨みつけようとして、けれども人間が漏らす濃密な殺気に災禍の狼はたじろぐことになった。


けれども私の方にその人が向いた瞬間、濃密な殺気は嘘のように消え去り、深い安堵がその顔に広がった。


「遅くなってごめん、ナルセーナ」


その瞬間、私は思わず涙ぐんでしまいそうになる。

危機的状況だったか、そう言われたら首を捻ってしまうが、それでもお兄さんを見た瞬間自分が想像以上に緊張していたことに気づいたのだ。

だけど、お兄さんを見た瞬間からその緊張なんて吹き飛んでしまって、だからそれをお兄さんに知らせるべく私は笑った。


「助けに来てくれてありがとうございます!」

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[一言] この世界には馬鹿しか存在しないのだろうか……
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