先見の目
誰も信じてくれないここだけの話をしよう。
就職してから一年半が過ぎた時、私は地方に転勤になった。そこから七ヶ月と半月で再び異動を言い渡された。こんな話はどこにでもあるありふれた話。
少しだけ変わっているのはこの後から。
新しい勤務先で働いていた時、疲れて帰った私は次の日が休みだったこともあり、風呂に入って布団で倒れるように寝た。午前六時半に電車に乗り、帰って来たのは夜中の十二時。これを既に半年近く繰り返している。
その日に見た夢は仕事の夢だった。いつも通り働いているごくありふれた日常。けれど、おかしな点があった。夢の中で私はそのことに気が付いていた。
そもそも、その職場は私が知らない場所だったこと。働いているお店の従業員の顔が不明瞭だったこと。
夢から覚めた私は考えた。
前の職場、前々の職場……。該当する店舗が記憶の中に存在しなかった。だから、私はふと馬鹿げたことを思いつく。
「異動が近いかもしれない」
確証はない。しかし、頭の中を綺麗にその想いだけが通り過ぎていった。
それから数ヶ月、私は異動を言い渡された。
新しい場所、新しい従業員、新しい環境、全てがまた塗り替えられて始まっていく。そして、働き始めて数日、私は夢のことを思い出した。
店舗の内装、自分の膝を曲げた角度、荷物を持った手、目の前に広がる商品の列。夢で見た光景とまるっきり一緒だった。
これと同じ現象が三度、繰り返された。
仕事の夢を見て数ヶ月後には異動を言い渡される。その夢の内容と現場の状況が一致する。偶然かもしれない。けれど、私はそれを体験した。
二回目までは異動先の夢を見た。けれど、三回目の時、それは夢ではなかった。
十一月半ば、仕事で疲れ切っていた私はソファに座り込み俯いていた。
「今の仕事はもう長くない。二月には辞めるだろう」
十二月初旬、私は別の店舗に異動した。
二週間で私は「ああ、最後だ」と確信した。仕事量、人間、色々なものが私のグラスからあふれ出した。もうこれ以上は精神的にもたない。両手に抱えきれない荷物が指先から落ちていく。拾い上げては別の荷物が指先から滑り落ちた。
「もう無理だ」
十二月下旬、その時の私は辞める事に精一杯だった。
後任が上手くできるように雑用は全て終わらせるように動いた。
「辞める」と言えずに一月の頭、忙しい時期を過ぎたタイミングで店長へと告げた。
二月末、私は会社を退職した。
夢も予測した未来もその通りになった。そのことが少しだけ怖かった。




