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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第98話 第二次城壁防衛戦 ⅷ

更新たつもりで、先週忘れており申し訳ありませんでした……!

 自爆、それはあまりに合理的な作戦だった。

 なぜならたとえ死んだとしても換えがあるのが魔獣という存在なのだから。

 そしてそんな存在にとって一番の目標とは迷宮暴走の障害たる存在をつぶすこと。


 そう、僕を殺せるのであれば魔獣達は自身の命などどうだっていいのだ。


 サラマンダーの喉元に集っていく、爆発的な赤い光。

 それを目にしながら、僕は今更ながら自分の認識違いを悟る。

 ただ、同時にセイレーン達の爪が甘いことを僕は理解していた。


 すなわち、今であれば僕とナルセーナなら逃げられると。


 気づけば、僕はナルセーナの方へと視線をやっていた。

 そして理解する。

 ナルセーナも僕と同じ、自分たちなら逃げられると分かっていることを。


 それを確認した次の瞬間、僕はサラマンダーの方へと走り出していた。

 それだけでナルセーナにはすべて伝わる。


 僕に任せてナルセーナは下がれと言う気持ちをくみ取ってくれると判断して。


「っ!」


 ……だからこそ、一拍遅れて走り出したナルセーナの姿が、僕は信じられなかった。

 思わず足を止めそうな衝撃の中、呆然とナルセーナの方へと僕は目をむけ、そして気づく。


 ナルセーナの顔には、どちらかが犠牲になるという覚悟は一切なかったことに。

 その代わりに浮かんでいるのは、満面の笑みだった。


 それに、気づけば僕の顔にも笑みが浮かんでいた。


 その瞬間、僕の身体が加速する。

 

 そう、僕たちなら今回だってどうにかできる。


「ッ!」


 加速する僕たちの身体に、セイレーンが息をのむ。 

 しかし、すぐにすぐに声を張り上げて歌を歌う。

 それは聞くだけで心が沸き立つような歌。

 その音に合わせるように、サラマンダーの喉元の炎が増す。


 僕とナルセーナがサラマンダーの目前まで迫ったのは、そのときだった。

 真っ赤に燃えるその喉元をみながら、僕は唇をかみしめる。

 このまま、攻撃をすればサラマンダーの喉元のこの炎は周囲を巻き込んで破裂するだろう。

 そして、その規模がどれだけのものか僕には判断ができなかった。


 ……この時点ですでに。僕たちが巻き込まれるどころか、周囲まで被害に遭う可能性も捨てきれないことを。


 そう理解して起きながら、攻撃を止めるという選択肢は僕にもナルセーナにもなかった。

 迷った数秒で被害は跳ね上がっていく。

 故に、僕たちには迷う時間も許されはしない。


 たとえ最低限の被害でさえ、自分の命が危ないと理解していても。

 ナルセーナだけはなんとしてでも炎から守る。

 その決意を固め、僕はサラマンダーへと剣を振り上げ。


「ガッ!」


 ──セイレーンの歌が途絶えたのはそのときだった。


「よくやった」


 同時に、やけに鮮明なある声が聞こえた。

 それに僕は笑う。


 同時に、喉元の炎が見るからに弱まったサラマンダーの喉元へと、僕は短剣を振り下ろした。


 サラマンダーの強靱な鱗も、この無防備な状態で受けた攻撃を防げるものではなかった。

 あっさりと、僕の短剣はその鱗を貫き、喉元に達す。

 さらに僕の攻撃とほぼ同じタイミングでたたき込まれたナルセーナの拳が、サラマンダーの身体をふるわせる。


「ナルセーナ!」


「はい!」


 次の瞬間、僕は短剣を手放しナルセーナと同時に背後へと下がる。

 同時に僕達のいた場所を、轟音とともにサラマンダーの喉元からあふれた炎が覆う。

 しかし、それは想定していたよりも遙かに勢いの弱い炎だった。

 そのまま動かなくても、軽いやけどですんだのではないか、そう思えるほどに。

 その炎に目をやってから、僕はゆっくりと視線を移す。

 自身の炎に傷口を焼かれ、ぼろぼろのサラマンダーとその奥。


 何が起こったのか分からない、といった表情で喉元を剣で貫かれたセイレーンを。


「あの二人だけが脅威だとでも思っていたか?」


 そして、その剣を手にするのはよく見覚えのある人間、ハンザムだった。


「悪いが、正面から戦うことが俺の本領ではなくてな。次からはこういう敵にも注意するといい」


「ニンゲンフゼイガ……!」


 まるで生命体のように憎悪をその目に浮かべにらむセイレーンに、ハンザムは冷笑をもってこたえる。


「まあ、次の機会など与えんが」


 その言葉とともにハンザムが喉元の剣でセイレーンの首を断つ。

 それが僕たちを散々苦しめたセイレーンの最後だった。

 首と力を失ったその身体が、地面に倒れ伏す。

 そしてサラマンダーも、もう動く気配はない。


 ……ひとまずの窮地を乗り越えた、そう僕が判断できたのはそのときだった。

 ナルセーナと顔を見合わせ、軽く笑いあう。


 次の瞬間、僕はハンザムの近く、うろたえているオーガの方へと走り出す。

 そして、ハンザムの側で呆然とするオーガに攻撃しながら、口を開く。


「遅いじゃないか」


「期待などしない、そういう顔をしていたくせによく言う」


 その僕に、意地悪げな笑みを浮かべながら、ハンザムはそう告げる。

 それに言い返そうとして、僕はすぐにやめた。


「ああ、そうだね。でも、ハンザムがいなければ危なかった。君は強いな」


 ハンザムが気配を薄くする方法を手にしていることは僕も知っていた。

 しかし、人よりも気配を察知する魔獣、それもセイレーン相手に不意打ちをできるほど強いとは僕も考えていなかった。

 今なら分かる。

 ハンザムは僕の思っていたより遙かに強い。

 正面から戦えば、負ける気はしない。

 しかし、敵に回せばやっかいこの上ない存在だと。

 だから、僕はハンザムに見下されることを承知で礼を口にする。


「本当に助かった。ありがとう」


 そういいながら、僕はハンザムから帰ってくるのはこちらを嘲る言葉。

 すなわち、当然や、見る目なしといった言葉だと想像していた。


「……っ」


 けれど、ハンザムの反応はそのどれでもなかった。

 僕の言葉が信じられないといったように目を開いた後、押し黙る。

 それから少しして、心からうれしそうに笑った。


「ああ」


「……っ」


 その表情に、僕が既視感を覚えたのはそのときだった。


 ようやく事態を理解し、抵抗を始めたオーガ達。

 その攻撃を鮮やかな手際で交わしながら、戦うハンザムの姿。

 それは僕とは違う、強力な身体強化を持たない人間の戦い方。 

 その動きが、さらに僕の記憶を刺激する。


 サラマンダーの方へと、一瞬僕は目をやる。

 しかし、その巨体が動く予兆は未だない。

 それを確認し、僕はハンザムの背中を追って歩き出した。


「一ついいか、ハンザム」


「ん?」


 オーガを切り捨てながら距離を詰めると、ハンザムが僕の方へと振り返る。

 その目はオーガへと注意が向けられていて、僕の心に戦闘中に聞くべきかという悩みが走る。

 ……僕たちは以前知り合いだっただろうか、というその問いを。


 それ、が起きたのはそのときだった。


 ──ぐおおぉぉぉおおおおおおおおおおとおおおおおおおお!


「……っ」


「なっ!」


「っ!?」


 びりびりと肌が震えるような咆哮が草原に響きわたったのは。


 突然の状況に誰もが固まる。

 それは僕やナルセーナ、ハンザムだけでない。

 ロナウドさん、師匠、超難易度魔獣でさえ動きを止めている。


 そんな中、一人だけ固まっていない人間。

 いや、エルフが存在していた。


 城壁の上。

 ミストだけが唯一、その咆哮動きを止めることなくある方向へと振り向く。

 迷宮のある方向へと。


 ……その顔に浮かぶのは、覆い隠すこともできない怯えと憎悪だった。

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