第74話 アマーストの襲来
長々と更新お休みしており、申し訳ありません……!
二章佳境に入るにあたり、色々と悩んでいたのですが、今回から一週間一話程度の更新ができるよう頑張らせて頂きます!
よろしくお願いいたします!
ライラ視点となります!
私に向けて、笑うアマースト。
私はその姿から目を離せなかった。
まさか、アマーストがいるなど考えていなかったゆえに。
「……貴女、迷宮都市に残っていたの?」
私は思わずそう呟いてしまう。
考えなしではないが、自分のことしか考えていない。
それが私の抱くアマーストへの印象で、それ故にギルド職員にそそのかされたら必ず逃げ出すと思っていたのだ。
そんな私の想像が外れたと告げるように、アマーストは大きく顔を歪めた。
「あんな考えなしの逃走について行くわけないじゃない! 判明しているだけでも二つの迷宮を攻略している超一流冒険者と、強化された魔獣を振り切っていく計画なんて、考えが足りていないわ」
すらすらと計画の粗を指摘するアマースト。
その姿に驚きつつも、私は素直に耳を傾ける。
「それに万が一逃げれたとしても、私達みたいな存在は正規のギルド職員に捨て石にされておしまいよ。それがギルド職員のいつものやり口なんだから」
そう自慢げに語り終えたアマーストを見ながら、私は思う。
アマーストは以前と変わっていることを。
アマーストが語った超一流冒険者と魔獣についての知識。
それはきちんと調べねば分からぬものだ。
ギルド職員達はそれらを調べなかったからこそ、無謀きわまりない脱出とも知らず行った。
……以前までのアマーストはそれらのギルド職員と変わりない人間だった。
教養も知恵もあるが、それに慢心するがゆえに視野が狭くなる。
こうだと決めつけ、それを元にことを起こす。
ゆえに思い違いをした瞬間、どんな天才的な策謀も塵とかする。
ラウストを無能だと嘲る冒険者の言葉を信じ込み、すべてを失うことになったアマーストは、それを体現していると言っていいだろう。
そのときの姿を間近で見ることになったからこそ、私は目の前にたつアマーストの変化を良く理解できた。
一度すべてを失ってから勉強をし直したというところか。
……それが望んで行ったことか、しないとどうしようもない環境にいたからかは判断できないが。
とにかく、能力的には飛躍的にあがっているかもしれないと、私は内心感心する。
その私の内心を読んだように、アマーストは笑みを浮かべ口を開く。
「そう言えば、貴女に私はギルド職員の最低なやり方をしたことがあったわね。……今から考えたら、信じられないような最低のやり方で」
──ただ、その内面は同じままらしい、次の瞬間私はそのことを理解することになった。
「本当にごめんなさい、あのときの私はどうかしていたの。いえ、謝って済むことではないわね」
アマーストはそんなことをいいながら、俯いてみせる。
だが、その目が冷徹にこちらを伺っていたのを私は見逃していなかった。
一度、はめられたことのある私にはその目で、アマーストがなにを考えているのか理解できる。
即ち、その目は何とかして人を自分の思い通りにしようと計算している目だと。
「だから、せめて償いたいの。ねぇ、ライラ貴女は今迷宮都市の中心人物なんでしょう? だったら、頼みがあるの。私を、貴女の元で働かせて欲しいの」
……一体どうして、一度徹底的に利用した相手に信頼してもらえると思うのか、思わず私は聞きたくなる。
そんな私の内心など知るよしもなく、アマーストはさらにヒートアップする。
「貴女の力になりたいの。もちろん、これで許されるなんて思わないわ! でも少しずつでも貴女に償いたく……」
「で、なにが望みなの?」
そんなアマーストの言葉を遮り、私は問いかけた。
その瞬間、わずかにアマーストの表情は乱れる。
しかし、すぐに悲しげな表情を装ってみせる。
「そんな……! 私はただ償いたくて!」
「だったら、私は許せそうにないからすぐに迷宮都市から出て行ってくれない?」
「……なっ!」
その言葉に、今度こそアマーストの表情が完全に崩れる。
露わになったのは苦々しさを隠そうともしない、狡猾な女の顔。
それを見ながら、私は思わず嘆息を漏らす。
「変な擬態はやめてくれないかしら。最初からその顔できなさいよ」
「……私を迷宮都市から追い出すの?」
「いいえ。あんなの化けの皮をはぐための嘘に決まってるじゃない」
私の言葉に、さらにアマーストの表情は苦々しさを増す。
だが、それを無視して私はアマーストに問いかける。
「それで、本当の目的はなんなの?」
「……私を保護して欲しい」
少し迷ってからアマーストが告げた言葉に、私は思わず眉をひそめた。
「保護もなにも、貴女に危害を与える気はないわよ?」
もちろん、恨みがないとは言わない。
とはいえそれをはらそうとする気など、私にはなかった。
そんなことをやっている暇などない。
けれど私の言葉に、アマーストはさも悲痛そうな表情を浮かべる。
「……冒険者と村の人たちから、守って欲しいの。実は暴力を振るわれていて」
「その割には、綺麗な身体ね」
「……っ!」
「ただ少し冷たい視線を送られた程度で、相手に暴力を振るわれた、ね。そんなのじゃ、誰も騙せないわよ」
私の言葉に、アマーストの顔が凍りついた。
そのときになれば、私はアマーストがやってきただいたいの想像がついていた。
即ち、怖くなってきたのだろうと。
現在の迷宮都市は未曾有の事態にある。
そして、そんな中逃げ出したギルド職員を、迷宮都市に残った人間は憎悪していると言っていい。
そんな状況で、元ギルド職員であるアマーストに恨みがいかないわけがない。
普段ならともかく、迷宮暴走の現状では、いつ鬱屈した気持ちの矛先にされてもおかしくはない。
その状況に危機感を抱いたからこそ、アマーストは私に保護を求めてきたのだろう。
そう理解して、私は冷ややかに告げる。
「悪いけど、貴女の境遇は自業自得にしか思えないわ。だから、私には保護する気はないの」
私の言葉にアマーストの表情が歪む。
だが、私は少しの罪悪感も抱くことはなかった。
たしかに、アマーストが逃げたギルド職員と同一視されているのはいささか理不尽と言えるかもしれない。
けれど、アマーストのギルド職員時代の所行を知る私からすれば、当然の報いにしか思えなかった。
間違いなく、冒険者達の中にはアマーストの被害に合った人間がいるのも確実なのだから。
「ま、待って!」
「いやよ」
だから私は、アマーストの制止を無視して歩き出す。
ただ、最後に振り返って一つだけ教えてあげることにする。
「まあ、心配しなくても、冷遇されるだけで見捨てられはしないわよ。……貴女だけを見捨てる余裕なんてないだろうし」
今迷宮都市は、すべての人間を助けようと一丸に動いている。
そんな中で、一人だけ見捨てられることはないだろう。
少なくとも、アマーストも防衛の邪魔をしていないのだから。
「ただ。……貴女のために命をかける人間はいない、それは頭に入れて起きなさい」
私の言葉に、アマーストの表情に焦燥が浮かび、何かを言おうとする。
それを無視して、今度こそ私はその場から立ち去った。
告知が遅れてしまいましたが、この度治癒師コミカライズ二巻が12月15日に発売決定致しました!
何と、コミカライズ一巻の重版しました!好調なコミカライズも応援して頂けますと幸いです!




