21:運が悪かった人達。
予約投稿し忘れてました。申し訳ありませぬ。
亜熱帯特有の溺れそうな高湿度と粘りつくような暑気。
数発の小規模な砲撃ながら激しく荒らされた密林。爆炎に凌辱された林床に転がる半個小隊の無惨な屍。死体の発する血と汚物の臭いを嗅ぎつけた虫達が早くも群がり始めている。
皇国製熱光学迷彩スーツを着込んだ民兵達は姿を隠蔽したまま、厳戒態勢で周囲を警戒しつつ、砲撃痕や死体を調査していた。
『残渣反応は電子励起爆薬だ。トリプルキャノピーを貫通したうえで空中炸裂している。おそらく惑星再生機構の飛翔艇による砲撃だろう』
民兵の一人が樹皮や落ち葉を調べながら電脳の短距離通信で告げた。
少なくともこの近辺を皇国軍の飛翔艇が飛んでいるという情報は得ていない。消去法で容疑者は惑星再生機構となる。
死体を調べていた民兵達も報告を始める。
『着衣と装備からみて、こいつらはレイダーかスカベンジャーだな。一人が拳銃を発砲した以外、誰も撃ってない。それと目ぼしい物も持ってないぞ』
『砲撃で死んだ奴は半数。残りは砲撃後に殺されてる。傷痕はミュータントか獣の仕業に見えるが、周囲に体毛や足跡はなく、死体にも咀嚼痕がない。ウォーロイドの仕業だ。多分、ビーストモデル』
『どこかへ向かっているところを発見し、砲撃を食らわせ、ビーストモデルで仕上げ。この近くに余程大事なものがあるか、何かの作戦行動中か。いずれにせよ、相手は惑星再生機構だ。本部に判断を仰ごう』
音声チャット染みた電脳通信で報告を受け、民兵達の隊長は本部へ通信をつないだ。
まあ、判断を仰ぐと口にはしたものの、本部の考えなど予想がついていたが。
○
列強アシュタロス皇国はウガリタ大陸ララーリング半島地帯の緩衝地帯に民兵組織をいくつか展開させている。
あっちに三つ、そっちに二つ、こっちに四つといった具合に小規模な民兵組織を置き、それぞれの働きに合わせた援助を与えていた。競争原理で頑張らせようという塩梅と、あまり大規模な組織を築いて首輪を外されたら面倒だ、といった猜疑心からだった。
そうした皇国系民兵組織の一つ『ホワイトタイガーズ』は本国の評価が高く、現地の各種勢力からも強力な集団と見做されていた。
実際、正規軍特殊部隊の隊員が軍事顧問としてホワイトタイガーズの拠点に常在し、教育し、鍛え上げている。正規軍の特殊部隊選抜課程において候補生達がホワイトタイガーズに同行し、レイダーや敵対民兵組織と戦う課程があるほどに、本国からも信頼を得ていた。
評価に見合った給与も与えられている。型落ちやグレード落ちながら正規軍の武器や装備。十分な食料衣類から贅沢品。果ては拠点インフラの整備まで。
非公式の皇国出先組織と見ても良いかもしれない。
数日前から、ホワイトタイガーズは皇国系民兵組織『サムライ・オブ・ブラックアーマー』が支配していた盆地へ偵察隊を送り込んでいた。
ホワイトタイガーズ自身は件の盆地にほとんど興味がない。本拠地から離れていて支配下に置くことはいろいろ無理だったし、融合反応兵器で汚染された湿地帯エイト・ブラザーズが近いから、旨い土地でもない。
それでも今後の競合地域内勢力図を窺う関係から、件の盆地の情勢変化を把握しておく必要があった。
ゆえに、ホワイトタイガーズは8名からなる偵察員を送り込んだ。
型落ちや旧式ながらニューセラミック骨格に人工筋肉、対破片難熱処理の人造皮膚、生体脳を維持するためだけの機械置換臓器。食料以外はマギ・マテリアルで充足されるエネルギー。
軍用ボディの完全サイボーグ兵達。
そんな精鋭の偵察隊から報告を受け取り、ホワイトタイガーズ本部はわずかな議論の末、決定を告げた。
ビーストモデルの痕跡を辿り、惑星再生機構がその辺りで何をしているのか探れ。と。
○
本部の命令に従い、ホワイトタイガーズの偵察隊は熱光学迷彩で身を隠したまま、密林の中を進んでいく。
“ビーストモデル”の微かな痕跡――柔らかな地面に刻まれた足跡。踏まれた落ち枝葉。藪や地面に残るスカベンジャー達を殺害した時の返り血。不自然に折れた藪の枝や落ちた葉。そうしたものを多機能ヘルメットのセンサーと高性能機器に置換された知覚野で拾い上げ、鍛錬と経験で磨かれた直感と勘や密林戦のノウハウとセオリーの知識など、使えるものを全て使い推理や分析をしながら捜索追跡していく。
その歩みは慎重だけれど、決して遅くない。というより、急ぐ必要がある。
高隠密性を発揮している熱光学迷彩の為だ。
熱光学迷彩は高隠密性を約束する半面、光を屈折させて周囲環境に溶け込んだように見せるためシステム負荷が高く、熱を押さえ込むための機構にエネルギーを食われる。ちんたら歩いていたらクールタイムを迎えてしまう。
この辺の問題を厭い、惑星再生機構は熱光学迷彩ではなく可変色擬態を好む。実際、選抜強行偵察員のユーヒチ達は熱光学迷彩を基本的に使わない。
地面の起伏が大きくなり始めた密林の山稜。己の姿を樹海の緑に溶かした兵士達が人知れず進んでいく。
そして――
先頭に立って深藪の斜面を登っていた兵士が左手を上げ、隊の歩みを停めた。
『前方に哨戒線だ。木々や地面にセンサー類が隠してある。付け焼刃じゃない。結界並みの入念さだ』
『……拠点か。先ほどの砲撃と関係があるかもな』
『だが、センサーは惑星再生機構じゃなくて皇国系っぽいぞ。お仲間か?』
『この辺りで皇国系勢力が拠点を構えているなんて聞いてないな』
『知らされてないってだけじゃねェの?』
『さっきの砲撃とビーストは皇国系の拠点を襲うためか?』
電脳通信を介した仲間達のあまり意味がない議論を余所に、偵察隊の隊長は眼前の現実に思案した。哨戒線を迂回していくか、捕捉される覚悟で侵入するか。
『まだリスクを冒す段階じゃない。二手に分かれて哨戒線の切れ目を探るぞ』
反論は無かった。
四人一組の二手に分かれ、偵察隊は哨戒線に沿って密林の斜面を進んでいく。慎重にだが、歩みは決して遅くない。
『建物が見えた。コンクリで基礎を作った本格的なコテージだ。随分と手が入っているが、基礎部の具合からみて元は大厄災以前のものだろう』
『本格的な拠点か……情報に無いな』
『新たに設けられた前哨拠点ってことだろ。本部に報告するか?』
『まだだ。もう少し探る』
二手に分かれた偵察隊は哨戒線の切れ目――建物へ通じる進入ルートを発見。同ルートの手前で合流。情報のすり合わせを行う。
『用いられていたセンサーはいずれも皇国系で、ここ以外に哨戒線の穴がない。で、ここは拠点の連中が普段使いしてるルートだな。不鮮明だが、新しい足跡もあった。数は4から5。罠の類はないだろうけど、拠点から丸見えだぞ』
『周辺500メートルに十分な哨戒線を敷くだけの豊富な物資を持ってる。ただのレイダーやスカベンジャーじゃない。紐付きか俺達の同類だ』
『ドローンで探るか?』
『ダメだ。嗅ぎ取られる可能性がある。リスクは冒せない』
地球西暦時代の21世紀にドローンの軍事的脅威性が判明して以来、軍と特殊部隊はドローン対策に血道を注いできた。宇宙時代の現在はドローン対策は基本と言って良い。
『本部に報告後、ここのルートから接近。建物を調査するぞ。支度しろ』
偵察隊が本部に連絡し直接調査を提案してみれば、案の定『是非やってくれ』と即答された。少し離れた場所へ背負っていた背嚢を下ろし、狙撃手と機関銃手がセットで援護位置に着く。
6名が10メートル間隔でルートへ進入開始。
皇国軍38式突撃銃の発展形である64式突撃銃を構え、用心深く慎重に。互いに援護しながら密林内にひっそりと通された道を素早く進んでいく。
建物を注意深く睨みながら、身を隠す場が巧妙に配され、キルゾーンとそう違わない道を進む。否応なしに高まる緊張。今この瞬間にも建物の中から狙われているかもしれないという不安と恐れ。危険の中を突き進むというスリルと昂奮。
民兵達は機械化された肉体ゆえに緊迫の汗を掻かないし、緊張から喉も渇かない。それでも、感情調整されていないためか、人間本来の感情を覚えずにいられない。
先頭のポイントマンが建物まで200メートルに達したところで足元から、ぺきり、と落ち枝を踏む小さな音が漏れた。どうやら地面の下に埋もれていた枝を踏んだらしい。ポイントマンは胆が竦む感覚を抱く。
ポイントマンが反射的に足を止め、続く5人も足を止めた。
全知覚を最高感度まで上げ、目的の建物と周囲の様子を神経質なほど用心深く窺う。
屋上や窓。周囲の樹々や藪。どこかに誰かが隠れてないか、何かが潜んでいないか。
不安と憂慮の静寂。数時間にも感じるほど圧縮された数秒間。
ポイントマンがゆっくりと右足を上げ、一歩進んだ――刹那。
小路に隠された散弾地雷が爆発し、750個の22口径ボールベアリングが偵察隊へ向かって飛散した。
○
クレイモアの爆破を済ませ、ユーヒチと3体のウォーロイドはブルパップ式突撃銃の先台に装着した35ミリ擲弾筒を発射。小道へサーモバリック弾頭のロケットグレネードをぶち込む。
高熱圧爆発の花が四つ咲き、大量の粉塵が巻き上がって小路を覆う。
これで死んでくれれば儲けもの。そうでなくても高熱圧衝撃波が装備を熱損させられるし、巻き上げられた粉塵と土砂は熱光学迷彩の擬態能力を著しく損なわせる。
そして、隠密性を失ってしまえば。
小路を射界に収める3門のセントリーガンの索敵系が訪問客を捕捉し、ガンの独立系電脳が敵味方識別反応を返さない客人達を敵と認識。ガンタレットの中口径汎用機関銃とサブユニットの50口径を即座に発射した。
電気ノコギリの駆動音かと錯覚するほど高連射速度でばら撒かれる8ミリ小銃弾。ドラムロールみたいなテンポで放たれる50口径。二種類の弾丸が小路に吹き荒れ、装弾数表示の数字が吹っ飛ぶように減っていく。
セントリーガンが客人を歓迎する中、2機のUGVが目を醒ます。
頭のない猪みたいなずんぐりむっくりな四足歩行式無人機は、身体の調子を確かめるように屈伸と跳躍を繰り返し、背中のガンタレットをぐりんぐりんと動かした後、どすどすと重たい足音を奏でながら、開放された防弾ハッチから出撃していく。
ユーモラスで愛らしいけれど、紛れもなく殺人マシンな二機を見送り、レーラは防弾ハッチを閉じる。批判的な顔で言った。
「UGVまで出さなくても、セントリーガンで十分でしょ」
「どうかな」
ユーヒチが五眼式多機能フルフェイスヘルメットで覆った顔を傾げた直後、セントリーガンが沈黙した。どうやら対センサー系スモークが炊かれ、目標を見失ったようだ。
「UGVを制圧射撃モードへ切り替え。相手が見えなくても良い。小路を鉄と炸薬で満たせ」
「……分かった」
レーラがユーヒチに言われて端末からUGVを操作し始めた直後、相手方から機関銃掃射が始まり、建物へ弾丸が叩きつけられる。補強が入っているところなどは持ちこたえたが、手の加えられていない場所は容易く貫通された。セントリーガンの一門が信号途絶。狙撃手にガンタレットを破壊されたらしい。
「ウソっ!? 小路の辺りにセントリーガンの電脳を撃てるようなポイントはないのに、どうやって――」
「銃自体を破壊したんだろう。セントリーガンは動かないからな。スモークで視界が効かなくても当てられる」
愕然とするレーラへ告げつつ、ユーヒチはブルパップ式突撃銃の弾倉を通常の軟頭弾から高速徹甲弾に交換した。
「さて、次はどう来るかな」
○
建物へ通じる小路へ進入していた6名の民兵達は、クレイモア地雷と直後の35ミリロケットグレネードのサーモバリック弾を浴び、倒れ伏していた。
が、死んではいなかった。
クレイモア地雷の高速散弾とサーモバリックの高熱圧衝撃波は64式突撃銃やヘッドギアを破壊し、タクティカルギアやナノマテリアル・ボディスーツを引き裂き、熱光学迷彩繊維膜を熱損させ、サイボーグ化した人造皮膚や人工筋肉を抉り、焼き、体内の各種生命維持系機関にダメージを与えた。高熱圧衝撃による局所的な電磁波の嵐に脳核が自動的にセーフモードへ――生身で言うところの失神に落ちる。
隊員の一人が再起動したためか、迂闊にもふらつきながら立ち上がり、
「やめろ、立つなっ!」
隊長が慌てて警告を発するも、手遅れだった。
山荘から降り注ぐ8ミリ小銃弾と50口径の弾幕に捉えられ、立ち上がった隊員は解体されるように頭蓋を破砕され、両腕を千切りもがれ、弾丸で上体を削ぎ崩され、斃れた。
この安全ルートは罠こそないが、入念に遮蔽物や凹凸を排してあったため、身を隠す場所が無い。
鉄の雨に裂かれるボディスーツ。削がれる人造皮膚。抉られる人工筋肉。千切られる耳目や指。穿たれる肢体。しかし、痛覚を切ったため、誰一人として悲鳴は上げない。
「目潰しだっ!!」
それどころか、隊長も隊員達も冷徹に煙幕弾を投げた。
金属粉や化学剤で生成される対センサー系煙幕や熱光学兵器妨害煙幕が瞬く間に辺りを包み込み、建物からの射撃が中止される。
「援護射撃っ!」隊長の命令に応え、小路外の狙撃手と機関銃手が発砲を開始。狙撃手が移動しないセントリーガンへ高速徹甲弾をブチ込んで沈黙させていく。
「全員、動けるか?」隊長の問いへ部下達が是と応じる。「よし、行くぞっ!!」
味方の援護を受け取り、小路から脱出――しない。
敵は待ち伏せに掛かったこちらが一旦退くと思っているはず。その裏を掻くべし。
無謀蛮勇の類だが、軍用サイボーグである彼らは生身やチューンドに出来ぬ無理無茶を通すことが出来る。
小路にいた5人がサイボーグらしい常人離れした速度で煙幕の中を駆け出す、機先を制すように再び弾幕が襲い掛かってきた。今度は中口径弾に加えて40ミリ擲弾。
隊員の一人が小銃弾に足を取られ、動きを止められたところへ40ミリを叩き込まれ、木っ端微塵に吹き飛ばされる。
隊長は思わず歯噛みし、セントリーガンだけでなくUGVまでっ! 「くそ、何なんだ、この施設はっ!?」
こうなれば、偵察兵として成すべきを成すのみ。
弾幕によって破損した突撃銃を投げ捨て、隊長は腰から拳銃を抜きながら建物へ一気に駆けた。部下達も続く。
小路を走り抜けたトップスピードのまま、侵入防止の鉄格子が張られた窓へ頭から体当たり。軍用サイボーグの頑丈と質量で鉄格子がひん曲がり、屋内へ強引に突入成功。
隊長は頭皮がべろりと剥げてニューセラミック製頭蓋が露出し、左手が小指以外無くなっていたが、平然と拳銃を構える。共に辿り着けた部下は1人だけだった。4人は表に転がり、人造物の残骸と化していた。
部下は隊長へ電脳通信で言った。
『頭が涼しそうですね、隊長』
「そういうお前は随分と男前になったな」隊長もにやりと笑う。
『でしょう?』
50口径に鼻と上顎を抉り取られた部下が電脳通信で返事をし、突撃銃を構える。
『やりますか』
「ああ。出来る限り情報を集めて、本部へ送信するぞ。それで証も立つ」
サムライ的思考の下、隊長と部下が廊下へ出ようとしたところへ、部屋の左右両壁がぶち抜かれ、女性型ウォーロイドが現れる。
身長2メートル強の筋肉ムチムチな女性体形に5眼式戦闘用頭蓋を据えた、機械式アマゾネス達が手にマチェットやトマホークを握りしめ、無言のまま隊長と部下へ襲い掛かる。
隊長はべろりと剥けた頭皮を振り乱しながら拳銃で応戦するも、そんな豆鉄砲でウォーロイドは止められない。そして、部下が突撃銃で迎え撃とうとしたが、肉薄された状況では突撃銃の取り回しより、振り下ろされるトマホークの方が速い。
ウォーロイドの圧倒的膂力で叩きつけたトマホークは、突撃銃を飴細工のようにぶち壊す。返す刃で頭を切り飛ばそうとするも、部下は咄嗟に屈みこんで斬撃を掻い潜り、ウォーロイドの両足の間に肩を入れ、右足を抱きかかえて組み倒す。
『人形風情が人間を舐めんなっ!!』
生身の身体を棄てたサイボーグ兵士は腰から単分子ブレードを抜き、ウォーロイドのデカパイの間――エネルギーコア・ユニットがある位置へ切っ先を突き刺、せなかった。
消音器で抑え込まれた発砲音と共に部下の後頭部が大きく爆ぜ、どさりと崩れ落ちた。
ぶち抜かれた壁の隣室。中口径ブルパップ式バトルライフルを構えたレーラが苦々しげに吐き捨てる。
「あたし達んちの壁をぶち抜きやがって……っ!」
隊長はもう一体のハイテク製アマゾネスにより、マチェットを左肩口へ深々と刀身を埋められていた。小指しか残っていない左腕を咄嗟に盾としなければ、今頃は袈裟に断ち切られていただろう。
「うぉおおおおっ!」
ウォーロイドを足場にするように蹴りつけ、隊長は後ろへ飛び退き、部屋のドアを突き破って廊下へ倒れ込む。咄嗟に立ち上がろうとしてすっ転んだ。左腕を切り飛ばされていたことを忘れていたためだった。
その数瞬の停滞の間に、マチェットを握るウォーロイドは壊れたドアを千切り投げ棄て、ホラー映画の殺人鬼さながらに傲然と廊下へ出てきた。
隊長はヤケクソで弾の切れた拳銃をウォーロイドの顔面に投げつけ、垂れ下がった頭皮を振り乱しながら吠えた。
「セントリーガンに重武装UGV、それにウォーロイドまで……なんなんだ、ここはいったい、なんなんだっ!」
「端的に言えば、君達は運が悪かった」
背後から涼しげな男性の声が届き、隊長は反射的に振り返る。
女性型ウォーロイドを護衛のように侍らせ、五眼式多機能ヘルメットに可変色偽装ポンチョのフードを目深に被った姿は廃墟に潜む幽鬼のようだ。
直感的に理解する。
このクソ野郎がこいつらの頭目だと。
同時に悟る。
自分はここで死ぬのだと。
「居るべきではない時に、来るべきではない場所へ現れた。まぁ、良くある話だ」
淡々と言葉を編む男。
隊長は咄嗟にここまで見聞きしたデータを本部へ届けようとした。が、これまで繋がった通信が一切繋がらない。
「さようなら」
男がそう言い終えると、ウォーロイドが隊長の首を切り飛ばした。
○
「クソッ! 皆、やられちまったっ!」
建物へ向かった仲間のIFF信号が途絶え、機関銃手は発砲を止めた。
不意に気づく。隣の狙撃兵が先ほどから一発も撃ってない。
嫌な予感――それも特大級の不安を抱きながら狙撃手の方へ顔を向ければ、そこには宇宙恐怖的異形がいて、狙撃手の首をもぎ取っていた。目と鼻の先に怪物がいて既に仲間を惨殺していたという事実に、機関銃手は悲鳴も上げられず。
機関銃手が次のアクションを起こすより速く怪物の長い尾が振るわれ、その先端に備えられる劣化ウラン製ニードルが機関銃手の頭蓋を貫いた。
密林に静寂が戻る。
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