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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第119話 英雄譚

本日26時から治癒師アニメ7話が放送になります!

 誰もが想像もしなかった人間の姿。

 それに、ようやくロナウドさんが口を開く。


「ラルマ、どうして……」


「少し人が眠っている間に言いご身分だな、ロナウド。いつお前は私より偉くなった?」


 ロナウドさんを睨みつけ、師匠が続ける。


「私抜きでいろいろと決めやがって……」


「勝手も何も、師匠は意識が……」


「うるさい馬鹿弟子。眠っている程度で私を話合いから除外できると思うな」


 あんまりな師匠に、僕は思わず絶句してしまう。

 この状況にも関わらず、あまりにも師匠がいつも通りすぎて。

 けれど、僕はすぐにそれが勘違いであることに気づくことになった。

 ……わずかに震えた師匠の腕に気づいて。


「っ」


 すぐに僕は気づく。

 それは師匠の身体のダメージだと。

 ずっと師匠は結界を一人で維持してきたのだ。

 そのダメージが数日眠っていただけで回復する訳がない。

 しかし、態度だけは師匠はいつも通りだった。


「それにしてもしけた面してんなお前等」


「ラルマ、実は……」


「邪竜の話か? それはあの抜け殻になった老いぼれから聞いたぞ」


 老いぼれ、それが誰を指すか言うまでもなかった。


「ミストが腐抜けやがって。ついでにロナウド、お前達の話も途中まで聞いている」


「盗み聞きしてるじゃないですか!」


 憤慨するナルセーナを無視し、師匠は淡々と続ける。


「まあ、怒りの理由も分かるし、ラウストとナルセーナが提案した理由も分かる。その上でまず言うなら」


 言葉を止めた師匠が僕とナルセーナに目を向けたのはそのときだった。


「おい、馬鹿弟子と馬鹿ナルセーナ。お前等はもっと自分達の立場を理解しろ」


「……立場?」


「お前等だけが勝手をできる段階はもう既に過ぎてる」


 そう告げる師匠は滅多にないほど真剣な表情をしていた。


「戦力を分散する余裕なんてもうない。その意味が分かるか?」


 シンプルな言葉。

 しかし、それにようやく僕は自分たちの愚かさに気づく。

 ……ロナウドさんの怒りの理由も。


「そうだ。──お前達が迷宮の主を倒すというなら、全員倒しにいくしかないんだよ」


 自分の未熟に、思い至ったのはそのときだった。

 そんな僕達を、師匠は鼻で笑う。


「少し成長したと思ったらすぐこれだ。単細胞どもめ」


「……師匠、いつもより口が悪くないですか」


「当たり前だ。久々に疲労困憊まで魔力を使って起きたらこれだぞ? 聖人と名高い私でも限界があるんだ」


「申し訳ありません……」


「前に長いこと意識を失っていた時でもここまでひどいことには……。いや、対して変わらないか」


 その言葉は正論で、僕もナルセーナも大人しく頭を下げる。

 内心、誰に聖人と言われているのか、どれだけ修羅場を経験しているのかと訝しげながら。


「まあ、それでも言うなら。……迷宮の主を倒すと言った気概はほめてやる」


 師匠がロナウドさんへと目を向けたのはそのときだった。


「ナルセーナの言っていた通り、戦略としては悪くない。それは分かっているはずだろう、陰険眼鏡」


「……ああ」


「なら、吐け。何で囮にすることに固執した?」


「冒険者達の決意を無碍にはできない、そう思ってしまってね」


 そう告げたロナウドさんの顔には、隠し切れない疲労が滲んでおり、僕は今更ながらに気づく。

 師匠が意識を失った後、僕達がロナウドさんに頼り切っていたことに。

 それは僕だけではなく、ナルセーナ、ジークさん含めた全員が顔を暗いものにする。

 そんな中、師匠だけは違った。


「胡散臭い顔しやがって。お前がそういう顔をしている時の魂胆はたいていろくでもないだろうが」


「はは、手厳しいね」


「何年のつきあいだと思ってる。とはいえ、勝手に無視するのもよくないか」


 そう言って師匠が目を向けたのは、マーネル達だった。


「……お前等本気で命を懸ける気なのか」


「ああ」


 師匠の視線を真っ直ぐに見返す、その目は真剣だった。


「ラウストさん、ナルセーナさん。そしてラルマさん、気遣って心配してくれてありがとう。だが、俺達の覚悟はもう決まっている。今更命なんて惜しまないさ」


 マーネルの後ろにいる冒険者達。

 彼らもまた、マーネルと同じ目をしていた。

 覚悟を決めた目を。


「だから情けなんていらない。俺達はただ俺達の為に命を懸ける」


「そうか。凄いなお前等」


「っ!」


 淡々とした言葉。

 しかし、その師匠の言葉は何よりの本心だった。

 長いつきあいだからこそ、僕にはそのことが理解できる。

 そして、その言葉にマーネル達が救われただろうことも。

 ただ、師匠の言葉はそこで終わりではなかった。


「お前等の覚悟は尊敬すべきもので、その気持ちは尊重すべきものだ。……ただ、後ろを見たことはあるか?」


「え?」


 視線を背後のやるマーネル達につられ、僕らもその目を後ろに向ける。

 ……そこにいたのは、悲痛な表情をした街の人達だった。


 ナウスさん、メアリーさん、シーラ、ルイス。


 その多大勢の街の人達が悲痛な表情でマーネル達街の冒険者をみていた。

 その視線に、マーネル達が言葉を失う。


「前にも言ったが、生き残りの高い方法のために命をかける。それは悪くない方法だ。だが、どちらにせよ生き残れる確率は低い」


 迷いを浮かべるマーネルの目を真っ直ぐと見返しながら師匠は告げる。


「これで全員死んだ時、全員が納得して死んでいけると思うか?」


 その言葉に誰もが、押し黙る。

 冒険者達とて誰もが知っていたのだ。

 ここで自分達が死んで時間を稼いでも非戦闘員が生き残る確率は高くない、と。

 それを師匠は真っ正面からたたきつけていた。


「師匠、それは……」


 僕は声を上げようとして、しかしすぐにその言葉はのどの奥に消える。

 確かに師匠の言葉は残酷で、けれど僕も理解していた。

 師匠が言っているのはただの事実。

 ……今の現状はあまりにも最悪なのだと。


「それなら。せっかくなら全員で平等に命をかけた方がよくないか?」


「っ!」


 だから、次の瞬間聞いた師匠の声に僕は驚きを隠せなかった。


「分かるだろう。今の状況は控えめに言ってクソだ。勇者がくるまでに時間があり、私達はその間に八割死ぬ。あげくにその状況は誰に仕組まれたのかも分からん」


 そう告げる師匠の言葉はただただ最悪だった。


 なのに、それを告げる師匠の声は楽しげだった。


「状況は最悪。私達はほぼ死ぬ。死の危険はどの方法でも変わらない」


 全てを焼き尽くすような情熱の炎をその目に宿し、師匠は告げる。


「──どうせ命を懸けるなら、派手にいこうじゃないか」


 誰もが言葉を、呼吸をその一瞬忘れていた。


 全ての人間の目を受け、師匠は笑う。

 楽しくてたまらない、と言いたげに。


「絶対に誰かが死ぬ。そんな話私はだいっ嫌いだ。そこまでしても救える人間がいるは運? くそくらえ」


 今更僕は知る。

 そうだ、目の前にいるこの人は英雄なのだと。


「それなら、九割全員死ぬ方法の方がよくないか? 全員が生存するたった一割に命を懸ける方が」


 誰もが師匠に視線を集めていた。

 その中、楽しげに笑いながら師匠は告げる。


「ここで宣言してやる。私達超一流冒険者が、いや私の弟子ラウストが迷宮の主を倒すと」


 僕の方へと師匠が視線を向けたのはその時だった。


「なあ、そうだろラウスト」


 その視線を受けながら僕は思わず笑いそうになる。

 答えなんて決まっているだろう、と。

 そしてその答えはこの場にいる全員が理解している確信が僕にはあった。

 なぜなら、もう無理なのだ。


 ……もう僕らはこの人の言葉に、見せられた希望にあらがえないのだから。


 ナルセーナと目があう。

 そこに合ったのはその目に宿る楽しげな光を隠す気もないナルセーナだった。


「はい、僕が。いえ、僕達が」


「迷宮の主を倒します」


 割れるような歓声が上がったのはその瞬間だった。

 そこにはもう、迷宮暴走に絶望している弱者達はいなかった。

 あるのは一つ。

 絶対に生き抜くという覚悟。

 その中心で、師匠は笑う。


「決まったな! 騒げ、楽しめ! 迷宮攻略の時間だ」


 先程まで意識を失っていたことなど信じられないような獰猛な笑みを浮かべ、師匠が宣言する。


「今からは英雄譚の時間だぞ。──お前等、生き残って歴史に名を残せ!」


 さらなる、歓声が広場を覆い。

 そして歴史の始まりとされる迷宮暴走攻略の幕が上がった。

次回の更新からですが、2週間に1回ペースになります……

申し訳ありません……

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― 新着の感想 ―
おそらく、迷宮の主を倒してからが 本当の物語の始まり ・・・ 何年も待たされて プロローグすら終わらない! アニメから読み始めた人なら 楽しめるのかな? 私の心は折れ掛けてます ・・・
感想一覧
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