第二百三十四話 それなりの軍師
昨日はすみませんでしたm(__)m
いっぱい寝たので調子は万全です!笑
「な、なに!? 空が変だよ!?」
ルーペルトは突然展開された天球を見て、動揺を露わにした。
とはいえ、ルーペルトほどではないにしてもほかの面々も驚いてはいた。
天球が発動したことではない。
発動したタイミングに、だ。
「グラウ……これは……」
「早すぎるな」
短く答えつつ、俺は闘技場のほうを見る。
騒ぎが起きてから間もない。
きっとゴードンが父上を狙い、宰相の策が発動したんだろう。
しかし、宰相もこの早さでの天球発動は想定しなかったはず。
「ねえ! これなに!?」
「大結界・天球。帝都を守る防衛魔法だ。発動できるのは皇族のみ。一度発動すれば外から入ることも、内から出ることもできない。最大発動時には五色の柱が城から空へ伸びる」
俺の説明を聞き、ルーペルトが城の上を確認した。
城から伸びる色は三色。
つまり最低限の発動であるということだ。
「今は三つだ!」
「つまり敵の手にある虹天玉は三つ……」
「目指す玉座の間には二つ。守るのは近衛騎士団長だろう。突破するのはほぼ不可能だ。他の二つにも近衛騎士隊長が護衛についていたと思うが、まさかこの早さで突破されるとはな……かなり最悪の事態だな」
もっとも最悪なのは近衛騎士団長が裏切るパターンだが、そんな事態になっていたら三つでの発動じゃすまない。全体の把握もできているだろうし、早々に城は制圧されて終わっている。
そうなると残る二人のどちらか、もしくは両方が裏切ったと見るべきだろう。
「ど、どういうこと……? 僕らが目指している玉座の間は無事なんでしょ!?」
こちらの深刻さが理解できず、ルーペルトが疑問を投げつけてくる。
どう説明するべきか。
そう考えていると、アロイスがそっとルーペルトの手を握った。
「いいですか、殿下。心して聞いてください」
「う、うん……」
「天球は最大で五つの特殊な宝玉を必要とします。城には五個あり、城の中に精通しているアルノルト殿下でもすべての場所を知りませんでした。それだけ厳重な警備が施された物だということです。敵の目的はその宝玉。ですから護衛には手練れである近衛騎士隊長が選ばれていたはずです。玉座の間にいるだろう近衛騎士団長以外にも二人、近衛騎士隊長が城にはいましたから」
「じゃ、じゃあ騎士隊長がやられちゃったの!?」
「確かなことはわかりません。ただ確実にいえるのは、近衛騎士隊長クラスの実力者が時間稼ぎもできない相手となると、勇者かSS級冒険者くらいしか僕には思いつきません」
アロイスの言葉にルーペルトは目から涙をこぼす。
今の説明を聞き、安直に敵の中にそれだけの実力者がいると思ったんだろう。
実際、その可能性はある。
だが、そんな実力者が敵に回ればさすがに察することができる。
だから今回の場合、疑うべきはその可能性じゃない。
それはアロイスもよくわかっている。
「て、敵がそんなに強いなら勝ち目なんて……」
「……幸いというべきか、残念というべきか。それほどの大物が敵に加わっていればわかります。まだ見ぬ強者の可能性もありますが、それよりも高い可能性があります」
「え……?」
「……近衛騎士隊長が時間稼ぎをできなかったわけではなく、護衛として配置されていた近衛騎士隊長が敵に寝返った可能性です。それならばこの早さも納得できますから」
「こ、近衛騎士隊長が……裏切った……?」
ルーペルトは信じられないといったように目を見開く。
そりゃあそうだろう。皇族にとって近衛騎士というのは自らを守る最後の盾だ。
それが裏切ったとなれば誰を信じていいのかわからなくなる。
「そ、そんなはずないよ……帝国近衛騎士団は最強で……皇帝に忠誠を誓ってるんだ……! その隊長たちはたった十三人しかいなくて! 父上自らが任命したのに! う、裏切るはずない!」
「殿下……」
「ち、父上が……裏切られるはずない……皇帝陛下がそんな……」
近衛騎士が裏切ったということよりも、皇帝が裏切られたということにショックを受けているようだな。
ルーペルトにとって父上は遠い存在だ。
遠いがゆえに憧れてもいた。きっとルーペルトの中で父上は完璧で絶対な存在なんだろう。
だが。
「近衛騎士隊長も人間だ。そして皇帝もな。人間ならば気持ちが変わることもある。人間ならば魅力が色あせることもある。成長も老いも人間に必ずある変化だ。その過程で関係性が変わることは別に珍しいことじゃない」
「……なら……裏切っていいの? 変わったなら一度決めた誓いを破っていいの!?」
怯えていたはずのルーペルトから初めて強い言葉が出てきた。
きっと涙目で俺を睨む。
裏切りという理不尽をルーペルトは許せないらしい。
こいつもなんだかんだでアードラーの一族なんだろうな。
だから俺はそっとルーペルトの頭に手をのせた。
「普通の人の約束と近衛騎士の誓いは違う。彼らは皇帝に対して民と国、そして皇族を守ることを真摯に誓う。ゆえに彼らは信頼される。皇帝が暴虐の限りを尽くしたわけでもないのに、それを裏切るというのは皇帝だけでなく、帝国に住むすべての人への裏切りだ。それを――俺は許しはしない。許してはいけないと思うからだ。同じ気持ちなら君も許すな」
「……うん!」
「なら行くぞ。天球を発動させた以上、敵は城内に残る人質を探すはずだ。これ以上、敵の好きにやらせるのは癪だろう? 敵には一人も人質はやらん。つまり君は絶対に捕まるな。鬼ごっこは得意か? ルーペルト皇子」
「えっと……あんまり……」
ルーペルトは視線を伏せる。
ルーペルトは特別優秀な皇子ではない。
勉強も普通。運動も普通。内気で友達もあんまりおらず、常々母親と一緒にいる。
遊びだって経験だ。何度もやった奴のほうがなんだかんだ上手くなる。足が遅いなら遅いなりに逃げ方を覚えるもんだ。
だが、経験のないことはどうしようもない。たまに経験がなくても簡単そうにやる奴もいるが、そいつらとルーペルトは違う。
だからこそ、傍にいる価値もある。
「なら安心しろ。苦手なことを補佐し、助けるために軍師というのは存在するのだからな。君を必ず玉座の間に連れていくと約束しよう。自慢ではないが、俺はそれなりの軍師だ。それなりには信用してくれていい」
「謙遜ですね。あなたがそれなりなら、世の軍師はみんなそれなり以下です」
そう言ってアロイスは笑う。
そのままアロイスはルーペルトのほうを見る。
「他人のことはわかりません。未来のことも定かではありません。だから生涯の忠誠を誓うことはできませんが――今、このときは絶対にあなたを裏切りません。誰が相手だろうとあなたを守り抜きます」
自分をよく客観視した言葉だ。
共に逃げるともいわないのは、アロイスなりの覚悟なんだろう。
きっといざとなればルーペルトの盾になる。その覚悟がアロイスはできている。
それがわかったから、ルーペルトも頷いた。
「うん、僕も……アロイスたちを信じるよ」
こうして俺たちは玉座の間を目指して歩き出したのだった。




