第112話 真実
更新日間違えており、申し訳ありません……
衝撃の事実。
それを聞いた僕はすぐに他の人達に、ミストから話があると集めた。
「……ラウスト、ミストの話とはなんだ」
僕達の話を聞き、ロナウドさん達が集まってきたのはそれからすぐの事だった。
ジークさん、ライラさん、アーミア、そして僕とナルセーナ。
意識を失った状態で寝ている師匠を除いたすべての人間が今、この場所に集まっていた。
そして、奇しくもその全員の表情は同じ、困惑と警戒に満ちたものだった。
そんな皆を代表するように僕は口を開く。
「……ミスト、話してもらうぞ」
その僕の言葉に不自然なほど、ミストの態度は変わらなかった。
受け答えはできるようになったものの、その無気力な様子は先ほどのまま。
「それでは話そうか。まず結論を話そう」
それでも、ゆっくりとミストは口を開く。
まるで世間話をするような気安い口調で。
「──今から一年後にこの世界は滅びる」
「……は?」
そして告げられた言葉に、僕とロナウドさん以外の言葉が重なった。
「……待て、何を言っている? これが冗談を言っていい状況だと分かっているのか?」
「確かに貴方が先ほどの戦いで貢献してくれたのは認めるわ。それでもことと次第によっては許されないことよ」
ジークさんとライラさんが、怒りをにじませ戦闘態勢に至り。
「何を言っているんですか?」
「この場においてごまかそうとするのですか、貴方は」
アーミアは困惑を隠せず……そしてナルセーナは静かに激怒した。
「私は貴方の部下のノグゼムが嫌いです。……でも、あの男はきちんと筋を通しました。そんな彼の言葉に曖昧な態度でごまかし、逃げようとすうるなら私は貴方を許さない」
「ナルセーナ……」
それはいつものナルセーナと違い、激情を纏っていなかった。
だが、だからこそ何より強い威圧感があり、それにアーミアどころかジークさん、ライラさんまで息を飲むのが伝わってくる。
「私は逃げんよ」
そのナルセーナの目を真っ向から見返し、ミストは笑った。
「逃げてでも守りたかった弟子はもう死んだ」
その言葉にしんとした空気が部屋の中を支配する。
誰もが何も言えない空気が。
「全員、一度口を閉じよう」
そんな空気を一変させたのはいつも通りの笑顔……けれどわずかに声を堅くしたロナウドさんのその言葉だった。
「疑いも、信じられないのも分かる。だが、この状況においてミストが嘘をつくメリットが理解できない。そう思ったから君は僕達をここに読んだんだろう、ラウスト?」
皆の目が僕に集まる。
それに僕はうつむく。
「……いえ、そこまで僕に考えは無いです」
そう、僕は別にミストを信じた訳でも、裏切らない確証があって皆を呼んだ訳ではなかった。
「でも、僕の友人はミストを信じていました。彼の為なら死んでもいいと言えるほどに。その彼がミストが何かを信じていると言ったんです」
そう言葉にしながら僕もまた理解する。
僕が信じているのは熱の人間だと。
「──城壁を守るために命を落とした彼の言葉は信用に値するものです」
その言葉にだれも何も言わなかった。
けれど、その顔には反論はなく、その沈黙が全員の決断を語っていた。
それを確認し、ゆっくりとミストは口を開いた。
「それでは話そうか。なぜ、世界が滅ぶのか。そもそも、なぜこの迷宮都市が存在するのか」
重々しい口調で始まったその言葉に、自然と全員の目がミストに暑う集まる。
「まあ、長々老人の昔話ばかりしてもつまらなかろう。故に結論からいおう。……この世界は次の邪龍の侵攻によって滅ぶ」
「……は?」
黙って聞こう、そう決断した直後の事に関わらず、僕は声を抑えることができなかった。
「どういうことだ?」
「何を言ってるの?」
それは僕だけではなかった。
ジークさん、ライラさんも衝撃を隠せない様子で口を開く。
アーミア、ナルセーナにおいては何を言われたのか、その意味さえ理解できない状態だった。
しかし、それも当然だろう。
邪龍とはそういう存在ではないのだから。
二百年ごとに邪龍が世界を滅ぼしに現れる。
それは孤児である僕でさえ聞いたことのあるおとぎ話だ。
しかし、その邪龍は絶対に世界を滅ぼせない。
なぜなら、その邪龍が現れればそれを殺す勇者が現れるから。
邪龍は勇者が倒してくれる、それが絶対的なこの世界の常識。
「勇者はもう見つけられたはずだ……」
そして、その希望はもう見つけられていた。
何の心配がある、そう暗に告げる僕の言葉にミストは笑った。
嬉しさどころか、僕達へのあざけりもない。
……ただ、笑うしかないそう言う笑みを。
「──今代の勇者では絶対に邪龍に勝てぬ」
そして告げたのは、誰もが信じられない言葉だった。
誰も声は出さなかった。
それはミストの言葉を信じたからじゃない。
むしろその逆で、骨董無形すぎるミストの言葉に僕らは反応さえとれなかった。
だって、それが勇者なのだ。
一人で邪龍を倒す。
圧倒的なこの世界の英雄。
それが邪龍に勝てない、そんなこと受け入れられる訳がなかった。
その僕らの気持ちをわかりながら、それでもミストは続ける。
「いや、それを言うならそもそもか勇者が邪龍より強かった時代などありはしないか」
「何、を」
「少なくとも六百年か」
僕のかすれた声を無視し、ミストは続ける。
「私が生きてきた六百年、一度たりとて勇者一人で邪龍に勝ったことなどなかった」
「待って、それなら何でこの世界がまだある!」
ジークさんの怒声がミストの言葉を中断する。
ミストをにらみつけながら、ジークさんは続ける。
「でたらめはやめろ! それならなぜ、俺達人類が生きている! それが何よりの証拠……」
「一番弱かったからだ」
「……は?」
「一番弱かったから、人類は邪龍との戦いに赴くことはなかった」
しかし、その怒りもまた長く続くことはなかった。
ジークさんが言葉を失うほどの事実を告げながらも、ミストは変わらず淡々と続ける。
「君達の知る知識はすべて逆だ。達が神に選ばれなかった種族と呼ぶ亜人達。いわゆるエルフ、ドワーフ達。実際は彼らこそが最初に神に選ばれていた」
「なにを言っている……?」
「亜人達も人間がスキルを貰ったように、様々な力を貰っていたという話だ。それもスキルよりも強力な力を」
誰も口を開かなかった。
開けなかった。
頭はすでに情報の受け取りを拒否している。
それでも、ミストの話は終わらない。
「エルフはマナを聞き分ける神の耳を、ドワーフはマナもプラーナも同時に扱え、高性能の魔道具を作成できる神の手を」
あり得ない。
そう思いながら、僕は知っていた。
……神に選ばれないはずの種族達の技術に、僕達は追いついていない事を。
エルフ達の遺失技術も、ドワーフの魔剣も僕達は再現できていない事を。
「六百年前、すでに亜人達はその能力を神から与えられていた。人間がスキルを与えられるその遙か前に。そしてその能力を持って亜人達は勇者と協力して邪龍との戦いに身を投じた」
それは僕達の知らない歴史。
あり得る訳がない物語。
「──そしてほとんどの同胞達は邪龍に殺されてしんだ」
……なのに、なぜか僕達はそれがあり得ないと声を上げられなかった。
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