表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

170/170

第122話 恩返し (ラルマ視点)

遅れに遅れて大変申し訳ありませんでした……!

使っていたポメラが大破し、データ全て吹き飛んでおりました……。

 放たれた私とアーミアの魔法。

 それは一直線に魔獣の方へと降り注ぐ。

 その光景はまさしく神話の一部の様で、私の魔法は私の目論見通りの効果を上げていた。

 私のコントロール通り、私の魔法は放たれている最中、分裂する。


 その魔法の目論見は超難易度魔獣、その中でも特に放置すると危険になっていく魔獣。

 セイレーン、フェニックス、その他遠距離の攻撃手段を持つ存在達へと私の魔法が降り注ぐ。

 セイレーン達の中には、反応できないはずのその攻撃にあわせ、防御の動きをしている存在がいる。


「そんなもの、私の前に何の役に立つものか」


 それをあざ笑うように、私の魔法が降り注ぐ。

 かつて黒い竜をたたき落とした時さえ、比にならない圧倒的な魔法が。

 その効果は明白だった。


 轟音と共に、私の魔術は次々と超難易度魔獣を葬っていく。

 フェニックス、セイレーン、フェンリル。

 私が厄介と判断した魔獣が塵と変じていく。

 その光景に魔法使い達からどよめきが生まれる。


「……これが、超一流冒険者!」


 その言葉に込められた希望を感じながら、私は内心思う。

 魔法使いたちは知りもしないだろう。

 この戦い、私がどれだけぎりぎりの魔力で戦っているか。

 しかし、私はそれを出さない。

 それが英雄としての務めであると知っているが故に。


「さすがセイレーンだな、だが弱い」


 内心を告げる代わりに、私はほかの魔獣を盾に生き残ったセイレーンへと新しい魔術を放つ。

 それは最初に打った魔術と比較すると制度重視の威力は大きく落ちる魔術。

 しかし、今の攻撃を避け安堵するセイレーン相手にはそれで十分だった。

 その魔術で、セイレーンが倒れる。


「おおお!」


「俺達が倒せなかったあの超難易度魔獣を……」


 その背後、とたんに起こる魔術師達によるどよめきを聞きながら、私は冷静に自身の魔力を判断する。

 三重の強化で行った先ほどの魔術の負荷は大体魔力の五割ほど。

 竜のような強大な敵相手には力不足だ。

 しかし、ほかの超難易度魔獣を処理できるかと悩むほどの余裕はある。

 そんな現実的すぎる判断をしながら、それを見せず私は魔法使い達へと笑ってみせる。

 内心の葛藤を一切伺わせない、鼓舞する為の英雄の笑みを。


 そうしながら、私の頭にあるのは今、全力で迷宮に向かう弟子のことだった。

 今の私でさえ比にならない重責を背負う存在。

 それが今から弟子が行おうとしている英雄だった。

 その重責に弟子がどう向き合うのか、そう私は考え……隣にいたアーミアの身体が揺らいだのはそのときだった。


「おっと」


 荒い息のアーミアが、私の手を借りてもなお座り込む。

 その姿に私は黒い竜へと目を向け、笑った。


「なかなかやるじゃないか、新人」


「ありがとう、ございます……」


 そのアーミアの視線の先、そこにあるのは完全に氷付けとなり動かなくなった黒い竜だった。

 その姿に、幸いにも自分の目的がうまく刺さったことを私は理解する。


 適材適所、黒い竜の対処をアーミアに任せたのは正解だったと。


 前にも言ったが、アーミアの魔術は覚えたて、繊細なコントロールなど望むことはできない。

 しかし、その魔術の効力は圧倒的でそれを今は遊ばせておく余裕などない。

 故に、私は命じたのだ。

 黒い竜の動きを止める魔術を使え、と。


「よくやった」


「ラルマさん……」


 そしてそれは成功だった。

 そのことを、もう動かない黒い竜を目にしながら私は確信する。

 これで一体、竜を押さえることができたと。

 もちろんこれはただの時間稼ぎだ。

 いずれ、この黒い竜とも決着をつけなくてはならないだろう。

 しかし、それが一時間ずれるだけでも今の私たちにとっては貴重だった。


 私たちの目的はあくまで、時間稼ぎ。

 すべてはラウスト達が戦いを制するかどうかにかかっているのだから。

 それを考えればこれはあくまで前哨戦にしか過ぎない。

 そして、その前哨戦を喜んでいるだけの余裕は私にはなかった。

 次なる手を私は打たなくてはならない。


「ミスト、お前の魔法を使えば一体どれだけ魔獣を……」


 減らせるか、そう問おうとした私の口は途中で固まった。

 その原因は一つ。


「────!」


 迷宮の入り口、そこから出てきた新たな存在を目にして。


 瞬間、私とミストはお互いに魔術をくんでいた。

 それは速度重視の威力は落ちる魔術。

 威力で言えば、黒い竜をたたき落とした程度の魔術。

 それでも超難易度魔獣を殺せ、竜にさえ大きな傷を作った魔術。

 自信を持っていえる。

 その時の攻撃は最高の判断だったと。


 ……ただ、それ以上の能力を新たな敵が有していただけで。


「くそが」


 そう吐き捨てた私の目の前に浮かぶのは、敵に当たる直前で私とミストの魔力がとどまっている光景だった。

 その明らかにおかしな光景に、とっさに罵声が出るが私はすぐに理解することになる。

 今、自分には罵声を吐いている時間さえなかったことを。


 何せ、次の瞬間私の方へと自分が放った攻撃が飛んできたのだから。


「……っ!」


 私とミストはとっさに魔力を練って防御する。

 とっさに威力よりも速度重視の魔術にしておいたこともあり、私とミストは難なく魔術を散らすことに成功する。

 だが、私にもミストにも目先の危機を取り除いた安堵はなかった。


「……ミスト、あれは」


「竜だな。権能はみる限り反射ということか。……ふざけるな、まだ邪龍が目覚める一年前だぞ」


 竜を一体と、近接系統の超難易度魔獣。

 それが私が、ロナウド、ジーク達なら対処できると判断した敵の数だった。

 故に私はアーミア、ミストで確実に竜一体を削れるように考慮していて、新しい竜の存在はそのすべての前提を壊すものだった。


「くそが、邪龍とやら性格がねじ切れてやがる」


「は。この程度であの汚物の性格を図れると思うな。……あれと私なら、私は純粋無垢な赤子だ」


「それは邪龍を過大評価していると言うべきか、お前の性格を過小評価していると言ってやった方のどっちがいい?」


「見ればわかるさ」


 その私の言葉に、哀れむような表情をしたミストが口を開き……ぴしり、と響いたいやな音にその顔が凍った。

 私もその音に反射的に顔を向け、気づく。


 ──黒い竜を閉じこめる氷にひびが入っていることに。


 魔法使い達にもう言葉はなかった。

 そして、そんな魔法使いたちを激励する余裕が私にはなかった。

 それでも、私は必死に現状を打開しようとする。


「ミスト」


 切り札で黒い竜を殺せ。

 その言葉を言い掛けて、けれどミストの冷静な目が私に続きを言わせなかった。

 ……本当にいいのか、そうその目が問いかけていることにきづいて。


「今私の切り札を使っても、中途半端だぞ」


 淡々としたミストの言葉。

 それに私は唇をかみしめる。


 それが嘘ではないと理解してしまって。


 黒い竜の権能は蘇生。

 それを考えれば今ミストが切り札で殺しても何の意味もない。

 実際、一度はそれでミストが出し抜かれる展開があったのだから。

 そして新しく出現した竜は切り札を防ぎかねない権能があり、もう一体元からいた竜に至ってはその能力は一切不明。

 ……ミストの言うとおり、今の状況は切り札を切っても決定打にならない可能性の方が高かった。


 だが、それ以外に打開できる手段はないのも事実だった。

 私の魔力はもうほとんどない。

 先ほど反射された魔術をそらした時に、無駄に魔力を使ってしまったが故に。

 今から黒い竜を殺しきる魔術があるかも怪しい。


 ……その上で、私は新しく現れた竜か能力のわかり得ない竜のどちらかを殺さねばならない。


 どうしようもない選択の最中、私はミストの目を見る。

 話すようになっただけで相も変わらず絶望によどんだ目を。

 命じれば、ミストはこの状況を打開すべく手を打つだろう。

 それでどれだけ状況が変わるかなんてわからない。

 ただ、それしか手はない。


 ……そもそも、私がアーミアには黒い竜を殺しきれないと判断し、封印を命じたことがこの状況の原因なのだから。


 だから、私がこの状況を打開する。

 そう私は拳を強く握りしめ。


「ふざけ、ないで……!」


 それをかすむ声が響いたのはそのときだった。

 声の主、アーミアがゆっくりと身体を起こす。

 その身体はふるえていて、今にも倒れてしまいそうで。


 しかし、その目にはそんな身体を些事と思えるほどの強い怒りの炎が浮かんでいた。


「ようやく、役に立てるのに」


 ゆっくりと、アーミアが立ち上がる。

 そして、腕を向ける。

 その先にいるのは黒い竜。


「恩を返せるのに」


 アーミアには大業は一発しか使えない。

 その私の判断は決して間違いじゃない。

 今だって、アーミアの身体は限界なのだから。


 ……その私の判断を、今アーミアは越えた。


「私の、邪魔をするなっ!」


 ──次の瞬間、戦場が凍り付いた。


 それは錯覚などではなく、事実。

 オーガ、オーク、果てには私が討ち取らなかった超難易度魔獣。

 その半数が凍りついていた。


「や、った……」


 そして、もう黒い竜を覆う氷には傷一つ存在しなかった。

 それを確認し、今度こそアーミアが崩れ去る。

 その身体はふるえが止まらず、明らかに限界。

 その姿を支えながら、私は笑う。


「よくやったな、親米」


「ラルマさん……」


「私の想定を超えてきたのは、ラウスト以来初めてだぞ」


「ラウストさん、以来? いいな、それ……」


 その私の言葉に、アーミアが柔らかな笑みを浮かべる。


 ……けれど、ほめる時間さえ竜が私達に与えることはなかった。

 次の瞬間、黒い竜を封じ込める檻に異常が起こったことで。


「っ!」


 達成感が浮かぶアーミアの顔が凍り付く。

 その目の前で、黒い竜の氷像が崩れ去る。


「なに、あれ」


 ぼろぼろと崩れ去る氷、それに対して告げたアーミアの声は震えていた。

 ……それが何が起きたのか、アーミアが理解したことを何より雄弁に物語っていた。

 ぼろぼろに崩れた氷塊、しかしそれはすぐに動き出す。

 元の形を取り戻そうと、集まっていく。


 ──それは黒い竜の権能、蘇生が発動した証だった。


 アーミアの腕に力が入る。

 それは魔法をうとうとしたのか、それとも反射的に腕をあげようとしただけか。

 どちらにせよ、その目論見が成功することはなかった。

 その腕はすぐに力をなくし、垂れ下がる。


「───!」


 視線の先、そこにいたのは不自然ながら蘇生した黒い竜だった。

 ぼろぼろの骨が露出した、けれどどんどん治癒していく状態の黒い竜。

 その目が向いているのは私達の方だった。

 ……その目は私たちのことを脅威と認識したことを語っていた。

 次の瞬間、黒い竜、新しく出現した青い身体を持つ反射の権能の竜が、私たちへと走り出す。

 今や戦える存在などほぼいなくなった私達の方へと。


 その光景の中、アーミアの目に浮かぶのは涙だった。


「こんなの……」


「うつむくなよ、アーミア」


「っ!」


 その言葉が出る前に私は強引に、アーミアの頭をなでた。

 不安の浮かぶ目で、こちらをみるアーミアに私はもう一度かつて送った言葉を告げる。


「よくやった、アーミア」


「ラルマ、さん……」


「安心しろ、アーミア。お前の魔術は間違いなく戦場を変えたぞ」


 そう告げ、私はミストに目を向ける。

 すでに切り札の準備を整えているミストへと。


「よく黒い竜の蘇生を使わせたな、アーミア」


 確認するように私みるミストに私はうなずく。

 ミストがここで戦闘不能となっても、それでもここで切り札を切ると。

 迫ってくる二体の竜へと、ミストがゆっくりと腕を上げる。


「後は私達に任せておけ」


 次の瞬間、光が戦場を支配した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=373185327&sq
― 新着の感想 ―
再開しなかった・・・・
一つの町でここまで話が続くのも珍しいと思いました。 ただ絶望が多すぎてエンドレス、読んでいて疲れました。 これはポジティブになれる冒険(ジャーニー)とは思えなくなってしまいました。 アニメは面白く見さ…
やっぱり嘘付いた。 もうゴールデンウィークですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ