第77話 生贄確保
更新遅れてしまい、本当に申し訳ありません……
ライラ視点になります!
そう理解した瞬間、私の頭は切り替わっていた。
一体どうすれば、ジークの望む状況に持っていけるのか、と。
今の私なら、昔と違ってジークの役に立てるはずだ。
そのために私は知識を蓄えて来たのだから。
しかし、その私の思考はすぐに大きな問題にぶつかることになった。
「……時間が足りない」
今の状況では、ジークが鍛錬する時間さえまともにとれない。
これだけの冒険者がいる状況では、私とジークの二人ががかりでも、管理は大きな負担なのだ。
ジークと私以外にせめて一人、冒険者を管理できる人間はいないだろうか?
「でも、誰かいたかしら」
冒険者が素直にしたがう人間から選ぶならば、ラルマさんとロナウドさんの超一流冒険者、そしてラウストとナルセーナだろう。
だが、ライラさんとロナウドさん超一流冒険者は、この迷宮都市の中心かつ、いざというときの切り札だ。
こんな雑務に手を煩わせて、有事に対応できなくする訳にはいかない。
そして、ラウストとナルセーナにいたっては冒険者を管理する知識がない。
「……迷宮都市の冒険者で、そんな知識を持っている人間はいないわよね」
それに、下手な冒険者に任せれば暴走を誘発させる恐れもある。
基本的に冒険者は学のない存在だ。
こういう状況では、とてもじゃないが頼めない。
ほかに考えられる手段としては、街の人に頼むという手もある。
商売人である彼らなら、基本的な学はあるだろうし、従業員を管理した経験ならあるだろう。
「でも、冒険者は基本的に荒っぽいからし……」
迷宮都市に住んでいる以上、荒れごとにはなれているだろうが、あくまで彼らは一般人。
この迷宮暴走かで、冒険者を制御することを求めるのは酷だろう。
……だとすれば、一体どうすればよいのか。
「はぁ。せめて、ギルド職員が残っていれば良かったのに」
今は生きているかも分からないギルド職員。
まさか、彼らを惜しむことになるとは思わなかった。
そう思いながら、私は嘆息を漏らす。
ギルド職員達は、今改めて考えても愚かとしか思えない選択をしたものだ。
迷宮都市に残っていれば、少なくともまだ確実に生きてられた上……遠慮なく使い潰せたのに。
突然私の背後、声が響いたのはそんなことを考えていたときだった。
「……はぁ、はぁ。ようやく見つけたわ!」
その声は聞き覚えのある……具体的には一時間ほど前に聞いた声だった。
その声に、今更ながら私はジークの元に行った本題、アマーストのことを伝え忘れ得ていたことを思い出す。
だが、そんなこともうどうだっていいだろう。
──何せ、現在私の頭には全てを解決できる考えが、浮かんでいたのだから。
声の主、アマーストは何の反応も返さないことにじれたように、私の肩をつかむ。
「お願いよ、私を保護して欲しいの! もちろん私にできることなら何でもするから……」
「その言葉に嘘はないわね?」
「……え?」
満面の笑みで振り返った私は、アマーストの手をがっちりと掴む。
前回と急変した私の態度に、アマーストはたじろぐ。
けれど、私はその手を離さない。
絶対に離してなるものか。
「分かったわ。もちろん条件付きだけど、冒険者が四六時中貴方のそばにいるように手配して上げるわ」
「……っ!」
私の態度に警戒していたアマーストだったが、その言葉を聞いた瞬間抵抗をやめた。
不信感が顔から消えたわけではないが、それ以上の期待がその顔に浮かんでいる。
そして、恐る恐ると言った様子で口を開いた。
「本当に冒険者が守ってくれるの?」
「常に貴方のそばにいるよう手配するわ」
実際に、周囲に冒険者がいるようになる。嘘ではない。
……まあ、嫌がろうが泣きわめこうが、冒険者のそばから離れなくなるが。
そんな私の内心を知る由もないアマーストの顔が、徐々に笑みに変わっていく。
「証拠は、あるの?」
「あら、そんなに疑われるなんて心外だわ。なんなら、すぐに冒険者ギルドに行きましょうか?」
……冒険者ギルドに行けば、もうアマーストも逃げられまい。
そんな私の内心などつゆ知らず、アマーストは満面の笑みになる。
「ほ、本当に! 分かったわ、私のできる限り頑張るわ!」
「ええ、死ぬ気でお願いね」
「……え?」
「えほんっ! いえ、何でもないわ。よろしくお願いするわね。すぐにでも、冒険者に貴女を守らせるわ!」
何せ、貴重な生け贄……冒険者の管理を任せられる存在だ。
絶対に死なせはしない、というか死んでも働かせる。
……一瞬、私を見るアマーストの表情に嘲笑のようなものが浮かんだのは、その時だった。
それは一瞬で、すぐにアマーストは表情を愁傷なものに変える。
しかし、一度アマーストの悪意にふれているが故に、私にはアマーストの思考が手に取るように理解できた。
アマーストは私を甘いと嘲っているのだと。
もしかしたら、私の立場を奪ってやろうとでも考えているのかも知れない。
少し考え深くなっても、性根は変わらずか。
そう思いつつも、私はなにも気づいていない振りをして、アマーストに笑いかける。
「それじゃ、行きましょうか」
「よ、よろしくお願いします」
──そうして私は、使い潰しても一切良心の痛まない駒を手に入れた。
次回更新は、24には。頑張ります……。
次回で、ライラ視点が終わり、ロナウド視点に移行する予定です。
早く迷宮暴走編開始したいのに、伏線整理が……。




