表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/24

第十四話 魔王

魔国デイブレイク。人口のほとんどが魔族であるこの国には、様々な種族が暮らしている。

獣人や妖精、鬼人などが住むこの国だが、国を治める所謂、王族と呼ばれる種族はたった一種しかない。

吸血鬼。

彼らは、その強大な力を持ってこの魔国を治め、平和な国を築いてきた。

魔国の王は、魔王と呼ばれその卓越した力、魔力、知性は他の種族の追随を許さないとまで言われている。


しかし、魔王とて完璧な存在ではない。

人並の欲もあれば、仕事をやりたくないなんて思うこともあるのだ。

現に今、この国を治める魔王様は仕事をやりたくないのだ。


「はぁ……どんだけ書類あるのよ。これ私がやる必要あるの?」


机の上に山積みにされた書類を見ながら、頭にのった王冠を煩わしそう机に置き言った。

そう、彼女こそが魔国デイブレイクを治める現魔王フェイト・フォン・ヴァーミリオンだ。

見た目こそ十代後半の金髪美少女であるが、その見た目に反して地位に相応しい力を持っている。

彼女は、吸血鬼特有の緋色の目で、自身を監視するように立つ黒い翼を持つ青年を睨めつけた。

堕天使の様な黒い翼の青年は気にした様子もなく、懐から懐中時計を取り出した。


「早く目を通してください。あと二十七分後には、定期報告の時間ですよ」


「無視するんじゃないわよ!これ!私が見る必要あるの!」


「は?あるに決まっているでしょ?魔王様はそんなこともわからないバカなんですか?」


「お前、不敬罪で即斬首刑に処すぞ」


「誰が仕事減らしていると思っているんですか?そんな不毛なこと言ってないで——」


青年が言葉を続けようとすると、突如ドアをノックする音と共に男の声がした。


「魔王様、緊急の伝令です」


魔王は先ほどまでの気だるげな雰囲気を一変、乱れた服や髪を綺麗に正し、机に置かれた王冠を頭に乗せた。


「入りなさい」


「失礼します」


いつの間にかドアを付近に移動した、青年が扉を開けるとノックをした男は一礼してから部屋に入った。

部屋に入ってきたのは、山羊の様な角を持った魔族の男性だった。

魔族の男性は背筋をピンと張り緊張した面持ちで言った。


「報告します。『ウィルオードの付近の森で大規模暴走スタンピードの前兆あり、軍の派遣を求む』と」


「どこからの報告だ?」


「それが……王家直轄の伝令でして、詳しいことは……」


「王家直轄だと?わかった。下がれ」


「はっ」


男性はもう一度、頭を下げると部屋を後にした。

男が去ると魔王は、勢いよく立ち上がると部屋に掛けてあったマントを身に着けた。


「そう言うことだ。今から言ってくる」


魔王はそれだけ言うと部屋を出て行こうとした。

だが、それを青年が黙って見送るはずもなく、青年は無詠唱で魔法を使い黒い球体を生み出すと、それを魔王にぶつけた。

球体にぶつかった魔王は勢いよくその場に転倒すると、潰れたカエルのように床に磔にされた。

青年は魔王を見下ろしながら、至って冷静に言った。


「ダメに決まってるでしょ」


「ぐぬぬぬ、貴様、私に魔法まで使って……大規模暴走よ!私が行かなきゃ——」


「はぁ……王家直轄の緊急伝令ということは、あの種族が動いているのですよ。わざわざ魔王様が動くまでもありません。これは建て前上、報告しているのですよ」


「ま、万が一があるでしょ!だから、私が行くの!」


「安心してください。先ほど念話で黒百合騎士団の第六位と連絡が付きましたので、私の軍と共にウィルオードに向かう様に伝えましたから」


「くっ……毎度毎度、仕事が早くてムカつくわね。でも、それだけじゃあ」


「黒薔薇の二位と黒百合の六位の軍だけでは、不服ですか?私には過剰戦力だと思われますが?」


「もう、書類は嫌なのよ!私も戦いたいのよ!」


「ついに取り繕うのをやめましたか……いい加減にしないと騎士団長達を呼びますよ」


「そ、それだけはやめて!あいつら平気で私の足とか斬り飛ばすのよ。魔王に剣を向けるのよ!」


吸血鬼の自己再生能力は凄まじくちょっとした怪我ならすぐに治癒する。

また、切断面が綺麗であれば、切断された腕でもすぐにくっつく。

だからと言ってスパスパ切っていいものでもないのだが、騎士団長どもは魔王相手でも容赦なく、というか魔王だから容赦がないのかわからないが、少し仕事をさぼっただけで指がバイバイしたり、逃げようとすれば足が体からさよならする。

過剰なお仕置きをする騎士団長達は魔王すら恐怖する対象なのだ。


「仕事をすれば、そんなことやられませんから。ほら、席に戻って仕事をしてください」


「なら、魔法解きなさいよ。地味にさっきから重量を上げてきてるの、わかってるんだからね」


「はいはい、それじゃ仕事をしてくださいね。私は少しはずしますが、少しは進めてくださいね」


「どこ行くのよ?」


「出兵前に副長に伝言ですよ」


「あっそ、彼氏に連絡ね。男同士でイチャイチャして、やだやだ」


「嫉妬してないで仕事してくださいよ」


「嫉妬するか!バーカバカバカ!」


青年は魔法を解除するとそそくさと部屋を出て行ってしまった。

部屋に残された魔王は机に座り直すと頭を突っ伏して青年にささやかな反抗をすることにした。


***


私は今、何人もの美男美女に囲まれながら、街を歩いている。

彼女達の容姿は、街をすれ違う人が皆振り返りガン見するレベルであり、おかげでそんな集団に囲まれた私は好奇の目に晒される羽目になった。

そもそもこんな風になってしまったかというと……。


私はクロリスと念話を終えた後、魔法で小さい氷の粒を浮かべて独りで遊んでいた。

すると、急にドアが開き、部屋に美男美女が押し入ってきたのだ。


「「「ミーシャ!」」」


「「「ミーシャちゃん」」」


「な、何?ってうわぁぁぁ」


部屋に急に入ってくるや否や、私を押し倒すようにサラーナが飛びかかってきた。


「ミーシャ、久しぶり、逢いたかった」


ギュッと私より少しだけ身長の高いサラーナは私を抱きしめながら言った。


「えっ、えっ?なんでサラーナちゃんもここにいるの?」


「ミーシャに逢いたくてきたの。はぁ懐かしい、この匂い、クンクン」


「ちょっ、サラーナちゃんくすぐったいよぉ」


サラーナは私を抱きしめながらクンクンと匂いを嗅いでいたのだが、突如抱きしめていたはずの私が消えた。


「ミーシャ?」


「ふぁ!」


先ほどまで抱きしめていたミーシャの声が背後から聞こえ、急いで振り返るとそこには、アンナに抱きしめられたミーシャの姿があった。

ミーシャを抱きしめたアンナは、嬉しそうに自分の豊満な胸にミーシャを沈めた。


「ミーシャちゃん元気だったかしら?」


「むぅぅぅん」


柔らかな豊満な胸に突如として埋められ危うく窒息するところだった。

アンナは、ミーシャを優しく開放すると小さなミーシャを抱いたままいった。


「あらあら、ごめんなさい」


「もう、アンナお姉さん苦しいよ」


「ふふふ、可愛いミーシャちゃんを見てついね」


アンナは私をもう一度ぎゅっと抱きしめると、満足したのか私を地面におろした。

すると、先程までミーシャに抱き着いていたのをアンナに横取りされたサラーナがアンナを睨めつけ言った。


「……転移魔法でミーシャを奪ったな。クソババァ万死に値する」


「あらあら、ミーシャを見た途端に襲いかかった狼藉者が何を言っているのかしら。ねぇサラーナちゃん」


「私はミーシャの特別な友達だからいいの。それよりお姉さんなんて、若作りも大概にしたら」


「あらあら……」


「ふふふ……」


二人はにこやかな笑みを浮かべているが、その雰囲気は穏やかなもと言うより一触即発と言ったものだった。

サラーナはゆっくりと腰を落としいつでも動ける体勢に、アンナは魔力を練り魔法を直ぐに発動できるように準備した。

そして動き出そうとする直前、二人の間を割るように大きな大剣が轟音と共に床に振り下ろされた。

大剣を振り下ろした当の本人は大きなため息とともに愚痴るように言った。


「はぁ……お前らいい加減にしろよな。お前らのせいで俺も置いて行かれたじゃないか」


「エルビス……邪魔するなよ」


「そうよ、今からこのメスガキを灰にするんだから」


「はぁ……別に止めはしない。でもいいのか?このままだとミーシャに置いて行かれるぞ」


「……うん?どういうこと?」


はぁ……とまた大きなため息をエルビスが吐くと零すように言った。

曰く、不穏な気配を察したバラライカたちはミーシャを確保するやすぐさま部屋を退出し、適当な理由をつけて街に連れ出したのだという。


「お前らの仲が悪いのは皆知っているが、ミーシャの前ではあんまり喧嘩をするなよ」


「うぅぅ……了承した」


「はぁ……わかったわよ」


全く同じ長老衆のくせに思考が幼いなとエルビスは思ったがそれを口に出せば、二人に殺される未来が確実に待っているであろうことが用意に想像がつく。

対人戦闘において里最強はエルビスではなく、サラーナなのだ。

そこに最強の魔法師であるアンナがタッグを組めば、敗北は必然であるのだ。

だからエルビスは余計なことは言わずに部屋を後にしようとした。

背を向け扉に手をかけようとすると、サラーナとアンナは我さきにミーシャの元に行こうとしエルビスを突き飛ばした。

突き飛ばされ、尻餅をついたエルビスは、やれやれといった様子で立ち上がると今度こそ部屋を後にしようとして、先程自分が部屋で振り下ろした大剣が目に入った。

先程振るった大剣は床に穴を開け、剣を振ったときに起きた風圧によって部屋は嵐に襲われたかのようになっていた。

部屋の様子に愕然としたエルビスは、ここがミーシャの部屋であることを思い出した。

屈強な男であるエルビスは、大量の冷や汗をダラダラと流しながら今後の展開を考えた。


不味い不味い、非常に不味いぞ。

このままでは俺がミーシャに嫌われてしまう。

何か、何かいい手は何か?あ、そうだ丁度ここには支援科団長のバルバロがいるじゃないか。

くっアイツに借りをつくるのは……だが、ミーシャに嫌われるよりはマシか?


方針が決まるとエルビスは急いで外に出ていったミーシャ達を追うのだった。




と、まぁ半ばバラライカおばさんに拉致られる形で家を出て、現在に至るのだ。


「ミーシャ何か食べたいものはあるかい?」


「ミーシャちゃんおじいちゃん達が今日は何でも買ってあげるよ」


「お菓子でも、お洋服でも宝石だって買ってあげるよ」


「えっと、えっと……」


バラライカおばさんにゼルカナトおじいちゃん、クトラーおじさんはまるで孫に接するかのような柔和な顔でいった。

私は知っている。

こういう時は断ってはダメなのだ。

断るとバラライカおばさんは兎も角、他のおじいちゃんたちは私に嫌われまいと次々と高価なものや貴重なものを買い与えてくるのだ。

おじいちゃんと言ってはいるが、ゼルカナトおじいちゃんも、クトラーおじさん、それにすぐ後ろで私達の様子を見守っているバルバロおじいちゃんも二十代前半ほどのイケメンさんだ。

三人、エルビスも含めて四人は里でもかなりの高齢らしく私は彼らをおじちゃんなどと呼んでいるのだ。

一応、バラライカおばさんにアンナお姉さん、サラーナちゃんも同じくらい高齢らしいのだが、アンナお姉さんはおばさんと言うととっても怖い顔でお姉さんと呼べと言われ、サラーナちゃんも、なぜかちゃん付けしないとダメと言われたので二人の呼び方は特別なのだ。


話を戻そう。こういう時は遠慮せずに遠慮しなくてはいけないのだ。

つまりだ、こういう時私がすることは……。


「ドーナッツがいい!私、おじちゃんたちとドーナッツが食べたいなぁ」


「ドーナッツ?あぁミーシャが好きなお菓子ね。わかったわ、それじゃあ買いに行きましょうか」


「うん!」


私はとっても良い笑顔で返事をした。

すると、急いでこちらに向かってくる人影が見えた。

こちらに向かってくるのは、白銀の美少女に豊満な胸を持つ美女、筋骨隆々の美丈夫。

言わずと知れたサラーナにアンナ、エルビスであった。


「はぁはぁ……やっと見つけた」


「もう私を置いていかないでくださいよ」


「はぁ……お主たちが部屋で喧嘩をはじめようとしたからだろ。まぁいいこれからミーシャとお菓子を買いに行く、お主たちもついてこい」


バラライカに言われ、サラーナもアンナもミーシャの傍に寄り添うように移動する中、エルビスは同じくミーシャの傍で笑っているバルバロの方へ向かった。

エルビスはミーシャに聞こえないように声を潜めるようにバルバロに耳打ちした。


『バルバロ、すまないが少しお願いしたいことが……』


『はぁ……大方予想が付きますよ。ミーシャの部屋の修繕ですか?』


『話が早くて助かる……その、二人を止めるのに少し荒らしてしまってな』


『仕方ありませんね。一つ貸しですからね』


『くっ……わかった』


自分の部屋がぐちゃぐちゃにされているとはつゆ知らず、私はウキウキとドーナッツ屋さんに向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ