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ディスペル  作者: SIN


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20/122

豆撒き

 豆を買って来て、そう頼まれて市場に来てみると、鬼のお面と共に豆が売られていた。

 どうやら今日はなにかイベントがあるらしい。

 イベントがあると、いつもゾンビンやハクシャクンに説明されているんだから、1つ位は俺から説明出来るようなイベントがあっても良いと思うものの、豆を買って来いって頼まれている時点でハクシャクンは今日が何の日かを知っているんだろう。

 だとしても、調べてやる!

 市場をグルグルと歩いていると、新しく“恵方巻”と言う単語が目に入った。

 「ねぇ、恵方巻きって、この太巻きお寿司の事?」

 独学ではなにも分からず、観念してお店の人の直接聞いてみると、お店の人はかなり丁寧な説明をしてくれた。

 どうやら今日は節分、と言うイベントの日らしい。

 太巻きお寿司を恵方を向いて食べるらしいんだけど、食べ終わるまでは喋っちゃ駄目なんだって。その恵方って言うのは歳徳陣さいとくしんと言う幸運を呼ぶ神様がいる方向で、今年は東北東らしい。豆は豆まきの時に使う炒った大豆の事で、鬼に投げ付けて退治する事で邪気を払うとか…難しい…。

 鬼って魔物の事なのかな?炒った大豆をぶつけて退治が出来るとは思えないんだけど…。

 「鬼役がお面を被るんですよ」

 あ~、それで豆と一緒に鬼のお面が付いてるのか。

 豆を買って屋敷に戻ると、時既に遅くハクシャクンによる節分とは?講座が始まるようで広間に集まった皆が俺に早くと手招きをしている。

 ハクシャクンは、さっき俺が市場で聞いてきた話と良く似た解説を始め、

 「鬼役は誰が良いかな?」

 と、ニコニコと素敵な笑顔を浮かべた。

 鬼役は皆から大豆を投げられると言う非常に重要で、痛い役割だ。だったらそんなのは痛覚のない俺しか適任者がいない。丁度アフロだしね。

 「俺がやるよ。お面被ってみたかったし」

 豆撒きは夕飯の後にするからと言ったハクシャクンがソファーに座ると、自然に俺達は解散と言う感じで自室に戻ったり、買い物に行ったり、広間で寛いだりって事になる。今だってフラケシュンやミイランは自室に戻って行ったし、ゾンビンは中庭に行ってしまって、広間には俺とハクシャクンとオチムシャンが残っている。

 「ハクシャクン殿…少しよいか?」

 小声で言いながらハクシャクンの前に立ったオチムシャン。

 「うん?どうしたの?」

 一旦口元にまで持っていったティーカップをテーブルに置いたハクシャクンは、首を傾げながらも笑顔を崩さない。

 「拙者…首の傷が治りかけているのでござるが…」

 治りかけている、と言うよりもほぼ完治だよね、それ。

 完全に切り落とされていた首は、蘇る前にゾンビンによって縫われた。お世辞にも綺麗とは言い難い縫い方で、傷口は酷いありさまだったんだ。ちょっと首を傾けるだけでカクンカクンって安定してなかった位。なのに今、ゾンビンが縫った糸はオチムシャンの首にはない。色は赤黒くて凄いものの痣がある程度で、よく見ると傷口がある~位なもの。

 痛覚がある分、これでも充分痛いのかな?

 「そうだね、前よりも痣は薄くなってるしね」

 前よりって、いつの事?俺は毎日オチムシャンを見てるから痣の色が変わったとか分からないんだけど…ハクシャクンだって毎日見てるよね?って事は昨日よりもって事?それでも俺にはサッパリ違いは分からない。

 ハクシャクンは元々魔物だから、視力とかが物凄く良かったりするのかな?

 「時々…痒いんでござるよ。なにか良い方法はないであろうか?」

 あ、痛みじゃないんだ。

 そっか、痛みがあるんなら蘇ってスグの首ガクンガクン時点で昇天レベルの激痛だよね。って事は…倒された時の傷と言うのは痛みとしては感じないように出来ている?俺には調べようもない事なんだけど、そうかも知れないな…だって皆は鎌で串刺しにされたり、首切られたりして倒されてる。その傷が痛む、なんて話はコレまでに1回も聞いた事がない。

 オチムシャンの痒み止め対策相談を立ち聞きするのも気が引けて、夕飯までの自由時間にもう1度市場に行こうかと外に出ると、何人かの町人が話しかけてきた。

 「ガイコツン、今会いに行こうと思ってた所で~」

 白衣を着た男の人が嬉しそうに言うと、

 「まぁまぁ、こっちに来てくれよ」

 と、2人の男が俺の腕を掴んで歩き出した。

 えっと、これは…拉致ってやつですか?とは言っても、この3人は顔見知りだし恐怖心も何もないけどさ。しかし、こんな強引な手法で連れ出されるってんだからなにか余程の事はあるんだろうなって。

 「それで…どうしたの?」

 1軒の家の中に案内され、椅子に座らされた所で声をかけてみると、3人の男はヨイショと俺の前に壊れた骸骨の模型を置いた。

 壊れたと言うよりも破壊された、かな?所々で折れてるし、部品もいくつかなくなっているらしく、俺と比べると肋骨が少ない。しかも、残ってる骨に至って言うと…適当に作られたのかな?って位に形が可笑しいんだ。

 俺は間違いなく元人間だったんだから、人骨模型として言うなら俺の姿こそザ、人間の骨!なのにこの模型は…腕の骨の長さも違うし、腰の骨なんか明らかに削ったような不自然な形になってる。

 動物の骨を寄せ集めて、人骨模型ですよって無理矢理作った。そんな感じ。

 「ガイコツンで型、取らせてくれないか?」

 白衣の男が言いながら奥の部屋の戸を開け…中には更に5人ばかしの男が既になにか…石膏のような物をクルクルとかき混ぜ、木枠やら粘土やらも大量に。

 これは、最初から拒否権は用意されてないっぽい。

 観念してまずは肩と頭を外して男に手渡すと、大袈裟にビックリされる。どうやら外れるとは思われてなかったらしい。

 それを思うと、何で普段はくっついてんの?って事になるし、筋肉もなにもないものどうして動けるの?とか、声帯ない癖に喋れるってどうなの?って事にもなるから考えないようにはしてきたんだけど、そうビックリされると適当でも何でも答えってのを導き出しておかないと駄目なのかな?なんて思えてくる。でも…考えて分かるんならとっくに分かってるんだろうし、そもそも蘇るって所から解明されてないんだから骨が動く、位の不思議は、ほんの些細な出来事だ、と言う事にしておこう。

 粘土の中に顔面を埋められて改めて思ったのは、俺が実は呼吸をしていたって事実。

 骨の俺が呼吸をしているなんて思いもしなかったんだろう男達は、空気穴を作ってるでもなく、首だけにされた俺も動ける訳もなく。喋って助けを、とか思った所で粘土が邪魔をして声も出ない。それでも特になんともなくただ石膏が固まるのを待っていられるのは、苦しくないから。

 生前の習慣で呼吸をしていた?にしたって肺なんかない訳だし~…。

 正確には呼吸をする真似をしていたって事なのかな?

 「ガイコツン、お疲れ」

 部屋の中に所狭しと並べられた俺の体の、頭部に向かって白衣の男が笑いかけてきた。他の男達は骨を元の位置に戻そうとあ~でもない、こ~でもないと言いながら組み立てている。

 そんな様子をもう少し眺めておきたかったんだけど、今日は夕飯の後に豆撒きがあって、俺はその鬼役だから遅れる訳にもいかない。だからそろそろ帰らなきゃ。

 「お役に立てたみたいで良かったよ~」

 そう言って気合を入れてみるとガチャっと骨が集まって組みあがる。

 これで元に戻っ……まだだ。カツラ、忘れてた。

 家を出て方向確認する為に辺りを見回すと、丁度オチムシャンの後姿が見えた。

 どうして今から市場の方に向かうのかってのは分からないんだけど、首が痒いって言ってたし薬局にでも行くのかもね。

 「オチムシャ~ン、どこ行くの~?」

 大声で呼びつつ手を振りながら駆け寄ると、振り返ったオチムシャンは俺が着くまで立ち止まってくれるつもりなんだろう、手を振り返してくれている。

 「拙者は今から海苔を買いに行く所でござるよ」

 海苔?痒み止めに使えるのかな?あ、そうか。

 「太巻きお寿司に使う海苔?」

 「スッカリ忘れてたでござるよ」

 照れ笑いを浮かべたオチムシャンは、多分無意識なんだろう、首を少しかいた。

 相当痒いんだろうな…冷やしたりした方が良いのかな?それとも完全に傷が治るまでひたすら我慢?

 まぁ、その辺についてはもうハクシャクンからなにかしらのアドバイスは受けてるんだろうし、俺が口出しするような事でもないかな。

 「じゃあ、いっぱい買って帰ろ」

 10枚入りの海苔を2パック買って屋敷に戻り、太巻きお寿司作成を手伝おうかと思ったんだけど、俺の手にはまだ粘土やら石膏が着いていて、食べ物を調理出来る状態じゃないから断念した。

 何をするにもまずはお風呂からだ。

 たっぷりと時間をかけて綺麗に洗った後はいよいよ夕飯の時間、俺は食事が出来ないんだけど食卓についている。別に意識してそうしてる訳でもなくて初めからこう。

 皆が食卓囲んで、美味しそうに食事しながら楽しそうに雑談して。それを見てるのが好きなんだ、幸せな気分になれるから。

 「あ、そうだ。豆撒きだけど鬼チームと豆を投げるチームに分かれて対戦しよっか。雪合戦みたいにさ♪」

 紅茶を飲んで食事を終わらせたハクシャクンが、鬼のお面をテーブルに2枚置いて、3枚目を俺に手渡した。

 「拙者、鬼がやりたいでござる」

 「俺も鬼をする」

 もう少し鬼決めは時間かかると思ってたんだけど、立候補者だけで決まっちゃったよ。しかも合戦、フラケシュンとオチムシャンが仲間になった俺はかなり有利だ。

 厄介なのは空を飛べるハクシャクンか、それともどう攻撃が飛んでくるか予想が出来ないミイランの鞭か…あ、でも武器は豆なんだっけ。

 「OK決まったね。負けたチームには使ってない部屋の掃除してもらうからね」

え~~~使ってない部屋っていっぱいあるけど?それをたった3人でやれって?これは、負けられないや。なら俺も本気でやらないと…そうだ。

 「武器は豆でしょ?どうやって勝敗を決めるの?」

 「ふふふ…怪我さえしなきゃ何を使っても良いよね。俺達は“奪う者”でしょ?合戦と証したこう言う訓練は必要だと思ってね」

 なるほど、豆撒きって言うのはただの口実なんだね。

 武器、どうしようかな…俺は魔物と戦う時は両手にダガーを持って二刀流で戦ってる。だからその練習って言うんだから二刀流でないと意味がないよね…でも怪我をしない程度の攻撃しかしちゃいけないなら本武器は使えない。

 「拙者は木刀にしたでござるよ」

 そう言いながらオチムシャンは中庭から持ってきたんだろう、少し太めの木の枝を持っている。それを木刀と言い張る辺りが男前過ぎる!

 「俺は竹刀」

 フラケシュン…それは、無理がある…。

 竹刀、と言いながらフラケシュンが持っているのは、ゾンビンが集めたガラクタの1つである竹製の花挿しだ。

 「ね、ねぇ、武器は中庭の木の枝で統一しない?」

 中庭で良さそうな枝を見つけて広間に戻ると、ハクシャクン達がなにやら作戦会議みたいな事をしていたんだけど…よく見ると、木の枝を持ってるのはハクシャクンだけで、ミイランはいつもの鞭持ってる。ゾンビンは魔物と戦っている時にしか着けない眼帯をしていて、武器的な物は何も持ってないんだけどさ…ゾンビンの攻撃スタイルは打撃で、殴ったり蹴ったり…何も持ってなくても本気じゃないか!!

 俺達に、勝ち目ってあるのかな?

 「用意は良いね?START!」

 作戦も何もない俺達は個人戦でやってくしかないんだけど、そうすると本気武器のまま参加しているゾンビンやミイランに太刀打ち出来ない。なんとかして1対3の状況に持ち込みたいんだけど、作戦会議を行ったあの3人の動きにはスキがない。対陣を崩すには痛覚のない俺がまず切り込んで行って……。

 「イザ!!」

 「遅れんなよ!」

 あっ!コラ2人共早まちゃ駄目だよ~~~。

 最初に突っ込んで行ったオチムシャンにミイランが鞭攻撃を仕掛け、それを受け止めたオチムシャンはミイランの鞭を掴んでミイランの動きを止め、そこをフラケシュンが攻撃。しかしハクシャクンの上から援護攻撃によって引くしかなくなり、鞭を押さえているオチムシャンが次の標的となってゾンビンが突っ込んだ。そうは行くかと俺がオチムシャンの前に立って武器…じゃなく枝を構える。何も持っていないゾンビンは、刃物を受ける用の盾も持ち合わせてないから、引くしかない。と言っても実際は枝なんだけど…。

 一瞬動きが止まった俺達の頭上、スキ有りとばかりに攻撃をしてくるのはハクシャクンで、鞭を掴んでいたオチムシャンは一旦体制を整える為後ろに下がった。

 「こうも攻撃が当たらないと、自信喪失しちゃうね」

 ふふふと笑いながら自分の持つ木の枝を眺めながら、本当に自信喪失してしまったハクシャクン。だけど、違うんだ、攻撃をされている側のオチムシャンやフラケシュンの交わし方が異常なんだもん。

 なに?あの曲芸。

 なんにしたってこの2人の回避能力は高いって事、じゃあ俺は俺の心配だけする事にしようかな。なら全力で攻撃する方法を見つけなきゃ……。

 「まだまだ!」

 「行くぞ!!」

 だから~~~ど~してそう突っ込んで行くのさぁ~~~。

 オチムシャンの先行を上にいるハクシャクンが阻止するように攻撃を開始させると、フラケシュンが椅子を踏み台にして高くジャンプし、ハクシャクンの羽を目掛けて枝を振り下ろした。ダメージはほとんどなかったんだろうけど、それでもバランスを崩したハクシャクンは合戦が始まって初めて床の上に立ち、上からの攻撃がなくなっている間にとオチムシャンはミイランに向けて攻撃、ミイランはまた鞭で応戦した後、さっきのリプレイ動画を見ているような流れで鞭を捕まれて動きを封じられている。しかし、さっきと違うのはミイランの持っている鞭が1本ではなかった事。シュルシュルと腕に巻いた包帯を解くと、ソレは2本目の鞭へと変化した。こうなってしまうと動きを封じられているのは寧ろオチムシャンの方だ。ミイランは2本目の鞭でオチムシャンを攻撃する事はせず、フラケシュンに向かって振り、それを攻撃だと思ったフラケシュンが枝を防御の形で構える。だがしかし、それは攻撃ではなく動きを封じる為に放たれたもので、鞭はグルグルとフラケシュンの足に巻きついた。鞭を手放したオチムシャンは、次に攻撃を仕掛けられるのはフラケシュンだと思って護衛に向かおうとした所でミイランとハクシャクンに挟み撃ちにされてしまった。

 目の前にはハクシャクンのレイピア…代わりの枝、真後ろにはミイランだ。

 「ッ…!参りました……」

 今気付いた、ハクシャクンは地上にいた方が動きが良い。だったら空に戻ってもらわなきゃ1人減った俺達は不利だ。でも、空にいたらいたで上からの攻撃にも気を付けなきゃならないから派手には動けなくなる。

 負けたら使ってない部屋の掃除ってのも勿論嫌なんだけど、それ以上にただ勝ちたい。飼った方が掃除って条件だったとしたって、やっぱり勝ちたい。

 包帯を外したフラケシュンが1歩下がって剣を構え、ハクシャクンとミイランを睨んでいる。その様子を少し離れた場所で見ているのはゾンビン。武器も盾も持っていないゾンビンは、俺かフラケシュンが丸腰になるのを待っているんだろう。素手でゾンビンに勝てる自信はこれっぽっちもないんだけど、武器があれば、違ってくる。

 少し大変だろうけどハクシャクンとミイランをフラケシュンに任せて、俺はゾンビンをどうにかしよう。

 「暇そうだね」

 後ろから一気に攻撃しても良かったんだろうけど、俺はそうせずに声をかけてから近付いた。

 「そろそろ来ると思ってたよ」

 暇をしていたのはお互い様だし、こうなるのは分かってたんだろう。じゃあ、さっさと始めようか!

 俺が枝を持って攻撃をしようとした時、ゾンビンは横に置いていた豆入りの枡を掴み、豆を鷲掴むと思いっきり投げ付けてきた。

 「鬼はぁ~~~外ぉぉぉ!!!」

 耳元で物凄い大声を出されてキーンとなっている間に押し倒され、足で武器として使っていた枝を蹴られて丸腰にされ、もう1度豆を投げられた。

 「ほら、福は内って言わなきゃ」

 上に乗っかっているゾンビンは“鬼は外”と言いながら1粒づつペシペシと投げてくる。けど…福は内ってのも豆を投げる人が言うんじゃなかったっけ?

 「鬼は喋らないでしょ」

 「え?じゃあ俺が全部言うの?」

 「投げながらだよ」

 こうしてゾンビンは豆を投げきり、俺達は……。

 「ガイコツン、フラケシュン、オチムシャン、明日から頼んだよ」

 負けました。

 悔しいな…来年、まだ俺達が動いていたら…同じメンバーでリベンジだ!1年もあるんだから色々作戦も立てないとね!

 まぁ、覚えてたら。

挿絵(By みてみん)

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