第三百八話 名乗り
今日から第九部開始です! 長らくお待たせしました!
そしてご報告! 出涸らし皇子の第一巻がまた重版となりました! これも皆さまの応援のおかげです! 本当に感謝しても感謝しきれません!
僕にできることは面白い話を皆さまに届けることですので、これからまた頑張っていきます!
お付き合いお願いします(`・ω・´)ゞ
あ、第三巻も発売となりましたので、まだ買ってないよという方はぜひご購入を検討してみてくださいね( *´艸`)
「状況はどこまで変わった?」
玉座の間に向かう途中。俺は歩きながらセバスに訊ねた。
シルバーとして動いている間も帝国は内乱に加え、他国からの侵攻を受けていた。どこか一つの状況が動けば、すべてが動き出す。
「最も深刻なのは北部です。レオナルト様は北部諸侯連合と自らの本隊、そして配下の将軍率いる軍の三軍を用いて包囲網を敷いていましたが、北部諸侯連合が敗走し、散り散りとなったため、包囲網の維持ができなくなりました。現在、レオナルト様は本隊を率いて城に籠城していますが、城は包囲されつつあるということです」
「すぐに撤退しなかったのは良い判断だな。レオが撤退すれば、北部諸侯の大半はゴードンに流れる。それだけで戦局が決定づけられてしまう」
「ですが、代償にレオナルト様が包囲されました。配下の将軍の軍も対峙している軍に抑え込まれ、救援にはいけない状況です」
「だから帝都から援軍をって話だな。レオも竜王子が相手じゃ苦労するだろうしな。どうせ連合王国から援軍が来てるんだろ? 向こうには竜騎士団がいるからな」
「はい。当初は敵軍四万、レオナルト様も四万の戦力でしたが、連合王国と藩国から援軍二万が加わり、さらに竜王子直下の竜騎士団も出てきたため、北部諸侯連合は対応できなかったそうです」
「対応できなかったというか、対応する気がなかったというべきだろうな。北部諸侯はそこまで皇族のためにしてやる義理がない」
言いながらため息を吐く。
三年前。皇太子が北部国境で死んでから、北部諸侯は冷遇されてきた。皇太子をみすみす死なせたと中傷され、わざと見殺しにしたとすら言われることもあった。
帝都の祭事にも北部諸侯からの出席者はほぼなく、関係は冷え切っていたといえる。
北部諸侯連合といったって、全部の北部諸侯が参加しているわけじゃないだろうし、参加している貴族の士気も高いわけがない。
「そもそも北部は第四妃の生家がある。ゴードン陣営の地盤といってもいい。ゴードンとの関係はあまり良くなかったらしいが、積極的に戦うのも気が引けるだろうさ。ローエンシュタイン公爵は中立か?」
「はい。病を理由にどちらの陣営につくこともしていません」
北部最大の公爵。ローエンシュタイン家。
当主は第四妃の父。かつては軍の将軍として〝雷神〟と恐れられた古強者だ。参戦すればそれだけで優勢になる大駒。
しかし、大の皇族嫌いだ。孫にせよ、ゴードンも皇族。もちろんレオも皇族。その内輪もめに参戦する気はないってことだろう。
「北部はわかった。西部はどうだ?」
「西部の総大将はトラウゴット殿下で、その補佐という形でレティシア様が参戦しています。王国軍の鷲獅子騎士たちはレティシア様が帝国に与していると知って、動こうとはしていません。そのため、王国軍の侵攻は停滞。今も膠着状態のままです」
「護衛でエルナも行ったって言ってたな? 聖剣がいつ出てくるかわからないから、王国も気が気じゃないだろ。しかし、よくトラウ兄さんが出陣したな?」
帝都での反乱時ならまだしも、わざわざ西部まで出向くなんて珍しいなんてレベルじゃない。絶対に動かない皇族の一人だと思うんだが。
「陛下のご命令です。陛下は信頼できる軍のトップに皇族と近衛騎士隊をつけることで、統制を図るつもりなのです」
「自分の近くに皇族と近衛騎士隊がいれば、各軍の将軍も迂闊なことはできないからな。しかし、そうなると動員できる軍には限りがあるわけだな?」
「はい。今、皇帝陛下が話し合われているのはそこについてでしょう」
もっとも信頼できる軍はおそらくトラウ兄さんとレオの下にいる。帝国中央にはまだまだ軍がいるはずだが、問題なのは信頼できるかどうか。
単独で派遣するのは危険だと父上は考えているんだろうな。しかし、レオには援軍が必要だ。
「動ける皇族はもういない。クリスタやルーペルトを出陣させるわけにはいかないし、父上や勇爵が前に出たら戦争がさらに肥大化する」
父上や勇爵が出陣すれば、その軍は精強だし巨大だ。負けじと連合王国と藩国は援軍を送るだろう。下手をすれば内乱が長引きかねない。
「はい。あまりアルノルト様が望む形ではないでしょうが、ここはアルノルト様が軍を率いて援軍に向かうべきでしょう」
セバスの言葉を聞いて、俺は肩をすくめる。
普通の相手ならそれでもいいだろう。
だが、今回の相手は普通じゃないし、何かと因縁がある。
「相手がゴードンと帝国軍だけならともかく、向こうには竜王子がいる。帝都で一杯食わせたからな。向こうは俺のこともしっかり警戒しているだろうさ。大々的に出陣すれば即座に対応される。俺とレオの合流を阻むだろうし、確実にレオを仕留めに動くだろう」
「ではどうするおつもりで?」
「いつも通りだ。こっそり動く」
「なるほど。戦場でも暗躍するつもりということですな」
「その通り。それに俺はそっちのほうが向いている。大軍を率いるのはレオに任せるさ」
言いながら俺はニヤリと笑う。
帝国軍は俺への評価をそう変えたりはしない。長く出涸らし皇子という評判は根付いてきたからだ。しかし、ウィリアム王子は違う。
ちゃんと帝都での反乱を分析しているだろうし、俺がちょこまかとかき乱したのは理解しているだろう。
正面戦力として優秀なレオとかく乱に長けた俺。合流させたらまずいと、常に考えているはずだ。
そこに付け入る隙がある。俺はあえて正面に立たず、こっそり暗躍しにいく。しかし、存在だけはほのめかす。考えて、俺の影を警戒してくれれば御の字だ。
どうせ北部の戦局はすぐには変わらない。
鍵を握るのは北部諸侯。彼らを真に動かさないかぎり、戦いの決着は見えないだろう。
レオが城の中で戦っているのは好都合だ。支援は必要だろうが、そうしてくれればウィリアム王子の目はレオに向く。北部諸侯に調略の手が伸びることはないだろう。
その間に北部諸侯をまとめ、一気に敵軍を突き崩す。
考えうるかぎり、早期決着にはそれしかない。
「さっさと内乱を終わらせないと帝位争いどころじゃないからな。それに……皇族の不始末は皇族がしっかりと片付けるべきだ」
ゴードンは皇族だ。反乱を起こした時点で、皇族の責任となる。
誰も皇族のせいだ、皇帝のせいだとは言わないだろう。だが、心の中では思うだろうし、俺たち皇族もそのとおりだと肝に銘じなければいけない。
そんな風に思っていると、玉座の間の前についていた。
そこを守る騎士たちが驚いたように俺の顔を見つめる。
そして中からは大きな怒声が響いてきた。
「信頼できぬ軍を派遣すれば、それは敵への援軍になりかねん! 何か方策は思いつかんのか!?」
父上の声だ。
きっと大臣たちがありきたりな答えしか返せないからイラついているんだろう。
大臣たちもかわいそうに。
俺はゆっくりと玉座の間の扉を両手で押す。
音を立てて扉が開き、中にいる者たちの視線が一斉に俺へそそがれた。
「レオの救援には俺が行きます。ああ、ご安心を。軍は向こうで集めるので」
精鋭だけ貸してください。
そう付け加えると父上が頬を引きつらせたのだった。




