第64話 冒険者達の贈り物
更新遅れてしまい、申し訳ありません……。
告知も遅れておりましたが、第三話も更新されておりますので、よろしくお願いいたします!
現在に関しては、マーネル達と僕は良好な関係を築いていると言っていいだろう。
だが、マーネル達が押し掛けてきた時の記憶は、僕にとって悪夢だった。
……何せ、あの時はほとんどマーネル達に話が通じなかったのだから。
恐怖に心を支配されているせいか、あのときのマーネル達は、僕が怒りに身を任せると思い込んでいた。
そんな状態のマーネル達を落ち着かせるまでの苦労、それは今でも頭の中に鮮明に残っている。
「今まで馬鹿にしていていて、悪かった」
「フェンリルを倒す姿に、思い直したんだ」
だからこそ、謝罪する冒険者達の姿に、マーネル達を幻視した僕は、ただうなだれることしかできなかった。
どうして意識を取り戻してすぐ、こんな面倒事に直面せねばならないのか。
できる限り早くナルセーナの元にいきたいと言う思いが、さらに絶望を深める。
一方で、僕の隣にいるライラさんの顔には、大体の事情を察したといいたげな表情が浮かんでいた。
その表情のまま、ライラさんは耳打ちしてくる。
「……えっと、今まで虐めてきた冒険者が今さらラウストの実力に気づいて謝りにきた感じなの?」
そう僕に尋ねるライラさんの目には、冒険者に対する怒りが浮かんでいた。
無用な怒りを抱かせてしまったことに申し訳なさを覚えながら、僕は頭を横に振る。
「いや、僕の記憶にある限りはないです」
「え?」
そう改めて言うが、僕はこの冒険者パーティーの名前さえ知らない。
つまり、親しくされた記憶もなければ、面と向かって敵意を向けられた記憶も一切ありはしないのだ。
本当にすれ違った程度の付き合い以外、記憶にない。
たしかに、以前まで迷宮都市に僕を馬鹿にするのが当然だというような空気があったことを考えれば、この冒険者達が陰口をいっていてもおかしくはないだろう。
けれど、陰口について謝られたところで、僕はどう反応すればいいのか。
陰口程度で怒るほど、別に僕は目敏くない。
そもそも僕に、表だって虐げてきた人間だけで数十人単位でいるのだ。
陰口にまで、気を回している暇などない。
そんなことを気にしている繊細な神経では、これまでやって来れなかったし、そんな陰口よりも今の状況の方が何倍もめんどくさい。
一瞬、そう目の前の冒険者達に言い放ってここから逃げ出そうか、なんて考えが頭に浮かぶ。
しかし、すぐにそんな考えは無駄だと、頭から振り払った。
マーネル達との一件で僕は知っているのだ。
今、そう告げてこの冒険者達から逃げても、僕に安寧が訪れることはないことを。
許されたと冒険者達が思わない限り、彼らは僕につきまとうことをやめはしない。
それを知る僕は、とにかく話を上手く持っていこうとする……が、だからといってすぐに適切な言葉を思いつけるわけがなく、言いよどむ。
「あー、えっと……」
「……っ!」
その瞬間、僕の言葉に未だ頭を下げた状態の冒険者達の肩が大きく震える。
そして冒険者達が、言葉だけで新たに何か勘違いをしたことを悟った僕は、呆然と天井を見上げた。
本当に、どうしてこんな面倒ごとになるのだろうか。
気づけば、かみ合わない話に嘆く僕を見るライラさんの目には、何とも言えない哀れみの感情が浮かんでいた。
そんな僕達に気づきもせず、相変わらず頑としてこちらを見ようとしない冒険者達が口を開く。
「……虫の良い話だとは分かっている」
「特に俺たちは、戦神の大剣に誘われたとき、迷宮都市から逃げようとしたんだからな」
……やけに強引に、この冒険者達が僕に謝ろうとする理由。
それに僕が気づいたのは、その冒険者達がそう告げたときだった。
自分たちが、冒険者として許されぬ禁忌を犯したという気持ち。
それが、この冒険者達の不安の原因なのだろうと。
現状、逃げた冒険者達はロナウドさんに許されており、表だって不満を見せる冒険者はいない。
だが、それは不満がないことの現れではないことを、逃げた冒険者達も知っているのだ。
あくまで自分たちは、ロナウドさんによって生き延びているだけ。
そうしっているから、目の前の冒険者達は過剰に僕を恐れているのかもしれない。
フェンリルを倒した僕には、ロナウドさんの影響力も意味がないかもしれないと、考えて。
少しづつ、冒険者達の内心を理解できている確信に、僕は顔を真剣なものにする。
「そうだな……。最終的には超一流冒険者がいる迷宮都市に残ったとしても、迷った時点で同罪だ」
「本当に反省している」
……いや、逃げてないんだったら、ややこしいことを言わないで欲しいんだけども。
冒険者達の言葉に、自分の想像が全て違ったことを知らされた僕は、内心吐き捨てる。
勝手に理解していた気になっていた分、少し恥ずかしい。
「そんな独白いらないんだけど……」
真横からのライラさんの呟きに、僕は内心大きく同意する。
そんなことを告白されたところで、僕は一体どんな反応をとればいいのか。
いやそもそも、この冒険者達は一体なにがしたいのか。
なにも大したことなどしていないのも関わらず、勝手に自分たちの罪を自供していくその姿に、もはや僕は混乱が隠せなかった。
正直、実は謝る体をとって僕を馬鹿にしにきただけ、と言われた方が納得できる。
今まで頑として動かなかった冒険者達の一人、リーダーらしき男が立ち上がったのは、そんなことを考えていた時だった。
「だから、せめてもの誠意は見せる」
突然のことに呆然とする僕達を他所に、そう告げた男は、突如地面に置いていた武器らしき物に手をかける。
「なっ! ええ?」
突然のことに、僕は思わず立ち上がりかけて……男が手に取った武器が高価そうな布にくるまれているのに気づいた。
男は武器にかけられた布をそのままに、僕へと差し出す。
混乱しながらも、咄嗟に僕が咄嗟にそれを受け取ると、男は告げた。
「せめてもの償いに」
どういう意図でこの武器が自分に渡されたのか。
それを僕が理解したのは、男がそう告げた直後だった。
この冒険者達は、せめての謝罪としてこの武器を僕に渡そうとしているのだと。
そう理解した僕の胸に、罪悪感が過ぎる。
正直、僕は目の前の冒険者達に対して特に怒りなど抱いてないし、そこまでのことはされていないと思っている。
なのに、こんなものを受け取っていいのだろうか。
だが、これを突き返すようなことをすれば、冒険者達は明後日な勘違いをしてもおかしくない。
迷った僕は、とりあえず武器を覆った布を取り払うことにした。
「……え?」
そして、その下から現れたぼろぼろの大剣を目にし、唖然とした声をあげることになった。
冒険者達のリーダーから渡されたその大剣は、たしかに柄の部分もかなり立派で、名のある鍛冶師が作ったのだろうと分かるものではあった。
だが、その刃の部分は完全に錆びており、実戦どころか、観賞用としても使えなさそうにはない。
まさか、ここでこんなものを渡されると思っていなかった僕は、大剣を布から出した姿勢で固まってしまう。
「まさか、一瞬で見抜かれるとは!」
しかし、その僕の態度をどう勘違いしたのか、リーダーの男は誇らしげに告げる。
「そう。これこそ、かのドワーフが作ったとされる真の魔剣! 迷宮都市のギルド職員を介して、王都のギルドから買ったものだ!」
そう大声で宣言するリーダーの男を見て、ようやく僕は理解する。
目の前の冒険者達は、ギルド職員に騙されてかなりの金をだまし取られていたらしいと。
……僕の手にある大剣は、魔剣どころか準魔剣にも及ばない、ただのがらくたでしかないのだから。




