第102話 エルフの居城
更新遅れてしまい、本当にすいません……
「はぁ、はぁ」
身体中が痛い。
圧倒的なその感覚を感じながら、僕は自分の手にある短剣を握りしめる。
「……!」
目の前にいるのはこちらを憎々しげにみる、黒い竜。
ぼろぼろな僕に対し、その竜の身体にある傷は切り落とされた翼だけ。
圧倒的な再生能力を持つこの竜相手には、今やどんな攻撃もきいていない。
「私の攻撃のダメージももうないですね……」
そして、それは隣に立つナルセーナの攻撃も同様だった。
決して攻撃が効かない訳ではない。
けれど、そのすべてが目の前の黒い竜の再生能力の前には無駄だった。
この竜を倒すのに必要なのは、致命的な一撃をたたき込むこと。
しかし、それがどれほどに難解か言葉にするまでもなく、僕もナルセーナも理解していた。
勝つには短期決戦のみ。
にもかかわらず、短期で倒す攻撃力はなく、この勝負は黒い竜の本領たる長期決戦にならざるを得ないだろう。
「さあ、長い戦いになりそうだね」
「次は簡単には再生できない一撃をたたき込んであげますよ」
その上で、僕とナルセーナの顔に浮かぶのは笑顔だった。
分かっている。
敵は強大。
──けれど、負ける気は微塵もなかった。
圧倒的な身体強化にきしむ身体に鞭打ち、僕は短剣を握る。
この竜にダメージを与えられるほどの身体強化を行えば、僕の身体はただではすまない。
今の状況でその身体強化を使えるのは、後何回か。
自分一人なら、到底勝てるなど思えなかっただろう。
しかし、今僕の隣にはナルセーナがいる。
「さあ」
いこうか。
そう告げて僕は踏みだそうとして。
……パリン、と甲高い音が響いたのはそのときだった。
「は?」
そして僕の視界に入ってきたのは最悪の光景。
──マータットを守る結界が崩壊する最悪の光景だった。
何が。
信じられない思いで結界を見ていた僕は気づく。
……いつの間にか、白く巨大な魔獣が結界の場所にすり寄っていたことに。
「くそ……」
瞬時に自分の失態に気づく。
新手を一体だと判断していた過去の自分に、今更どうすることもできない後悔を抱く。
その瞬間、城壁を守るマータット防衛戦が失敗したことを、僕は理解した。
「っ! お兄さん!」
どうしうもない状況。
しかし、それでも僕は気をそらすべきではなかった。
……そのことを、わずかな隙をついて城壁の方へと走り出した黒い竜の姿に、僕は理解することになった。
黒い竜が向かうその先にいるのは、結界を崩され体勢も立て直せていない師匠の姿。
「くそっ!」
痛む身体にむち打って身体強化を発動し、僕は走る。
しかし、前を走る黒い竜に追いつくことはできなかった。
それも僕だけではなく、ナルセーナも。
自分が気をそらしたせいで状況をもっと最悪なものにしてしまった。
その事実に、僕はただ唇をかみしめる。
まだ師匠達は、僕が足止めに失敗したことに気づいていない。
とっさに僕は声をあげようとして。
──ミストが師匠の意識を奪った光景を目にしたのは、そのときだった。
「……っ!」
次から次へと起こる異常事態に、僕は叫びたくなる。
一体、どうすればいいのかと。
ただ、今からどれだけ必死にあがこうがミストが師匠に手を下そうとすれば間に合わないのは確実で。
ミストの足下から、巨大な魔法陣が現れたのはそのときだった。
──混乱させたことをまずわびよう。
「なんだ、これ」
僕の脳内、突然聞こえる距離にいないミストの声が響いたのはそのときだった。
理解できない状況に横を目にした僕と、ナルセーナの目があう。
その瞬間、お互いが理解する。
この声が聞こえているのは、自分だけではないことを。
──ただ、安心して欲しい。私は敵ではない。それだけは証明しよう。
次の異常が起きたのは、その声が聞こえた瞬間だった。
「……!」
僕の目の前を走っていた黒い竜の動きが鈍る。
そう思った瞬間、その巨体には茨がからみついていた。
何が、そう思う暇もなくその茨は黒い竜の身体を覆い尽くしていく。
気づけば、僕もナルセーナも足を止めていた。
「お兄さん、これ……」
「何が起きている……?」
そういいながら、僕は理解していた。
この事象を起こせる存在は一人であることを。
ただ、理解しながら信じられなかった。
目の前の竜は、僕の全力の身体強化を凌ぐ力を持っている。
そして、あの妨害魔術のエキスパートのセイレーンの魔法さえ、僕程度でも拘束できなかった。
けれど今、この茨は信じられないような速度で黒い竜の動きを封じ込めていた。
それは、まさに人知を越えた力だった。
エルフの居城、かつて師匠が告げた言葉が僕の脳裏によぎる。
エルフの本拠地で戦うことだけはさけろ、と。
「な、なんだこの茨!」
「大丈夫だ、この茨が拘束するのは魔獣だけだ!」
「超難易度魔獣も動けなくなっているぞ!」
周りの冒険者の叫びが聞こえる。
……それを聞きながら、僕は師匠の言葉の意味を理解していた。
周りを見ると、茨で拘束されているのは黒い竜だけではなかった。
他のすべての魔獣がその動きを封じ込められており、城壁の側の白い竜もまたその動きを封じられていた。
「う、嘘……。竜を二体も!」
ナルセーナが呆然とつぶやく声を聞きながら、僕は白い竜の前にたたずむミストに目をやる。
正直なところ、ミストが味方なのか僕は未だ理解できない。
ただ、一つだけ確かなことがあるとするならば。
今この状況を打開できる力を持つのは、ミストだけであるということだろう。
──約束しよう。これ以降、誰一人として傷付けはしないと。
次の瞬間、迷宮都市全体をさらに大きな魔法陣が覆った。
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とても素敵でしたので、また確認して頂ければ幸いです。
その治癒師公式アカウント @sonotiyushi




