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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第66話 全ての元凶

ニコニコ静画様の方が更新されておりますので、よろしくお願いいたします!

 窓から部屋を後にした僕が降り立ったのは、冒険者ギルドの裏。

 迷宮都市の中でも、人通りの少ない場所だった。

 日が落ちた後であることもあり、目のつく範囲に人影は見つけられない。

 それでも念を入れて僕は、周囲を確認する。

 せっかくライラさんが助けてくれたのに、無駄にする訳にはいかないと。


「よし、冒険者の姿はないな」


 ようやく僕は一息つくことができたのは、その後だった。

 正直なところ、迷宮暴走の最中にこんなことで騒ぐことになるとは、想像もしていなかった。

 ……ライラさんが、冒険者のことを受け持ってくれなければ、一体どうなっていたか。

 そう考えて、僕は思わず顔をひきつらせる。


「本当にライラさんには頭が上がらないな」


 いつか本当に、恩返しをしないとそう思いながら、僕は今もライラさんがいるだろう部屋へと目をやる。

 早くナルセーナを見つけないと、そう思いながら。


「で、どこに行けばいいんだろう」


 ……ナルセーナがどこにいるか分からない。


 そんな大きな問題的に僕が気づいたのは、その直後だった。

 ライラさんにナルセーナとどこであっていたのか、聞いておけば良かった。

 今さらながら、僕はそんな後悔を抱く。


 だが、今さら部屋に戻って聞く訳にもいかない。

 どうしようか、少し悩んだ後僕が顔を向けたのは、未だ冒険者達の騒ぎが聞こえる広場の方だった。


「広場にいくしかないか……」


 ナルセーナがどこにいるのか分からない今、ます探すべきは人の多い場所だろう。

 もちろん、冒険者達もかなりいるだろうが、この騒ぎだ。

 静かにしていれば、見つかることもないだろう。

 そう判断した僕は、ゆっくりと騒ぎの中心へと向かって歩き出した。




 ◇◆◇




 大量の魔道具が使われているからか、広場は煌びやかに照らされていた。

 大量の料理に、酒。


 そして、街の人や冒険者など関係なく、騒ぐ人々。


「……凄いな」


 人影から、紛れながらその光景を目にした僕は、そう小さく呟いていた。

 僕は決して、騒ぎごとが得意な性格ではない。

 そもそも騒ぎに誘われるようなこともなかったが、それ以上に性格的に騒ぐことが得意ではなかった。

 それでも、目の前の光景を見る僕は、自然と笑みを浮かべていた。


 ──目の前の光景は、自分が迷宮都市を守り抜けた証拠だと、分かったからこそ。


 ナルセーナから、防衛戦は限りなく最善の形で切り抜けられたとは聞いていた。

 そして、押しかけてきた冒険者達の姿からも、あんな気の抜けるやり取りができるくらい余裕があることは、分かっていた。

 けれど、その証拠を直接目にして、僕はようやく心の底から実感する。


 僕達は生き抜いたのだと。


 もちろん、全てが終わった訳じゃないのも、被害がなかったわけじゃないこともわかっている。

 例えそうだとしても、今ぐらいはこうして騒ぐべきなんだろう。


「くそ! 俺があの時……!」


「いいから飲め! 今は必死に足掻け! 死んだやつの分まで足掻け!」


「くそくそくそが! 絶対に死んでやるか! お前がくれた命を無駄になんかしねぇからな!」


 視界の隅、泣きながら酒を煽る男と、それを慰める男の二人組を見て、僕はそう思う。

 今は傷を、心を癒すべき時なのだと。


 全ては生き抜くために。


「……え?」


 僕はそう思いながら、横を通り過ぎようとして、あることに気づいたのはその時だった。


 その二人組が、冒険者と街の人の二人組であることに。


 確かに周囲の人達は、街の人、冒険者関係なく騒いでいる。

 けれど、その二人組に関しては勝利を分かち合う以上の親交が感じられて、それ故に僕は驚きを隠せない。

 街の人達が冒険者を恐れ、街の人を冒険者が見下していることを僕は知っていたからこそ。


「ああ、そういうことか」


 だが、冒険者の方が若い男、迷宮孤児だと分かった時、僕の驚きは納得に変わっていた。

 迷宮孤児ならば、こうして街の人と急速に仲を深めてもおかしくないと。


 迷宮孤児は街の人に対する偏見を持っていない、なんていうわけではない。

 それどころか、外から来た冒険者に比べて、迷宮孤児の方が強く見下しているかもしれない。


 ……だが、それはそれしか生きる道を知らないがゆえの行為だと、僕は知っていた。


 迷宮孤児は、ただ人との触れ合いを知らないだけなのだ。

 奪い、奪われを繰り返す迷宮都市冒険者のコミュニティで生きてきたがゆえに。


 けれど、知らないだけでその実、誰よりも迷宮孤児は人との触れ合いを求めている。

 そのことを、自分の経験と、マーネル達と関わった経験から、僕は知っていた。


 二人の邪魔になってはいけないと、僕はそこから静かに立ち去る。

 そして、当初の目的通りナルセーナを探しながら広場を回る僕は、街の人と若い冒険者の親交があの二人だけでないことに、気づくことになった。


 楽しげに会話を交わす、女性冒険者と、宿屋の看板娘。

 今回の戦いのことでも話しているのか、剣を見せながら子供達と会話する男性冒険者。

 そして、消耗したエネルギーを回復しようと飲み食いする冒険者に、食事を持っていく宿屋の女将。


「……いい光景だな」


 その光景に、僕は笑みを浮かべていた。


 ──迷宮暴走から、こんな親交が生まれるなど思ってもいなかった、と考えながら。


 一見、排他的にも見えつつ、それでも命を救ってくれた恩を絶対に無下にしない街の人達。

 その人達ならば、いつか迷宮孤児達が気を許すようになってもおかしくなかったのかもしれない。


 しかし、この迷宮暴走という未曾有の災害がなければ、こんな大規模な親交が起きることなんてなかっただろう。

 何とも不思議な組み合わせに驚きながら、僕は確信する。


 この親交は、迷宮孤児にとって大きな転機となることを。


 この光景は、僕がフェンリルを倒せていなかったらものなのか。

 ふと、そう僕が気づいたのは、そんな時だった。

 決して、僕が大きな何かをしたとなんて思っていない。

 ロナウドさんが一人で超難易度魔獣を引き受け、師匠は迷宮都市に障壁を築いたことを考えれば、僕の功績など微々たるものだろう。

 それでも、あの時僕がフェンリルを止められなかったら、ナルセーナが来てくれなかったら、冒険者の被害はもっと大きくなっていただろう。

 あの時の僕の決断は、無駄なんかじゃなかった。


 ──僕が、ナルセーナが命懸けで成したことが、この光景に繋がっている。


「……また、ナルセーナと話したいことが増えたな」


 そう呟き、僕は再度目的の人物を探し歩き出す。

 その足は、いつの間にかさらに早くなっていた。


 特徴的な青髪を探しながら、僕は広場を巡る。

 騒ぐ人々の横をすり抜け、時には気づかれそうになってひやひやしながら、目的の人物を探す。


「……見つからない」


 だが、十数分の時をへてもなお、僕は目的の人物を見つけることができていなかった。

 たしかに、広場の人だかりを考えれば、特定の人間を探すのは困難かもしれない。

 それでも、ここまで探しても見つからないというのは、ナルセーナはここにはいないのではないか。

 特徴的な青髪を一切見かけなかったことを踏まえ、僕は今さらながらその結論に至る。


「はぁ……。さて、どうしようか」


 そして、その結論に至って、新たに出てきたもんだいに対し、僕はそう溜息を漏らすことになった。

 今まで広場を巡ってわかったことだが、この広場以外では人の集まっているところはない。

 それは、この広場にいない人間は個人で時間を過ごしていることを示している。


 ……つまるところナルセーナを探す当てがないのだ。


「さすがに今宿屋にいるとは思えないしなぁ……」


 何時も止まっている宿屋の主人が、赤い顔で飲んでいるのを見ながら、僕はそう呟く。

 この様子では、未だ宿屋は空いているとは思えない。


 そして、現状、ナルセーナを探す手掛かりが一切ない、そう悟った僕はある決断を下した。


「知っていそうな人、マーネル達に聞くしかないか」


 そう言って、僕が見上げた先には、騒ぐマーネル達とそれを取り囲む冒険者の姿があった。

 広場を回って小耳に挟んだ話から、僕はマーネル達が防衛戦でかなり活躍していたことを耳にしていた。

 おそらく、その結果他の冒険者に慕われて、楽しんでいるところなのだろう。

 そんなところに行って、ナルセーナの心当たりについて聞くのは水をさすようで罪悪感を覚える。


「仕方ないか……。こんな時に、冒険者に囲まれるのは避けたいしね」


 しかし、今はどうしようもないと判断した僕は、マーネル達に話を聞くことに決め、そちらへと歩き出した。


「……それにしても、どうしてこんなに僕に対する評価が過剰になっているんだろう」


 マーネル達へと歩きながら、僕が思い出すのは、広場を巡る中耳にした、自分への過剰な評判だった。


 超一流冒険者に次ぐ実力だとか。

 以前から百人を超える冒険者に襲われても、簡単に撃退していたとか。

 超難易度魔獣ヒュドラを撃退したのも本当で、いとも容易く討伐したとか。


 一部、本当のことが微妙に脚色された話が広がっていて、僕は気まずさを隠せない。

 部屋に押しかけてきた冒険者といい、広場での話しといい、いくらフェンリルを倒していたとしても過剰過ぎないだろうか。


 そう考えながら僕は、マーネル達の方へと歩いていく。

 そして気づけば、いつの間にか僕はマーネルが大声で話していることもあるが、その会話が聞こえる程に近づいていた。


「……さんは、本当にそういう人なんだ!」


 そこでは、座った冒険者に囲まれたマーネルが、何かを必死に冒険者へと訴えていた。


「随分盛り上がっているな……」


 一体何を話しているのだろうか。

 そんなことを考えながら、僕は酔いだけではなく、興奮で顔を赤くして叫ぶその集団に、近づいていく。


「そんな! 俺はあの人に対してあれだけの仕打ちを……!」


「お、俺もだ。どうしたら……」


「……そうか。それは決して許されることではない。だが気に病みすぎることはない」


 そんな僕に気づくことなく、その集団はさらにヒートアップしていく。


「なぜなら、ラウストさんは器の大きい人間なのだから!」


「え?」


 そして、僕の名前が出てきたのは、突然のことだった。


 一瞬呆然として、けれどすぐに僕は気づく。

 自分の名前は、突然出てきたのではなく、ずっとマーネル達は自分について話していたことを。


 ……だが、どうすれば自分の名前でここまで熱くなれるのかと。


 呆然と立ち尽くす僕をしり目に、マーネルの言葉はさらに熱を帯びる。


「今までやってきたこと、それが許されるものだと俺は言わないし、言う気もない。だが、一つだけ言えることがあるのなら、ラウストさんは決して度量の狭い男ではないということだ。……そう、俺が謝りに言った時も、何一つ文句も言わず許してくれたほどに」


 ふと、僕が嫌な予感を覚えたのはその時だった。

 頭に浮かんできた考えに、僕は口元をひきつらせる。


「だから、今までのことを悔いているやつは、今すぐに謝ってこい! すでに俺の話を聞いてすぐ、謝りに言った冒険者もいるぞ!」


 ──元凶はお前達か!


 部屋に押しかけてきた大量の冒険者達と、おおー! とか歓声を上げながら、ギルドに突撃していく冒険者の姿が、僕の頭の中繋がっていく。

 その瞬間、全てを理解した僕は、顔を手で覆いながら、夜空を見上げていた。


「謝りに行くのが苦手なら、ラウストさんの勇姿を広めるだけでも効果があるはずだ!」


 力説するマーネルの言葉に、僕はさらに理解する。

 ……やけに広場で聞く、僕の評判もマーネル達が流したものだったと。


「はぁ」


 あまりにも気の抜ける全ての理由に、僕は思わず嘆息を漏らす。


 ……なるほど、最初にやってきた冒険者達の理由がやけに稚拙だったのも、マーネル達の話を聞いて発作的に思いついたからか。

 僕は思わず、呆れのこもった視線をマーネル達の方へと向けていた。

 マーネル達が善意で、やってくれていることは分かる。


 とはいえ、さすがにライラさんの負担を減らすためにも、マーネル達を止めようとして。


「いいじゃないか、ラウスト。少しぐらい許してやっても」


 ……背後から声が響いたのは、その時だった。


 その声に、内心驚きながらも僕はゆっくりと背後を振り向く。


「君が英雄的働きをしたのは、たしかな事実なのだから」


 そこにいたのは、いつも通りの笑みを浮かべたロナウドさんだった……。

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― 新着の感想 ―
この光景は、僕がフェンリルを倒せていなかったら『もの』なのか →『無かったもの』ではないでしょう?
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