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第七百十七話 未来を

三話更新・三回目


「私は……この時を待っていた、ずっと、ずっとな」

「エリク兄上……」

「カルロス……お前を排除するしかなかった……許せ。実弟だからこそ……大事な局面までお前を残しておくわけにはいかなかった……お前は場を混乱させる」

「でしょうね……私はどうしても自分の欲を抑えきれない。英雄になりたいという欲を」

「悪いことではない。だれかの英雄に人はなりたがるものだ。けれど、器以上の願望は破滅をもたらす」


 だから、排除した。

 理由を説明しながら、エリクは二本の短剣を抜いた。

 その一本をカルロスに渡す。


「恨みに思うなら刺してもいいぞ?」

「まさか……アードラーの血が必要なのならば……捧げましょう。最期に……兄の英雄になれるならば本望です」


 そう言ってカルロスは自らの手首を切った。

 夥しい血が床に流れる。

 同時に血に反応して魔法陣が浮かび上がった。


「さて、エリク兄上……どうやってあの悪魔を出し抜くつもりっすか?」


 軽く喋りながらコンラートも短剣を取り出し、手首を切る。

 血がまた増える。

 魔法陣の輝きはさらに増す。


「奴は当然、万が一にそなえて……アードラーが召喚する最強の守護神鳥〝ゴルド・アードラー〟を警戒している。だから奴は帝都の結界に細工をしている。それは召喚の無効化……どれほど強大な召喚獣だろうと、所詮は召喚獣。手助けのための助っ人でしかない。ゴルド・アードラーで帝都に攻撃すれば、ゴルド・アードラーの召喚は取り消される。命を捨てる召喚だ……それで終わってしまう。結界は破壊できるだろうが……それでは意味がない」

「結界を犠牲にして、ゴルド・アードラーを強制送還……結界を捨てても構わない。向こうはそう考えているわけっすね……」

「それが奴の過ちだ……もとより奴を討つつもりはない。それは私の役割ではない……魔界はどんな世界かもわからない。だから戦力を送り込むのは危険だ……ならば……人類以外を送り込めばいい」


 言うと同時にエリクは手首を切る。

 魔法陣はさらに輝く。

 そして連鎖的に魔法陣が発動していく。

 それは帝都を通り抜けて、帝国全体に広がっていった。


「外務大臣として各地を回りながら……帝国全土を使った複合大魔法陣を作り上げた。苦労したぞ……奴はヴィルヘルムの記憶を持っているからな……想像どおりの私では出し抜けない。だから……必死に努力した。〝かつて〟は召喚できなかった黄金の鷲も……召喚できるようになった。そのうえで……奴の想像の上をいく」


 カルロスは短剣を再度、自分に向ける。

 それにならって、コンラートも自分に短剣を向けた。

 エリクは一度、召喚適性があるかどうかをヴィルヘルムの存命時に調べている。

 その時は適性がなかった。

 だから調べ上げた。そして血の濃さが足りないのだとわかった。

 初代の要素が少ないのだ。

 だから、血を増やせばそれは解決する。

 とはいえ、それは犠牲が増えるということでもある。


「奴の余裕はいざとなれば持久戦にすればいい、というもの。ウェパルがいるかぎり自分の勝利は揺るがない。だから余裕をもってすべてに対処している……その余裕を殺す。そのために私が開発したのが……帝国全土を使った大魔法陣……召喚した存在を任意の場所へ転移させる……大規模な転移魔法だ……」


 召喚魔法はその場に対象を召喚する魔法。

 その召喚した対象を転移させる。

 それがエリクの切り札だった。

 ずっと考え、練り上げた集大成。

 ヴィルヘルムの死後、作り上げた新たな魔法。

 そうしなければいけなかった。

 人の成長を甘く見ているダンタリオンを出し抜くには成長するしかなかった。

 完成された個である悪魔にとって、人の成長は予想外。

 人の怖さを知っているダンタリオンとて、それは例外ではない。


「そろそろ……魔法陣の準備もできたか」

「それでは我々は先に……」

「レーア義姉上のところへ参りましょう……」


 そう言うとカルロスとコンラートは自らの腹部を刺し貫いた。

 苦しまないように、エリクは二人の首を切り裂く。

 そして。


「ダンタリオン……お前が浮かべる余裕の表情が崩れる様を見たかったぞ……アードラーの前で余裕を見せたのが命取りと知れ……」


 呟きながらエリクは自分の腹部を刺し貫く。

 そのまま血を吐きながら告げた。


『我が名はアードラー』


 それから始まる詠唱は、アードラーの一族だけに許された召喚詠唱。

 初代皇帝は盟友である鷲と盟約を結び、子孫への手助けを約束させた。

 しかし。

 それには莫大な魔力と。

 使用者の生命力を必要とした。

 これまで初代皇帝以外で黄金の鷲を呼び出そうとした者は数多くいた。

 けれど、召喚に成功した者すらごくわずか。

 そのごくわずかすら、自分の命との引き換えで召喚している。

 アードラーの命と引き換えにこの世に召喚される守護神鳥。

 アードラーを守るため、アードラーの命を奪う矛盾の存在。


『七天を覆う光翼・偽りを許さぬ剣爪』

『いと誇り高き神鳥よ・現世の声に耳を傾けたまえ』

『大志はあれど力は足りず・希望は夢まぼろしのごとく』

『鷲の血脈は絶えず・友の盟約は廃れず』

『祖の力を借りて天秤を我に傾く』

『再び告げる』

『我が真名はアードラー』

『古き盟約に従い召喚に応じよ――』

『ゴルド・アードラー』


 帝国の上空。遥か高き場所。

 そこに黄金に輝く巨大な神鳥が召喚された。

 人の目に視認できるのはその巨大さゆえ。

 その召喚を窓から確認したエリクはフッと微笑む。

 まだ自分はアードラーなのだと安心できたから。

 どれほどの人に災厄をまき散らしただろうか。

 未来のためだと大義を掲げて、帝国に、大陸に被害を出した。

 自分が原因で死ななくていい人達が死んだ。

 正しかったとは言えない。

 よりよい方法があったかもしれない。

 けれど、これしか自分にはできなかった。

 だから幾度も謝った。

 不甲斐ない自分で申し訳ない、と。

 謝り続けて、ここまでやってきた。

 すべては未来につなぐために。

 そして。


「愛する人に出会い……愛される人生を……」


 自分はレーアと共にいて幸せだった。

 家族にも、帝国の民にも、大陸の人たちに。

 その幸せを。

 喜怒哀楽、多様な毎日を。

 些細な一日を。

 退屈でもいい。辛くてもいい。

 それでも。

 来ないよりはマシだろう。現実が苦しくて、命を絶つのも自由だ。終わってしまえばいいという人もいるだろう。

 けれど、彼らにも終わらせる自由がある。好きにすればいい。

 選択するためにも明日がいる。

 選ぶのは人類の権利だ。支配されては、滅ぼされては。

 選べない。

 だから、そのために未来を切り開こう。


『――召喚に応じ参上した。望みを言え、アルフォンスの子よ』


 頭に流れるゴルド・アードラーの声にエリクは目を瞑る。

 落ち着く声だ。

 心が安らぐ。

 この声を聞くために頑張って来た。


「……病毒の元凶……魔界のウェパルを討ってほしい……私の血の病毒の気配を辿れば……できるはずだ……」

『承った』

「どうか……家族に……人類に……未来を……」

『その想い、受け取った。安心して眠るがよい、アルフォンスの子。古き盟約に従い、そなたの敵は余が討とう』


 言葉と同時にゴルド・アードラーが転移にて消えていく。

 それを見送り、エリクは静かに命が終わるのを待った。

 状況を察したのだろう。

 エリクの部下が屋敷に火を放つ。あらかじめ決めていたことだ。

 体を利用されたくはない。

 血が流れ、どんどん意識が薄れていく。

 そんな時、肩に手が置かれた。

 振り返ると。


「……久しいな……」


 懐かしい顔ぶれを見て、エリクはフッと微笑み、ゆっくりと崩れ去ったのだった。



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― 新着の感想 ―
個人的には感情移入しちゃってますから色々と思うところありますよ。 もっと早くエリクさんがアルノルト殿下と協力して皇剣使ってとか、アルノルト殿下がもう少し家族を信じて古代魔法の事を家族に伝えれてたらとか…
完読してからも定期的に何度もここを読みに来て泣いてしまう。。
ここまで筋書きを描かないと召喚できなかったのだろうか? 皇帝や兄弟が知ったら自ら犠牲になって最小限で終わらせられてた気がするけど。
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