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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第78話 生贄のアマースト

更新長らく遅れてしまい、申し訳ありません……!

これから、できる限り定期更新を心がけさせて頂きます……。

 それからすぐに、私はギルドに向かって歩き出した。

 それを見て、僅かにアマーストの顔に残っていた不安も、消えていく。

 そして、冒険者ギルドに辿りついたその時には、一切不安など見受けられなかった。


 ……それが、私の狙いだとも気づかずに。


「さあ、行くわよ」


「え?」


 もちろん、そんな内心など明らかにすることはなく、私は逃げられないようアマーストの手を引いて冒険者ギルドの中に入っていく。

 次の瞬間、ギルドにいる冒険者達の注目が私たちに集まってくる。


「あれ、ライラさん?」


「今度はどうしま……隣にいるのは……!」


 しかし、それは私の予想していたことだった。

 何せ、今私は先ほど冒険者ギルドから出てきたところだ。

 そんな状態で、アマーストを引き連れて戻ってきて、注目を浴びないはずがない。


 冒険者達が、もとギルド職員のアマーストにいい感情を抱いているわけがないのだから。


「あいつ、どんな面してこの場所に!」


「まて、早まるな。つれてきたのは、ライラさんだぞ」


 私がいるからか、近づく者はいない。

 だが、明らかに冒険者の中に怒りがため込まれていくのが分かる。

 ふと横を見ると、アマーストの表情は蒼白になっていた。

 どうやら、ようやく浮かれた状態から、自身の置かれた状況に気づいたらしい。

 冒険者の敵意に気圧されるように、アマーストは一歩後ろに下がる。


「……っ!」


 けれど、アマーストにできたのはそこまでだった。

 私が手を離さないせいで、それ以上アマーストは下がることができない。

 何かを訴えるようにアマーストはこちらを見てくるが、それを無視して私は冒険者達に問いかけた。


「ジークが今どこにいるか分かる? それと、ギルドにあった魔獣についての本を持ってきてくれるとありがたいんだけど?」


 ギルドの奥から人影が見えたのは、ちょうどその時だった。

 そしてその人影、ジークは冒険者が何かを言う前に、姿を表した。


「何だライラ、また来たの……っ! アマースト!?」


 アマーストに気づいたジークの顔に警戒が浮かび、アマーストも顔を強ばらせる。


「……一体何故、ライラのそばに居る。返答次第によっては」


「大丈夫よ。私が引っ張ってきたから」


「……なっ!」


 その瞬間、信じられない言いたげな目で、ジークは私の方を見る。

 しかし、それを気にすることなく、私は続ける。


「とりあえず、二人で話さない?」


「……いや、待ってくれ。少し状況を整理させてくれ」


「いいわよ」


 片手で顔を覆いそう告げたジークに頷き、私は口を閉じる。

 なお、横でアマーストも説明が欲しそうな表情をしていたが、気づかないことにする。


 少しして、ジークは深々とため息をついて告げる。


「とりあえず、後で説明をしてくれ。俺は先に急を要す仕事だけ終わらせるから。それまで少し待っていてくれ」


 そう言って、ジークは冒険者達の方を指さす。


「あら、大丈夫よ」


「……え?」


「その仕事をさせるために、アマーストを連れてきたんだから」


「……なっ」


「……ええええぇえ!?」


 その瞬間、呆然としたジークの声など比にならない叫び声を、アマーストは上げた。

 そして、冒険者達の方をちらちらと見ながら、言ってくる。


「そんなの聞いてないわ!」


「あら、嘘は言っていないわよ」


 アマーストににっこりと笑いながら、私は教えてあげる。


「冒険者に四六時中貴女の周囲にいるように口添えしてあげる、て私は言ったでしょう?」


「……っ!」


 その瞬間、嵌められていた事に気づいたアマーストの表情が固まった。


「そんな保護してくれるんじゃ……」


「そんなこと、私は一言も言っていないわよ」


 その瞬間、完全にアマーストの表情が、悲痛な表情で固まる。

 騙されたことに対する怒りと、媚びを売らないといけないという葛藤。

 その表情からアマーストの内心を、見抜いた私は、優しく語りかける。


「でも、私には騙す気なんてなかったのよ。貴女が引き受けてくれるなら、本当に冒険者に守らせるつもりだし。ほら、条件付きだとも言ったじゃない」


 その私の言葉に、アマーストの表情に葛藤が浮かぶ。


「……くそ、あの忌々しい女が」


「ライラさんが連れてきていなかったら、たたき出してやったのに!」


 ちょうど、その時冒険者達の呟きが、この場所まで響いてくる。

 瞬間、アマーストは決断を下した。


「……無理です! 絶対に不可能です! こんな状況で、冒険者を管理できるわけがないじゃない!」


 もはや、媚びを売るための笑顔で涙目、という器用な顔を作りつつ、アマーストは懇願してくる。


「その、本当に申し訳ありませんでした! 保護なんて大丈夫です! だから、私を帰らせて下さい!」


 その言葉に、騙されなかったかと、私は内心舌打ちを漏らす。

 仕方ない、使いたくなかったが、最後の手段を使うことにしよう。

 そう判断した私は、笑顔のまま口を開く。


「そう、残念ね。ところで話は変わるのだけど、ここに来る前、貴女愉快な顔をしていなかった?」


「……え?」


 話の流れが掴めなかったのかアマーストは、笑顔のまま心底困惑した声をあげる。

 そんなアマーストに私は表情を変えず……アマーストを睨みながら続ける。


「行きましょうか、という直前のことよ。……私を馬鹿にしているような顔していなかった?」


「え、あ……」


 その瞬間、アマーストは脂汗を流しながら、がたがたと震え出す。

 それでも表情を変えないのは、もはや奇跡に近い。


「一回痛い目に合わせた相手を、さらに騙そうとするなんて中々の根性だわね。ねぇ、本当に私が貴女を心から信頼すると思っていたの?」


 私は笑顔で、アマーストにそう問いかける。

 けれど、その時に至ってもアマーストの表情は一切変わることはなかった。

 ……もしかしたら、緊張と焦燥のあまり、表情が笑顔で固まっているのかもしれない。


「で、どうする? 今すぐ城壁から叩き出されるか、身の安全だけは保証された場所。どっちがいい?」


「……冒険者の管理、やらせて頂きます。いえ、やらせてください!」


 次の瞬間、固まった笑顔で大粒の涙を目に貯めながら、アマーストは宣言する。

 それを聞いて、私は今度こそ心からの笑顔を浮かべた。


「ああ、嬉しい! アマーストならそう言ってくれると思っていたわ!」


「……え、え? 嘘?」


 そう言って、私はぎこちなく歩くアマーストを、冒険者の中心に連れていく。


「今日から、アマーストがジークの仕事を引き継ぐから、よろしくね」


「……ひぃっ!」


 瞬間、ギロリと冒険者達に睨まれ、アマーストが小さく悲鳴を上げる。

 最後に私は、アマーストの耳元で小さく囁く。


「──死ぬ気で、頑張ってね」


「……っ! はぃぃ……!」


 とうとう笑顔で滝のような涙を流しつつも、アマーストはそう宣言する。

 それを確認して、私は冒険者に手を振って歩き出す。

 まあ、一応私が任命したのだ。

 冒険者達もすぐにどうこうもしないだろう。


「……おらぁ? お前、どんな面してこの場所にこられたんだ?」


 ……私が去った直後に聞こえてきた言葉をシャットダウンしながら、私はジークの方へと戻っていく。


 一方のジークは、一連の流れを唖然としてみていた。


「いや、その大丈夫なのか、あれ?」


 そして、私が戻ると恐る恐るそう聞いてくる。

 ……先程まで、あれだけアマーストを警戒していたのが嘘のようだ。


「まあ、死にはしないでしょ」


 その時、視界の端にこちらに向かってくる本を手にした冒険者の姿が映る。


「……そ、その。言われていた魔獣の本です」


「ありがと」


「い、いえ!」


 私がそう受け取ると、持ってきてくれた冒険者はいそいそと去っていく。

 ……アマーストの仕打ちに対して慈悲深い対応をしたはずなのだが、釈然としない。

 そんな思いを抱きつつも、私はギルドの奥を指しながら、ジークに告げた。


「それじゃ、魔剣についてもう少し聞かせてくれない?」


「……え?」


 その私の言葉に、一瞬ジークが目を見開き、呆然と告げた。


「……もしかして、このためなのか?」


「何がよ?」


「俺に時間を作るために、アマーストを引っ張て来てくれたのか?」


 ……どうして、そう改めて聞いてくるのだろうか?


 急に恥ずかしくなってきた私は、頬に熱が集まっているのを感じながらも、ぶっきらぼうにジークの手を引く。


「……いいから、行くの。ほら、迷宮都市の本もあるし、少しづつ調べるわよ! ここなら、アマーストが失態を起こしても、対処できるでしょ!」


 そうしてずんずんと進んでいくが故に、その時の私は気づかない。

 手を引っ張り前に進む私を、ジークが愛おしげに見つめていたことを。


「……本当に敵わないな」

次回から、ロナウド方面に視点が移ります。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 結構多くの人が同じ間違いをしてるのですが、あの場合シャットダウンではなくシャットアウトです
[一言] アマーストが可哀想に思えた。
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