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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第108話 この世界の希望 (ハンザム視点)

 どんどんと黒い竜の身体が大きくなっていく。

 そんな最中、俺の頭に浮かぶのはかつての記憶。


 ……ラウストと初めて会った時の記憶だった。


 ミスト様が俺を無能から鍛えてくれたのだとすれば、ラウストは俺に希望を与えてくれた存在だった。

 無能のままでいなくていいと、無能以外の何者になりたいと望んでいい。

 そのことを教えてくれた存在だった。


 その出会いは今も俺の頭に中に残っている。

 他の冒険者に騙され、捨てられてたクエストでのこと。

 あのとき、俺だけであれば死んでいただろう。


 あのとき、ホブゴブリンの大群が追いかけてきたきた瞬間は俺の脳裏に焼き付いている。

 その上、中級の魔獣たるトロールが現れた時にはどうして自分がこんな目にあうものかと思ったものだ。

 それは当時の俺のような無能でなくとも絶望的な状況で。


 そんな中、同じ無能であるラウストだけは一切その絶望に膝をつくことはなかった。


 今でも覚えている。

 ラウストがぼろぼろになりながらトロールと戦い抜いていた瞬間を。

 それはあり得るはずのない光景だった。

 ラウストは治癒師で何より俺と同じ無能だった。

 誰に聞いてもトロールに勝てる訳ないと言っただろう。

 実際、一瞬の抗戦でラウストはぼろぼろになっていた。

 それこそ、通常の冒険者ではもう戦闘不能になっておかしくない程に、

 そんな状況に無能は死ぬことしか許されないのか、そう俺は嘆くことしかできなかった。


 その時の俺の言葉をラウストは否定しなかった。

 自分が無能であり、役立たずであることを誰より認めた上で、ラウストは俺に逃げろと笑ったのだ。

 トロールに向かいながら、当然のように俺にはき捨てた言葉は今も俺の脳裏に焼き付いている。


「役立たずの未来が役立たずだなんて、誰が認めた、か」


 強い風が走る俺の服を揺らす。

 城壁の上、その風を目一杯感じながら、俺は笑う。


「あの時はつまらい嘘、頭がおかしいとしか思っていなかったのになぁ」


 そう、信じられる訳がなかった。

 なのに、ラウストは事なげに自分の言葉を達成した。

 血だらけでぼろぼろで。

 本当にぎりぎりの状態で。


 その直後、無防備に意識を失ったラウストを見ていた時の感情、それを俺は覚えている。

 この無能は何なのだという思いと。


 ──それ以上にラウストの可能性を俺は感じずにはいられなかった。


「最強、ラウストにその可能性を感じ始めたのはそのころだったか」


 黒い竜に向かって魔法が飛ぶ。

 しかし、それは明らかにダメもとの最後の抵抗だった。

 その全てが黒い竜に届かず消える。


 もう、黒い竜に届くのは俺一人。

 心臓は痛い位になっている。

 でも、不自然な位俺は落ち着いていた。


「いくらラウストでも、あの当時にそんな事を思っているのは贔屓目でしかねぇよな」


 自然と俺は自分を笑う。

 トロールを倒した程度で最強など、今考えれば馬鹿のような話だ。

 人には分がある。

 自分も無能であり、そしてそこから脱した過去があるからこそ俺はそのことを理解していた。

 どれだけ俺ががんばっても、超一流冒険者の領域にも届きはしないだろう。

 あのときのラウストだけを見て、最強になるというのは過言だったと俺は断言できる。


「だが、今のラウストなら間違いなく届く」


 ラウストの隣に立ち、一番支えてきたのはナルセーナだろう。

 また、ラウストを鍛えた一番の恩人と言えば炎神ラルマ。

 そこに俺が勝てる要素はない。


 ──ただ、ラウストの努力を誰より知っているのは俺だった。


 ずっとラウストをここから追い出そうとしてきて、その度にその障害を乗り越えてきた姿をずっと俺は見てきた。

 迷宮暴走が起きることはずっと前から決まっていた。

 そして、それからラウストを逃すためだけに俺は様々な手段を取ってきた。

 時には強引な手段を取ったことさえある。

 それこそ、大きな怪我をして冒険者を引退させようとするような、過激な手段を。


 そしてその経験を経たからこそ、俺は理解できていた。

 ラウストにとって、どれだけナルセーナという存在が大きいか。

 お人好しで騙されやすく、その実力に反して普段は流れにあらがう力など持たない男。

 しかし、ナルセーナが関わればどんな状況であれラウストは突破してくる存在となる。


「だから、あいつならならなれるはずなんだ。最強──世界を救う存在に」


 そういいながら、今頃不完全な魔剣の入れ替えに気づいているかもしれないミストに意識を馳せる。

 この話をしてもミストは絶対に信じないだろう。

 ラウストがこの世界を救う存在だと言っても。


 だから、俺の方が今死ななければならないのだ。

 だって、俺は希望を知っているのだ。


「後はラウストに任せればいい。 ……ナルセーナを救うためならば、ラウストはどんな存在も殺してくれる」


 気づけば、黒い竜はすぐ近くまで迫っていた。

 それはつまり俺の死も目前まで迫っているということで、それに気づいて俺は笑いたくなる。

 こんな状況に身をおいてもなお、自分を英雄と偽れないのは筋金入りだと。


「まあ、いいか」


 城壁の端がどんどんと近づいてくる。

 それを確認し、俺は最後の助走に入った。


「俺には英雄向いてない、それを自分が何より知ってる」


 そういいながら、俺の頭によぎるのはラウストがトロールを倒した時の記憶。

 何とか勇気を出して、ラウストを助けるためにトロールに短剣を突き刺した時の記憶。


 ──最高の援護だったよ。


 かつてラウストから貰った言葉が脳裏を響かせる。


「俺の役目は時間稼ぎの援護、それで十分だ」


 不完全な魔剣はもういつでも鞘から抜ける。

 最後に一つだけ、悔いがあるとすれば。


 ……この街からラウストを追い出すのが意味のない行為だとそう気づいていれば、ラウストにハンザムではなくノグゼムとしてはなせただろうか。


 そんなかすかな胸の痛みを最後に、俺は黒い竜へと向けて飛んだ。


 ──ハンザム!


 ミスト様の、そしてラウストが自分の名前の読んだ声が聞こえる。

 それが自分の妄想か願望か、それさえ理解することなく俺は黒い竜へと迫っていた。


 いつもなら飛び降りても身体強化で問題のない高さ。

 しかし、普段ならあり得ない程に恐怖が俺の身体を支配していた。


「……!」


 黒い竜と目があったのは、その時だった。

 それに改めて俺は理解さえられる。

 ……自分のスキルは、圧倒的な強者に通用するものではないと。


 ほんの数秒。

 いや、もっと短いか。

 どうしようもない緊張の時間がすぎる。


 そして、黒い竜は俺の方から目をそらした。


 お前など、気にする価値もない、そう暗に告げるように。

 それに俺は理解させられる。

 ……圧倒的強者たる、竜にとって自分はまさしく羽虫程度の驚異しかないのだと。


 一瞬、黒い竜が爪を俺に向けるだけで俺の命を奪い取るのは簡単だろう。

 その程度の手間さえ、黒い竜は惜しみミスト様の方へと向かう。

 それが黒い竜にとっての俺の脅威だった。


「はっ……!」


 それを知って、俺は笑った。


 そんなこと等の昔に知っている。

 俺は選ばれた人間ではない事くらい。

 その人間をずっと見てきたからこそ、俺には自分の分がよく理解できていた。

 その通り、俺にできるのはあくまで選ばれた人間のサポートぐらいだろう。


 長年の恩人さえ、この迷宮都市から逃がせなかった時に。

 必死にあがいても、師と慕う恩人の顔を曇らせることしかできなかった時に。


 自分の限界などは知っているのだ。

 俺自身にできることなど何もありはしない。

 実際、この迷宮暴走において、俺が何か貢献できる事などありはしないだろう。

 なぜなら、俺はこの場で死ぬのだから。

 俺にできるのはせめて、選ばれた人間に伝えることだけ。


 彼らが選ばれた人間であると。

 その彼らの為であれば、命を懸けることさえいとわない人間がいるということを。


 ──それで十分であることを俺は知っていた。


「そうか、俺は羽虫かよ」


 黒い竜の巨大な身体が目前に迫る。

 ミスと様につけられたはずの傷はもうほとんど治癒されていた。

 これが権能ではない素の再生能力というだから、なんて竜は異常名のだろうか。

 そんな益体もない事を考えながら、俺は不完全な柄を握る手に力を込めた。


「なら、その羽音で死ねよ竜」


「……!」


 柄から不完全な魔剣の真っ黒な刀身が露わになり、黒い竜の目が俺をはっきりととらえたのはその瞬間だった。

 圧倒的なプレッシャーが俺の身体をとらえ、全身の毛穴が恐怖で開く。


 その全てをねじ伏せて俺は笑った。


「手遅れだよ」


 次の瞬間、俺の左半身が消える。

 痛みはない。

 ただ、圧倒的な喪失感に、俺は自分が竜の攻撃をうけた事を理解する。


 ──けれど、その時もう不完全な魔剣はもう柄から抜けていた。


 光を食い尽くしているような真っ黒な刀身だった。

 それは見るだけで異様と分かる存在。

 手に持っている俺はなおさらその異常を理解できてしまう。


 ……何せ、その刀身は明らかに俺の身体を吸い込んでいるのだから。


 もしかしたら、俺の左半身を消し飛ばしたのは竜ではなくこの魔剣なのだろうか?

 そうだとしたら、この魔剣はどれ程危険かつ異質な兵器なのだろうか。

 そう考えて、俺は笑う。


 今だけは、その事実は祝福でしかなかったから。


 黒い竜が必死に俺を殺そうとその強大な爪を振り上げるのが見える。

 しかし、俺の右手が魔剣を振り上げる方が遙かに早かった。


 ……その時、黒い竜の目にあったのは明らかな恐怖の感情だった。


 その目が見ている対象は魔剣ではなく俺自身。

 それに気づいた俺はなぜかおかしくてたまらなかった。


「安心しろ、俺も一緒にいくからよ」


 次の瞬間、不完全な魔剣が振り下ろされ。


 ──全てが漆黒に飲み込まれた。

ばたばたしており、更新遅れて申し訳ありません……!

改めてご報告になりますが、その治癒師アニメ10月土曜日26時からに決定いたしました……!

様々な情報が解禁されておりますので、その治癒師公式Twitter確認頂けると幸いです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハンザムが ラウストを認めていた事が判明した点 [気になる点] 決着か? [一言] 次回で迷宮都市防衛戦が 決着してくれないと困ります。 物語はまだ、始まってすらいないのに リアルの時間…
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