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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第81話 新たな覚悟

ロナウド視点となります。

 僕の言葉に、わかりやすく表情を変えたラルマ。

 しかし、それでもラルマは何事もないかのように口を開く。


「何の話だ?」


「ラルマ、それだけ顔色を変えて、自分でも無理があることくらいわかっているんだろう?」


 そういいながら、僕は自分の持つ酒瓶を振ってみせる。


「何の為に僕が酒を持ってきたと思う? 今の状態で隠し事はうまくできないよね?」


 瞬間ラルマの顔に、卑怯と言いたそうな表情が浮かぶ。

 それでも、ラルマが認めることはなかった。


「だから、何の話……」


「残念だけど僕はごまかせないし……ミストにも見抜かれていたよ」


「……っ!」


 そう告げた瞬間、ラルマが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「くそ! どいついもこいつも陰湿な奴らが」


 そうすねたように吐き捨てると、ラルマはそっぽを向く。

 その姿は言外に僕の言葉を認めたようにも感じられるが、それでもラルマが自身からなにかを明確に口にすることはなかった。


 ……その姿を見ながら、僕は内心思う。

 ミストの言葉を聞いていなければ、ここで問いつめるのをやめていたかもしれないと。

 僕もラルマの異常に関しては気付いていたし、それに障壁が関わっていることにも気付いていた。

 それでも僕は、釘を刺すだけさしてそれで引き下がっていたかもしれない。

 ラルマが弱みを見せる性格だと理解しているが故に。


 けれど、ミストが命に関わると言っていたなら、見逃すわけにはいかなかった。

 ……内心、ミストの計算高さに舌を巻きつつ、僕は尋ねる。


「で、ラルマ。なにを隠している?」


「……今日はやけにしつこいな、ロナウド」


「ミストが命に関わると言っていたからね」


 その言葉を聞いた瞬間、ラルマが憎々しげな表情となる。


「余計なことを……!」


「で、どうなんだい?」


「ミストの言うことを信じるのか?」


「ああ。今のラルマほど信用ならないものもないからね。それこそ、ミストよりも。理由は分かっているだろう?」


「……くそ眼鏡が」


 それだけ言っても頑なに口を開かないラルマに、僕は仕方なく口を開く。


「今城壁を覆っている障壁、あれ一人でよく起動できたね。さすがラルマだ」


 僕の言葉にラルマはなにも言わない。

 しかし、僅かにゆがんだ表情が、僕の言葉がつかれたくないことを刺していることを物語っていた。


「だけど、さすがのラルマでもあれを起動する魔力全てを一度に支払えはしない。だとしたら、その魔力はどうやって支払っているんだろう。不思議だね」


 ラルマは変わらず無言。

 かまわず、僕はさらに続ける。


「ねえ、もしかしてラルマ、あの障壁とつながっているのかい? ──恒常的に、あの障壁に魔力を取られているのかい?」


「……っ!」


 忌々しげにこちらを睨んでくるラルマ。

 その表情に、僕は自身の言葉が正解だったことを悟る。


「口うるさい問いつめは気分が悪い。私はもう寝る」


 そして、ラルマもまた隠し通すのは無理だと理解したのか、そう告げてどこかに立ち去ろうとする。

 ……ぐらりと、ラルマの身体が揺らいだのはその瞬間だった。


「……ラルマ!」


 それを見た瞬間、俺は素早く動いていた。

 地面につく前に、何とかラルマの身体を支えることに成功する。


 ……しかし、ラルマの転倒を避けられた安堵も、すぐに俺の顔から消えた。


「お、おい、離せ!」


 ラルマは、俺から離れようと必死に暴れている。

 しかし、それを許さず俺は尋ねる。


「……ずっと、この状態だったのか?」


「……っ!」


 ラルマは必死に顔を背けようとするが、それを許さず俺はさらに問いかける。


「ラルマ、答えろ。一体いつから魔力欠乏の症状がでていた?」


 ラルマの身体は、不自然に脱力していた。

 それは、酒の影響がないとは言わないが、それだけではあり得ない状態だった。


 俺の剣幕に、さすがに言い逃れすることが無理だと理解できたのか、ラルマは小さく告げる。


「……障壁を張ったときからだ」


「……っ!」


 その言葉に、俺は思わず唇をかみしめていた。

 こうなることは、容易に想像できたはずなのに、と。

 いくらラルマが超人的な能力を持っていたとしても、全てができるわけではない。

 今更ながら、そのことに気付いた俺は、素早く考えを巡らす。

 間違いなく、このままではラルマは持たない。


「今、作戦を練りなおして……」


「いやいい。このままで大丈夫だ」


 しかし、俺から離れて立ち上がりつつ、その言葉をラルマは否定した。


「そんな状態でなにを言っている? 自身の身体が限界なことぐらい分かっているだろう?」


「だからといって、私以外で障壁を保てる人間はいるのか?」


「……優秀な魔法使いなら」


「あくまで魔法使いだ。障壁を維持するために必要なのは魔術、今から覚えられると思うか?」


「……っ!」


 ラルマの言葉に、俺は黙る。

 その言葉は、確かに正論だった。

 今、障壁を維持できるのは、ラルマ以外あり得ないのだから。


「まあ、気にするな。私なら大丈夫だ」


「……あのときもそういっていたよな、ラルマ。そして、俺たちは負けた」


「そうだな」


 俺にできるなけなしの抵抗。

 しかしそれに、ラルマは悲しげに笑うだけ。


「でも分かっているだろう。今はあのときよりも遙かに危険だと」


 その言葉に、俺は黙る。

 そう、分かっていない訳がないのだ。

 それでも認められない俺の内心に気付いていたように、ラルマは笑う。


「弟子達が活躍しているんだ、私にこの程度できない訳がないだろう」


「はあ……。本当にラルマは無理しかしない」


 その言葉に苛立たしげに、諦めたようにため息をついて僕は立ち上がる。


「でも、代案ができた時は、きちんと従ってね」


「ああ、お前の考えは絶妙に小ずるくて好きだからいいぞ」


 そうラルマは笑って……そしてその表情を真剣なものへと変えた。


「──だから、誰にも言うなよ」


 ……本当に、この頑固な魔術師は。


 その言葉に、内心そう吐き捨てつつ僕は頷く。


「分かったよ」


 そういいつつ、僕はゆっくりとその場から立ち去る。

 そして、声が聞こえないところまできて、小さく僕は口を開いた。


「……さて、ラルマを無理させないために、誰に協力を求めよっか」


 そう呟きつつ、僕は改めて覚悟を決める。

 なんとしてでも、迷宮暴走を乗りこえさせてみせると。


 ──そうたとえ、僕自身が命を落とすことになっても。

次回から、ラウスト視点となります。

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