第六百九十九話 かつての強者たち
昨日は休んでしまい、すみませんでした。
とりあえず回復しましたので、ご安心くださいm(__)m
「どいつもこいつも……!!」
俺の横でジャックが舌打ちをする。
言いたいことはわかる。
クライネルト公爵領のとある屋敷。
俺とジャックの活動拠点となっていたそこに刺客が来たのは、ついさきほどのこと。
すでにそばにいたフィーネとセバスは避難させている。万が一に備えて、その護衛にはヘンリックが回っている。
すぐにわかったからだ。
襲撃してきたのは只者ではない、と。
さらに襲撃者は複数。
黒いローブで全員顔を隠しているから、素性はわからない。
ただ、数は六人。
どいつもこいつも手練れも手練れ。
それこそSS級冒険者を二人も相手できるほどに。
「あまり周囲に被害を出すなよ?」
「わかってるっての!」
俺たちにはハンデがあった。
拠点としていた屋敷は、クライネルト公爵の管轄。
SS級冒険者に変な屋敷を与えられないため、人里離れたボロい屋敷ではない。
多少、人里から離れてはいるが、それでも攻撃範囲が広い俺たちからすれば、すぐ近くに人里があるという状況だ。
下手に攻撃を弾かれたら、俺たちの攻撃で街が壊滅しかねない。
「どうする!?」
「離れるぞ」
ジャックを掴み、俺は全速力で空を飛ぶ。
すると、六人は追いかけてきた。
やはり、狙いは俺たちか。
ならば、戦いやすいところに行くまでのこと。
ある程度、開けた場所に出ると、俺は降下した。
「ここなら大丈夫なんだろうな?」
「マシなだけだ。周りには気をつけろ」
ジャックに釘を刺しつつ、俺は六人に目を向ける。
俺の全速力に追いついてくるのは、普通じゃない。
問題なく空を飛んでいるし、何より全員、身のこなしが普通じゃない。
「これは骨が折れそうだな」
「みたいだな」
言葉と同時に俺は魔力弾を、ジャックは矢を放つ。
無数の魔力弾。
一つ一つもそれなりの威力だ。
けれど、それは足止めにもならない。
必要ないものは避け、必要なものは弾き、六人は前へ出てくる。
その一人がジャックの矢の標的となった。
威力の高い直線攻撃。
魔力弾のあとに避けるのは至難の業だ。
だが、そいつはジャックの矢の軌道を剣で変えた。
微細なコントロールが必要な曲芸だ。
並外れた剣士。
さらにその剣士がもつ魔剣に、俺は見覚えがあった。
「魔剣……炎神」
冒険者ギルドで保管されているはずの魔剣。
持ち主はセオドアの弟弟子、ナイジェル。
かつて帝都を荒らし、捕えられた。
ナイジェルはその後、帝国の法によって処刑された。それは間違いない。
そしてノーネームが使う魔剣、冥神と同種と目される古代の魔剣、炎神はギルドによって厳重に保管されているはず。
元はセオドアの師匠が保持していたものだが、その危険性が発覚したため、ギルドが保管することになった。
だが、今、俺たちの前にそれがある。
「ギルド長不在のタイミングで奪われたか……」
「まずいのか?」
「ほぼノーネームだと思え」
「そりゃあまずいな」
恐れていた事態。
技量の高い剣士の手に渡れば、それだけで脅威となる。
ジャックの攻撃を逸らすことができるような剣士はごく少数だ。
さて、どうしたものか。
そう思っていると、一瞬にして炎神から溢れるように出た炎が一帯を覆った。
俺とジャックはそれを避けるが、それなりの範囲が炎に包まれた。
「向こうは周囲の被害なんてお構いなしみたいだぞ?」
「だからといって、こっちも同じというわけにはいかない」
周囲を結界で包み、俺は戦闘フィールドを構成する。
それなりに覚悟をもってあたらないといけないようだ。
「このレベルの奴らが無名なんてことがあると思うか?」
「あるわけがない」
「ってことは、名のある奴ってことだな」
SS級冒険者と問題なくやり合える。
それがどれほど理不尽なことか。
俺たちは良く知っている。
そんな奴は滅多にいない。
それが六人も。
普通はそんなことはありえない。
だが、ありえそうな手を俺たちは知っている。
「悪魔が憑依しているな」
「そうじゃなきゃ説明つかねぇな」
敵はここにきて、急に好戦的な対応を取って来た。
連合軍が動き出したからか、それとも別の理由か。
どうであれ、貴重な駒を俺たちに当てて来た。
よほど俺たちがいるとまずいんだろう。
などと思っていると、炎神を持った剣士が突っ込んできた。
魔力弾で牽制するが、すべて弾かれる。
上段からの振り下ろしを見て、俺は空へ退避する。
そして。
「逃げ場はないぞ」
見えないようにしていた魔力弾をすべて展開する。
全方位に展開された魔力弾による檻。
隙間なく敷き詰められた魔力弾。
避けるのは無理だろう。弾いたところでたかが知れている。
指を弾くと同時に、それらが一斉に剣士へ襲い掛かった。
断続的な爆発。
しかし、爆風のあと、剣士は何事もなく立っていた。
ただ、成果がないわけではない。
「噂のシルバーもこの程度か?」
顔を隠していた黒いローブが消え去り、剣士の顔をうかがうことができた。
そこにいたのはまさしくナイジェルだった。
処刑はしっかりと行われたはず。実は生かされていましたなんてことはありえない。
間違いなくナイジェルは死んだ。
けれど、ここにいる。
つまりは。
「強者の肉体を依代にして、無理やり悪魔が憑依したか……」
王都での悪魔の憑依はあくまで相性のよい者への憑依。
なるべく体に馴染むように、厳選が行われた。
だが、おそらくこれは違う。
元々、強い者の肉体に憑依したのだ。
相性などお構いなし。体に馴染まなかろうと問題じゃない。
補って余りある肉体の強さがある。
生きているほうが憑依後の力は上がる。死体では限度があるからだ。
けれど、ある一定の肉体的な強さをこえていれば、十分すぎる力を発揮できる。
できないわけがない。
ヴィルヘルムの肉体を使っている奴がいるんだ。
ほかの者でもできるだろう。
そうなると。
「残る五人も手練れの肉体を使った悪魔か……」
死んでいるとはいえ、ナイジェルは近衛騎士団の団長と副団長が二人がかりで相手をした剣士だ。
悪魔が憑依したなら生前以上の強さを見せるだろう。
それがあと五人。
二人のSS級冒険者を抑えようとするだけあって、大した戦力だ。
「知り合いか?」
「素性は知っている。死人だ」
「ってことはこいつも悪魔か」
残る五人を牽制していたジャックはため息を吐く。
疑惑は確信に変わった。
となると、取れる選択肢は一つしかない。
「全力でやるぞ、シルバー」
「ここじゃ無理だな」
「言っている場合か?」
ジャックの言葉はもっとも。
しかし、全力でやった場合、西部全域に被害が及ぶ。
それは避けねば。
そんな風に考えている俺に対して、ナイジェルはフッと笑う。
そして。
「場所を変えるぞ」
筒状の魔導具。
それが複数放り投げられた。
転移用の魔導具。
それによって俺とジャックは別の場所に転移させられたのだった。
何もない荒野。
おそらく帝国ではない。
戦うにはうってつけではあるが。
「ご丁寧に場所を用意してくれるとは優しいねぇ」
「裏の意図があるな?」
「俺たちが帝国にいるのがまずいんだろう」
「だろうな」
意図は透けて見える。
帝国から引き離したいからこその行動。
とはいえ。
「戻るか?」
「こいつらを放置する方が危険だ」
戻ったところで、また襲撃が来るだろう。
ジャックが足止めに残ったとしても、この六人が相手では分が悪い。全員を足止めはできないだろう。
こちらに転移があるように、向こうにも転移の魔導具がある。
次は周囲を巻き込むことになるかもしれない。
いくつ持っているか、耐久勝負も悪くないが、俺の魔力も削られる。
それならここでカタをつけるべきだろう。
「さっさと片付けて、戻る。これが一番だな」
そう言ってジャックがゆっくりと弓を構える。
さきほどとはまるで違う。本気の戦闘モードだ。
それに合わせて、俺も魔力を解放する。
十分休んだ。
魔力も回復してきている。
休み明けの相手としては申し分ない。




