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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第116話 無力感

本日アニメ第三話放映になります……!

 逃げるようにアーミアの前から去った僕。

 ……けれど、現実から逃げることなんてできなかった。


 街の中心に戻って行くにつれ、僕はどんどんと冒険者達を見かけることになった。

 それも、ほとんど余力も残っていない姿の。


「……なあ、私どうすればいいんだろ。貴方が死んで」


「やっと死ねる。もう少しだ」


「くそ、死にたくねえ……。死にたくねえ……。何で……」


 通り過ぎる度聞こえる声。

 それに、自然と僕は唇をかみしめていた。


 ……僕は本当に何もできないのだと。


「何でアンタがこんなところにいるのよ」


 その声が聞こえたのは、そのときだった。

 反射的に顔をあげた僕は想像もしていない顔をみて、思わず固まってしまう。


「何で想像もつかなかったなんて顔をしているのよ。私が冒険者の管理をしているのは知っているでしょうに」


 そう言いながら、呆れ顔を浮かべているのはアマーストだった。

 その言葉を聞いて、僕は今更ながら自分が冒険者の場所に戻ってきていたことに気付く。


「何も考えずにここに来たみたいね。アンタ等は一番戦わないといけないんだから、休んで起きなさいよ」


 それだけ言うとアマーストはさっと顔を背けてしまう。

 ……僕が違和感を感じたのは、そのときだった。


「本当にアマースト、だよね?」


 失礼だと思いながら、その言葉は反射的に僕の口からでていた。

 僕の記憶の中にあるアマーストはずっと僕を虐げていた存在だった。

 何度も嫌がらせを受け、何度ひどい目に会った来たかもう考えたくないほどだ。

 けれど今、記憶と目の前のアマーストが僕の中でどうしてもつながらなかった。


「失礼ね! ……まあ、自業自得だって分かっているけど」


「ごめん、でも想像と反応が違って。……アマーストは怖くないのか」


「怖いわよ」


 恐怖を告白したアマーストの声音は、本当に恐怖を抱いているのかと思うほどに淡々としていた。

 けれど、その目には確かな恐怖があった。


「……私も、アンタと同じ迷宮孤児なのよ」


「迷宮孤児からギルド職員になれたのか!」


「そうよ、凄いでしょう? 実際血の滲む努力をしたし、私は生き延びる為に力を尽くしてきた。その結果がこんな無駄死になんて皮肉よね」


 そういってアマーストは笑う。


「私は幸せになりたかったの」


 けれど、その何故かその瞬間、アマーストの目に浮かぶ恐怖が薄れたことに僕は気付いた。


「だからずっと周りの冒険者を見下していたわ。あんな惨めな生活には絶対ならないと思っていた。その為にはどんな手段をとることも辞さなかった」


「……アマースト」


「でも、この冒険者達をみていてちょっと思ったの」


 そう言いながら僕の目をみるアマーストが何を思っているのか、分からなかった。


「人って馬鹿な位がいきやすいのかも、てね」


 アマーストが、見慣れた人を小馬鹿にした笑みを浮かべる。


「誰かの為に命を落とす? そんなこと冷静に考えなくても馬鹿な行為だわ。しかも、その好意に意味を見いだすなんて狂人の行いじゃない! ……そうずっと思っていたのにね」


 アマーストが僕に背を向けたのはそのときだった。


「ラウスト、あんたは生き残りなさい」


 そういって、うつむく冒険者達に話かけにいくアマースト。

 それから背を向けて僕は歩き出す。


 ……もう、声をかける勇気は僕にはなかった。



 ◇◆◇



 それからどこをどう向かったのか、気付けば僕は街の方へと向かっていた。

 何故ここに来たのかも分からず、僕はただ歩く。


「ここなら……」


 しかし、ぽつりと漏れ出た自分の声に、僕はすぐに気付くことになった。

 ……僕は誰か一人でも救われている人を見たかっただけなのだと。


 それは我ながら余りにも女々しい考えだった。

 僕はただ、助かったと喜んでいる街の人を見て罪悪感をましにしたいだけなのだ。

 それはあまりにも醜悪な考えだ。

 そう気付いた僕はとっさに街から去ろうとして。


「……ラウスト」


 その声が聞こえたのは、そのときだった。

 反射的に振り返った僕が目にしたのはよく見知った人。


 ……その、まるで想像もしない姿だった。


「ナウスさん……」


 そこにいたのは、僕の首輪を作ってくれた首輪職人のナウスさんだった。

 ……そのナウスさんの目は真っ赤だった。


「は、情けねえな。守って貰う側がこんな醜態さらしてるのみられるのはよ」


 そう言うナウスさんの手には、酒瓶が握られていて僕は理解する。

 ナウスさんは何とか酒で必死に心の痛みを反らそうとしていたことを。


 同時に、その目論見がまるでうまくいっていないことを僕は容易に想像できた。

 なぜなら僕は知っているのだ。


 ……街の人達はお酒を含めたほぼ全ての嗜好品を冒険者達に渡していて、自分たちは度数の限りなく低いものしか口にしていないことを。


 必死に真っ赤な目をこすりながら、ナウスさんは口を開く。


「そ、そうだ。ロナウドさんにまた謝りに行かせてくれねえか? 冒険者達にしっかり話そうって街の人間説得した俺なんだ」


「そう、なんですか?」


「ああ。ロナウドさん達が俺達を助けようとしてくれているのは分かっている。でも、それで騙し討ちできはできなくて、な」


 真っ赤な目の中、わずかに慈しみのような感情が浮かんだのはそのときだった。


「なあ、ラウスト知ってるか? あの冒険者達あんな若いのに気がいい奴らばっかなんだぜ」


「……知ってますよ」


「おお、そうか! やっぱりお前を慕ってる奴らばっかだもんな!」


 真っ赤な目のまま、笑ってナウスさんは続ける。


「知ってるか、あいつらせっかく渡した酒を俺達と飲もうとするんだぜ、量も対してねえってのによ!」


「そう、なんですか」


「それだけじゃないんだ! 最初、俺達男衆は戦うって言ったんだよ。でも、あいつ等絶対に首を振らねえんだ。子供を守ってくれ、てよ」


 楽しげだった声は、気付けばトーンダウンしていた。


「しかもあいつら、俺達が足でまといなことを知っているのに絶対にそんなこと言わないんだぜ。なんて言うか知ってるか、ラウスト!」


 気付けば、ナウスさんの手で覆った顔から大粒の水滴がこぼれ落ちていた。


「俺達が頼りになる、から。だから子供を、守って欲しい。なんで言うんだぜ。困っちまよな」


 もう、ナウスさんは泣いていることを隠せなかった。

 鼻声で抑えきれない嗚咽を漏らしながら、それでもナウスさんは続ける。


「だから、あいつ等を逃がしたいんなら俺達がやることは一つなんだよ。分かってる。街の人間を見捨でろ、そういえばいい」


 僕はもう、何もいえなかった。

 何を言えばいいのか、分からなかった。


「でも、言え名がった……! あいつ等には未来があるのに! ──俺達は街の子供を見捨ててくれ、って言えながった!」


 路地裏の中、押し殺した嗚咽と鼻をすする音だけが響く。


「ラウスト、悪いな。一人にしてれねえか」


 そのナウスさんの頼みに、僕が何かをいえる訳が無かった。

 ただ、無言で僕は背を向けて歩き出す。


「ありがとう」


 ……無言を感謝の返答としながら。

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― 新着の感想 ―
このエピソード、良かったです。 早く迷宮都市防衛編を終わらせて ナルセーナの物語を初めて下さい‼️ 彼女の背景も家族も 匂わすだけで、何年読者放置ですか❓ 御願いですから物語を進めて下さい ・・…
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