第三話 新居
「ほら、ミーシャ起きて」
「ふにゃ?」
肩を揺すられ目を覚ますとそこには、大きな壁があった。
「わぁー!大きい」
「そうだろ、ここが今日からみんなで暮らす街『ウィルオード』だ。」
「ねぇ今日からここに住むの?」
「ええそうよ、門の中に入ったら新しいお家に行きましょうね」
「うん」
転生して自分でもどうかと思うほど、自分の言動、行動は幼くなってしまったと思う。
けれども、大きな建物や新しい街に私は興奮を隠し切れなかった。
前世でも見たことない立派な城壁に大きな門の前で私達は街に入る順番を待っていた。
何でも門のところで街に入るための手続きをしなければいけないらしい。
そして待つこと数十分とうとう私達の順番が来た。
門の手前まで来ると金属の何とも重そうな鎧を来た獣人の兵士が来た。
「失礼、身分の証明できるものの提示と入場目的を教えてください」
「あぁ、少し待ってくれ」
パパはバックの中に手を突っ込み中身を漁った。
「ねぇママ、アレ尻尾?」
「ん?あぁミーシャは獣人の人を見るの初めてだったかしら」
「うん。初めて」
私は兵士の腰から出ている縞模様の尻尾をガン見していた。
ゆらゆらと揺れ動く尻尾を目で追いかける。
そして、それを掴もうと手を伸ばそうとする。
だが、ママがその手を包み込むように私を後ろから捕まえる。
「ふふふ、ダーメ。勝手に触っちゃダメよ」
「むぅ」
頬を膨らませる私をママは後ろから抱きしめた。
空気で膨らんだ頬を指で突きながらママは、未だに何かを探すパパに呆れながら言った。
「パパ、そこにはないわよ。行く前に自分で服の中に入れたでしょ」
「あ、そうだった、そうだった。すまないな」
そう言ってパパは自分の懐からカードの様なものを取り出すと兵士に手渡した。
「こ、これは失礼しました。それで入場の目的はなんでしょうか」
パパから受け取ったカードを見るなり、兵士の腰は急に低くなった。
だが、パパはその様子を見ても特に驚いた様子はなく淡々と話をつづけた。
「移住だ。家の愛娘が学校に通うんだ」
「そうですか、それはおめでとうございます」
「ありがとう」
「では、こちら入場の許可書です」
獣人の兵士から許可書を受け取るとそのまますんなり街に入ることができた。
門を抜け、街に入るとそこには別世界が広がっていた。
日本の街並みというより、西洋の建物に近い作りの街並みが広がっていた。
石畳の地面に空を飛ぶ人々、獣のような耳や尻尾を持つ獣人、角の生えた魔族。
まさに異世界ファンタジーにふさわしい街並みに私は馬車の中から歓声を上げていた。
「すごいすごい、ねぇアレなに?ねぇあそこにあるのはなに?」
「ははは、ミーシャは質問ばっかりだね」
「仕方ありませんよ。ミーシャは今日初めて街に来たんですから」
「それもそうだな。安心しろミーシャ時間はいっぱいあるからな」
それからしばらく馬車の中で雑談、というか私の質問攻めにパパとママは笑いながら答えてくれた。
だが、そんな時間も永年には続くわけもなく私達は目的地、私達の新しいお家に着いたのだ。
「ほら、ミーシャ見てごらんここが新しいお家だよ」
「わぁ大きい」
馬車を降りると目の前には新築の大きな家が建っていた。
前世の実家よりも大きく大通りからは少し離れているものの三人で住むには十分過ぎる大きさの家だったしかも庭付き。
これいくらしたのかな?
まだこの世界の金銭感覚はわからないがそれでも、新築の家を建てるにはそれなりのお金がかかるはずである。
けれど、子供の私が気にすることではないし、新しい我が家に向かって走っていった。
だが、ママも同じことを考えたらしく、笑顔のままけれどいつもより低いトーンでパパに聞いた。
「あらあら、パパこれいくらしたのかしら、しかもこれ新築ですよね」
「……大丈夫だ。全部パパの貯金で買った家だから」
「ふーん、まさかそれで貯金が空っぽなんてことはないわよね」
「……」
「パパ」
「……明日から働きます」
やっぱりと言った様子で呆れた表情でママは続けた。
「はぁ……私もそれなりに貯金はありますけど、これからはきちんと相談してくださいね」
「……はい」
うなだれるパパであったがその背をポンポンと叩かれ顔をあげた。
「ミーシャ?」
「残念ながら俺だ、アーサー。悪いがそろそろ俺も予定の時間だから荷物を降ろしてくれないか」
「なんだよロイお前かよ……はぁ……わかったよ。ここまで送ってくれてありがとうな」
「あいよ、てっ言ってもミーシャちゃんとシェリーさんがいなければ送ってやらなかったが」
「それは二人に感謝しないとな」
はははと互いに笑いあうとパパは馬車に積んである荷物をロイと共におろした。
「それじゃあミーシャ、学校頑張ってね」
「はい、ロイさんも帰り道気をつけてください」
「ありがとう」
「ロイ、里のみんなによろしく伝えといてね」
「はい、シェリーさんアーサーとミーシャのことよろしくお願いします」
「おい、なぜ俺とミーシャが同じ括りなんだよ。ったく、それじゃあまたなロイ」
「はいよ」
ロイはそそくさと馬車に乗ると市場の方に向かって走っていった。
「さぁミーシャ、パパがこの新築の家を案内してやろう」
「うん!」
新しい家は中々豪華な作りになっていた。
一階は広々としたリビングにキッチンがあり、二階には寝室などの個室が全部で4つもあった。
だがそれ以上に驚いたものがあったそれは……。
「パパこれって——」
「これは『お風呂』と呼ばれる魔道具でな——」
なんと我が家に、お風呂が存在したのだ。
前世では、当たり前のようにあったものであったが、この世界で私は初めて見るものであった。
里で暮らしていたころは、お風呂なんてものは家にはなかった。
前世の様に水道管も無ければ、電気、ガスさえないのだから当たり前といえばそうなのだが。
里に居た頃はお風呂ではなく、濡れた布で汚れや汗なんかを拭い身体を綺麗にした後、さらにママに魔法で身体を綺麗にしてもらっていた。
魔法で綺麗にしたほうが楽でいいのかもしれないが、前世の私はお風呂に毎日一時間以上入るほど好きだった。
長ったらしく説明したがそろそろ結論を出そう。
「パパ、だーい好き」
「み、ミーシャ⁉」
私はパパに感謝の意を込めて抱き着いた。
急に抱き着いてきた私に動揺するパパであったが、すぐにだらしなく頬を緩ませた。
「ねぇこれ入っていい?」
「あぁいいよ」
「やったー!」
久しぶり、十年ぶりお風呂だ。さぁ早く入ろう。
私は着ている衣服をポンポンと脱ぎ捨てていった。
すっぽんぽんになった私は空っぽの湯船に入った。
湯船に入りお湯を出そうと蛇口の様なものをひねるのだが、一向に水が出る気配がない。
これはどうするんだろう?
私は全裸のまま顎に手を当てて考えているとパパとママが私を見てクスクスと笑っていた。
「あらあら、ミーシャったら。ふふ、私達も一緒に入りましょうか」
「いや、パパは——」
「パパは恥ずかしいのかしら?ミーシャ、パパとママも一緒に入っていいかしら」
「うん、いいよ。でも水が出ないの」
「ふふ、娘のお許しが出ましたよ」
「はぁ、わかったよ。少し待ってろミーシャ」
パパはそう言うと蛇口の上についている水晶の様な所に触れた。
すると先ほどまでうんともすんともしなかった蛇口から勢いよくお湯が噴き出してきた。
「わぁ!」
「言ったろ、これは魔道具なんだ。この水晶に魔力を注がないと動かないんだよ」
「すごい」
なるほど、魔力を使って水を生成すれば、水道なんかのインフラ設備がなくても水を使うことができるのか。
でも、そうするとこの水はどうするんだろう。
そんなことを考えていると私と同じ様にすっぽんぽんになったパパとママがお風呂に入ってきた。
「おぉー」
入ってきた二人、主にママの姿を見て私は思わず感嘆の声を上げた。
「うん?どうしたのミーシャ」
「ママは着やせするんだね」
「そうかしら、ミーシャもそのうちこうなるわよ」
ママは私の胸を見ながら何故か誇らしげに胸を張った。
お風呂という文化がなかった影響なのか、今まで自分以外の他人の裸をあまり見なかった。
久しぶりに見たママの裸は、なんというか美しかった。
前世の男であったころの私が見れば、自分の一部が元気になっていただろう。
しかし、今の私は何故かいやらしい気持ちになるどころか、悔しかった。
Dいや、Eまさかそれ以上なの——。
ママの胸を真剣に見つめながら正確に分析していけばいくほど悔しくなってくる。
大丈夫、私はまだ十歳、ツルペタの寸胴の幼女体型だけどまだ、成長期が来てないだけ。
きっと後数年すれば私もママみたいな巨乳になれるはず……。
そしてさり気なくパパにも視線を向ける、主に下半身に……くっ負けた。
どうやら過去の私では今の両親には勝てるところが何一つないらしい。
そして仲良く三人でお風呂に入ったのだった。
久しぶりのお風呂はとても気持ちよかった。
余談だが、大きいと浮くという都市伝説は本当であった。




