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ディスペル  作者: SIN


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57/122

火事

 俺達は屋敷に帰る為に歩き出している。

 町の上空にはまだ天使が飛んでいるし、不穏な空気は漂っている上にエルナさんの怪我の状態すら分からない。

 それなのに、屋敷に向けて歩いている。

 理由なんか簡単、樹海から出てきた魔物の軍勢が「何故か攻めて来なかった」樹海に戻る魔物に「頭を下げていた」それを町人が目撃していた。で、俺達が魔物を手引きして町を襲わせていたんだろって言いがかりをつけられてしまったのだ。

 このままじゃ“奪う者”になったエルナさん達兵士も疑われるかも知れない。と言う訳でディルクも含めた全員で帰る事となった。

 「全く、酷い扱いだよ」

 温厚なサクリアですら不満を口に出してしまう程なのだから、皆の心中もかなりの勢いで荒れているだろう。

 俺だって、もう2度とあの町の人間とは関わりたくないよ。

 例え大変な事になっていようとも、依頼を持って来たとしても、絶対に、絶対にもうあの町になんか行かない。

 なんなんだよ!俺達は皆を守ろうと思って…なのにさ、俺達の言い分なんか少しも聞かないでさ…。

 やっぱり、エルナさん達も連れて戻るべきかな?あの町の町人なら“奪う者”だと言う理由だけで恩人すら攻撃してしまえるだろう。寧ろ「こんな事になったのはお前らのせいだ」って。

 そうだよ、上空には天使がいるんだから、何かは起こるんだ。それが分かってるのに怪我をしているエルナさんを置いて帰れない!

 戻ろう。そう言おうと振り返った俺の目には、信じられない光景が映ってしまった。

 町が、燃えている。

 え?どうして?魔物は樹海に戻って行ったから戦いは起きてない筈だよね?だったらどうして…そうか、火事だ!

 大変だ!足を怪我しているエルナさんはそんなに早く移動出来ない!

 「皆!エルナさん達を助けに戻ろう!」

 急いで走り戻った町の上空では、天使が一塊になって同じ建物を見下ろしていた。それは手当てを受けていた兵士がいた家で、今まさに火事になっている家だ。

 町人はボォと家を眺めているだけで誰も消火活動をしていない。町並みから少し離れているし、他に燃え移りそうにないから燃え尽きるのを待ってるのかな?

 いや、上空に天使がいる時点で可笑しいんだ。もし燃え崩れる家の瓦礫に巻き込まれて倒れる人がいたとしても、10人近くもの天使が出動するだろうか?

 家の中に、人が…兵士がいる?

 まさか、そんな事ある訳ないよ、いくらこの町の人だからってそこまで残酷な事…じゃああの天使の群れは?

 ザバー。

 水音がして振り返るとディルクが頭から水を被っている所で、そのままなんの躊躇いもなく家の入り口に体当たりした。

 ドゴンと物凄い音がして、その直後に火の勢いは増す。酸素が増えた事で小規模な爆発まで起きた。

 怯んでる場合じゃない…俺も行って中に兵士がいないか確かめないと!

 水を被って入り口に向かう短い時間、家の屋根からはいくつかの白い球体がフワリと出てきていた。それを大事そうに包み込む天使。

 もう、なにをどう考えたって中に人がいたんだ。

 人がいるのに消火活動しなかったのは?町人が火をつけた?

 城から派遣された兵士に対して可笑しい。

 町を魔物から必死に守って怪我をした兵士に対してなんて事をするんだよ!

 もう、エドの出身町だからとか関係ない。俺は心の底からこの町が、町人が嫌いだ。

 「中に兵士達が取り残されてる!火を消そう!」

 しかし手元にある桶は1つだけ、これじゃあ消火するより燃え尽きる方が早い。

 「俺に任せてくれ」

 名乗りを上げてくれたのはカフラの友であるアクア。

 そうか、アクアは水の悪魔、消火活動要因としてこれほどの適任者はいない!

 「兵士の救出を優先したいから、着いてきて!」

 家の中に入り、ディルクの気配を辿って進む俺の後ろでは氷の粒を周囲に撒いているアクア、さらにその後ろにはカフラがいる。

 エドとサクリアと恭治は外からの消火活動だ。

 ゴォォォと、とんでもなく恐ろしい炎の音と、微かに聞こえて来るディルクの声。家が崩れ落ちる前に兵士さん達を脱出させなきゃ!

 ディルクの気配がするのはエルナさんが治療を受けていた部屋で間違いなく、俺は嫌な予感を抑えながら急いだ。

 きっと、皆逃げ出せたんだ。

 部屋の中には誰もいないんだ。

 そうに決まってる!だって、そうでなきゃ可笑しいんだ…いくら集中してもディルクの気配しか感じないなんて、可笑しいよね。誰かいるなら、その誰かの気配だって感じ取れる筈だもん。

 緊急事態だから兵士は全員お城に退却したんだ!

 ね、そうだよね?

 「あ……」

 床一面に広がるのは兵士の…躯。もう1度ちゃんと気配を確かめようとして集中するが、何も感じない。後ろにアクアとカフラ、そして前方に1つの躯を抱き締めているディルク。外にはエドとサクリアと恭治がいて…上空の天使の気配は、消えていた。

 轟音なのか、ディルクの叫び声なのか、低く鳴る音が支配する空間の中で俺は町人達の残忍さに立ち尽くしてしまっている。

 兵士達は1人も生き残れなかった、この火事のせいだけじゃない…兵士達は火事が起きるよりも前に町人達によって攻撃を受けていたんだ。

 町のために必死に魔物と戦った兵士達、傷を負って動けなくなっても尚、自分は良いからって傷薬を町人に飲ませていた兵士達。それなのに、最後はその町人によって…。

 そんなにも“奪う者”が憎いのか!?こんな事が出来てしまえる程に!

 「主ら、なにを呆けておるのだ!早く逃げねば我らもただでは済まぬぞ!」

 カフラは、エルナさんを抱き締めたままフラリと立ち上がったディルクを引っ張って出口に誘導し始め、俺は部屋の中に向けてもう1度、しっかりと集中させた。

 兵士の何人かは本当に“奪う者”だった。だとしたら友が封じられている“魔石”がある筈だ。こんな町で“魔石”に封じられたまま放置したら絶対に魔法石の材料にされてしまうだろう。

 兵士さんを助ける事は出来なかったけど、せめて、せめて友の魔物は全員助けてあげたいんだ。

 部屋中をゆっくり歩きながら集中するが、“魔石”そのものの気配すら見付からない。何度やっても、何も感じない。

 兵士を攻撃した町人は、その時“魔石”の回収もしたのか…なんて非道な…なんて残忍な連中だろう!

 「主!何をしておるか!さっさと来い!」

 さっき出て行った筈のカフラが戻って来るなり俺の頭部を包帯でグルグル巻きにした。その包帯は濡れている。

 俺を火から守ろうとして?

 その状態で出口に向かって走り出し、外の景色が見えてきた所で炎の轟音とは別にミシミシと不吉な音が響いてきた。

 崩れる!?

 思いっきり走って、カフラを抱きかかえて外に向かってダイブした。そして足にかかる瓦礫。少し足が燃えちゃったけど、カフラに怪我はなさそうで良か……。

 「え……」

 崩れ落ちた家、俺の後ろにはアクアがいた筈なんだ。


挿絵(By みてみん)

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