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パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき  作者: 影茸
二章 迷宮都市

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第56話 第一次城壁防衛戦 Ⅶ

ナルセーナ視点となります。

 きらきらと光を反射しながら、地面へと落ちていくお兄さんの短剣。

 短剣は遥か先にあるにもかかわらず、なぜか私、ナルセーナはその光景を鮮明に見ることができた。


「そん、な」


 呆然と開いた口から掠れた声が漏れる。

 オーガ二体に、フェンリルの前で丸腰。

 それは考えうる限り、最悪の事態だ。


 いち早く、お兄さんの元に駆けつけなくてはならない。

 そんな衝動のままに、私は眼前のオーガへと殴りかかる。


 感情に身を任せた強引な攻撃に、オーガも簡単に反応してきた。

 オーガの手に握られた大剣が、私の身体へと迫る。


 それでも私は、攻撃を中断しなかった。

 逆に、全力で身体能力を強化する。


 その判断はこの状況において、吉と出た。

 前に出てくると考えていなかったのか、狙いを狂わせたオーガの大剣は、私の身体を逸れる。

 そして、私はオーガの無防備な懐に潜り込むことに成功する。


「どいて!」


 腹部に全力の拳を叩き込まれたオーガは、声さえ上げることなく崩れ落ちた。

 私は自分の身を危険に晒すことになったが、なんとかオーガを一体戦闘不能に成功する。


 けれど、それで状況は変わらない。


「がァァァァ!」


 倒れたオーガの背後にいたオーガが、すぐに攻撃を仕掛けてきたことにより、私は下がらざる得なくなる。


「早くお兄さんのところに……!」


 変わらない情勢に、動きを鈍らすだけだと知りながらも、私は焦燥を感じずにはいられない。


 残っている魔獣は、リッチ一体とオーガ三体。

 このまま戦い続ければ私達は間違いなく勝てるだろう。

 だが、その時にはお兄さんは生きている保証はないのだ。


 武器を持たないお兄さんへと、オーガが短剣を振り上げたのが目に入ってくる。


 ……もう間に合わない、私はそのことを悟る。


 戦闘中に、リッチ二体を含めた大量の魔獣が現れたこと。

 迷宮都市の冒険者達が対処できず、オークやワームも対処しなければならなくなったこと。


 そして、突然オーガ二体がフェンリルの元へと走り出したこと。


 私達がオーガを留められなかった理由なら、いくらでも思いつく。

 しかし、そんなことは言い訳でしかない。


 なぜなら、お兄さんはたった一人でフェンリルを足止めしていたのだから。


 私達よりも、はるかに過酷な戦闘を強いられながら、お兄さんは耐えていた。

 私達がオーガやリッチと戦っている中、たった一人で変異したフェンリルを抑えていてくれた。


 なのに、私はそんなお兄さんに協力するどころか、オーガを足止めすることさえできなかった。

 フェンリルとお兄さんが戦う前、自分が宣言した言葉は未だ頭に残っている。

 だからこそ、より一層情けなさを覚えずにはいられない。

 一体何が、頼れる女なのだろうか。


 私のせいで、お兄さんは死ぬ。


「おにい、さん」


 呆然と、私の口から声が漏れる。


 その言葉が聞こえていたかのように、お兄さんの目が私とあったのは、その時だった。

 勘違いではなく、はっきりと。

 そして、お兄さんがまるで私に何かを伝えようとするかのように、口を動かそうとするのが分かる。


 だが、お兄さんの口が言葉を刻む間も与えることなく……オーガの振り下ろした短剣は、お兄さんの身体を切り裂いた。


「……っ!」


 おびただしい量の血が、お兄さんの身体から吹き出す。

 あれは致命的な傷だと、遠目の私でも容易に想像できた。


 その凄惨な光景に、私の心臓はまるで凍りついたように冷たくなる。

 しかし、その時私の頭に焼き付いていたのはまるで別の光景。


 ──私を見返すお兄さんの姿だった。


 短剣が身体を引き裂く直前、お兄さんが何を言おうとしていたのか。

 それは私には分からない。


 ただ、一つだけ確信できることがあった。


 お兄さんが私に向けていた目を思い出しながら、呟く。


「……お兄さんは、まだ諦めていない?」


 フェンリルに合わせて、武器を持ったオーガ二体に囲まれ、自身の武器を失ってもなお、お兄さんの目は光を失っていなかった。


 それどころか、その目には強い決意が宿っていた。

 あの絶対絶命な状況を覆す、そうとでもいいたげな決意が。


 その目を思い出しながら、私は唇を噛みしめる。

 私は一体、なんて勘違いをしていたのだろう。

 自分のミスを悔いるのは全てが終わった後の話。


「──まだ、終わってない!」


 強く拳を握りしめ、私は前を阻むオーガ達を睨みつける。


 目の前のオーガ達に、突然異常が起きたのはその時だった。


「グッ!」


 オーガ達が、胸から鮮血を吹き出しながら蹲る。

 後ろを振り向くと、そこには肩で息を切らしたジークさんの姿があった。

 その手に握られた魔剣は、今までにないくらい強い光を放っている。

 その光景に、聞くまでもなく私は察する。

 ジークさんが、奥の手を使ってくれたのだろうと。


 私の前から魔獣が消えたことを確認したジークさんは、必死の形相で叫ぶ。


「行け、ナルセーナ!」


 その言葉に反応し、私は走り出そうとするが……そのジークさんの攻撃に反応したのは私だけではなかった。


 オーガの後ろにいたおかげで、ジークさんの攻撃を避けられたらしいリッチが魔術を構築し始めるのが視界の端に見える。

 その狙いが、疲労を色濃く見せるジークさんであることに気づき、一瞬私の動きが鈍る。


 けれど、私が対処する必要はなかった。


 次の瞬間、リッチの胸から刃が突き出てきたのだ。

 胸を抑えるリッチ同様に、一瞬何が起きたのか私にも理解できなかった。

 だが、すぐに私はリッチの後ろに人影があることに気づく。


「……ハンザム」


 そこにいたのは、お兄さんを敵視していたはずの男性ギルド職員だった。


 一瞬とはいえ、なぜ後ろにいることに気づかなかったのか?

 ハンザムは、ミストと共にいるはずではなかったのか?


 そんな様々な疑問が頭に浮かぶが、それを聞く暇は今はなかった。

 ハンザムと戦い始めたリッチから目を離す。


 そして、私はお兄さんの方へと向き直り、全力で走り出した。

中途半端なところまでの更新となってしまい、申し訳ありません……。

とりあえず次回で、前回までの展開に追いつくようにしようと思っており、できるだけ早く更新させて頂きます。

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― 新着の感想 ―
[一言] いつまでお兄さんなのかな。 少し気持ち悪い。
[一言] 更新お願いします。
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