久しぶり
毒草の特徴と、間違って飲んでしまった時の対処方、それから薬草同士を調合した時に出る毒素を毒消し草を使って中和させる方法。
そこまでを実践して説明した時、町から恭治が走ってきた。
「夕飯の用意が出来たでござるよ。ガイコツン殿も食べられる…んでござろう?」
夕食の用意が終わってからそれを聞くの!?ちょっと抜けてる所が恭治らしいって言えばそうなんだろうけど、コレは本人には言わない方が良い事だね、多分。
「食べられるよ。肉が多めだと嬉しいな~」
調合の道具を片付け、3人並んで屋敷に向かって平和な町並みを歩く。途中で何人かの人とすれ違い、その皆が俺達に向かって手を上げたり、声をかけてきたりして挨拶をしてくれる。
ここに俺達がいる事を普通だと思ってくれているんだろう。魔物であるサクリアに対しても、この町の人は“奪う者”として接している。
本当に良い町。どっかの村とは雲泥の差だよ!
「ガイコツン殿。中へ」
屋敷の門を潜り玄関のドアの前まで来た時、恭治はそう言ってドアから離れ、エドも無言で1歩下がった。
100年ぶりの屋敷、100年ぶりの…どんな顔をしたら良い?どう声をかけたら?いや、緊張している場合じゃない。
さっきと同じ、再開と同時にルシファーの紹介を済ませてしまおう。それで屋敷を追い出されたら…ポチ達だけでも肉じゃがを食べさせてくれるように頼むんだ。
後は元天使って事も説明して…待てよ、屋敷から追い出されてしまったらラミアと話しをする切欠を失ってしまう。だからってルシファーの紹介は先延ばしにすると切欠を見失ってしまうし…エドと恭治には紹介したのに、屋敷の主であるサクリアにしないなんて失礼だ。
「ルシファー。出てきて」
少しの間を開けて出てきたルシファー。その隣にはエドも恭治もいるんだけど、2人は出てきたルシファーに対して特に攻撃をしない。
恭治の敵は魔物…激し過ぎる憎悪を魔物に向けていた。それなのにルシファーに対してそんな態度で良いのかな?
自分の魂が失われても、体が残って魔物退治をするのなら問題はない…その強い思いは今の恭治の中にだって生きている筈だ。
それなのに?
まぁ、ルシファーは魔物じゃなくて天使なんだけど、それでも皆の仇だよ?いや、実際はそう言う設定になっただけで、本当に手を下したのかどうか分からないんだけど…でも、手を下してないならここに皆が集まっているのは不自然だよね。
いや、設定を作ってこの時間まで戻ったんだから、手を下したのは“黒き悪魔”であって今のルシファーではない?
同一人物ですけど?
皆や“奪う者”を倒しまくった罪が許されたとでも言うのだろうか?時間を行き来した位で有耶無耶になる程の軽い罪だったとでも?
ルシファーとは、後でゆっくりと話し合う必要があるな。時間はたっぷりあるんだ、納得が行くまで、何度だって設定の説明をしてもらおう。
今やるべきは皆への100年ぶりの挨拶!そして“黒き悪魔”の紹介と、実は天使であると言う自己紹介。
よし、行こう!
ガシャリ。
何度も深呼吸して、勇気が出た所で一気にドアを開け、広間に向かって、
「ただい……」
「遅いわ!いつまで立っておるつもりだ?」
声をかけたのに、挨拶が終わる前にカフラの鞭攻撃が俺に向かってきた。
「わわっ!」
慌ててしゃがみ込むと、
ペシンッ!
隣にいたルシファーに当たった。
「お前は、確か…何故ここにいる?」
そうするとディルクが1歩、2歩前に出て来て、真正面からルシファーに睨みを利かせる。
一触即発、これは紹介所ではないかも知れないと思った矢先、
「ディルクも知っておろう?ルシファー殿でござるよ」
と、恭治がサラリと紹介してしまった。そして、
「今はガイコツンの友なんだってさ」
エドが補足した。
「ルシファー?“黒き悪魔”じゃなかったか?」
気になる所、そこぉ!?
「どちらでも良いわ。ルシファーとやら、茶はいらぬか?」
どっちでも良いの!?じゃなくて、折角皆で“魔石”に封じた“黒き悪魔”を、俺が勝手に呼び出して友にしちゃってるんだよ?名前とか、お茶とか、その前に言うべき事ってないの!?
「待ってよ!俺、ルシファーを友にしてるんだよ?それと、俺は元々は天使で…もう少し回復が進んだら羽とか生えるし、それから…えっと…」
なんだっけ?
「カフラ、ガイコツンとルシファーにお茶を用意してあげて」
「うむ、任せおけ」
いや、だから…。
「ちょっと落ち着いて。ね?恭治、折角の夕食が冷めてしまうけど良いかな?」
「温め直せば良いだけの事。問題ござらん」
夕食の心配でもなくて…。
「じゃあ皆、1回座ろうか」
パンパンと手を叩きながらサクリアが場を収め、俺は100年ぶりに自分の席についた。緊張のせいなのか、それとも気が抜けたせいなのか、喉が異様に渇いて、目の前に置かれたお茶を一気に…。
ザバー。
「あ…」
「何やってんの?」
斜め前に見えるエドが、呆れた顔で見てくる。いや、本当に何をしてるんだか。
ガスマスクしてるんだから、飲める訳ないよね!
「もう1杯いれてきてやろう」
カフラが2杯目のお茶を持ってきてくれて、なんとなく集まってくる視線。そんな中アフロのカツラに手を伸ばして外し、バサリとテーブルの上に置いて、両手でガスマスクを外してアフロの上に置いた。まだ回復は完全には終わってないけど、それでもガイコツではない。ガイコツンの俺しか知らない皆にとって、この姿はどう映るのだろう?
「ふふ…樹海に篭って、どれだけ遅い帰宅だろうと腹が立っていたけれど、こうして見ると、不思議だね…早かったね。と言いたくなったよ」
優雅に笑うサクリアから、信じ難い言葉が聞こえてくる。今まで怒っていたの?あんなにも冷静で、場をまとめて、普通だったのに?
「んでも、またここからいなくなるんだよな?」
エドォ!何故このタイミングでそれを言っちゃうの!?
「えっと、俺天使だから…もうちょっと遠くにいた方が良いのかなーって…」
「ほぅ、天使か…ならば主からエンゼルンに聖水を持ってくるなと伝えてくれぬか」
「お前は俺達に聖水を進めたりしないのだろう?」
「そんな事しないよ!」
「蘇りは不浄な魂で、浄化させるべき。とエンゼルンは申していたが、ガイコツン殿も同じ考えでござるか?」
「そんな事思ってない!」
「じゃあ、出て行く意味ってなんだよ…俺に薬の事教える意味って、なんなんだよ」
意味ならちゃんとある。
俺は1度、この時間を経験してるんだ。一緒に楽しく暮してさ、だけど、そうしてるとエドが昇天しちゃうんだもん。エルナさんも倒されて…アクアの魂で蘇りになるんだ。
もう1回同じ事を繰り返したくない。もう二度とエドが消える所を見たくない。
だから、一緒にいたら駄目なんだ。
それなのに、こんな風に逃げ場を閉ざされたら何て言って離れたら良いの?それに、ちゃんと説明したら、俺は不自然な魂に戻ってしまう。
不自然な魂に戻った所でどうなるのかは分からないけど…ちゃんと分かるまでは今のまま存在している方が良いんだと思うから…なんとか誤魔化して屋敷を出ないと。
「ねぇガイコツン。君は屋敷の外に依頼箱を設置したよね?」
「うん…」
「君が樹海に篭っている間、結構依頼が来たんだよ」
そう言ってドンとテーブルに置かれたのは1つのカゴで、その中には手紙がどっさりと入っていた。
「そうなの?」
皆忙しいから、この依頼は全部エドが1人でこなしたのかな?こんなにも、大変だっただろう…。
「期限がある依頼は仕方ないから片付けておいたけど、ないものは手を付けていないよ」
そう笑顔のサクリアは、カゴの中に入っていた手紙の1枚を手にとると数回振って見せてきた。その手紙は開封された形勢がない。
って事は?
え、ちょっと…これ、終わった依頼じゃなくて、未着手の依頼!?
こんなの可笑しい!俺の知っているこの時間、こんなにも依頼は来なかったよ!?俺が知っているのは…そう、樹海の魔物と村との間で戦いが起きて、城の兵士さんが派遣されて、全国的に深刻な傷薬不足に…。
城の兵士さん!
「ねぇディルク、エルナさんは!?エルナさんはどうしてるの!?」
「エルナは塔で見張りしてるが…依頼の話と関係があるのか?」
塔の、見張り?
樹海の魔物は?ボスを返した事で本当に村を襲わなくなった?だとしたら、俺の知っている未来と同じには…ならない?
じゃあ皆と一緒にいても良いの?こんな幸せな生活を送っても良いの?そもそもあり得るの?
時間を戻れば、ただ繰り返すってのが一般常識でしょ。同じようにしなきゃならないとまで言う天使だっている位だよ?それなのに、最悪な未来から、幸せな未来への変更って可能なの?
ルシファーに聞いても、設定とか言われて終わりそうだし…ここは時間のプロに聞いた方が良いよね。そもそもそのつもりだったんだし。
「カフラ、ラミアに会わせて欲しいんだけど、良い?」
夕食後、食器の片付けをしているカフラに近付いて、小声で頼んでみた。食事中に言わなかったのは、多分なんとなく。
「ラミアとな?」
カフラは怪訝そうな顔で首を傾げる。
帰ってきたばかりで、まだ皆ともそんなに話していないのに、いきなり自分の友に用事があると言われたら誰だって不思議に思うだろう。でも、数日様子を見て、とかしている場合じゃないんだ。
「ちょっと聞きたい事があって…悪いんだけど、2人で話がしたいんだ。カフラの友なのに、ゴメンね」
「何を言っておる?我の友はアクア1人だが?」
え…?




