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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第71話 ナルセーナの後悔

治癒師コミカライズ一巻発売中です!

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 まるで想像もしていなかったナルセーナの質問に、僕は一瞬言葉を失う。

 とはいえ、ナルセーナが役にたっているかどうか、そんなことは答えるまでもなもない話だった。


 その僕の内心を見抜いたように、ナルセーナは笑う。


「……いえ、こんな尋ね方は駄目ですね。お兄さんは役に立たないなんて、言うわけないですもんね」


 だが、そう告げたナルセーナの顔に浮かぶのは、言葉に似合わない消沈した雰囲気だった。


「お兄さんは優しいですから」


「それだけで、僕は役に立っているなんて言いはしないよ」


 そう告げるナルセーナに、僕は反射的にそう言い返した。


「こんなことに関しては、ただの情けでいい加減なことは言わない。本当にナルセーナに今まで助けられてきたと思うから、僕は言っているだけだよ。そのことについてはきちんと誤解しないで欲しい」


「……ありがとうございます」


 その僕の言葉に、ナルセーナは嬉しそうに微笑む。

 けれど、それだけだった。


「お兄さんにそう言ってくれると、本当に嬉しいです。それに私も、自分が他の冒険者よりは強いとは思っています」


 言葉を重ねていくごとに、ナルセーナの顔から笑みが消えていく。

 それに気づきながらも、最終的には泣きそうにも見える表情で、ナルセーナは告げた。


「……でも、お兄さんの横にたって戦えていたか、そう頷ける自信が私にはないんです」


「そんなことない!」


 咄嗟に僕は、ナルセーナの言葉を否定する。

 そのナルセーナの言葉だけは、認めることができなかった。


「今回のフェンリルも、僕だけじゃ倒せなかった。ナルセーナが来てくれなかったら、僕はあのままフェンリルに倒されていたよ。ロナウドさんだって、僕だけじゃなくナルセーナを含めて、今回の功労者だと言ってくれたんだ」


 そう、フェンリルの時だって僕一人では、時間を稼ぐことしかできなかった。

 それが勝てたのは全て、ナルセーナが助けてくれたからだ。

 しかし、そう訴える僕を真正面から見つめるナルセーナの目に浮かぶのは、変わらぬ悲しみだった。


「ごめんなさい、お兄さん。私はその言葉を受け取れないです。……だって、私がオーガを足止めできていれば、お兄さんが追い込まれることも、その後倒れることもなかったんですから」


「……っ!」


 その言葉に込められた深い後悔に、僕は一瞬言葉を失う。


 けれど、それは一瞬のことだった。


「違うよ、そんなことはない」


 すぐに我を取り戻した僕は、ナルセーナの言葉を否定する。

 たしかに、あの時オーガが来たことで、僕は怪我を負わざるを得なかった。

 とはいえ、あの時に関しては正直僕だってオーガを足止めできた自信なんてないし、ナルセーナを責める気なんてない。

 それに、オーガのことに関してはフェンリルを倒したことで、相殺されていると考えていいだろう。

 そして、その後僕が倒れたのに関しては、《ヒール》の効果が弱いという不幸と、ぎりぎりまで勝負をつけることにこだわった僕のミスでしかない。


「ナルセーナは間違いなく最善を尽くしてくれていた。僕が選択を間違えて倒れただけで、ナルセーナには何の非もないんだ」


「優しいですね、お兄さんは」


 ……だが、その僕の言葉にナルセーナは悲しげに笑っただけだった。


 そのナルセーナの態度に、僕は自分の言葉がただ慰めとしか取られていないことに気づく。


「待って、ナルセーナ。本当に慰めとかじゃなくて……」


 けれど、その僕の言葉をナルセーナは聞くことはなかった。

 僕の言葉を遮り、ナルセーナは告げる。


「別に、そんな必死に慰めようなんてしなくていいんですよ、お兄さん。私は分かっていますから」


 それは、隠しきれない震えが混じった声だった。

 目に溜まった涙を、必死に笑顔で隠そうとしながら、ナルセーナは告げる。


「私がお兄さんの横に立つ実力がないことぐらい」


「そんなことない!」


「いいえ。だってもう、お兄さんは私がいなくても充分強いじゃないですか」


 そのナルセーナの言葉は穏やかで、けれど強い後悔が込められて、僕は思わず言葉に詰まる。


 ……一体どうすれば、そのナルセーナの後悔を和らげるのか、僕は分からなかった。


 強さなんて関係なく、僕はナルセーナに傍にいて欲しい。

 なのに、その気持ちはナルセーナにまるでつたわることはない。

 このまま黙っていれば、肯定と取られてしまうだろう。

 そう分かっているのに、僕は何も言うことができなかった。


「そんな顔、しないでください。別に責めているんじゃないんですから」


 そんな僕へと、震えた声でナルセーナが告げる。


「全ては、全然使い物にならなかった私のせいなんですから」


 ……違う、ナルセーナが使い物にならないわけがない。

 そう内心で叫びながら、僕はどうすればナルセーナに話が通じるか考える。

 どうすれば、僕の思いをナルセーナが理解していくれるのか、を。


 そんな僕の内心を知る由もなく、ナルセーナは力ない笑顔で続ける。


「最初から、ずっとお兄さんが努力していたのに、使い所が限られているって、勝手に慢心して。……こんなもう少しで取り返しのつかないミスをしてしまって」


 その言葉の途中、嗚咽が混じる。

 抑えきれなくなった涙を零しながら、ナルセーナは告げる。


「……本当にごめんなさい」


「ちが、僕は」


 その謝罪に、何とか言おうとしてそれでも、僕は何を言えばいいのか分からない。

 どうすれば、今のナルセーナに伝わってくれるのか分からず、それ以上言葉がでない。


 完全に黙ってしまった僕へと、ナルセーナは途切れ途切れでありながら、必死に言葉を紡ぐ。


「もう一つだけ、聞かせて下さい」


 涙に濡れた目をこちらに向けて、ナルセーナは問いかける。


「お兄さんにとって、私は必要ですか……?」


 今の僕は、完全に理解していた。

 本当にナルセーナがしたかった質問は、これなのだろうと。

 そして。


 自分がナルセーナに何を伝えるべきなのか、ようやく僕は理解した。


「ふふ、そっか。ああ、そうだった」


 どうしようもなく簡単なことに気づかなかった自分に、僕は思わず笑ってしまう。

 自分は肝心なことに気づいていなかったと。

 本当に僕がすべきなのは、ナルセーナの後悔を和らげることじゃない。


 ──僕がどれだけナルセーナを必要としているか、それを伝えることなのだ。


「おにい、さん?」


 突然笑いだした僕に対し、ナルセーナは驚きを隠せていない。

 その姿を見ながら、僕はある話をすることを決める。

 今がその時なのだと、そう判断して。


「突然笑っちゃってごめんね。でも少しだけ話したいことがあるんだ。話させてもらっていいかな?」


 悪意はない、そう伝えるようにナルセーナの頭を撫でながら頼むと、ナルセーナは無言でこくりと頷く。

 そんなナルセーナに、僕は始める。

 ずっと前からいつかナルセーナに明かそうと思っていた──本来なら、告白の際にしようと思っていたその話を。

ナルセーナのネガティブの理由は、二度もラウストが死にかけたせいです。

つまり、実際のところラウストが全面的に悪かったりします。

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