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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第99話 第二次城壁防衛戦 Ⅷ

更新遅れてしまい申し訳ありません……!

「あれ、聞こえる……」


 その声を出したのは誰か。

 それを確認するより前に、僕は自分の身体に起きている異常について理解する。


 すなわち、あれだけ大きな音を聞いたはずなのに、鼓膜が破れていないことに。


 訓練中に鼓膜がやぶれ、音が聞こえなくなることはよくあった。

 そしてその経験から、今自分の聞いた音が鼓膜が破れてもおかしくない音であることを僕は理解していた。

 故に分かる異常。


 それに気づいているのは一体どれほどか。

 周囲をきょろきょろと見ている周囲の中、ナルセーナと目があう。


「お兄さん、これって……」


 そのナルセーナの言葉に、僕は無言で頷く。

 その音は実際の音ではない。

 幻聴であることを。

 そのことを、数々の強敵と戦ってきた経験……そして一度同じことを経験しているが故に僕は理解していた。


 思い出すのは、かつてのこと迷宮暴走が始まる前に感じたプレッシャー。

 故に僕は理解できた。

 今のは音でも何でもないと。


 ……あの音は、強大なプレッシャーに脳内が作りあげたものであることを。


 頭ではそう理解しながら、僕は受け入れることができなかった。

 理解が追いつかない、そう言った方がいいだろうか。

 今まで様々な強敵と戦っていた経験が僕にあることを告げていた。


 このプレッシャーの主がどれほどの存在かを。


 その事実に気づいたのは僕だけではなかった。

 あのロナウドさんが、呆然と立ち尽くしているのが見える。


 今この瞬間になって僕は理解する。

 今までずっと、迷宮暴走さえどうにかすれば何とかなると僕は考えていた。

 けれど、違う。

 それはただの勘違いでしかなかった。


 ──この迷宮暴走は始まりでしかない。


 理屈ではない。

 本能でそのことを僕は理解する。


 ……そして、異常が始まったのはそのときだった。


「っ!」


 背筋に怖気が走る。

 次の瞬間、僕の目に入ってきたのは宙を飛ぶ小さな豆粒だった。


「……何だ、あれ」


 隣から、それに気づいた冒険者の疑問の声が聞こえる。

 しかし、それに僕のナルセーナも反応することができなかった。

 ただ呆然と、こちらに近づいてくるその姿を眺める。


「嘘、だろ……」


 そして遅れて、他の冒険者達も気づく。

 こちらに向かってくる、その正体に。


「何だよ、あの化け物……」


 それは、真っ黒な身体を持つ爬虫類のような見た目をした何かだった。

 どんどんと近づいてくるその身体を見て、冒険者達の顔色が変わる。


「……何だよ、あの大きさは!」


 どんどんと近づいたからこそ分かる、それの強大な身体。

 それにパニックを起こした冒険者達の悲鳴が聞こえる。


「超難易度魔獣の二倍はある……何なんだよ、あいつ!」


「……竜だ」


 僕の脳裏によぎっていた言葉。

 それを告げたのは青白い顔で、それでもまだ冷静な様子を保つハンザムだった。


「中規模以上の迷宮暴走時に現れる、迷宮の主。権能さえ持つとされる亜神」


 権能、それは物語に出てくる邪竜や勇者がもつとされる力。

 神の条件と言われる能力だ。

 それを持つが故に神に近い存在とされ、竜と認められた物語の存在。

 そして。


「……超一流冒険者達に勝てなかった唯一の存在だ」


 かつて師匠達が敗北した存在がそこにいた。


「……! ……!」


 おぞましい叫びをあげてくる竜。

 その存在に、今まで勇敢に動いていた冒険者達の動きは止まっていた。

 いや、冒険者だけではない。

 魔獣の動き、そして僕達でさえただ呆然と近づくのを待つことしかできなかった。


 恐怖がないとは言わない。

 けれど、恐怖で動けなかった訳じゃない。

 ……ただ、どうすればいいのか頭に全く浮かんでこなかった。


 距離がどんどんと近づいてくるのが分かる。

 このままではいけない。

 そう思いながらも、近づいてくる未知の敵にどう対処すればいいのか僕には見当もつかなかった。


 けれど、僕は気づくべきだった。

 今、そんな疑問を抱いている時間など無かったということに。


「……どこに向かっている?」


 最初、僕が気づいた違和感は竜の目的地だった。

 ずっと僕は竜が自分たちの元にやってくるだろうと考えていた。

 迷宮暴走を邪魔する僕達を排除する為に、僕達の方へと攻撃を加えてくると。

 だから、僕にもナルセーナも恐怖に支配されることはなかった。

 たとえ、かつて師匠達が負けた相手だとしても、僕とナルセーナなら何とかできるという確信が僕達にはあったから。


 だが、狙いが僕達と考えると竜の進行方向は明らかにおかしかった。

 このままだと、竜は明らかに僕達の頭上を越える。

 そんなところには何もないはずで……。


「っ! まさか…!」


 僕が竜の狙いに気づいたのはそのときだった。

 同時に、ロナウドさんの怒声が響く。


「油断するな! ──あいつの狙いはラルマ、迷宮都市を守る結界だ!」


 どう対処すればいいいのか。

 そう僕たちが抱いていた困惑が、なんとしても止めないとという焦燥に変わったのはそのときだった。


 まだ迷宮暴走は始まったばかりだ。

 ……ここで迷宮都市を守る結界を破壊されれば、それはすなわち死を意味している。

 その現実が冒険者達の顔にひりついた焦燥を抱かせる。

 そしてそれは僕たちも例外じゃなかった。


「ナルセーナ……!」


「はい、急ぎましょう!」


 頷きあうと、僕たちは走り出す。

 ……空への敵をどうすればいいのか、分からぬまま。

 それでもこのまま座して待つことなどできはしない。


 その時だった。


「なっ!」


 僕の目の前が燃え上がったのは。


 突然のことに体勢を乱されながら、それでも僕は何とか回避する。

 その炎はよく見覚えのあるものだった。

 それでも何が起きたのか理解できないまま、僕は炎を放った主へと目をやる。


 ……そこにいたのは瀕死でありながら、こちらへの敵意を隠さないサラマンダーだった。


 このタイミングで、そんな思いが僕の胸に走る。

 動き出したのはサラマンダーだけではなかった。


「こ、こいつら急に……!」


「今はそれどころじゃないって言うのに……!」


 周囲で冒険者達の怒声と悲鳴が上がる。

 それで僕は気づく。

 今まで動きを止めていた他の魔獣達も動き出していることを。


 そして、それは今のタイミングで最悪の出来事だった。


 一気にこの場所を混沌が覆う。

 その状況下で、誰も竜に注意をむけている余裕はなかった。

 その牙が結界に及ぶかもしれないと理解しながらも、今自分の命を守る為だけに動かずにはいられない。

 それは僕とナルセーナさえ、例外ではなかった。


「……くっ!」


 僕の頬をサラマンダーの炎がかする。

 その火力は、今まで戦ってきた中で一番の火力を誇っていた。

 その炎の温度に、僕は理解する。

 文字通り死力を尽くし、サラマンダーは僕たちのことを足止めしていることを。

 それはつまり、時間さえ稼げば僕達の勝利は確定することを示していた。


 ……その時間が今、値千金であることさえ考えなければ。


「早く、倒れろ!」


 隙をついたナルセーナの拳が、サラマンダーの身体をふるわせる。

 明らかにそれは致命傷で、サラマンダーにもう余裕はない。

 にもかかわらず、それでサラマンダーが動きを止めることはない。

 血の濁る目で、こちらをにらみながらさらに炎を吐き出していくる。


「……くそ!」


 視界の端に、どんどんとこちらに、結界の方にやってくる竜の姿を入れながら、僕はそちらに動くことができなかった。

 ただでさえ、僕とナルセーナには対空の手段がない。

 今すぐどうしないといけないにも関わらず、どうすればいいのかまるで分からなくて。


 どん、と地面をふるわせる音が響いたのはそのときだった。


「本当にやっかいだね、竜という存在は」


 聞こえるはずない場所にいるはずの人。

 その声が聞こえたのは、その次の瞬間だった。


 そこにいたのは、頭上の竜に魔剣を振り上げたロナウドさんの姿だった。

 その立派な体躯が米粒のような大きさに見えるほどの距離ながら、ロナウドさんの周囲には何体もの超難易度魔獣が押し詰めているのが見える。

 そのすべてを無視して、ロナウドさんは笑いながら、魔剣を握る手に力を込める。


 その魔剣に怪しげな光が宿る。


「だが、格下に素通りされるのがこいつには勘弁ならないらしい」


 ……空を飛ぶ竜、その動きが乱れたのはその時だった。

 そう、まるでロナウドさんに恐怖したかのように。


 同時に、まるで合図されたように周囲にいる超難易度魔獣がロナウドさんに殺到し、血が舞う。

 しかし、それでもロナウドさんの腕が下がることはなかった。

 次の瞬間、ロナウドさんの魔剣が黒い竜へと向けられる。


「誰の上を通ろうとしてる? ──大人しく地を這え、羽虫」


 草原を、先ほどの幻聴と似たプレッシャーが放たれた。

次回、ラルマ視点になります!

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