第二百九十九話 急報
トロシンを含めた評議会の面々は事態の鎮静化のために部屋から出ていった。
残ったのはSS級冒険者とクライドのみ。
「これで負けたら知らないぞ?」
「問題ない。ギルド長のやり方には反発や不満も多かった。今回のことで彼に投票する者はいないだろう」
「それなら安心だ。わざわざSS級を全員集めた甲斐があった」
「助かった。迷惑をかけたな。全員に、な」
「本当だぜ。次はなしだぞ? クライド」
「わかっている」
ジャックの言葉にクライドは頷く。
ギルド長選挙でクライドは最有力。クライドが出るならば出ないという者も多いだろう。それくらいクライドの信望は厚い。
元冒険者として現場を知っており、評議会に入ってからも現場優先の姿勢を崩さなかった。
ギルド長にふさわしいといえる。
「評議会のメンバーは変えるのかしら?」
「あまり変えない。彼らは各部署のトップだ。引き続き、彼らには評議会に入ってもらう」
「ギルド長に尻尾を振っていたのに?」
「それも一つの手だ。できる範囲で彼らもやれることはやっていた。自分の部下を守ることで精いっぱいだったんだ。ギルド長に左遷される者は多かったからな」
「まぁ、あなたがいいならいいけれど」
リナレスはそう呟き、その話題を終わらせた。
顔には気に食わないと書いてあるが、クライドがそう決めているなら余計なことは言わないということだろう。
「クライド。すまんが、喉が渇いたんじゃが?」
「すぐお出しします。エゴール翁」
「終わったなら私は帰ります」
「ああ、ありがとう。ノーネーム。お前までシルバーに協力するとは思わなかったぞ」
「有利なほうについただけです。礼には及びません」
「いえ! とっても助かりました! ありがとうございます! ノーネームさん!」
「あなたにもお礼を言われるようなことはしていません。フィーネ嬢」
「でも助け船を出してくれたじゃないですか! あれでシルバー様は話を進めやすくなりました!」
「あれは……長引くのが嫌だっただけです」
すごーい。仲良くなってる。
あのノーネームとたかが数日でお喋りできるようになるとは。さすがフィーネ。
そんな風に感心していると、クライドが俺に提案してくる。
「シルバー。俺がギルド長になったら一つ制度を作ろうと思う」
「制度? どんな制度だ?」
「SS級冒険者の制度だ。SS級冒険者が全員賛成した場合、評議会を解散させることができる。今回のような、面倒なことが起きないようにするためには必要なことだと思う」
「作りたいというなら止めはしないが、あまり意味はないぞ?」
「わかっている。大陸中に散らばるSS級冒険者を集めることができるのは、お前だけだ。お前がいるうちは強力だが、お前がいなくなれば効果は薄まる。だが、そういう制度があれば評議会の暴走も抑えられる」
「好きにすればいい。その制度があろうが、なかろうが、SS級冒険者の在り方は変わらない。好きなように生き、邪魔する者は打ち倒す。それだけだ」
俺の言葉にクライドは苦笑する。
現役時代、S級冒険者として各地を飛び回り、その先々でSS級冒険者のきまぐれに振り回されてきたクライドは、冒険者ギルドの中でもSS級冒険者をよく理解している。
当然、SS級冒険者が滅多に協力することもないし、今回が特別だったということもわかっているはずだ。
だから制度を作ると言い出した。
また今回のようなことがあるかもしれないと、これから先の評議会に思わせるためだ。
ご苦労なことだ。
「クライド、茶はまだかのぉ?」
「すみません。すぐに」
「エゴール翁。副ギルド長にお茶を淹れさすのはやめなさいな」
「喉が渇いたんじゃー。それに昔はお茶を淹れておったじゃろ? まだまだ駆け出しの頃は」
「副ギルド長が駆け出しっていつの話をしているのよ……まったく、一人だけ時間の感覚がおかしいんだから」
「いいからお茶じゃ、お茶」
「俺は酒だ」
「私は帰ります」
まったく、勝手な奴らだ。
やっぱりこいつらと比べたら俺は常識人だと思う。
そんなことを思いつつ、全員を送るために俺は転移の準備に入った。
しかし、それはすぐに妨げられた。
突然、扉が開けられたからだ。
「副ギルド長!! 緊急事態です!」
「どうした? ギルド長が何かしたか?」
「いえ、その混乱もまだ収まっていないのですが……皇国西部にて巨大モンスターが出現という情報が入ってきました!」
入ってきたのは若い女性だった。
きっと遠話にて連絡を受けたんだろう。
この騒ぎの中、ちゃんと仕事をしているあたり真面目だな。
しかし、焦りすぎてクライドしか見えていないらしい。
「迎撃に当たった皇国軍は返り討ちに遭い、モンスターは皇国西部最大の都市、カレリアに進行中とのことです! 付近の冒険者では相手にならず、皇国の各支部はSS級冒険者の派遣を要請しています!」
「皇国の巨大モンスターか。詳しい情報は必要か?」
「いらんだろ。この面子なら」
そう言って俺は皇国西部の都市、カレリアへの転移門を開く。
「私だけで十分です」
「そういうな、ノーネーム。ずっと座ってて退屈じゃったんじゃ」
「私もそうよ。大丈夫、トドメは譲るから」
「俺は酒を飲みに行くだけだ。カレリアは酒で有名だしな。モンスターの相手はお前らに任せる」
理由はそれぞれ。
しかし、SS級冒険者が全員席を立った。
そこでようやく報告に来た若い女性は、この場の面々に気づいたのか体を震わせはじめた。
「ぜ、全員……いる……」
「副ギルド長として全SS級冒険者の参戦を許可する。ただし、五人で行くんだ。地形を変えるなよ?」
「モンスター次第だな」
「私、手加減って苦手なのよねぇ」
「わしも苦手じゃ」
「俺もだ」
「努力はしましょう。しかし、トドメは私が貰います」
「……」
クライドが不安そうな視線を俺たちに向ける。
一方、フィーネは静かに頭を下げた。
「皆様、行ってらっしゃいませ」
そんなフィーネに軽く手をあげながら、俺たちは転移門に入ったのだった。




