第六話 学園
あんなことがあって以降パパとママは、私を一人で街を歩くことはさせなくなった。
どこへ行くにも必ずパパかママどちらかの同伴するようになった。
別にそんなことはしなくていいのに……と思っていたのだがあの出来事は私のここに少なからずトラウマを植え付けた。
あの日以降、細く暗い道を一人で通ろうとすると足が震え、途中から足が動かなくなってしまうのだ。
風の噂で私を犯そうとした奴らは捕まったことを知ったが、それでもこのトラウマが治ることはなかった。
だが、それ以外はあまり変化らしいことはなかった。
あの日以降、セリナとも会うこともなかったし、パパもママも私のことを心配してレベルを上げにいくこともなかった。
そうこうしているうちに気が付けば学校の入学式の日になっていた。
私はいつもより少し早く起きた。入学式ということもあって緊張しているのか早く目が覚めたのだ。
私はパジャマのまま一階のリビングに行くとママは朝食の用意、パパは何故か腕立て伏せをしていた。
「あら、ミーシャおはよう今日は早いのね」
「お、起きたか、おはようミーシャ」
「おはようママ、パパ。なんで腕立て伏せしてるの?」
私がジト目でパパを見ているとママが教えてくれた。
「パパったらミーシャの入学式で緊張しているんですって」
「え?なんで?」
答えになってないじゃん。私の入学式でなんでパパが緊張しているの?なんで腕立て伏せ?
頭の中にはてなマークを量産しているとママが後から捕捉してくれた。
どうやら、パパは私がちゃんと入学式に参加できるか不安で、その不安を紛らわせるために腕立て伏せをしているらしい。
アホか!入学式くらいきちんと参加できるわ。人生で何回入学式を体験していると思っているだ。
なんてことは言えないので、私はパパに呆れつつ背中に乗り負荷を増してあげた。
私を見くびった罰だ、潰れろ~
だが、この行動は逆効果であった。
「お、ミーシャもパパの筋トレ手伝ってくれるのか。ありがとな」
「うわ、落ちる。パパ激しすぎ、あ、おち、ふぎゃ」
何を勘違いしたのかパパは腕立て伏せのスピードを急に上げたのだ。上に乗っていた私はというと当然のことながらうまくバランスを取ることができずにパパの背中から落ちた。
「ミーシャ!」
「いてて、もうパパいきなりスピード上げないでよ」
「ごめんよ。怪我はしなかったかい?」
「うん。このくらいの高さから落ちたくらいで怪我なんかしないよ」
「はぁ良かった。もしミーシャが怪我していたらパパ、死んでたよ」
「えっなんで?」
「……ママに殺さる」
「あぁ……そうだね。よかったね」
「もう、二人ともおバカなことしてないで座ってください。朝ごはんですよ」
いつもより少しだけ早い朝ごはんを取り終わると私達は入学式へ向かう準備を始めた。
前世なら制服を着て即出発という位、適当であったが今生は女の子朝の支度でも時間がかかるのだ。
まだ十歳なので化粧の類はしないのだが、私の銀色の髪は腰ほどまで長く整えるだけでも時間がかかるのだ。
そこから更にセットを行うのだ。長い髪を鬱陶しいとママに言ったのだが髪は女の命だからと拒否された。
まぁ髪をブラシで整えるのもセットするのもママなのだが……。
私は黙ってママのセットが終わるのを待つのであった。
髪のセットが終わり私はようやく新しい制服に袖を通すことができた。軍服のようなデザインであるため着るのに少し手間取ったがなんとか着ることができた。
さて、いよいよパパとママに私の制服姿をお披露目しよう。
まぁこの私が軍服ワンピースなんていう最強装備を着るんで可愛くないはずがないんだけど。
さぁ刮目せよ!
「パパ!ママ!どう?似合ってる?」
私はパパとママの前でくるりと回ってみせる。
「うぉー!流石ミーシャだ!とても似合ってるよ。可愛いぞ!」
「えぇパパの言う通り、とっても似合っているわよ」
「ありがとう、パパ、ママ。よし!それじゃ学校に出発!」
学校には、人種、階級に関係なく余程の理由がない限り、この国に住む全ての住民が行くことになっている。
そのため学校に多くのものが通う。結果、学校の規模が大きくなるため、大都市にしかない。
ここ『ウィルオード』は貴族など上級階級の住む貴族街と呼ばれる地区を中心に円状に広がっている。
私も一応は貴族ではあるが、住んでいるのは貴族街と商業地区の間、所謂一般街だ。
そして同じく学校があるのも、一般街だ。これは貴族、平民が共に通うため配慮された結果だ。
なので、決して学校まで遠くはないのだが、今日は入学式ということもあり、馬車で向かった。
学校の近くまで着くとそこで馬車を降り私達は徒歩で学校へ向かった。
学校にはすでに多くの新入生やその保護者たちで溢れていた。
「人がいっぱい」
「そうね。ミーシャ、はぐれないようにママ手をしっかり握っていてね」
「うん」
「パパもはぐれないようにしっかりついてきてくださいね」
「あぁ。任せてくれ」
私はママに手を引かれながら人込みを抜け、入学式の受付へ向かった。
入学の手続きはすでにパパとママが済ませてくれている。
そのため受付には新入生が出席しているか確認をするだけなのだが、人数が多いせいで長蛇の列を作っている。
そして待つこと十分ようやく私の番が来た。
「お名前はなんですか?」
「ミーシャ・フォン・シリウスです。」
「ええぇと——。はい。確認できました。ご入学おめでとうございます。」
「ありがとうございます」
私は受付のお姉さんからお祝いの花束を受け取ったあと入学式が始まるまでパパとママといることにした。
入学式は学校にあるとても大きなホールのような所で行われた。
新入生は前の席に座り、在校生を挟んで保護者達は一番後ろの即席と思われる席に座っているようだった。
当然、いつまでもパパとママと一緒にいるわけにもいかないので私は係の人の誘導に導かれるまま自分の席にチョコンと座っている。
そして入学式が始めった。
異世界ファンタジーの入学式だ、何か特別なことでもやるのかと内心少しは期待していました。
でも、箱を開けてみたらどうでしょう。
前世と変わらずお偉いさんの挨拶やらお祝いの言葉やらあまりにも普通で眠くなっちゃいました。
昨日は入学式だからと早く寝たはずなのに……ヤバイ寝ちゃうよ。
あまりにも退屈すぎて瞼が重くなってきたのだが、次の瞬間パチッと目が冴えた。
『それでは、次に新入生代表挨拶』
え?新入生代表挨拶そんなの聞いてないよ。
これも異世界ファンタジー系のテンプレにありそうなやつじゃん。
私に黙ってパパとママが勝手に引き受けちゃうやつだ。
ヤバイ、ヤバイ何を話したらいいんだろ——。
『新入生代表グレン・フォン・イグニム』
「はい!」
私じゃないんかーい!
名前を呼ばれたのは頭にねじれた角を持った魔族の青年だった。
内心私が呼ばれんじゃないかとドキドキしていたが、流石のにそんなことはなかった。
はぁ……テンプレって信用できないです。
そして入学式は順調に終わり学校長の話で締めくくられた。
「新入生の諸君。入学おめでとう。私はこの『王立アビリアイン学園』の学園長ブラインだ。諸君にはこれから約七年間ここで多くのことを経験するだろう。知識を蓄えるもよし、己が腕を磨くもよし、交友関係を広げるもよし。この学園内では生徒は皆、平等であり全員にその機会が与えられる。私は諸君らの今後の活躍に期待している——」
私は学校長、否学園長の話を聞きながら物思いにふけっていた。
へぇこの学校、じゃなくて学園は『王立アビリアイン学園』っていうのか。
というか学校と学園って同じものだよね?なんで呼び方が違うのかな?
物思いにふけるというか、本当にくだらないことを考えていましたね、学園長ごめんなさい。
入学式が終わり解散というわけではなく、これから自分達のクラスに分かれてホームルームが行われることになっている。
パパとママには先に帰ってもらおうとおもったのだが、どうやら保護者たちも別で話があるらしいのホームルームが終わった一緒に帰ることにした。
この学園には、年によって人数は若干違うものの一学年に約千人にほどの人数がおり、全部で七学年ある。
教師や事務員さんなどを含めればこの学園には一万人以上が通うマンモス校なのだ。
まぁそんな大きな学園であれば迷子になっても仕方ないだろう。
しかし——。私は美少女ではあるけれど、その辺のチョロインと一緒にしないでもらおう。
第一に忘れてもらっては困る。私には一応前世の記憶を引き継いでいるという初期設定があるのだ。
こんな大きな学園でも迷うはずがない、某都会の駅の様に看板があっても迷うダンジョンに比べれば造作もない。
私は、新入生の人の流れについていくことで無事に自分の教室に着くことができた。
まぁ普通についていけば迷う訳ないんですよね。
教室に入ると既に多くの新入生が自分の席に座っていた。
机の上には、各自の名前が書いてあり私の席もすぐに見つかった。私の席は教室の一番後ろの席であった。
私が席に着くと、何やら私の方へ向かってくる人物がいた。
「ミーシャ!久しぶりだな、逢いたかったぞ。まさか本当に同じクラスになるとは、うれしいぞ」
「セリナ?ってうわぁぁ」
セリナは私を見つけるなり抱き着いてきた。
ほぉわぁあ、セリナの胸が……って息ができない!死ぬ死ぬぅ。
「むぅぅん、むぅぅうん。」
「あ、すまない、苦しかったな。つい嬉しくなってしまって——」
「ぷふぁぁ、死ぬかと思ったよ!もう」
「うぅ、すまない」
本当に申し訳なさそうにするセリナは見て私は、ププっと笑ってしまった。
初めて出会ったときは凛々しいお姉さんの印象だったのだが、今は私の機嫌を窺いオロオロしている。
これが所謂、ギャップ萌えという奴なのです。
少女に玩ばれる美女、可愛いですよね。と言う訳で久しぶり再会したセリナにもう少し私は意地悪をすることにした。
「セリナは私のこと嫌いなの?だから私に意地悪するの?」
私は目を隠す様に手を両手に当て、指先から小さな水滴を魔法で生成する。
傍目から見れば私が泣いているように見える秘技ウソ泣きだ。
私はさらに目を擦り、ウルウルと瞳を滲ませ上目遣いでセリナを見つめる。
どうだ!これで落ちない奴なんてママくらいしかいないだぞ!さぁ罪悪感に押しつぶされてしまえ!
「ミーシャ本当にすまない。私はミーシャのこと大好きだぞ!もう私のお嫁さんに欲しいくらい好きだぞ!」
「ふぇ?お嫁さん……?」
「いや、お嫁さんというのは……。」
ウソ泣きをしていたらセリナは何だがマジトーンで愛の告白をしてきた。
私生まれてこのかた、告白なんてされたことなんてありませんでした。
もちろん前世でもですよ。
そして、まさか初めての告白が出会って数日ほどしか経っていない美女(同性)からの告白ですよ。
そりゃあウソ泣きも忘れて呆けてしまうのも仕方ないですよね。
そして、それを口走った当の本人はというと、私の前で足をもじもじさせていた。
冗談ですよね?えっ?マジな感じの告白ですか?
私は一度目を瞑り思考を整理する。
ふぅ落ち着け私、クールになるんだ。まずは状況の分析だ。
目の前にいるのは、愛の告白をしてきた美女がいます。
彼女は私と出会って数日しか経っておらず、互いのことをよく理解していないだろう。
さらに私達の年齢は互いに十歳。結婚を考える年齢ではない。そこから導き出される答えは……。
私と友達でいたくて気が動転してしまった。この結論を導くために要した時間は0.3秒ほどだ。
ふふふ、無駄に前世の記憶を持つ私ではない。このくらいの年の女の子の思考を読むくらい朝飯前だ。
そうと決まったら、そろそろセリナを助けてあげようかな。
「クスクス、ありがとう。セリナ、でも私達、結婚はまだ早いから友達からはじめよう」
「そ、そうね。やっぱり最初は友達からよね。えぇ結婚はまだよね」
「それじゃ私達、今日から友達ね!」
「あぁ友達だ」
私はセリナと握手を交わした。今生で初めて友達ができた瞬間だった。
ふふふ、これでもう友達がいないとは誰にも言わせないぞ。
私は初めて友達ができたことによろこんでいたのだが、そこに水を差すやつがいた。
「おいおい、このクラスに一人ガキが混じってんぞ。おいガキ、ここはてめぇみたいなガキがくるとこじゃねぇぞ」
うん?なんだ口が悪いやつだな。まぁそんな奴はほっといて私はセリナのもっと話をしようっと。
私は教室に入るなり大声を上げる虎の様な獣人を無視し、セリナに話しかけようとした。
「セリナ、あのね、あのね——」
「おい、無視してんじゃねぇよ!」
私が無視してセリナに話しかけようとしたとき、先程の口の悪い獣人の青年が私の方へ詰め寄ってきた。
ふぇ?なんで私の方に……。
「てめぇに言ってんだよクソガキ!」
青年は私に詰め寄るなり私の首元を掴もうと私に手を伸ばした。
その光景はいつの日かの、あのクソ野郎たちの汚らしい手と重なって見えた。
イヤ、イヤ、やめて——。
しかし、伸ばされた手が私に届くことはなかった。
伸ばされた手をセリナが払ったのだ。
「おい貴様、私の婚約者(友)に何をする!」
「それは俺のセリフだ。この俺をガリウス・フォン・ヌーベンと知っての狼藉か?」
「ふん、ヌーベン家の者か。この学園では権力を使うことは禁じられているぞ。第一に子爵風情が粋がるなよ」
セリナは震える私の背中を優しくなでると耳元で囁いた。
「大丈夫、ミーシャ安心しろ。私が守ってやるから」
「セリナ……」
セリナは私とガリウスと名乗る青年との間に割って入った。
「貴様——」
今にも掴みかからんとした雰囲気であったが、そうとはならなかった。
「おい!お前らそこで何をしている。これからホームルームを行うんだ。さっさと席につけ」
そこに入ってきたのは、淡い黄金色の髪に眼鏡をした女性だった。
「私はこのクラスの担任のチグリス教諭だ。どうした早く着席しろ」
「チグリス教諭なぜこのクラスに妖精種がいるんですか!」
「ガキ?あぁ君は彼女のこと言っているのか。悪いことは言わん、謝罪するなら今だぞ」
「は?」
チグリス教諭はクスクスと含みのある笑いを私にした。
セリナに背中を撫でてもらってようやく私は平常心を取り戻した。
平常心を取り戻すとふつふつ怒りがわいてきた。
さっきからガキ、ガキってなんですか!私だって成長してるんですけど!
「このガキに謝罪?冗談でしょ?なぜその必要が——」
「あのガキ、ガキってそれって私のことですか?」
「お前以外に誰がいるって言うんだよ!周りを見てみろ。このクラスには俺ら獣人やそいつみたいな魔族しかいねぇんだよ」
私は教室の周りを見渡した。そこには獣人、魔人、鬼人がおり、私と同じエルフなどの妖精種は私以外誰もいなかった。
彼らは私を遠巻きから煙たそうに見つめている。
え?私教室を間違えたの?でも机には確かに私の名前の書いてある札がおいてあるし、間違いはないはずです。
私が言い返そうとする前にチグリス教諭が言葉を放った。
「安心なさい。ミーシャ・フォン・シリウス、君の教室はここだ。それにしても本当に可愛らしいな。私がもう少し若かったら直ぐに食べてしまっていたよ。ふふふ」
「ひぇ!」
「冗談だ。それではそろそろホームルームを始めるぞ」
チグリス教諭のペロっと唇を舐める仕草に私はぞわったと悪寒がした。
全員が席に着くのを確認するとチグリス教諭は自身の自己紹介をした。
「あらためて自己紹介しよう。私はチグリス・フォン・エンドーサ。種族はサキュバスだ。好きなものは可愛い女の子だ。チグリス教諭、先生まぁ好きに呼ぶがいい。それでは最初に全員に自己紹介してもらおうか」
チグリス先生は自分の自己紹介をしたあと、一番右隅にいる生徒を指名し自己紹介をするように促した。
って待って!先生がサキュバスで好きなものが可愛い女の子ってダメでしょ。
もしかしてさっきの悪寒ってそういうことなの!
そうこうしているといつの間にか私の番が来ていた。
ヤバイ、前の人たちの自己紹介全然聞いてなかったよ。
私はあわてて席から立ちあがって自己紹介をした。
「わ、私の名前はミーシャ・フォン・シリウスです。種族はエンシェントエルフです。ええっとよろしくお願いします」
私は自己紹介が終わるとすぐに座った。だが、私の自己紹介が終わっても一向に次の番にならない。
あれ?私何か間違ったこと言ったかな?でもでも嘘なんて言ってないし、なんで?
私が戸惑っているとチグリス先生が沈黙を破ってくれた。大きな笑いで……。
「ハハハ、彼女がエンシェントエルフであることは事実だぞ」
チグリス先生がそう宣言するかのように言うと教室中が歓声を上げた。
ふぇぇ?次は何なのですぅ?なんでみんな歓声を上げているの?
「これこれ興奮するな。ほら後がつかえているぞ」
チグリス先生が歓声を諫め、ようやく自己紹介が再開した。
自己紹介は当然ながら教室にいるクラスメイト全員が行うのだが、人数が人数だけに当然全員を覚えることができない。というか人多くない?これ五十人くらいいるよね?
はい、もう名前覚えるのは諦めます。これは無理だね、やっぱり名前なんて話すうちに勝手に覚えられるよね。
私は名前を覚えることを諦めた。けれど、ただ自己紹介を聞くのもつまらないのでクラスメイトの顔を覚えようとした。
流石は異世界ファンタジー、特徴的な見た目の人が多く名前よりはまだ覚えやすかった。
まぁ全員は覚えられないんですけどね。でもフィクションと現実はやっぱり違うんですよね。
こういう異世界ファンタジー系って美男美女ばっかりの世界だと思ってたんですけど違うんですね。
なんていうのかなブサイクっていうほどじゃないんだけど、カッコよくもなければ可愛くもないんだよね。普通?でもカッコイイかな?って感じの人もいれば綺麗な人もいるんだよね。
でもやっぱりクラスメイトで一番綺麗なのはセリナですね。
もし、男に転生していたら惚れていたかもしれない。
不意にセリナに視線を向けると目があった。
目が合うとセリナは一瞬目を逸らすと再び私を見つめ私に微笑んでくれた。
そのとき、頬が少し赤くなっているような気がしたが、私はあまり気にせず微笑み返した。
自己紹介が終わるとチグリス先生からこれからの学園生活に関する説明が行われた。
説明を聞く限り学園での生活は、ほとんど日本の学校と変わらない感じであった。
授業があり、休み時間があり、お昼休みや放課後、部活に生徒会みたいのもあるらしい。
一年生から三年生までの授業内容は決まっており皆同じことを学ぶのだが、四年生から七年生は自分で受けたい授業を学ぶ大学のようなシステムになっているらしく、私としてはなんだか懐かしい気分であった。
チグリス先生の説明が終わると下校時刻になった。私は席を立ち直ぐにパパとママのもとへ行こうとした。
「待ってくれ!いや、ください」
「うん?」
帰ろうとした私を呼び止めたのはセリナではなく、ガリなんとかとかいうやつだった。
「な?なんですか?」
「貴様まだ私のミーシャに——」
ガリなんとかに絡まれたとセリナは思ったのか私を庇うように私を背中に隠した。
「いや誤解するな!俺は彼女に謝りたくてだな……」
「謝る?」
「そうだよ。……えっとミーシャさんさっきはガキなんて言ってすまなかった。もう二度と言わないと誓うだから許してください」
「どうするミーシャ?」
どうする?って言われても私困るんですけど……。いきなりバカにされたと思ったら急に態度を変えて平謝りとか……。しかも見た目が青年なだけに見た感じ幼女な私に謝るとかプライドないのか……。
まぁ私は見た目こそ今は幼女だが、心は十分大人だ。ええ許しましょうとも、はぁなんて大人な対応なのだろう。
「うん。わかった、許します。でも次私をガキって言ったら絶対に許しませんから」
「あぁ。もう二度と口にしない」
「それじゃあ私帰りますので——」
それだけ言うと私は自分のカバンを持つとすぐに教室をあとにした。
教室を出て、校門まで行くとパパとママが既に私のことを待っていた。
「パパ、ママ!」
「お、ミーシャ早かった。もう帰っていいのか?」
「うん。明日から授業やるから今日はもう帰っていいんだって」
「そうなの、では帰りましょうか、早く帰ってミーシャの入学を祝ってごちそうを作りましょう」
「やったー!でもお金は大丈夫なの?」
「そんなことミーシャが気にすることじゃない」
「そうよ、大丈夫いざとなったらパパに死ぬ気で働いてもらうから」
「なっ——」
ママの若干のマジトーンにパパは驚きの声が漏れた。
「え?」
「ふふふ、冗談よ。安心なさい、最近パパはミーシャのために荒稼ぎしてきてるからお金はいっぱいあるのよ」
荒稼ぎ?この世界にはこんなに短期間でお金を稼ぐ方法があるのだろうか?私は気になって深く聞いてみた。
「パパって何のお仕事しているの?」
「パパの仕事は正義の味方だぞ」
「えぇ~つまんない。ママ、パパのお仕事って何?」
明らかに冗談を言うパパをほっといて私はママに尋ねることにした。
「ふふふ。そうね。冒険者っていう悪い魔物を倒すお仕事よ」
「冒険者!」
「そ、そうよ。もうパパったらミーシャのために森の魔物を全滅させる勢いで戦っているのよ」
「全滅ってほどじゃないぞ。他の冒険者のために配慮はしている。まぁこの辺りの魔物は最近やたらと出現率が増えたらしいから、寧ろ丁度いいだろう」
私の興奮気味の発声にパパもママも驚いていたがそれどころではない。
まさか、というかやはりあったんだね!異世界ファンタジーといったらやっぱり冒険者だよね。
魔物を倒してお金を稼ぐ。私が前世で読んでいた異世界ファンタジー、転生、転移ジャンルは色々だけど主人公のほとんどは冒険者であった。
ならば主人公である私が冒険者にあるのはもはや必然だよね。
ヒロインイベントみたいのがあったけど気にしません。私は冒険者になります。
私は意を決してパパにお願いをした。
「パパ私も冒険者になる」
「うん?いいぞ」
「ふぇ?いいの?」
てっきり危ないからダメとか色々な理由から断れるとおもっていたのだが、すんなりと許された。
「ミーシャ、ダメって言われると思ったのかしら?」
「うん。危ないからとか言われると思ったの……。本当にいいの?冒険者になってもいい?」
「あぁいいぞ。というか学校に入ったら冒険者に登録しないといけないんだけどな」
「よかったわね。ミーシャそれじゃ、次の休みの日に一緒に登録に行きましょうね」
「うん」
その後、私はいつもよりも豪勢な夕食を家族三人で食べた。
「そうだ、ミーシャ新しいクラスはどうだった?友達は出来そうか?」
「うん~。わかんない。獣人とか魔族の人ばっかりで私と同じエルフの人がいなかったの。でも友達は一人出来たよ。この前話したセリナが同じクラスだったの」
「あらあら、でもセリナちゃんと一緒でよかったわね」
「うん!」
「友達はいっぱい作りなさい。でも、彼氏はつくるなよ」
「はぁパパ……ミーシャまだ小さいんですからそう言うのはまだ早いですから」
ママはあきれ顔でパパに言った。
彼氏にねぇ……。一応私の前世は男であったし、男の人と付きあうのは……。
無いかな。私ノンケですし、キスもしたことないし、結婚とかその後を想像すると……うぇ。
はぁ同性と結婚もできないだろうし、今生も独身かな……。
「あらあら、ミーシャったらもしかして、もう好きな人ができたのかしら?」
「な、なんだと!そんなのパパは許さんぞ!」
何を勘違いしたのかママは私に好きな人がいるとか言い出した。
私は急いでそれを否定した。
「ち、違うから。クラスの男子なんか全然カッコいい人いなかったし。好きになるとかありえないから」
私の話を聞いたとたんパパは表情を明るくし、ママは困ったような顔をした。
「そうかそうか。そうだよな、ミーシャはパパと結婚するんだもんな」
「しないもん」
「パパ、それは浮気宣言ですか?」
「い、いや、違うぞ。これはそう重婚だ!」
「どうして、冗談という言葉が出ないですか……。はぁミーシャもしかしてクラスの男の子にカッコよくないなんて言ってないですよね?」
「う、うん」
「はぁ~よかった。ミーシャの気持ちもわからなくはないわ。ママも他種族の男の人はみんなカッコよくは見えなかったわ。でもそれは、エンシェントエルフが美形過ぎるだけなの。だから、間違っても見た目のことは言ってはダメよ」
「う、うん、わかった」
どうやら美形の人がクラスにいないのではなく、私の感覚がマヒしてるっぽいですね。
そりゃ美男美女しかいない里で十年も過ごしたら、そうなりますよね。
でも、クラスメイトには悪いですけど、私は彼氏作る気ないんで関係ないですね。
うん。問題ありません。はぁ……今生もソロプレイヤーなのかなぁ……。
私の新しい学園生活への希望と一生独り身の可能性という絶望を同時に見つけた日であった。




