遅い帰宅
港で待機していたピヨとペペの2人と合流すると、バッサバッサと俺達の上空が日陰になり、見上げた空には2匹のドラゴンを従えたアンさんがいた。
来る時とは比べ物にならないほどゆっくりとしたスピードで人間の住む大陸へと戻って来れた俺達だが、そのまま屋敷には戻らずに歩いて帰る事にした。その理由は、俺の羽を生やす為。
前回の俺はアンさんの依頼の最中で羽が生えた。船のスクリューに巻き込まれそうだったって危険な状況に陥って、それでブワッと。だから、この依頼が完全に終わってしまう前にどうしても生やしたかったんだ。
どうやって?とは自分でも思うんだけど、今の俺は痛覚がないからかなり酷い怪我をしている状態。そこへ何か…危険な事が起きた場合、命の危険がある。
ルシフェルやポチ達が助けに出てくる可能性を経たなきゃ無駄かな?
出てくるなって命令をしたところで、命の危険があるのなら無視して出てくるだろうし…いや、今の俺は蘇りな訳だからどんな目に遭おうとも死ぬ事はない。なら命の危険を体験した所で羽は生えない?
前回、飛び立った俺にしがみ付いたエドを落として昇天させてしまった事を思うと、俺が無意識に羽を拒否している可能性もあるし…。
「なー。足そんななのに、本当に歩いて帰るのか?」
不満そうに言うエドと、その後ろには無言のルシフェル。
羽が生えると気配を感じ取る事が出来るから便利だし、戦いになった時にも、急な移動が必要になった時にも便利。そしてこの先、急な移動が必要になる場面が何度かある筈だ。
「…羽、あった方が便利なんだけど、生えないから…足が痛いのに歩き続ける事でバッと出ないかなー?なんて…」
けど、羽が欲しいと思う反面このままでも良いとも思う。
前回と同じにしたくないのなら、羽を生やさないままってのも有効かな?って。それなら少なくともエドを落とす事はなくなる訳だし…。
「はぁ?お前に羽なんかあったら今以上に安静にしねーから却下。生えてきたら毟り取ってやるよ」
毟り…いやいや冗談で…はないか。何処にも行けないようにって毎日毎日足の骨を砕きに来るような子だもんな…羽を毟る位、なんて事もなくやってのけそうだ。
「怪我が治ってからの羽なら良い?」
怪我が治るまでは大人しく寝てるから、その後なら良いでしょ?しっかりと完治してからなら文句もないよね?
「んー…俺に内緒で遠出したら毟る!」
内緒で遠出するだけでアウト!?それにその遠出したらって曖昧だし!
「遠出の基準が分からないよ!」
「日帰りならセーフ…いや、半日!」
「半日!?」
屋敷から半日っていったらどの辺りになる?出かけるって事は用事があるわけだし、往復する時間も考えたら漁師の町までじゃない?そんな近場に出掛けただけで毟るなんて酷くない!?
「行き先位は伝えて行けって事。無断で遠出するなって意味。分かる?」
あぁ、告知すれば良いわけね。まぁ、言えば余程の事がない限りは着いて来るんだろうけど…行き先が砂漠なら来ないだろうし、連れて行けない場合は砂漠って言っておけば大丈夫かな?後でバレたら毟られるんだろうけど…。
「単独行動したい時はどうしたら良い?」
留守番ばかりは嫌だって、よく怒られていた気がする。だけど俺だって考えなしだった訳じゃなかった筈…。
「その理由を言ってくれたら良い。納得出来れば文句もないしさ」
納得出来ればって所が問題なんだけどなぁ…。例えばさ、危険な目に遭わせたくないからって理由だと納得しないんでしょ?
じゃあ、嘘にはならない程度で誤魔化すような事を言えば良いのかな?ゆっくり薬草を見たいから、とか言えば大丈夫かも?あ、駄目だ。薬草の知識をエドにも教えてるんだから、一緒に見る。とか言われたら断れない。
寧ろ一緒に連れ回して、常にルシフェルに護衛を頼んでおくのも良いかも?そうだよ、予めルシフェルに“何があったらエドを優先に助けるように”って言っておけば安心じゃないか。で、俺はピヨに助けてもらえれば良いんだし。
なんにせよ、まずは怪我を治す事が先か。
「ピヨ、ちょっと出てきて。お願いがあるんだけど…」
ルシフェルではなくピヨを呼ぶと、スッと現れて頭を下げたんだけど、そんな態度とは裏腹に、
「屋敷まで連れて行ってくれ。以外なら聞きませんよ?」
なんだか強い意思を感じさせる言葉が返ってきた。
頼もうとしていた事は確かに屋敷まで飛んで欲しいって事なんだけど、こんな風に言われてしまうと少しばかり困らせてやりたいと思ってしまう。
「何言われようが無視すりゃいーよ。屋敷まで連れてって、ベッドん中押し込も」
言葉を考えている俺の隣で、エドがそう言ってニヤリと笑う。
そしてそれを聞いたピヨもまたニヤリと…。
まぁね、安静にしなきゃならないんだから早く屋敷に戻って横になるのが1番なんだけどさ、言い方がちょっと乱暴じゃない?押し込むってなにさ!
「なら私達は先に戻ってサクリア達に報告しておくわ。ピヨはそのまま部屋の窓から入ってきて頂戴」
急に“魔石”から出てきたペペは、ポチの入っている“魔石”をコツコツと指で突き、それで出てきたポチと一緒に屋敷の方へと走って行ってしまった。
どうやら俺は皆にただいますら言えずにベッドに押し込まれるらしい…。
「なに?なんか言いたい事あんなら聞くけど?」
言いたい事だらけだよ!
「皆にただいまって言いたいし、怪我の事も報告したいし、ドラクルを勝手に屋敷に招待した事だって…」
「その為に先にあいつ等が帰ったんじゃん。それにサクリアなら気配で俺達が帰ってきた事位分かってるだろうし」
それは…そう、だけど…。
「じゃあエド、俺の分まで皆にただいまって言っといてね」
「任せとけって!」
笑顔で手を振ってくれたエドに手を振り返し、俺はピヨに連れられて屋敷に戻ってきた。
窓から自室に入れば、そこではベッドの準備をしているペペがいて、部屋の中にはサクリアもいた。
良かった、サクリアには自分で報告が出来る。
「ただいま…えっと、怪我しちゃった…」
なんだこの報告!
「怪我の事は聞いていたけど…思ったよりも酷そうだね…」
これでも随分と良くなっている筈なのに、それでもサクリアが予想していたよりも酷い状態に見えるのか!
確かに痛覚はないんだけど、出血による腹部の腫れは引いてるし、腕も繋がってるし…。
「怪我が治るまでは大人しく寝てるよ」
そうしないと羽が生えた時に毟られるし。
「うん、そうだね。ご飯は食べられそう?」
あ、そうか。確かに俺は重症だ。
「ごめん…まだ食べられそうにない」
「飲み物も?」
「欲しいとは思わないかな…」
回復の為には食べた方が良いんだろうけど、無理して食べても良くないんだろうから、お腹が空くまでは何も口にしない方が良いんだろう。
「回復に専念して欲しいから、入室を制限するけど構わないかい?」
入室に制限?そんなに悪い状態だったのか、俺…。だけど、痛覚が戻ったら大人しく寝ている事すら難しいほどにもがいてしまうのだろうから、そんな姿を誰にも見られずに済むのならそれはかなり有難い事だ。
「うん、ありがとう」
「焦らなくて良いから、ゆっくり治すんだよ」
そう言って部屋を出て行ったサクリア。パタンとドアが閉まると同時に、カシャンと鍵の閉まる音が聞こえた。
鍵までかけるなんて、余程だ。
ゆっくりしてる場合じゃないんだけど、こればかりは焦って如何にかなるものでもないから安静にして寝てるのが1番の近道なのだろう。
丁度、以前に起きた事柄を思い出す時間が出来たと思えば良いじゃないか。痛覚が戻るまでは意識もしっかりとしていられるんだろうし、これからの事を考えるにも良い時間だな。羽の生やし方についても考える必要があるだろうし…。
寝てるだけだけど、それでも暇にはならなそうで良かったよ。




