表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

761/819

第七百九話 シルバーの正体


 なんとか間に合った。

 聖剣の召喚を感知した俺は、ジャックを置き去りにして臨時王都へと来ていた。

 そしてラファエルと先代ノーネームの一撃に耐えているエルナたちを見つけた。

 あとは体が動いた。

 詠唱しながらエルナたちの前に出て、そして盾を発動させた。


「――無事か? エルナ」


 振り返り、自然とそう問いかけた。シルバーとしての演技はない。そんな余裕はない。

 見た目的には無事そうだ。

 けれど、疲れているように見える。

 聖剣をラファエルが召喚しているところをみるに、本調子とは程遠い。

 理由はわかる。

 俺の死を知ったから。

 想像はできた。そうなるだろうことは。

 けれど、実際に見てしまうと胸を締め付けられてしまう。

 覚悟はしていた。エルナはとてもショックを受けるだろう、と。

 それでも、エルナはきっと自分で乗り越えられる。

 そう思っていた。自分勝手に。

 なんて傲慢な考えだろうか。

 逆の立場なら、自分は耐えられるだろうか?

 自問が頭を駆け巡る。

 答えは出ない。そんなことは想像したくないから。

 だから。

 手遅れにならなくてよかった。

 自分を一生許せなくなるところだった。


「お師匠様!」

「シルバー……!」


 今代ノーネームとクロエが俺を呼ぶ。

 俺が来たことが意外だったようだ。

 そして、それは敵も同じようだ。


「こんなに早く来るとはね」

「退きなさい、シルバー。あなたと対立する気はありません」

「そうだ。弟子は連れていけばいい。僕らの目的は勇者だ。シルバーには関係ないことだろう?」


 先代ノーネームとラファエルはそんなことを勝手に告げる。

 けれど、俺は二人に目を向けない。

 ジッとエルナだけを見つめていた。

 目立った外傷はないけれど、いくつか小さな傷はある。

 普段なら気にもならない傷。

 だけど、弱っている今のエルナからすると痛々しい。

 なぜそうなっているのか?

 自分のせいだ。

 俺がエルナを追いつめた。

 エルナのことだ。俺の死は自分のせいだと責めたはず。

 わかっていた。わかっていたのに。

 それでも必要なことだと覚悟した。

 覚悟していた。していたはずなのに。

 実際に傷ついたエルナを見ると、胸が締め付けられる。

 たとえ何度同じことが起きても、俺は同じことをしただろう。

 エルナに伝えるようなことはしない。そんなに器用じゃないから。

 伝えるわけにはいかなかった。

 正しいかどうかわからない。

 正しいと信じてはいた。

 それでも自信がなくなるには十分すぎるほど、エルナは憔悴している。

 そっとエルナの頭に手を伸ばす。

 そして。


「すまない……」


 頭に手を置き、俺はそれだけ呟いた。

 その言葉に込めた想いはいろいろだ。

 傷つけたこと。黙っていたこと。

 これまでのこと。これからのこと。

 すべてへの謝罪だった。

 でも、謝罪で何か変わることはない。

 感情の解決法でしかない。

 しかも、この場合は俺の感情は何も解消しない。

 自分を許せないという怒り。

 胸に渦巻くこの怒りはどうすればいい?

 必要だったという自己弁護はできる。きっと、それは合理的な判断だった。

 エルナに隠し事は向かない。

 それはそれ、これはこれだ。

 大切な幼馴染を傷つけたことに変わりはない。

 複雑な心境の俺に対して、ラファエルは再度告げる。


「僕らが争う理由はない。そうだろう? シルバー。勇者は目の上のたんこぶだったはず」


 不幸中の幸いというべきか。

 理不尽な八つ当たりをしても問題ない奴らが目の前にいた。

 原因は俺。この事態を招いたのは俺だ。

 それでも。

 仕掛けたのはこいつらだ。

 俺は広範囲に結界を張った。

 相手に情報を渡さないためであり、逃がさないためでもある。

 結界に閉じ込められたラファエルと先代ノーネームは、それぞれ剣を構えた。


「正気かい? いくらシルバーといえど、僕らの相手は厳しいと思うけれど?」

「炎神と聖剣。しかも担い手は我々。あなたでも手に余りますよ? 後ろの三人はもう戦力にはならない」

「お互いのために休戦しないかい?」


 なんとか戦いを避けようとするのは、俺と戦っては無事では済まないと思っているから。

 けれど、どこか上から目線なのは勝てると踏んでいるから。

 たしかに、聖剣持ちのラファエルと炎神持ちの先代ノーネーム。これはSS級冒険者を二人相手にするようなものだ。

 戦うだけ馬鹿らしい。

 これから悪魔との戦いが待っているのに。

 人類で争うなんて、悪魔に利するだけだ。

 なんとか会話で退かせる努力をするべきだろう。

 だけど。

 俺はゆっくりと右手を仮面へと伸ばした。

 言葉を聞くたびに。

 苛立ちは増す。

 戦うべきじゃない。

 けれど。

 戦う理由はある。

 帝都の反乱時、オリヴァー隊長はその命を散らした。致命傷を不意打ちで与えたのはラファエルだ。

 そのことを聞いた父上の表情は忘れられない。

 俺の大切な父親を裏切った。

 愛されながら、その愛を仇で返した。

 理由はわからない。

 それだけじゃない。

 傷ついたエルナを襲った。

 命を狙った。

 俺の大切な幼馴染の命を狙ったのだ。


「たしかに理由はない。シルバーとして、はな」


 呟きながら俺は右手で仮面を外した。

 スッと外された仮面。

 人前で仮面を取るということは、正体を明かすということだ。

 手が震える。

 それは正体を明かすのが怖いからじゃない。

 ただ、またエルナを傷つけてしまうかもと思ったから。

 それでも。

 いつまでも隠れてはいられない。

 甘え続けた。

 幼馴染と向き合うときだ。

 今がシルバーの正体の明かし時。


「――だが、帝国第七皇子アルノルト・レークス・アードラーとしては別だ。父を裏切り、大切な幼馴染を傷つけた。それだけで……俺はお前を百万回でも殺せるぞ」


 仮面を取り、俺はラファエルたちに向き合う。

 まさかシルバーの正体がアルノルトとは思っていなかったんだろう。

 ラファエルは目を見開いている。

 けれど。


「これは……驚いた……シルバーの正体が出涸らし皇子とは……能ある鷹は爪を隠すというけれど、そこまで隠していたならもはや異常だね」

「ほかに言うことはあるか? 元帝国近衛騎士団所属第十近衛騎士隊隊長……ラファエル・ベレント」

「いいえ、殿下……あなたがシルバーならばたしかに僕と戦う理由はあるでしょうね。けれど、僕だって戦う理由はある。何度も何度も、僕はあなたを羨んだ。皇帝陛下に愛されるあなたを」


 その言葉を受けて、ゆっくりと俺は前へ歩き出した。

 そして。


「それを俺に告げる度胸だけは褒めてやろう……だが、知らんようだから教えてやる。俺は自分の身内を傷つける奴は決して許さん。父上は傷ついていたぞ……俺の幼馴染は……エルナは今、傷つけられた。昔から決めていることがある。俺を傷つける者をエルナは許さないし、〝エルナを傷つける者は俺が許さない〟。懺悔はないようだな? ラファエル。今日の俺は手加減できないぞ?」


 一気に魔力を放出すると、それだけで周囲が揺れ始める。

 張っておいた結界にひびが入るのを見て、再度、補強する。

 これで逃がすことはない。

 明らかに異質な魔力の放出を見て、ラファエルは声を震わせた。


「な、なんだ……? その魔力は……?」

「アルノルトの姿で本気になることはこれまでなかった……喜べ。お前が一番最初だ」


 古代魔法を会得してから、戦うときは仮面をつけていた。

 それが当たり前だった。

 だから、外してみてわかった。

 たしかに俺の力は抑えられていたらしい。


≪我は銀の理を知る者・我は真なる銀に選ばれし者≫

≪銀光は天を焼き・銀星は闇を穿つ≫

≪墜ちるは冥黒・照らすは天銀≫

≪其の銀に金光は翳り・其の銀に虹光は呑まれた≫

≪いと輝け一条の銀光・闇よひれ伏せ屈服せよ≫

≪銀光よ我が身に君臨せよ・我が敵を滅さんがために――シルヴァリー・フォース≫


 溢れる銀光を身に纏い、ゆっくりと俺はラファエルへと近づいていく。

 そんな俺に対して、ラファエルは聖剣を振るう。

 光の奔流。

 それを俺は右手で受け止めた。

 そしてそれを握りつぶしながら告げた。


「それは俺の幼馴染の剣だ。薄汚い手で触れるな」


 言葉と同時に俺は右手を振る。

 銀色の斬撃が放たれ、聖剣を持ったラファエルの右手を切り落としたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
エルナに対しての「正体明かし」だけは、バレるにしてもバラすにしても、左手に作った“出涸らしの誓約”が伏線になるんだと思ってた。 エルナは誓約を守る気がなかったと言ってたけど、あれはエルナに条件付きとは…
試運転で叩き潰す小物としては妥当な二匹をプチっと
[気になる点] アル、聖剣握り潰してない!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ