第82話 ジークさん達の懸念
更新遅れてしまい申し訳ありません……!
「……ジークさんも気付いてましたか」
そういいながら、僕の頭に浮かぶのは先ほど倒したオーガだった。
首だけになりながら、僕に向けてきたあの不気味な笑み。
それは僕の頭にこびりついている。
そして、異常があったのはそのオーガだけではなかった。
それまでに戦ってきたオーガのことが僕の頭によぎる。
僕に勝てないと感じるなり、武器を手にし囲もうとしてきたことを。
確かに最後のオーガと比べれば、それらのオーガはまだましだったかもしれない。
……けれど、明らかに今回戦ったオーガは迷宮暴走が始まった初日よりその知性は発達していた。
魔獣が変異すること比べれば、まだましなはずだ。
そう思おうとしても、できぬほどに不気味な記憶として脳裏にこびりついていた。
「やっぱり、ラウストは気付いていたか。そうだ。俺だけではなく、ナルセーナ含めた、中心的なやつは全員知っている」
「といっても、変化が露骨になってきたのは、二日前からなんだけどね」
ライラさんの告げた二日前、それはある出来事が起こった日として僕の頭の中に残ってた。
「……二日前ということは、超難易度魔獣が来た日ですか?」
「ああ、そうだ」
頷いたジークさんに、僕の記憶の中そのときの記憶が蘇ってくる。
まさかのタイミングで現れた超難易度魔獣に騒ぎが起きた記憶が。
その騒ぎについては、ロナウドさんが即刻対処したということですぐに収まった。
けれど、その周囲に反し僕は不安を覚えずにはいられなかった。
こんな時に超難易度魔獣が現れるのは、不自然ではないのかと。
「師匠も、険しい表情だったな。あのときは」
「ロナウドさん、言っていたものね。知性の発達したオーガも、こんな時期に超難易度魔獣が現れるのも初めてだって」
……そんな僕の想像を裏付けるような、言葉に僕は顔をしかめる。
しかし、そんな僕と対照的に、ジークさんとライラさんは一切表情を変えることはなかった。
「とはいえ、俺達なら突破できると言ったのは嘘じゃない。俺は本気でそう思っている」
「ええ、私達が万全の力を発揮できれば大きな問題ではないわ」
ふと、僕が違和感を覚えたのはその時だった。
ジークさん達の言葉を疑っている訳じゃない。
けれど、明らかに二人のまとう雰囲気がおかしいことに僕は気付いていた。
「だが、不安要素はできる限り除きたいと思っている」
そして、その訳に今更ながら僕が気付いたのは、そこまできたときだった。
二人が人払いをした真の目的は、魔獣の異常を伝える為ではなかったことを。
「ところで、ナルセーナとのことなんだが……」
あの話についてほっとかれる訳がないよね、と僕は内心呟く。
それくらい分かるほどに、僕とナルセーナの変化は露骨であることに、自分でも僕は理解していた。
別に、僕とナルセーナは喧嘩した訳ではない。
むしろ、その仲は以前よりよくなっているともいえるかもしれない。
──ただ、迷宮暴走初日の夜の話し合いを経て、お互いぎこちないだけで。
「いや、ラウストとナルセーナを心配している訳じゃないのよ。お互い戦いの時はきちんと切り替えてるし」
「いやでも、あそこまで様子がおかしいいと他の冒険者もきになるからな……」
「その、お手数おかけします……」
顔に熱が集まるのを感じながら、僕はそう頭を下げる。
実際、そう心配されてもおかしくないほどにぎこちなくなっていることに僕も理解していた。
さすがに解決しないといけないとは、僕も感じていたのだ。
そう覚悟を決めて、僕は口を開いた。
「今日中に、ナルセーナと話させてもらいます……」
◇◆◇
それから、すぐに迷宮都市に戻った僕は、ナルセーナの姿を探すために歩き出していた。
そうして探しながら、僕はふと前にもこんなことがあったのを思い出す。
しかし、そのとき迷宮暴走の時とちがって、僕はナルセーナのいる場所を知っていた。
おそらく、冒険者ギルドにいて、僕を待ってくれているだろうと。
そう、昨日まで帰ってくるナルセーナを僕が待っていたように。
そこまで考え、僕は小さく呟いた。
「……不思議な感覚だな」
僕とナルセーナは相当ぎくしゃくしてるだろう、そう僕も理解していた。
実際、僕たちは会っても今までとちがって、沈黙することが増えた。
戦う時は切り替えているとはいえ、周囲からは心配に見えるのも当然だ。
……そう思うのに、僕はなぜか今のナルセーナとの関係に心地よささえ感じていた。
とはいえ、このままでいるわけにもいくまい。
そう僕は自分に言い聞かせる。
今の僕は周囲に影響を与える存在だ。
その状況で、こんなぎくしゃくした関係を続ける訳にはいかない。
そう、僕は決意を固め冒険者ギルドへと向かう。
そして、それからすぐに僕はナルセーナを見つけることになった。
ナルセーナがいたのは、冒険者ギルドの外だった。
そこでナルセーナは、分かりやすく誰かを捜していた。
そんなナルセーナに暖かい目を送る冒険者ギルドの人たちの人数が、ナルセーナがどれだけそこにいたのかを物語っていて、僕はにやけた顔を手で隠す。
……本当にいつからいれば、子供にまであんな目を向けられるようになるのか。
そのことが可愛くてたまらない自分もそうとうなのかもしれないが。
とはいえ、さすがにこの中でナルセーナを呼ぶ勇気はなく、僕は少しその場に立ち止まってどうするか悩む。
しかし、直ぐにその必要はなくなることとなった。
周囲を見回していたナルセーナの目が、僕の存在に気づいて止まったのだから。
「……っ! お兄さん」
瞬間、ナルセーナの表情に花が開いたように、笑みが浮かんだ。




