スヤスヤ
何度も何度も目が覚めては気絶を繰り返し、やっと、ようやく、大きく息を吸っても空気が漏れる音がしなくなった。
立ち上がろうとしても…
ドサッ
あー、足の腱はまだ回復しきれてないか。
左腕は全く動かないけど一応肩と繋がってるから、千切って破裂して手首だけになったって所を考慮すれば、充分完治したと言って良いレベルだと思う!
「起きて大丈夫なのか?」
ベッドから落ちた俺を1つの眼球が見ている。何処から?と視線を泳がせると部屋の入り口にエドが立っていた。
「オハヨ。今日は気分が良いんだ~肺の穴が塞がったんだと思う」
後は痛覚がまだ戻っていないってのがあるんだけど、こっちは態々声に出さなくても良いかな。それにちょっと説明がし辛い状態って言うのかな?痛覚が完全にない訳でもなくて、だからと言って戻ってる訳でもない中途半端な状態?
「だからって動き回るなよ。骨は?ちゃんと全部繋がったのか?」
骨は元の位置には戻ってるよ。だけど全部繋がってるかと聞かれたらちょっと言葉を濁さなきゃならない。損傷が激しかった肋骨と左腕と両足首は、流石にね…。
あぁ、濁しちゃ駄目なんだ。正直に話して、隠し事をしないようにしなきゃ。だからって堂々と繋がってないとか言っても怒られるんだろうし、どう言えば良いんだろう。
「まぁ…微妙な所かな」
結果、濁してしまったよ。この返答だけで嫌われるって事はないよね?いや、こういう小さな事が積み重なって、取り返しのつかない程の山になるんだ。だから出来るだけ濁すのも止めた方が良いし、嘘も誤魔化しもなしにしよう。
その場で激しく怒られる事になったとしても、嫌われなきゃそれで良いんだ。
「痛覚は?」
うはぁ!
嘘も誤魔化しもなしって決めた直後に、答え辛い事を聞かれるなんてね…。もう、良い!全部そのまま言ってやる!
「動かしたら一瞬痛いんだけど、その一瞬だけで後は何も感じないよ」
一瞬でも痛いという事は、痛覚が戻りかけている証拠。だからいつスコンと痛覚が戻って、動けない状態になるのか分からない。肺の穴が塞がったとはいっても下腹部には引っ張られているような違和感がある。
それでも痛覚が戻るのは今よりも回復が進んだ証拠だから喜ばしいのだけど…それが一瞬で何も感じなくなるって事は?
はい、動き回っている事によって回復が進んでいないという証拠だね☆
んー、でもなぁ。
明らかにここに連れて来られた時よりも軽症なのに、どうして痛覚が戻っていないのかが不思議だ。
「足だけでも早く治ると良いな」
ベッドの上に戻してくれたエドが、ソッと足に触れてくる。触られているという感触はあるから、足もそれなりには良い状態なのかも?踏ん張りは全く利かないけど、骨を正しい位置で固定したからグリングリンとあらぬ方向に向かなくなったし。となると後の問題は腱だけかな?
自己治癒にまかせっきりで良いのかな?早く動きたいなら病院に行くのもアリかも?だけど、治療費ってどれだけ掛かるんだ?
羽が生えてくれれば、移動は飛べば出来る分ましになるんだけどなぁ。
「ドラクルが戻ってきたら、足が治ってなくても帰るよ」
帰りは船代をケチりたいから羽…あぁ、こんな病み上がりでもない痛覚飛ばしただけの俺が長距離飛ぶのは無理があるか。だったらアンさんに頼んでドラゴンの…あぁ、駄目だ。来る時、ドラゴン移動の風力に負けていたのは俺だわ。しかもその後ドラゴン酔いまで。そうなると帰りは船って事になりそうだ。
お金あったっけ?
「あいつ、いつ帰って来んだ?」
いや、それを俺に聞かれても分からないとしか…。あれ?骨の位置を戻した後の大惨事が今は落ち着いてるんだから、結構な時間が経った筈。それなのにまだ帰って来てないってどういう事?長居し過ぎじゃない?
「久しぶりに身内と再開するんだ。積もる話もあるだろう」
「にしたって、遅くね?」
あぁ、こんな風にルシフェルとエドが普通に会話をしているって事は、本当に長い時間が経ったんだな。
「えっと、どれ位経ったの?」
何週間?それとも、何ヶ月?何年って事はない、よね?
「えっと、2日?」
「今日で3日目です」
意外と短いね!
船を使わずに羽で飛んで移動したとして、屋敷に着くのには大体1日は掛かるだろうから、何もせずに往復したとしても2日。
今日が3日目と言うなら1日の滞在となる訳だ。しかもリッチの弟で、リッチを“魔石”から開放しろって要件である事を考えたら、まだまだ時間は掛かりそうではある。だとしたら、ここでドラクルを待つよりも、俺達も屋敷に向かった方が良いのだろうか?いや、この部屋の鍵を預かっていないんだから無人にするのは無用心だよね。
鍵を渡さなかったのは、帰って来るまで待ってろって事なのかも知れないし。それに、ベッドを占領してシーツを何枚も血で駄目にして、心配までかけちゃったから、元気な姿を見せてから帰った方がお互いスッキリするだろうしね。
いや…元気って事もないんだけど。
まぁ、痛覚がないんだから元気な振りをする事はできる。
「帰ってくるまでには、この痛み止めの分析を…」
「もちろん、帰ってくるまでには元気になりたいって言いたいんだよな?」
エド、顔が怖いよ?
「本当に元気になってもらいたいのですけどね」
そしてルシフェルの顔も極悪だ。
この痛み止めの分析は屋敷に戻ってからにしよう。そもそも飲んだ直後から舌や喉を不快にする強い薬なのだから、何をどう薄めても人間には使用出来ない気がする。それに、人間が使用しても不快感が出ないまでに薄めて、痛み止めとしての効果が期待出来るとも思えない。
毒草と薬草の配分、使用されている薬草と似た薬草が人間の住む島にあるのか…もう少し詳しくこの痛み止めの調合方法が分かれば、屋敷に戻った方がより詳しく調べる事が出来るだろう。
だったら今の俺に出来る事って?
そんなの、散々言われてるじゃないか。
「アハハ…寝ます」




