第91話 第二次迷宮防衛戦 ⅰ
長らく更新滞っており、申し訳ありません!!
それから僕達は、すぐに城壁を超えて最前線へと向かう。
そして、冒険者が指摘した超難易度魔獣が見えるまで、そう時間はかからなかった。
多数の魔獣を引き連れた一つ目の巨人の姿。
「……キュプロクス」
その姿に、僕の口から自然とそのながこぼれる。
異常な筋力、そして耐久力を持つ超難易度魔獣。
それが目の前の単眼の巨人、キュプロクスだった。
周囲の冒険者達は、その五メートルを超える巨体に唖然と立ち尽くしている。
その中心のキュプロクスは周囲を見回すようにゆっくりと顔を動かし。
……僕とナルセーナのところで、キュプロクスの顔が止まった。
キュプロクスの顔に醜悪な笑みが浮かぶ。
そして、その巨人は側にあった巨岩を引き抜き、持ち上げた。
その動きに咄嗟に僕もナルセーナも足を止めて、攻撃に備える。
しかし、キュプロクスが巨岩で狙っていたのは僕達の報告ではなかった。
思わぬ動きに僕は反射的に岩の進行方向へと目をやる。
「……なっ!」
巨人の目論見に僕が思い至ったのはその瞬間だった。
目の前の巨人は、僕たちと距離があるのをいいことに、城壁に岩を投げつけようとしているのだ。
……そうなれば、結界を維持する師匠にどれだけの負荷がかかるか。
といっても、ここからではあの巨人を止めることはできない。
だとしたら、あの岩を空中で破壊するしかない。
けれど、遠距離攻撃の手段に乏しい僕達には、それは不可能に近い。
想像もしない状況に僕達の顔に焦燥が浮かび。
……空中を飛翔した魔力が、キュプロクスの腕を切り落としたのはそのときだった。
「ウガァァアアアアア!」
血液と魔力を吹き出しながら、キュプロクスが野太い悲鳴をあげる。
巨岩が地面に落ちる音と合わさったその騒音に、周囲の冒険者達は咄嗟に耳を覆う。
しかし、僕達はその音に気を払う余裕もなかった。
僕とナルセーナは咄嗟に魔力を感じた方向へと目をやる。
そこにいたのは、魔剣を振り下ろした状態の戦士の姿だった。
「……ジークさん?」
「これは俺に任せてくれ。お前達には、高耐久はさほど相性がよくもないだろう?」
そういうと、ジークさんは怒りに目を燃やすキュプロクスへと歩いていく。
何の構えもしていないその姿は、僕から見ても不用心に見えて。
「キサマッ!」
その絶好のチャンスをキュプロクスが指をくわえてみている訳がなかった。
一本の丸太の様な腕を、キュプロクスはジークさんへと振り下ろす。
それはオーがどころか、他の超難易度魔獣さえ吹き飛びそうな一撃。
「ッ!」
「……さすがに、重い一撃だな」
しかし、それを易々とジークさんは受け止めた。
「お、お兄さん、ジークさんのあれ……」
それを見て、昨日ジークさんと戦っていないナルセーナは驚愕を隠せていなかった。
……しかし、それは昨日一緒に戦ったはずの僕も同じだった。
けれど、そこで僕の頭に先ほどの飛翔する攻撃がよぎる。
かつてロナウドさんが迷宮都市にやってきた時、リッチの魔法陣を切り裂いたもを彷彿とさせるような一撃が。
「……そっか。この土壇場で魔剣使いとして、次のステージに」
そうつぶやき、僕は思わず笑みを浮かべていた。
「お兄さん? ……いえ、ジークさん凄いですね」
そんな僕にナルセーナは声をかけようとして、途中でやめてにっこりと笑った。
そんなナルセーナに、僕はさらに笑みを深くしながら、いつかナルセーナにも、僕の知っていることを伝えようと決める。
ただ今は、他にやることがあった。
「誰か! もう次の超難易度魔獣と交戦してるぞ!」
そんな声が、戦場の中響く。
少し離れた場所からのその声を聞いて、僕はナルセーナに笑いかけた。
「それじゃ、僕達も働こうか」
「はい!」
ここが戦場であることも忘れてしまいそうな、可憐なナルセーナの笑み。
それに僕もまた笑みを返して、走り出す。
人の群をかき分け、僕たちは進んでいく。
その存在を僕たちが認識したのは、すぐのことだった。
「GAAAAAAAAAAAA!」
「……ギガンテス」
僕たちの目に入ってきたそれは、石のような皮膚に覆われた巨人だった。
その身体へと、何発もの魔法が打ち込まれているに関わらず、その巨人は一切影響なく動いている。
「……キュプロクスにも劣らない力と、強靱な岩石の皮膚を持つ巨人ですね」
「ああ。厄介なものまで出てきたね」
走りながら、僕はナルセーナの言葉に頷く。
危機的状況を何度も潜り抜ける内に、迷宮都市の冒険者達は明らかに強くなっている。
それこそ、超難易度魔獣でさえ僕たちが来るまでの時間稼ぎを行えるくらいには。
しかし、このダメージを一切無視して暴れるこの巨人相手には分が悪いだろう。
だけど、僕達なら。
「それじゃ、僕たちもやろうか」
「はい!」
そして走り出した僕とナルセーナの足取りには、一切の迷いもなかった。
「GAA?」
徐々に僕達との距離が詰まっていく中、とうとうギガンテスが僕達の存在に気づく。
まるで弱点を隠すかのように皮膚の奥深くで光る赤い目が僕達へと向けられる。
同時に、僕達の存在に気づいた周囲の冒険者が叫んだ。
「ラウストさん、警戒してください! こいつは……」
「GAAAAAAAAA!!」
……ギガンテスが一直線に僕達の方向へと走り出したのはその言葉の途中だった。
途中にある様々な障害物を破壊しながらこちらへと迫るその姿は、上級魔法にさえ匹敵する破壊力を物語っている。
「逃げて!」
悲鳴にも似た冒険者の声を聞きながら、僕は理解する。
あの警告は、この突進についてのものだったと。
そう理解しながら、僕は一切足を止めることはなかった。
代わりに、一度横にいるナルセーナに目配せする。
それだけで、ナルセーナには十分だった。
頼りになる相棒は、にっこりと笑って走る速度を落とす。
「GAAAAAA!」
……雄叫びを上げながら、ギガンテスが僕を押し潰さんと飛びかかってきたのは次の瞬間だった。
「ラウストさん!?」
砂埃が視界を覆い、冒険者の叫び声が響く。
この状況を見守る多くの人間が僕の敗北を確信し。
……ただ、当事者だけは異常に気づいていた。
「GA?」
困惑どころか、恐怖さえ滲んだギガンテスの声。
内心、魔獣が感情豊かになりすぎてはいないかと、益体のないこと思いながら、僕は笑いかける。
「……自分でも驚いてはいるんだ」
砂埃が風に巻き上げられ、視界が開けていく。
そんな中、露わとなったのは。
「今の僕ならこれも問題ないらしい」
──ギガンテスの頭をつかみ、完全に制止させた僕の姿だった。
改めて、更新長らく滞っていてすいません……。
伏線整理などはしていたんですが、きちんとプロット編まないとと思い知ってました。
そして、これまた遅くなってしまったのですが、今月6月15日に鳴海先生の治癒師コミカライズ5巻が発売となります!
どんどん美麗になっていく鳴海先生のコミカライズを是非楽しんで下さい!
今後はもうきちんと更新できるようにさせて頂きます……。




