第二百七十話 悪意の笑み
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眠気と疲れの攻撃力が日ごとに増してきている……!( ー`дー´)キリッ
「あれは……!」
それは雲を割るようにして現れた。
体長は三十メートルを超える超生物。
それが空からやってきた。
鳴き声は人間の心を揺さぶり、恐怖させる。
「嘘ですわ……そんな、まさか……」
「ドラゴン……!」
現れたのはドラゴンだった。
しかも一体だけではない。
「もう一体……」
「赤と緑のドラゴン……周囲には竜騎士……連合王国の守護聖竜……!!」
連合王国は特殊な国だ。
大陸とは違う島国であり、その島に存在する複数の国が一つにまとまっている国でもある。
そんな連合王国で最も特殊な事例は、竜と共生関係にあるということだ。
いつ頃からそうなのかわからないが、連合王国は三色の竜によって守られていた。
人を襲わず、竜同士でも争わず。
しかし、自らの縄張りに勝手に入った者はモンスターだろうと、人だろうと容赦はしない。許されるのは連合王国の人間のみ。
そんな彼らを連合王国の人間たちは聖竜と呼んだ。
しかし、連合王国にとって聖竜であっても、ほかの国からは悪しき竜だ。なにせ誤って三色の竜の広大な縄張りに入れば、彼らは容赦なく攻撃してくる。
竜の縄張りは海にも及び、連合王国の近くでは毎年多くの遭難船が出ている。
連合王国に入るには、連合王国の者と一緒に行かなければならない。さもなければ竜の餌食になってしまう。
そんな他国から見れば危険な竜がなぜ冒険者ギルドの討伐対象にならないのか?
それは連合王国と冒険者ギルドの間で取り決めがなされたからだ。
三色の竜は連合王国の管轄下のため、手出し無用。そう言われて冒険者ギルドは引き下がった。
わざわざ討伐しにいけば連合王国と敵対関係になるうえに、被害も出る。
連合王国としても冒険者ギルドと敵対はしたくないので、多額の献金で黙らせたのだ。
こうして討伐されない竜が存在するわけだが、それが帝都の空に現れた。
そのことにフィーネとミアは戦慄したが、歓喜する者もいた。
「やったわ! これで私たちの勝ちよ!!」
フィーネとミアは声の方向を振り返る。
そこではザンドラが空を見て喜びを露わにしていた。
「げっ、ですわ」
「ザンドラ殿下……」
「逃げなきゃと思ったけど、杞憂だったわね」
そう言ってザンドラは余裕の笑みを浮かべた。
帝都中層の戦いはゴードンが不在となったため、完全に流れがリーゼたちに傾いてしまった。元々劣勢だったこともあり、ザンドラはそれを見て北門からの逃走を試みたのだった。
フィーネとミアはそれを止めるために北門に来たのだが、肝心のミアが先ほどの攻撃で戦力にならなかった。
まずいとミアはフィーネを後ろに庇うが、ザンドラは笑いながら二人の前に立った。
「あら? なんだか魔力がずいぶん減っているようだけど?」
「嫌な女ですわ……」
「あっはっはっはっはっ!!!! フィーネ! 頼みの綱の護衛がこれじゃあどうしようもないわね!」
ザンドラは笑いながらフィーネを見つめる。
しかし、フィーネの顔に恐怖はなかった。
それが気に入らず、ザンドラは顔をしかめる。
そんなザンドラだったが、すぐに気持ちを持ち直す。
恐怖を感じていないなら感じさせればいいだけの話だ。
「その余裕な表情を崩すのが楽しみだわ」
「フィーネ様! 時間を稼ぎますわ!」
「あら? 逃げるのかしら? 私とお喋りしてほしいのだけど」
そう言って竜騎士の背に乗ってズーザンが現れる。
それを見て、ミアは盛大に顔をしかめた。
「初代嫌な女ですわ!? 出てくるタイミングも性格が悪いですわよ!」
「人の嫌がることは得意なの。無事でよかったわ、ザンドラ」
「お母様こそ。よく城から出られたわね?」
「ラファエルがエルナを抑えてくれたの。おかげで城から出ることができたわ」
「ラファエルが? アリーダはどうしたの?」
「物量作戦で抑え込んだわ。まぁかなり死んだでしょうけど、兵士がいくら死のうと気にしないわ」
「それもそうね」
ズーザンの言葉に同意するザンドラを見て、フィーネは小さく息を吐く。
この母にしてこの娘あり。
人は環境によって変わる。
子供が親に似てしまうのは仕方ないことなのだろう。
しかし、そうだとしても同情はできない。
ザンドラが出した被害はあまりにも大きいからだ。
「ちょうどフィーネもいるし、捕らえて人質にしましょう。クライネルト公爵は動けなくなるわ」
「そうね。父上はどうするの?」
「あの人は呪いで動けなくするわ。逃げるなんて許さないわよ。当たり前でしょ?」
そう言ってズーザンとザンドラは二人で高笑いを始める。
その間にミアは何度もフィーネを逃がそうとするが、フィーネは動かなかった。
動く必要がないと思っていたからだ。
「フィーネ様!」
「大丈夫です」
「あら? なにが大丈夫なのかしら?」
「私とミアさんの安全です。むしろお二人こそ大丈夫ですか?」
「状況が理解できていないのかしら? 私たちの身にどんな危険があるのかしら?」
「――第二妃様はどうして亡くなったのでしょうか? それはあまりにも不自然で、誰かが暗殺したのでは? と噂が流れていたそうですね。その第一候補がズーザン様。あなただと聞きました」
「何が言いたいのかしら?」
「真偽はわかりません。しかしあなた方は反乱に加わった。今は斬る理由がある。ですから大丈夫ですか? と訊ねました。帝都には第二妃様のご令嬢がいらっしゃいますから」
「はっ! リーゼロッテは今頃、軍の統率で忙しいわよ! 私たちを追ってくる余裕なんて」
そうザンドラが言いかけたとき。
城壁の階段を上る音が聞こえてきた。
軍靴の音にザンドラとズーザンは目を見開く。
「余裕とは作るものだ。それができないならば帝国元帥など務まらん。しかし、耳障りな高笑いのおかげで探しやすかったぞ。ここにいたか、帝国を蝕む毒婦ども」
「リーゼロッテ……!」
ザンドラが悲鳴のような声でリーゼの名前を呼んだ。
しかし、ズーザンには慌てた様子がなかった。
「まさかこのタイミングで来るとは思わなかったけれど、私を追ってきたのかしら?」
「無論だ。竜騎士の背にお前を見たという報告を受けて飛んできた。お前のような毒婦を野放しにするのは危険なのでな」
「あらあら、仮にも義母にひどい言い草ね」
「お前を義母などと思ったことはない。私の母を名乗りたいなら一度死んで出直してくるんだな」
そう言ってリーゼは剣を抜く。
ザンドラは身構えて周囲を見渡す。
リーゼの手勢は少数。
フィーネを人質にすれば逃げられる人数だ。
そう判断し、ザンドラは動こうとするが、ズーザンはそんなザンドラの手を握った。
「大丈夫よ、ザンドラ」
「お母様……」
「私のことを殺したいのね、リーゼロッテ。私があなたの母を殺したと思っているの?」
「母だけではない。兄上もお前の仕業では?」
「帝国の皇太子を暗殺なんてしないわ。そもそもどちらも原因不明。陛下が調査したのに暗殺の証拠は出なかったわ」
「だからこそ、お前の仕業だと言っている。お前の禁術が最も怪しい」
「私の呪術は相手を一撃で呪殺できるものじゃないわ。弱体化させることはできるけれど、暗殺なんて無理よ。まぁでも、あなたに言うことがあるとしたら一つね。〝皇太子を殺したのは私じゃないわ〟」
否定をしたのは皇太子の暗殺。
容疑は二つ。
では否定しなかったもう一つは?
「……ズーザン!」
「たしかにあなたの母、第二妃の死に私は関与しているわ。いいえ、私が殺したと言ってもいいかもしれないわね。ずっと殺してやりたいと思っていたもの」
そう言ってズーザンは悪意に満ち溢れた笑みを浮かべたのだった。




