第二百六十四話 帝都縦断・下
12時更新分。
今日からヤングエースUP様で出涸らし皇子のコミカライズがスタートしました!
もう見れるので気になる人はチェックしてみてください!
中層の東側は冒険者と敵のぶつかり合いで大混戦になっていた。
魔法や矢が飛び交い、剣と剣がぶつかり合う音が響き合う。
そんな中で俺たちは立ち往生していた。
「こりゃあ進めんな」
「馬を捨てる! 全員下馬!」
ラースは騎馬でこの一帯を抜けるのは無理だと判断し、馬を捨てる決断をした。
賢明な判断だ。
戦況は冒険者有利に運んでいる。指揮系統が乱れ、個々の力や判断が物をいう展開だからだ。冒険者にとってそれはいつもやっていることだ。
予測不能なモンスターの動きに対応するため、冒険者は常に考えて動くことを要求される。
彼らにとって混乱状態の兵士など相手にもならないだろう。
圧倒ではなく有利程度なのは単純に敵の数が多いからだ。
元々中層にいた兵士が多かったんだろう。
そんな風に思っていると突然鋭い声が飛んだ。
「魔法だ!!」
戦場の端で移動していた俺たちに向かって大量の魔法が飛んできた。
ネルベ・リッターの隊員たちは剣でそれを払い、もしくは軌道を逸らすが爆風まではどうにもならない。
俺とクリスタの近くに魔法が着弾する。咄嗟にクリスタを庇うが、その爆風で俺は少し吹き飛ばされた。
「殿下!!??」
「痛っ……大丈夫だ。それより構えろ……来るぞ!!」
そう言った俺の視線の先には、怒りに燃えたザンドラが配下の魔導師を率いてやってきていた。
まさに魔女といわんばかりの雰囲気だ。
危機察知に優れた冒険者たちは、ザンドラに思わず道を譲ってその場を離れる。
触るな危険だと咄嗟に判断したんだろうな。
「御機嫌よう、ザンドラ姉上」
「機嫌が良さそうに見えるかしら?」
「おや? もしかして怒ってます?」
「当たり前よ。今すぐあんたを殺したいわ」
「まぁまぁ、部屋を漁ったのは謝りますよ。見せる相手もいないのに派手な下着を持ってるとか、誰にも言いませんから」
一瞬で火球が飛んできた。
ラースがなんとか双剣で弾くが、その顔には冷や汗が流れていた。
「挑発はほどほどに……次は止められないかもしれません」
「そりゃあ大変だ……逃げるぞ!」
俺は背中を見せて思いっきり走り出す。
後ろから猛烈な勢いで魔法が飛んでくるが、なんとかネルベ・リッターたちが弾いてくれる。
クリスタとは離れてしまったが、ネルベ・リッターの隊員たちが傍にいるし、なんとかなるだろう。
それより俺の命のほうが危うい。
「おっと!? 今のはヤバかった!!」
「だんだん狙いが正確になっています!!」
ラースの声が切羽詰まっていた。
戦場で魔導師の数は火力に直結する。
しかもその火力が俺に集中しているんだ。ヤバいのは当然だろう。
そう思ったとき、俺の首を狙って風の刃が飛んできた。
転がるようにして回避するが、転がった先がまずかった。
「出涸らし皇子! 貰った!」
「ちっ!」
ネルベリッターたちから離れるようにして、敵兵の目の前に転がってしまったのだ。
どうにか剣を避けようとするが、たぶん間に合わない。
だが、その敵兵は横から思いっきり蹴り飛ばされて、剣を振り下ろすには至らなかった。
「悪いな、幼馴染なんだ。乱暴はよしてくれ」
「おー! ガイ! 良いところに来たな!」
「良いところに来たじゃねぇよ! わんさか敵引き連れてきやがって!!」
敵兵を蹴り飛ばしたのはガイだった。
俺と話しながらガイは周囲の敵を蹴散らす。そんなガイに守ってもらうため、俺は立ち上がってガイと背中合わせになる。
「悪いんだが、守ってくれ。うちの姉上が激怒してる」
「なにしたんだよ?」
「下着について触れたのがまずかった。相手もいないのにってのは言い過ぎだった」
「そりゃあお前が悪いわ」
「やっぱそうか?」
「で? 何色だった?」
「三種類あってだなぁ」
なんて会話をしていると、また魔法が飛んできた。
咄嗟にガイが剣で魔法を弾くが、思った以上の威力だったのか腕が痺れたらしい。
「痛ってぇ……マジギレだな」
「どうやらお前も抹殺対象になったみたいだぞ。めっちゃ睨んでる」
「とばっちりだな! まったく!」
「好奇心を抑えられないのが悪い」
「そりゃあそうだろうよ! 美女の下着といわれると気になるのが男ってもんだ! 俺は美人だと思いますよ! ザンドラ皇女! まだ浮いた話がないのが不思議なくらいだ!」
「うるさいわよ! 死になさい!!」
ザンドラが顔を真っ赤にしてどんどん魔法を連発してくる。
しかし怒りのせいか、精度に欠ける。量より質。よく狙えばいいものを。
まぁよく狙われたら困るから挑発してるんだが。
「こりゃあまずい。悪い! 冒険者たち! 助けてくれ!!」
ラースたちネルベ・リッターはザンドラ配下の魔導師に魔法を撃ちこまれ、足止めを食らってる。
護衛がガイだけでは心元ないので俺は冒険者たちに助けを求めた。
しかし。
「俺、ザンドラ殿下が帝都一の美女だと思ってるから無理です!」
「俺も俺も!」
「前から綺麗だと思っていたが、今は蒼鴎姫以上だ! 怒った顔も素敵だなぁ!」
「ちっ、日和りやがったな」
冒険者たちはザンドラと戦いたくないがために、口々にザンドラを称賛する。
それがザンドラの怒りに油を注いでいるのはたぶん気づいていない。
「全員まとめて消えてなくなりなさい!!」
そう言ってザンドラが大魔法の準備をする。
言葉どおりまとめて消す気だろう。
せめて人のいないところに。
そう思ったとき、この近くで最も高い建物の上で大きな声が響いた。
「やらせませんですわ!」
「お願いします。ミアさん」
見ればミアとフィーネがそこにはいた。
ミアは目いっぱい弓を引き絞っている。
向こうは向こうでデカいのを撃つ気なんだろう。
「良いアシストだ。フィーネ、ミア」
そう言って俺はザンドラを無視して走り出す。
どんどん高まるミアの魔力に気づき、ザンドラは俺からミアに標的を切り替えざるをえなくなった。
そして。
「威力勝負なら望むところですわ!!」
「調子に乗るんじゃないわよ!」
ザンドラの大魔法とミアの最大威力の魔弓がぶつかり合う。
戦場を一瞬、白い光が包み、空中で大爆発が起きた。
爆風が戦いを一時中断させる。
爆風のあと、静寂が戦場を支配した。
その場にいた全員が爆風の衝撃からすぐには立ち直れなかったからだ。
しかし、そんなのお構いなしで俺に突っ込んできた男がいた。
「アルノルトぉぉぉぉぉ!!!!」
「元気なことで……!」
ザンドラの部屋にあった麻痺の魔道具を浴びたというのに、もう回復したゴードンが俺に向かってきていた。
さすがに回避する手段はない。
だから俺は諦めて虹天玉が入った袋を投げつけた。
まさかそれを投げつけるとは思わなかったんだろう。
ゴードンは意表をつかれ、足を止めてその袋をキャッチした。
「馬鹿め! 自分の命がそんなに惜しいか!」
「馬鹿か……そっくりそのままお返しするよ」
そう言って俺はニヤリと笑って、袋を開ける仕草をして見せた。
ゴードンは一瞬、何事かと怪訝な表情を浮かべるが、試しに袋から虹天玉を出してみた。
「な、に……?」
袋に入っていたのは三つの球だった。
一つは俺が探し出した虹天玉。残りの二つはザンドラの部屋で見つけた球型の魔道具だ。
「こんなところまでご苦労様だな。だが残念。一つじゃ天球は発動できないぞ」
「そんなはずは……お前が虹天玉を持っていたはずだぞ!!」
「俺が持っていたのは一つだけだ。見もしないのに俺の言葉を信じてくれてありがとう。おかげで時間は稼げた。今頃残りの二つは父上の下だろうな」
「あ、ありえん! お前が持っていないなら誰が!!」
「誰だろうな? 案外、あんたが見逃した相手かもしれないぞ」
そう言って俺はフッと笑う。
そんな俺の後ろから呆れた声が聞こえてきた。
「帝都中の敵の視線を自分に集中させるとはな。危険なんてものではないぞ?」
「兄や妹を囮にしておいて、自分が囮になるのは嫌じゃ筋が通らないでしょう? それに城に籠られれば姉上も手を焼くかと思いまして。どうです? 引っ張り出しましたよ?」
「ご苦労。よくやった。さすがは――私の弟だ」
そう言ってゆっくりと現れたのはリーゼ姉上だった。
その後ろにはリーゼ姉上直下の部下たちが控えていた。
「幕を下ろす時だ! ゴードン!」
「くっ!」
こうして帝都中層の戦いは冒険者対反乱軍から、リーゼ姉上率いる皇帝軍とゴードン率いる反乱軍の決戦へと移行したのだった。




