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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第107話 迫り来る死 (ハンザム視点)

更新遅れてしまっており、申し訳ありません……!

「…………!」


 雄叫びが響く。

 それをあげるのは、真っ黒な黒い竜。

 その身体は未だぼろぼろで、一体誰があの竜がまだあんな声を上げられると思えるか。

 その雄叫びに様々な冒険者達が絶望を顔に浮かべていた。

 あの恐ろしい冒険者、ロナウドさえその顔に苦々しさを浮かべている。

 それが何より今の事態がどれ程異常かを物語っているだろう。


「やはりミスト様は、邪龍にとって目障りな駒か」


 しかし、それを見ながら俺の口元に浮かぶのは笑みだった。

 想像していたなんて口が裂けても言わない。

 俺がここにいるのはただ、最悪の事態に備えていただけにすぎないのだから。

 ただ、それでも一つ言えるとするならば。


「こうなる覚悟はとうの昔に決めていた」


 黒い竜から目をそらし、俺はミスト様の方へと目をやる。

 ミスト様にとっての最後の切り札、不完全な魔剣を引き抜こうとする姿を。

 ……それが偽物だと気づきもせず。

 それが偽物だと理解した時、ミスト様は一体どんな反応をするだろうか。

 そう考えて、俺は思わず苦笑しそうになる。

 本当に俺は部下として失格だと思いながら。


「申し訳ありません、ミスト様」


 聞こえないと知りながら、漏れた謝罪の言葉。

 それはどうしようもなく自己満足で、俺の胸に再度罪悪感がよぎる。

 ミスト様が何より俺の事を案じ、俺が死ぬことを何より嫌う事を俺は知っていた。

 自分のすることを一番喜ばないのはミスト様だと。

 何より、それでミスト様を救えるなど俺は思っていなかった。

 自分のすることはミスト様をさらに地獄に追いやるだけの行為かもしれない。

 ……だって、この世はもう地獄なのだから。


 今まで無能として生きてきた世界でさえ、生やさしいような地獄が今後やってくる。

 それこそ、ラウストが歩んできたのと同じような地獄が。


「いや、そんな訳ないか。──もっと酷いに決まってる」


 ラウストが歩んできた血みどろの努力の道。

 それを知りながら、俺はそう断言する。

 ここを生き抜いた人間は全員思うかもしれない。

 ここで死んでおけばよかったと。

 そのことを俺は知っていた。


 そして、そんな地獄でずっとあがいてきたのがミスト様だった。


 六百年、ずっとその地獄と向き合いずっと生き延びてきた過去。

 それを俺は聞いていた。

 ミスト様は誰よりも優しい。

 それこそ、自分の命を捨てても幼子を守ることを当然と思っている存在だ。


 ──そんなミスト様が迷宮都市で無能を迫害し、最後には迷宮都市の人間全てを迷宮暴走に巻き込んだ理由。


 それを知るからこそ、俺は思う。

 本人の思うように、ここで殺してあげるのがミスト様のためなのだろうと。


「そのはず、なのになぁ」


 そこまで考えて、俺は笑った。

 そう知りながら、一切自分の決断を迷うことのない自分を。


 自分の手にある、不完全な魔剣をみる。

 布をとり、完全にその柄を露わにしたその大剣を。


 ミスト様はこの切り札について詳しく語ることはなかった。

 少しでもこの切り札について、俺が知ることのないように。

 それが無駄なことに気づくもせずに。


「あんな目をして、これが自爆用のものだって分からない訳がないのに」


 それから不完全な魔剣がなんなのか調べるのには異常な程の時間が必要だった。

 それでも何とかこの道具の性能を知ったとき、俺は決めていた。

 これは自分で使うと。


「……ノーツには悪いことをしたな」


 それは俺に不完全な魔剣について教えてくれたエルフの名前。


「ミスト様に使わせない、その約束は守るから許してくれねえかな。……俺がこれを使うこと」


 気づけば、俺のしゃべり方はハンザムから昔の自分に戻っていた。

 まだ自分が無能で、自身の能力も使いこなせていなかった頃に。

 そして次に思い出したのは、いずれ会いに行くと約束したかつての無能仲間だった。


「ノートにも約束果たせないままか」


 黒い竜は気づけばこちらの方へと動き出していた。

 城壁を壊すべく、ミスト様を殺すべく、圧倒的な殺気を放ちながら走っている。

 その動きさえゆっくりと見えるほど、時間が長く見えた。

 これが死の直前か、そう冷静に思える自分が何故かおかしかった。


「パン屋を一緒にやろう、そんなこと言ってたのにな。前に会いに行ったとネタばらししてやろうと思っていたんだが」


 走る黒い竜後ろを必死に冒険者達が叫んでいる。

 こうなれば、ロナウドさえ届かない。

 それを見て、俺は少しすがすがしく感じる。

 あのロナウドさえ届かない敵を、危機を俺が切り抜ける。

 それはなんて清々する行為だろうと。


「でも許してくれよな。お前の……俺達の恩人を救うためなんだから」


 そういいながら、俺は笑う。

 最初は殺したい程憎んだ、俺にとって憎しみの対象だったはずのミスト。

 その存在が俺の二人の恩人のうち一人になったのは、一体何時からだろうか。


 かつて俺が挫折した時。

 無能として生きてきた俺の能力を認めてくれ、戦い方を教えてくれた時か。


 それとも、迷宮都市から無能を王都に送り届けていると知ったとき。

 同じ無能で死んだと思っていたかつての仲間ノーツ、その命を助けてくれていたと知ったときか。


 またまた俺を必死に生き残らせようとしていた時。

 この世界の裏側を、その絶望の中必死にあがいていた姿を知ったときか。


「本当に馬鹿だよ、ミスト様は」


 どんどんと黒い竜が迫ってきているのが見える。

 俺の命は後何分なのだろうか。

 いや、後何十秒だろうか。


「俺が貴方を残して生き残れる訳がないでしょうか」


 次の瞬間、俺は走り出す。

 自ら黒い竜を、自分の死を迎える為に。


 ……ミスト様が俺に気づいたのはそのときだった。


 急いで大剣を引き抜く姿、それを認識しながら俺は走り出す。

 その顔が絶望で彩られていることを知りながら。

 それでも、俺が死ぬべきだと俺は知っていた。

 なぜなら。


「希望も知らずに、あの世に行くことを俺は貴方に許さない」


 ──俺はもう、この世界に希望があることを知っているのだから。


 黒い竜が間近に迫る。

 迫る死を笑顔で迎えにいく俺の頭の中に、かつての記憶が蘇る。


 それは俺の知るこの世界の希望にして、俺の二人の恩人のもう一人──ラウストとの出会いだった。

少し様々な作業が立て込んでおり、更新遅れてしまっており申し訳ありません……!

できるだけ早くいい報告できるように頑張らせて頂きます。

ただもう少しばたばたしており、次の更新は三週間後になる予定です。

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