おやすみ
ドラクルの部屋のベッドの上で、俺は部屋の主であるドラクルとポチ、ペペ、ピヨの4人に手を振って見送っている。
あの4人には今から屋敷に戻ってもらう。
ドラクルとリッチを会わせるって目的もあるけど、もう1つ。俺の状況を軽く伝えてもらうため。
昇天レベルの重症の所を、ちょっと動けない程度の怪我って事に…まぁ、それでも結構な重症ではあるんだろうけど…。
部屋の中にはドラクルが俺に持ってきてくれた痛み止めが1つ、2つ…8瓶あって、薬草図鑑と痛み止めに使用されている薬草と調合セットまで。
本当は草原辺りまでの外出許可も欲しかった所なんだけど、薬草の採取は許可のある者しかしちゃ駄目って決まりがあるとか。
魔王島って、人間の住む大陸よりもなにかと厳しいみたいだ。
と言う訳で用意されたこれらの材料で恭治が飲んでも安全な痛み止めを調合しなければならない。
俺がこの薬を飲んでから1夜、痛覚は少しも戻って来ないから薬の効果で痛覚が鈍っているんじゃなくて副作用による昇天。それを思うと同じ材料で痛み止めを作る事も危険な感じはするんだけど…まぁ、ドラクルが戻って来るまでの暇潰しと静養って事で。
「寝てください」
「薬の分析するとか、調合するとか、言わねーよな?」
そんな静養の見張り役としてルシフェルとエドが俺と一緒にドラクルの部屋に残る事になった。
今魔物に見付かっても俺は戦えないから、正直助かったんだけど…薬の分析ぐらいは許してよ!
「使える薬なのかだけでも…」
サクリアは魔物だから、絶対こっちの薬の方が体には合う。ちゃんと分析出来れば、人間の住む大陸に生えている薬草で再現が可能かも知れないし…そうなれば恭治にも安全な薬が出来る筈なんだ。
「はぁ?副作用で昇天するような劇薬をどうするってんだ?しかも片手で」
そこなんだよね。
左腕はまだ取れたままなんだよ。くっ付けたいから骨を元の位置に戻す為に気合を入れたいんだけど、全身結構グシャグシャだから1回や2回気合入れたぐらいで元に戻るのかどうか…それに、1回気合を入れて何処まで消耗するのかも分からないし…。
「貴方は今、絶対安静です!」
あ~、天使副長様に全力で怒られちゃった。
「…なぁ、大丈夫なのか?」
え?
え?なにそんなしみじみ言ってんの?そんな酷い怪我に見え…るよね。だけど痛覚ないし大丈夫…じゃないから痛覚がないんだ。
冷静に見てみると、かなり酷い怪我だもんね…消耗がどうとか言うよりも先に骨の位置を戻して、せめて真っ直ぐ座れるようにしよう。きっとそれだけでも違う筈だ。
「今から骨の位置戻してみるよ」
笑顔で宣言して目を閉じ、いつもよりも深く集中して一気に気合を入れた。
その瞬間、何処からとも無く破裂音が聞こえた。
それと同時、腹部に引っ張られるような違和感。
痛みは全く無いけど、何か最悪な事が起きたんだと思う…だから、目を開けたくない。
「キリクッ!」
空気を吸っても吸っても息苦しい。
何処からか空気の漏れ出す感覚と音がする。
特に何も口にした覚えもないのに、口の中いっぱいに液体があって、どんどん溢れて止まらない。
あぁ、本当に目を開けたくない…。
唯一の救いは骨の位置がちゃんと元に戻った事。後はくっ付くのを待つだけだから骨はもう心配ない。
骨だけは。
「しっかりしろ!キリク!」
俺が目を開けないせいでエドは必要以上に心配してしまっているようだ。
惨状を見るのは嫌だけど、息苦しいだけで後はなんとも無いってエドに伝えよう。
ゆっくりと目を開けて見えたのはエドの顔と真っ赤に染まったドラクルの布団。そしてありえない位に膨れた自分の腹部。
そっか、グッシャグシャだった骨が一気に元の位置に戻ったんだから、内蔵が引っ張られたりしてとんでもない事になってしまったのか。
「ゴボ、ゴボボ…」
喉を上がって来る血が邪魔で声が出せないし、多分肺に穴が開いちゃったのかな?経験した事もない息苦しさで意識が遠のく。こうなってしまうと痛覚がない位じゃあどうしょうもない。
けど、このまま気絶なんかしちゃったら心配かけてしまうから…そうだ、喋れないなら書けば良いんじゃないか。
鞄の中に入れているメモ帳を取り出そうと手を伸ばした所で、
「心配すんなって言いたいんだろ?良いから寝てろバカ」
エドに怒られた。
なんだ、言いたい事は既に伝わってたんだね。でもさ、もう1つあるんだけど…それは少し休んでからにしようかな?
「状態が落ち着いたら、ベッドシーツの取替えをしろ。ですね?」
あはは、ルシファーもご名答。
心配するなって言えた所で2人は心配するのだろうし、シーツを替えてと言えても俺の出血と吐血が止まるまではシーツを替えても無駄。だったら気絶でも何でも良いから眠って、少しでも回復するのが1番良いんだろう。
最後に「おやすみ」とかなんとか声をかけられればもっと良いんだろうけど、今何かを言おうとしたって嗽してるみたいな音しか出なさそうだ。そんな音を聞かせる位なら黙ってよう。
いつ目が覚めるんだろう?目が覚めた時、少しは回復出来てるかな?出来ればドラクルが戻って来る前にはシーツの交換をしないと…。
「早く寝ろっての!」
はいはい、分かったよ。
それじゃあ、
おやすみ。




