第96話 第二次城壁防衛戦 Ⅵ
更新長々と遅れてしまい申し訳ありません……!
この度ですが、パーティーから追放されたその治癒師、最強につきアニメ化決定致しました!
ナルセーナと、それを囲むオーガの周りには、ハンザムと共闘していた冒険者が立っている。
故に遠目では、ナルセーナがその冒険者達と協力しているように見えるが、その実冒険者達は戦闘に混じれていなかった。
それは決して、冒険者達に意欲がないわけではなく、またオーガに一切ダメージを与えられない程弱い訳でもない。
……ただ、ナルセーナの戦いのレベルに彼らはついていけていなかった。
「───!」
美しい歌声で、けれど半狂乱の様子で声を張り上げるセイレーン。
その歌声に反応し、強化したオーガ達は次々とナルセーナに手を伸ばす。
しかし、そのどの手もナルセーナの身体をかすることさえなかった。
青い影はその手の平をすり抜け、セイレーンの近くへと駆け抜けていく。
「ワタシヲ、マモレッ!」
今まで歌を奏でていたセイレーンが悲鳴にも似た叫びをあげたのはその瞬間だった。
そのセイレーンの声に反応し、オーガ達はセイレーンの周囲を固める。
けれど、その行動はわずかに遅かった。
必死に守りを固めるオーガ達のわずかな隙間をつき、ナルセーナはセイレーンのすぐ側にいるオーガへと拳をたたき込む。
声も発する余裕もなく、崩れ落ちるオーガ。
その瞬間、ナルセーナとセイレーンを阻むものはもうない。
「……ッ!」
もう、セイレーンには余裕は存在しなかった。
今まで司令塔という立場を崩さなかったセイレーンが、初めてナルセーナへと構えをとる。
ナルセーナが構えを解いたのは、その時だった。
「ここまで、かな」
そう小さく笑ったナルセーナは、素早くセイレーンから距離をとる。
オーガ達がセイレーンの周囲を完全に覆ったのは、その瞬間だった。
「……もう少し踏み込んでいたら危なかったかも」
その包囲が完成するぎりぎりでナルセーナは、セイレーンから離れていた。
そして、息をつくまもなく、ナルセーナは今度はオーガへと向かって走り出す。
それも、セイレーンを囲む包囲の一番はしにいるオーガへと。
それは、一見起死回生の一手を封じられ、地道に戦うしかなくなったようにも見える光景。
それを目にし、戦いを傍観していた冒険者達が、悔しそうに口を開く。
「くそ! あの不意打ちが成功していたら、あの厄介な魔獣も……」
「この戦い方じゃ、セイレーンが攻勢に出たとき対処できないぞ! どうする、俺たちも助力するか?」
「俺たち程度の動きでは、さらに足を引っ張るだけだぞ!」
そんな会話を交わしながら、冒険者達は各々の武器を握りしめる。
何かあれば、いつでも飛び出せるようにと。
しかし、それからその冒険者達の顔に浮かびだしたのは疑問の表情だった。
「……あれ、おかしくないか。これ?」
その視線の先にあるのは、周囲にいる三体のオーガを圧倒するナルセーナの姿だった。
「───!」
そんなナルセーナを忌々しげに睨みながら、セイレーンは声を張り上げオーガ達を強化する。
しかし、ナルセーナの周りにいる程度のオーガに強化をかけたところで焼け石に水でしかなかった。
三体では満足な包囲もできず、ナルセーナの身体に攻撃をかすめることさえできていなかった。
そんな光景に、ある冒険者が呆然と口を開く。
「どうしてセイレーンはオーガをけしかけない? まだあれだけオーガがいるのに……!」
そう叫ぶ冒険者の視線の先、そこにいたのはセイレーンを守るオーガの集団だった。
その内の数体でも、ナルセーナに差し向ければ戦況は大きく変わるだろう。
しかし、頑なにそのオーガ達を自分の側から話さないセイレーンに、冒険者は誰もが困惑を隠せない。
ただ、僕は理解できていた。
セイレーンはオーガを差し向けないのではない。
差し向けられないのだと。
その布石こそ、先ほどのナルセーナがセイレーンへと迫った瞬間だった。
あの瞬間、冒険者達は捨て身の一発逆転をねらった攻撃だったと。
しかし、それが違うことを僕は理解していた。
そう、あの攻撃はセイレーンへの警告だったと。
そして僕の隣……ハンザムだけは僕と同じ結論に至っていた。
「……おい、ラウスト。お前の相棒は武道家だよな」
「ああ、そうだよ」
「ならなぜこんな戦い方ができる……! 時間を稼ぐのは、重装備を身につけた戦士の役目だろうが!」
叫ぶハンザムに、僕は思わず声を出して笑ってしまう。
やはり気づいたかという思いと、ナルセーナを自慢する気持ちを感じたが故に。
周囲の冒険者は、ナルセーナはセイレーンを一人で倒そうとしていると感じている。
何せ、それが武道家という存在だ。
他の冒険者達に守られて、一撃必殺の攻撃を繰り出すのが武道家の役目。
けれど今、ナルセーナはセイレーンを倒す為に戦ってはいなかった。
戦いながら、ナルセーナが果たそうとしている目的はただ一つ。
頼んだ、その僕の言葉を達成するためだけに動いているのだと。
「だったら、僕も期待に越えた動きをしなければね」
「ラウスト?」
ハンザムが僕の名前を呼ぶ。
しかし、それにも答えることなく僕はゆっくりと歩き出す。
「イケ!」
その僕の目線の先、そこではちょうどセイレーンが数体のオーガをナルセーナへと差し向けたところだった。
それ以外のオーガはみっしりとセイレーンの周りを囲んでいて、先ほどとは違ってナルセーナへの警戒が現れている。
このまま差し向けたオーガを順調に強化していけば、ナルセーナの形勢は一気に危ういものとなるだろう。
そう言いたげにセイレーンが笑みを浮かべ……その表情はナルセーナの顔を見て固まった。
「ごめんね、私囮なの」
奇しくも自身と同じ表情、笑顔のナルセーナ。
その理由を教えるのは、僕の役目だった。
ナルセーナの声が発せられた瞬間には、もう僕は走り出していた。
そんな僕の視界内、ゆっくりとセイレーンが振り返る。
その口がゆっくりと動くのが僕の目に見える。
それがなにを考えての行動か、僕には分からない。
オーガを呼ぼうとしたのか、僕を妨害する魔法を扱おうとしたのか、それとも僕のことを忘れていた後悔か。
そのいずれもが、もう手遅れだった。
次の瞬間、体の悲鳴を無視して行った、僕の身体強化での一撃が、セイレーンの前に振り下ろされた。
かろうじて、僕に反応して止めにきたオーガ達へと。
轟音が響き、砂埃が消え去る。
「ありがと、ナルセーナ」
そう呟き、振り下ろした短剣を僕は再度構える。
その視線の先にはもう、セイレーンを守っていたオーガの姿はなかった。
そこに残るのは、かつてオーガだった残骸。
「……ッ」
そして、もはや守るものがいなくなったセイレーンの姿だった。
ナルセーナが突撃してきてた時の為に、備えていた五体を超えるオーガを一撃で一掃した僕をみるセイレーンの瞳には、恐怖が浮かんでいた。
助けを求めるように視線をさまよわせるセイレーン。
しかし、その先にいるオーガはナルセーナと交戦している。
「《ヒール》」
そんなセイレーンを見ながら、僕は自分の体に治癒を施す。
体の痛みが取れる感覚を感じながら、僕は思う。
「今の内に君を倒せていてよかったよ」
そう告げながら、僕は自分の体にひきつるような感覚が残っているのを感じていた。
確かに久々に自傷覚悟の身体強化を使った。
とはいえ、今までの戦い方を考えればこれはまだ軽傷といっていい傷。
それにも関わらず、なぜか今の僕の治癒魔法では完璧に直っていない。
やはり僕の治癒魔法の効果は、目に見えて効力が落ちている。
そんな状態で、超難易度魔獣と組んだセイレーンを敵に回すことにならなくてよかった。
その思いと共に僕は守る物のいないセイレーンへと足を踏み出す。
「──!」
最後の抵抗と言いたげに、セイレーンが歌い出したのはその時だった。
「ガッ!」
「グッ!」
途端にナルセーナのところから聞こえるようになるオーガの悲鳴。
同時に、ナルセーナの声が響く。
「お兄さん、オーガが急に弱くなりました!」
それは、セイレーンが何かを仕掛けてきたことを物語っていた。
そのことを理解した瞬間、僕は足を止め短剣を握る手に力を込める。
なにがあっても十分に反応できるように、と。
頭に浮かぶのは、かつて僕の体を拘束したセイレーンの妨害。
時間を稼がせる訳には行かない今、あれだけはなんとしても避けないといけない。
しかし、その僕の警戒をあざ笑うように、僕の周囲に異常は起こることはなかった。
……そう、異常が来たのは遙か遠くだった。
「っ!」
それに気づいた時、僕はセイレーンへと短剣を振り上げていた。
先ほどのオーガ達を一掃した時ほどの威力ではない。
それでも、十分にセイレーンを殺しきれる威力を持った短剣が振り下ろされる。
しかし、その短剣がセイレーンをしとめることはなかった。
──その直前に、僕を灼熱が襲った。
「……っ」
反射的に僕は自分の攻撃を取りやめ、背後に飛んでいた。
それでも僅かに遅かった。
「《ヒール》」
やけどした腕を治療しながら、僕は自分に攻撃を仕掛けてきた方へと目を向ける。
そこにいたのは、僕への敵意を示す初めて見る魔獣だった。
「嘘、だろう?」
まるでドラゴンを思わせる鱗に覆われた身体に、その上を流れるマグマのような炎。
ここまで離れていてなお、その熱さが伝わってくる温度。
「……サラマンダー」
亜竜と呼ばれ恐れられる存在がそこにいた。
これも全て読者様のおかげです……!
ありがとうございます!
今後は週一で更新させて頂く予定になります。
Twitter、活動報告で詳しい話を載せさせて頂いております。
よろしければ見に行って下さると幸いです!




