出発前
朝に確認した依頼箱の中、ソコには1枚の手紙が入っていた。
差出人はアンと言う女性から、どこかで聞いた名前だと思い返して見ると、以前にブラックドラゴンを大人しくさせてくれって依頼をくれたドラゴン使いの女性の名前だった。
手紙には詳しい内容は直接話したいって書いてあるけど、きっとまたドラゴン絡みの依頼に違いない。
と言う事で、1人で行くのは危険なのでエドを待ってるんだけど…来ない。部屋に行ってみたんだけどいないから、買い物に行ったんだと市場にも足を運んだのに見当たらなくて、こうして広間にいればいつか来るんじゃないかな~なんて…で、2時間。
アンさんとの待ち合わせ時間は30分後、それまでにエドが来なかったら1人で行くしかない。
「ぬ?茶でも欲しいのか?」
広間にやって来たのは手に何か小さな飾りを持ったカフラだった。
あの飾りは王様のミイラと一緒に包帯で巻かれていた代物だから、きっと部屋で包帯交換儀式をしてるんだろう。
巻く作業も大変そうなんだけど、それよりも防腐剤の調達が大変そう。きっと物凄い費用がかかってるんだよね…まさかそれを稼ぐ為に用心棒の仕事を?
王様はもう完全にミイラの状態だから、ガッツリと防腐剤を染み込ませた包帯で巻き直すより、棺桶の中に乾燥剤を敷き詰めて、その上にちょっと軽装にした王様を寝かせて入れた方が安上がりだし良いと思うんだけど…なにか決まり事があったりするのかな?
「王様の衣替えの事で聞きたい事があるんだけど…気を悪くしないで聞いてくれる?」
こうして10分かけて乾燥剤を勧めてみた結果、カフラは紅茶を1杯飲みきった。気を悪くするもなにも、ちゃんとした理由があって包帯グルグル巻きにしてるんだなって説明途中で気付いてしまったよ。だったらその理由が知りたい。だって、絶対に乾燥剤の方が簡単で良いと思うもん。
「王を守る事が我の存在理由。包帯は王を守る防具だ」
包帯が防具?樹脂で固めてはいるけど、それでも防具と呼ぶには弱いよね?それに包帯を変えてる時が1番危険なんじゃないだろうか…その、ホラ…壊れやすいから…。
時々包帯を剥がして顔を見たくなるのかな?だったら尚の事乾燥剤の方が安全だ。顔が見たくなった時にしか棺桶を開けないようにすれば棺桶自体が防具となってくれる訳だし…って、それは今でも言える事か。
強く王様を守りたいと言う気持ちの表れなのかな?それを存在理由って断言してるんだから口を挟むべきじゃなかったのかも…。
「カフラは王様を全力で守ってるんだね。変な口出ししてゴメン」
蘇った自分が何をするべきなのか、それすらも分からないままダラダラ生きてる俺なんかがちゃんと託された事をしているカフラに「楽だ」って理由だけで乾燥剤とか。10分前に戻れるなら自分の口を全力で塞いでやる。
「いや、良い…それに我はちゃんと王を守れなかったのだ」
ん?守れなかったってどう言う…こんな急に包帯交換儀式をした理由って、まさか!
「王様壊れちゃったの!?」
「王は今日も健在であるわ!」
言って速攻頭を叩かれた。
そりゃ、そうか…大事にしている王様に対して壊れたって表現は不適切過ぎる。でも守れなかったって聞いたら誰だって壊れ…じゃなくて、えっと、負傷?それだ!
守れなかったって言われたら誰だって王様が負傷したって思うよね。
「健全なら、ちゃんと守れてるって事じゃないの?」
誰かに持ち出され…誘拐されたとか?それなら今日も健全って事にはならないし…何かを溢して包帯だけ汚れてしまったとか?包帯が足りずに一部分だけ剥き出しになってるとか…防腐剤の調達が間に合わなかったとかかな?
「王がミイラである事、それは我が守れなかった証拠ではないか」
あぁ…そう言う感じか。
生前のカフラが全力で王様を守っていても、結果的に王様は暗殺されている。それは確かに守れなかった事の証拠…いくら目を背けたって暗殺されたと言う事実は変わらない。だけど、そこに至るまでの過程って言うのか…そう言うのもちゃんと自己評価して欲しい。
「いつでもカフラは王様の為に死力を尽くしていたんだよ。だからこうして王様のミイラを任されたんだと思う」
今だって生活の中心が王様なんだから、生前はきっと、もっと凄かったんだろうなって思うんだ。
側近とかだったのかな?それとももっと深い関係だった…とか?それなら棺桶の文字にカフラの名前が書かれてないのが不思議…じゃない。
王様のミイラがすり替えられていた事を知った時、カフラは本物の王様のミイラを探す為にと棺桶の文字を全て声に出して読んでくれた。何度も何度も書かれていたのは太陽派と月派と言う宗教的な争いがあった事と、王様が最後の月派であった事、そして太陽派の神官によって暗殺されたと言う事。
あ、そう言えばカフラの名前は出てたっけ。王が信頼する“奪う者”カフラ、とかなんかそんな感じで。
そこでも王様は「王」としか書かれていない…王様の名前が記されなかったのは生きた痕跡を残さない為?ミイラを壊そうって言うんだから充分有り得る話だ。と言う事は、カフラは自分が大事に思っている王様の名前すら知らないまま守り続けている?
いやいや、生前に強く思っていた事って不意に思い出したりするよね?俺で言うと薬草の知識。ディルクで言うエルナさん。サクリアに至っては蘇ってスグに自分の食事方法を思い出してる。だからきっとカフラも何か思い出してる筈だ。それが王様の名前なのかどうかは、分からないけど…。
「我は…王を守りたかった」
少し俯いたカフラは、手に持っていた飾りを握り締めながら目を閉じてしまった。
かなり強く握り締めているのか、パキッと飾りが再起不能レベルに壊れる音が広間に響き、それで目は開けたものの、拳は開かれないままだ。
王様と一緒に巻かれていたそれらは、多分だけど復活を願う代物だったり、王様を守る護符?的な意味合いのものだったりするのだろう。それを破壊しているのに慌てた様子すら見せないなんて…守りたいって言葉と行動が合ってないじゃないか。それに復活と再生の神を模ったとか言うゴツイ首飾りは俺に貸してくれたのに、どうしてそれを王様に付けないの?
復活しないって事を知っているんだから、そんなのは無駄だって…分かってしまってるんだろう…。
「カフラは…王様のミイラを、ちゃんと守っているよ」
暗殺される前の、生きている王様を守る事がカフラの願い。だけど、その願いはこの先何年経っても叶う事はない。
名前を残されずに暗殺された王様の存在を証明する唯一のミイラ。だけど、年月と共にミイラも風化してしまう…王様が生きていたと言う事実を守れるのは蘇りとなったカフラだけなのかも知れない。だとしたら、やっぱりちゃんと王様を守れてるじゃないか。
「そうだな…。して、主はここで何をしておる?」
1回軽く頷いた後、粉々になってしまった歴史的に物凄い価値があるだろう飾りをゴミ箱の中に捨てたカフラは、いつもの様子に戻っている。今にも茶はいるか?って言いそうな雰囲気だ。
「エドを待ってたんだけど…わわっ!」
少し話し込んじゃったから時間を確認する為に時計を見て一瞬頭が白くなる。
後30分あるからってさっき考えてた所なのに、もう5分しかないよ!
えっと、アフロは被ったし、ガスマスクもしてるし、後何か忘れ物は…そうだ、依頼の手紙を持っていかなきゃ!
部屋に置いていた手紙を急いで取りに行き、広間に戻ると紅茶の香りが台所から。どうやら今からティータイムだったようだ。
「夕飯までに戻らなかったら皆に依頼で出かけたって説明お願いね」
台所に入りながら頼むと、紅茶を淹れながら、
「エドを待っていたのではないのか?」
と、不思議そうな顔をされた。
そう言えばさっき話の途中だったんだった。
「結構待ってたんだけど、もう約束の時間なんだよ」
時計を見ると後2分、これは走らないと遅刻だ!
「うぬ、エドを見かけたら後を追うよう伝えよう。約束の場所は何処だ?」
俺があまりにも慌しいからなのか、心なしかカフラまで早口になっている。それなのに物凄く有難い申し出をしてくれた。
「バーだよ。移動する時はマスターに場所を伝えておくから。じゃあいってきま~す」
気をつけて行って来いと見送られてバーに向かって猛ダッシュしながら、なんとなくだけどエドは来ないんだろうな、なんて考えてた。
屋敷に戻ってから余所余所しいと言うか…回復の進んだ俺を受け入れてくれてない感じがする。そんなだから俺からも話しかけ辛くて、今日の依頼を1つの切欠にしようと思ってたんだけど…依頼なら話しかける最大の口実になるし、以前一緒に解決したアンさんからだし、前みたいに仲良くしたかったんだけど…もう無理なのかな?
とりあえず、今はアンさんとの約束に遅れない為に全力疾走だ!




