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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第73話 深夜の追跡者

この度、治癒師四巻が8月28日、本日発売です。

ライラ視点です。

「……はぁ」


 そろそろ騒ぎも治まってきた時間。

 いつもにまして人影がない路地にて、私、ライラは重い溜息を漏らしていた。


 思い出すのは、少し前の光景。

 ラウストと、ナルセーナが仲睦まじく過ごしていた姿。


 別に意図した訳じゃないが、私とアーミアは彼らの逢瀬を覗くこととなってしまった。

 アーミアが覗くことになった理由が、私に請われてラウストの場所に案内してくれたことだったのを考えれば、全ての責任は私にあるだろう。


「……ナルセーナには悪いことしちゃったわね」


 顔を真っ赤にして、今までにない様子で慌ててていたナルセーナ。

 その姿を思い出し、私は深々と溜息を漏らす。

 一方のラウストは落ち着いていたが、その内心私達に対して怒っていてもおかしくはない。


「夜も遅いし、ラウストに話をするのを明日にすれば良かったなぁ……」


 私がラウストを探していた理由、それは病室に多くの冒険者がやってきたからだ。

 その冒険者達をどうするか、ラウストに相談したかったから探していたのだが、もう少し気を使うべきだった。

 ラウストから、ロナウドさんとその件には既に話し合っていると聞かされたことが、私の中でよりその思いを強める。


 こんな状況であれば、思いあっていた二人の距離が縮まるのはおかしな話ではない。

 そんな状況を邪魔してしまうなんて、本当に二人に申し訳ない。


 けれど、そう思いながら、私の頭を支配するのは別のことだった。


「はぁ。本当に私もどうしようもないわね」


 私の口からもう一度、自己嫌悪のこもった溜息が漏れる。


 今でもなお、私の頭には鮮明にナルセーナの赤い顔が張り付いている。

 確かに、二人に対して申し訳ないと思う気持ちもある。


「……羨ましい、なぁ」


 しかし、それ以上に私の心には、二人を羨む感情が存在していた。


 申し訳ない、そう思いながらも一切消えないその感情。

 その感情に、私は罪悪感を抱かずにはいられない。

 二人よりも年上のくせに、なんて情けないんだと。


「でも、今の迷宮都市じゃ仕方ないんじゃないかしら」


 そう呟く私の目に、飛び込んできたのは過度に密着する二人の人影だった。


「……今日、眠れそうにないの」


「俺がそばにいるよ」


 人目も憚らず、そんな言葉を交わす二人の前を、羞恥心に背を押され、私はそそくさと横切る。

 それから、私がようやく速度を緩められたのは、少ししてからだった。


「せめて、室内でやりなさいよ……」


  誰もいない中、私の口からそんなことが漏れる。

 まるで見せつけられたような気がして、私の表情はいつの間にか不機嫌なものとなっていた。

 もちろん、これが羨みからくるただの被害妄想であることぐらいわかっている。


 けれど、私は何度もカップルのあんな姿を見せつけられて、まるで何も気にせずいられるような人間ではなかった。


「あそこにもいる……」


 少し先、イチャつくカップルの姿を発見した私は、さりげなく行き先を変えつつ、表情をげんなりとした物に変える。

 そう、現在迷宮都市内では、多くのカップルが見かけられるようになっていた。

 いや、それは決しておかしくはないのかもしれない。

 何せ今は明日の命もしれない状況。

 子孫を残そうとするのは、人間として当然の習性だ。


 けれど、この状況は私にとっていささか、いやかなり目に毒だった。


「……はぁ」


 憂鬱な溜息を漏らしながら、私はもう一度内心で呟く。

 今の迷宮都市では、こんな他のカップルを羨む気持ちになっても仕方ないと。


 もし、ラウストとナルセーナの逢瀬を偶然見てしまっただけならば、罪悪感で私は自分の下心を押し込められたかもしれない。

 だが、今の迷宮都市では押し込めるはたから、次々とカップルを見かけるのだ。

 これでは、どんな聖人だって自分の下心を意識せずにはいられないだろう。


 そう内心で言い訳しながら、私は呟く。


「私も、ジークと一緒にいたかったのになぁ……」


 現在、夜遅くでありながら、冒険者の管理のために雑務をこなしているジーク。

 そのことを知っているのに、なんて場違いなことを考えているのだろうとも思う。

 しかし、だからといって気持ちを抑えられるならば、私は今まで苦労していなかった。


 ……だからといって、今からジークに押しかけることができないことが、今の私の悩みの種だった。


「さすがに、今から押しかけられないわよね」


 ──冒険者は俺が見るから、ラウストを診た後ライラは休んでくれていいから。


 ラウストを治療した直後、ジークに告げられた言葉を思い返しながら、私は月を見上げる。

 そのジークの言葉は、純粋に私を休ませようと思ってのものだ。

 そう分かるからこそ、今から自分の勝手で押しかけるなんて駄目だと理解して、私は嘆息する。


「せめて、何か口実さえあればいいのに……」


 そんなどうしようもないことを考えながら、私は宿を目指して歩く。


 ……ふと、背後から明らかに私を追いかけてくる足音が響いてきたのはその時だった。


 不埒なことを考えた冒険者だろうか?

 そう警戒しながら私は振り向き、そしてそこに立っていた人物に驚くことになった。


「ねぇ、貴女今は迷宮都市の中心人物なんでしょ? だったら、頼みがあるの」


 そんな私の反応をまるで気にすることなくその人物はそう言葉をまくしたてる。

 その無茶な態度に、嫌な思い出を意識させられる。

 目の前の彼女は、初めて会った時から無茶な態度で私に押しかけてきたのだ。


 だが、現在の彼女の姿はその時からは比べ物にならないボロボロの衣服を身にまとっていた。

 まさか、もう会うことがあると思っていなかった私は、少し困惑しながらもカノジョの名を呼ぶ。


「……アマースト?」


 その私の声に彼女……元ギルドの受付嬢アマーストは、笑みを浮かべた。

長々と更新遅れており、申し訳ありません。

そして、発売報告についても遅れてしまい、申し訳ありません。

このご時世の中、治癒師四巻発売まで辿り着けたのは、一重に応援して頂ける方々に囲まれたからです。

本当にありがとうございます。

四巻には、2万字以上のラウストの過去の番外編書き下ろしも収録されており、カカオ・ランタン先生には今回も素敵なイラストを書いて頂きました。

良ければ、手に取って拝見して頂けましたら幸いです。

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「……ナルセーナには悪いことしちゃったわね」  顔を真っ赤にして、今までにない様子で慌ててていたナルセーナ →ナルセーナに罪悪感を覚えるナルセーナ。意味不明 いや、喋ってる人と地の文の人は違う人…
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