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第七百六十一話 その名はシルバー


「これは驚きましたな」


 近衛騎士団の結界を見て、セバスが感心の声をあげた。

 たしかにあの竜は間違いなく古竜クラスのモンスター。

 そのブレスを防いで見せた。


「三年で近衛騎士団も成長したか」

「とはいえ、このままじゃ周囲に被害が広がるぞ?」

「もう少し時間を稼いでくれると嬉しいんだがな」


 俺の魔力探知には高速で移動する者が四人。

 北部から全速力でこちらに向かってきている。

 あと少し。

 時間が稼げれば到着は間に合うだろう。

 けれど。


「私が行きましょう」

「――いや、いい」


 少女を助けるフィーネを見て、セバスが動く準備をする。

 それを俺は制した。

 あと少し、時間を稼げば俺は出なくていい。

 わかっている。

 わかっているけれど。


「俺が行く」


 少女を庇うフィーネを見て、どうでもよくなってしまった。

 俺の存在は知られないほうがいい。

 頭では理解している。

 だけど。

 助けたいと思ってしまったのだから、仕方ない。

 彼女を助けるのは。

 俺でありたい。

 それは只のエゴで、固執するのは馬鹿のすることだ。

 俺が世に出ることの影響力を考えれば、そんなエゴに固執してはいけない。

 けれど。

 それでも。

 俺は今でも彼女を颯爽と助ける自分でありたい。

 かつてのように。

 そんな俺を見て、セバスは珍しく意外そうに目を丸くする。

 そして。


「……あなたも男の子ですな」

「うるさいぞ」

「ちらほらとネズミが残っていたようだな。悪さをする前に俺たちはそっちを対処しよう」

「頼んだ」

「お任せを」

「あまり時間はかけるなよ」


 セバスとヘンリックが瞬時に動き出す。

 そんな二人とは違って、俺はゆっくりと歩き出した。

 逃げる民たちを逆走して、静かに大通りのほうへ出ていく。

 ある一定レベル以上の魔導師にとって射程距離という常識は通用しない。

 俺とフィーネとは距離がある。

 けれど。

 帝都全体を覆えば関係ない。


≪その盾は神の大盾・誰もがその名を知っている・それは守護の代名詞・すべての弱者のために創られた・ゆえに神すら破ること能わず・ゆえにその盾は無敗無敵・その名は――イージス≫


 盾が帝都全体を覆う。

 三撃目のブレスを盾が完全に防ぎ切った。

 ふと、フィーネに抱きかかえられた少女と目が合った。

 少女はパッと笑顔になり、大きな声で叫んだ。


「あ! 皇太子殿下!!」


 その声に俺はニヤリと笑って返す。

 周りは何を言っているんだ? という表情を浮かべている。

 皇太子レオナルトは馬車にいるからだ。

 俺は少女の頭を撫でたあと、フィーネに向けて静かに告げた。


「君はいつも誰かのために無茶をする……もう少し自分を大切にしてほしいが……俺も人のことを言える立場じゃない。共有者同士、互いによくないところは似るようだ」

「っっ……!!」


 フィーネも少女も。

 下から俺を見上げる体勢のため、フードの中の俺の顔がチラリと見えている。

 それを見て、フィーネは両手で自分の口を覆った。


「何者だ!?」


 赤い竜の背。

 そこに中年の魔導師がいた。

 その手に握られている杖から強い力を感じる。

 なるほど、あれが古代魔法文明の遺物か。

 たしかに大した代物だ。

 これほどの竜を支配下に置き、使役できるとは。


「名乗るほどの者じゃない。一つ相談なんだが、帰ってくれないか? 今日は……家族にとって、そして帝国にとって大事な日なんだ」


 それは提案だった。

 見逃してやるからどこかに行け。

 俺なりの温情だったんだが。


「ふざけるな! その大事な日を壊しに来たんだ!! 私はジーモン・ザクサー!! 今日、皇太子を抹殺して最強の魔導師となる男だ! 邪魔をするなら貴様も死ね!!」


 きっと今までは手加減していたんだろう。

 その気になればもっと強い攻撃ができた。

 けれど、攻撃範囲を皇太子の周辺に絞っていた。

 おそらく帝国に大ダメージを与えすぎて、執念深い追跡を避けるため。

 あとは単純に、まだどこまでこの赤竜の力を引き出してよいのかわからないのだろう。

 これほど強力なモンスターを呼び出したのは初めてで、いまだ手探りなんだろう。

 下手に力を解放させたら、自分も殺されるかもしれない。

 身に余る力というのは、常に諸刃の剣だ。

 とはいえ、それを差し引いてもたいしたものだ。

 次のブレスは三撃目よりもなお強力。

 おそらく全力に近い。

 受け止めるのは不利か。


「貴様に名乗る名はなかったんだがな……」


 ため息を吐きながら、俺は魔法の詠唱に入った。

 それは俺のもっとも得意な魔法。

 俺の代名詞。


≪我は銀の理を知る者・我は真なる銀に選ばれし者≫


≪銀星は星海より来たりて・大地を照らし天を慄かせる≫


≪其の銀の輝きは神の真理・其の銀の煌きは天の加護≫


≪刹那の銀閃・無窮なる銀輝≫


≪銀光よ我が手に宿れ・不遜なる者を滅さんがために――≫


≪シルヴァリー・レイ≫


 灼熱のブレスに対して、こちらは七つの光球から発せられた銀光。

 巨大な力と力のぶつかり合い。

 けれど、力比べは徐々に銀光が有利に運んでいく。

 銀光はブレスを押し切り、赤竜を帝都の空から外へと押し出す。


「この魔法は……!?」


 銅像まで建っているし、しかも英雄伝まで出版されているらしい。

 迷惑極まりないが……いなくなったのは俺だ。

 なにをされても文句は言えない。

 苦笑しながら、俺はフードを取る。

 そして後ろを振り返り、少女の方を見た。


「皇太子はあっちの馬車の奴だ。俺は違う。よく覚えておくんだ――俺は〝アルノルト〟。皇太子の兄、帝国第七皇子アルノルト・レークス・アードラーだ」


 少女に笑みを向けたあと、俺は少し伸びたぼさぼさの髪をかく。

 奴は最強の魔導師を口にした。

 それを引き合いに出された以上、引き下がるわけにはいかないだろう。

 肩書きはどうでもいいが。

 最強の魔導師の名を引き継いでいると胸を張る姪がいることだしな。

 ゴードン兄上が彼女に残した名はもう使えない。その名の皇族はいてはいけないから。

 だから、彼女は今の名で生きていくことになるだろう。

 義姉上は言っていた。

 今なら喜んで、この名をつけるだろう、と。だからこの名でいいのだ、と。

 そんなこと言われたら、やる気を見せねば。

 あの子が少しでも誇れるように。

 最強の座は譲れない。


「貴様にはこう名乗ったほうがわかりやすいか? SS級冒険者の〝シルバー〟と」


 一瞬で服装が変わり、黒いローブに銀仮面の姿へと切り替わる。

 それは外側だけ似せて作られたただの仮面。

 かつてつけていた銀仮面のような性能はない。

 ただ、つけることに意味がある。

 いまだにこの仮面は最強の証だからだ。


「世界と世界の狭間より……貴様を討伐しにきた」


 帝都の空へと上がりながら、俺はそう告げた。

 それと同時に帝都に四人が到着した。


「おいおい……これ無駄足だろ? せっかく北部から飛ばしてきたってのに」

「この状況で言うことがそれですか? ジャック」

「せっかく帝都に来たんじゃ、皇帝に酒でも振る舞ってもらうというのは駄目かのぉ?」

「エゴール翁……」


 暢気な二人に対して、呆れる女。

 増援要請に応えて、北部の津波を即座に片付けてきたSS級冒険者のエゴール、ジャック、イングリットだ。


「だから俺は一人でいいって言ったんだ!」

「三人のほうが早いと同意したはずです」

「そりゃあ三人のほうが早いが、〝四人〟になるとは聞いてねぇ」


 そう言ってジャックは肩を竦めながら、俺の方をじっと見つめる。

 そして。


「手助けは必要か? シルバー」

「〝俺たちの獲物〟だ。手出しは無用で頼む」

「だ、そうだぞ?」

「まったく……」

「酒じゃ、酒」


 SS級冒険者の三人は城壁の上で待機する。

 すでにやる気はない。

 けれど、来たのは四人。

 増援はあと一人いる。


「アル!!」


 声が聞こえてくる。

 俺の幼馴染の声が。

 剣を握った白いマントの騎士。

 俺の騎士。

 世界のだれよりも。

 背中を預けられる存在。

 何か言うべきなんだろう。その責任が俺にはある。

 けれど、その前に。


「――片付けるぞ。準備はいいか? エルナ」

「……うん!」


 泣きそうな顔で頷くエルナと肩を並べ、俺は赤竜と対峙したのだった。


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― 新着の感想 ―
過剰戦力にもほどがある! 噛ませ竜さんチッスチッス
[一言] シルバーとして名乗り出ても、もう「暗躍」にはならない世の中になっていることが感慨深いですねぇ…
[一言] 目立ちたくないって言ってたくせに大立ち回りしすぎだろw
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